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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル45巻4号

2011年04月発行

雑誌目次

特集 ロコモティブシンドローム

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.283 - P.283

 医療の現場,在宅の現場を問わず,理学療法の対象者の高齢化が進んでいる.介護保険における要介護,要支援の方の約5人に1人は運動器の障害であり,脳血管障害と並ぶ大きな原因となっている.今回の特集では,理学療法士が運動器における加齢の影響を整理し,ロコモティブシンドロームに対する理解を深めることを目的とし,深く関連する疾患・障害に対する理学療法の実際についても示していただいた.

ロコモティブシンドロームの概念と現状

著者: 石橋英明

ページ範囲:P.285 - P.291

はじめに

 ロコモティブシンドローム,略してロコモ.このロコモという言葉もかなり浸透してきた,というと言い過ぎであろうか.しかし,一般向けの講演会でロコモの話をする際に,冒頭に「ロコモという言葉を聞いたことがありますか」と問うと,6割から8割の参加者の手が挙がるようになってきている.この言葉の第一の目的である運動器の重要性を知らせたいという願いが徐々に実現に向かっているように感じる.

 2007年に日本整形外科学会の中村耕三理事長により提唱された「ロコモティブシンドローム」1)は,「運動器の障害のために,要介護になっていたり,要介護になる危険の高い状態」と定義されている2).これはすなわち,加齢に伴う運動器の脆弱化を示す概念で,一般向けに平たく言うと「年を取って足腰が弱くなり,放っておくと寝たきりや要介護になってしまうよ」という状態である.

 言葉の由来は「運動器」を意味する英語のlocomotive organである.日本語では運動器症候群と呼ぶことになっており,直接的には運動器の機能低下を意味するが,特に加齢などにより足腰が弱くなった状態を表している.

 世界の長寿国日本では,今後も少子高齢化が進む.増え続ける要介護者に対する大きな解決策のひとつがロコモの概念の普及であろうと思われる.ロコモはわが国にとって,これからますます重要な役割を担っていくであろう.本稿では,ロコモが提唱された背景と経緯,ロコモの概念と特徴,ロコモに気づくための自己チェックであるロコモーションチェック,ロコモの予防や改善のための運動であるロコモーショントレーニング,そしてロコモに対する整形外科医・理学療法士の役割について述べる.

 ロコモに対する理解を深め,ロコモに関してどういった働きかけをするかを考える一助になれば幸いである.

介護予防とロコモティブシンドローム

著者: 牧迫飛雄馬

ページ範囲:P.293 - P.298

はじめに

 2007年国民生活基礎調査によると,要支援となった主な原因は関節疾患が20.2%で最も多く,運動器の機能障害が強く影響すると考えられる骨折・転倒12.5%を合わせると要支援者の約3割が運動器の機能障害によって日常生活に支障をきたしているものと推察される(図1).高齢者では加齢に伴って複数の疾患を合併しやすく,運動器以外の機能障害により要支援や要介護が必要となった場合でも運動器の機能低下を来す危険は高く,これらが高齢者の日常生活活動(activities of daily living:ADL)の制限に影響を与える割合はさらに高いものと考えられる.これらの問題に関して,2007年に日本整形外科学会では「運動器の障害による要介護リスクの高い状態」をlocomotive syndrome(ロコモティブシンドローム)と提唱し,広く周知を図っている.このような運動器の機能障害を背景とする諸問題に対して,介護予防としての取り組みの有する役割は大きいものと考える.

 本稿ではロコモティブシンドロームを広義に解釈して,運動器の機能障害に関わる骨,関節,筋肉,神経などの包括的な問題ととらえ,高齢者の運動機能の改善および生活全体の活性化をターゲットとした介護予防の重要性とその効果について紹介する.

ロコモティブシンドローム―下肢の疾患・障害に着目して

著者: 田中聡 ,   長谷川正哉 ,   藤井保貴 ,   江村武敏 ,   宮本賢作

ページ範囲:P.299 - P.307

はじめに

 理学療法士(以下,PT)は,従来から医療・介護保険分野において運動機能障害に対する運動療法を実施しており,さらに加齢による運動機能障害予防や介護予防事業に関わり,近年その効果が明らかになってきている1,2).また,PTは運動器疾患に関わる専門職として,潜在的な運動器の障害を早期に発見し,障害予防のための方略を立てるという重要な役割を担う.

 2008年に(社)日本整形外科学会は,ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome:以下,ロコモ)という新たな概念を掲げ,その定義として「骨,関節,筋肉など運動器の障害のために,移動能力の低下をきたして要介護になるなど,要介護になる危険の高い状態である」とした3).この概念は,加齢現象の1つとしてとらえられていた運動機能の低下を自身で早期に気づき,意識改革を起こし,その機能低下を防いでいくことがいかに重要であるかを国民に啓発するものである4).PTはそれらの対象者の健診・評価や治療に関わる重要な職種であり,ロコモの概念を正しく理解し臨床に活かすことが求められる.本稿では,ロコモについて変形性膝関節症(以下,膝OA)を中心とした下肢関節障害との関連を探り,その特徴を明らかにしたい.加えてロコモ状態にある下肢関節疾患の運動療法を概観し,下肢関節への負担度を考慮した動作指導ならびに生活環境面へのアプローチについて解説する.

ロコモティブシンドロームの要因としての腰部脊柱管狭窄症に対する理学療法

著者: 伊藤俊一 ,   菊本東陽 ,   西原賢

ページ範囲:P.309 - P.314

はじめに

 ロコモティブ(locomotive)とは運動器(locomotive organs)の意味であり,ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome,運動器症候群)とは,運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態とされている.これは日本整形外科学会により2007年(平成19年)に提唱された新しい概念であり,人間は運動器に支えられて生きており,運動器の健康には医学的評価と対策が重要であるということを日々意識してほしいというメッセージが込められている1)

 加齢により,様々な運動器疾患が発症,進行する.例えば変形性関節症,骨粗鬆症に伴う脊柱後彎,易骨折性,変形性脊椎症,脊柱管狭窄症,関節リウマチなど運動器自体の疾患により,疼痛,関節可動域制限,筋力低下,麻痺,骨折,痙性などを原因として,バランス能力,体力,移動能力の低下,易転倒性の増加などによる運動器機能不全を来す.その結果活動制限が生じて廃用症候群や閉じこもりとなり,健康寿命の短縮が生じることが重大な問題となる.

 本稿では,日本整形外科学会の定めた「運動器不安定症」の概念の中で運動機能低下を来す疾患の中から,腰部脊柱管狭窄症に焦点を当てて,その概要と治療,予防のための理学療法に関して解説する.

とびら

時代の要請に応える

著者: 福田裕子

ページ範囲:P.281 - P.281

 3年前から地域での健康増進,介護予防,ストレスマネジメントやコミュニケーションの講師をしている.介護予防事業等で公民館へお邪魔するとき,私は何者なのか,どんなメリットを提供できるのかを,生活者の視点で分かりやすく伝えるよう心がけている.「あなたは何をしなければならない」と語られても人は気持ちよく動いたりしない.主語は「YOU」ではなく「I」メッセージにするのがコツのようだ.「私はあなたにこんなメリットを提供できる.(なぜなら)私は○○(具体的な経験や実績)だから.そして私たちでこんな地域と暮らしを創り上げたいと願っている」を伝えるようにしている.私が仕事を始めた20年前に比べれば理学療法士の認知度ははるかに上がったが,ここは田舎である.理学療法士と聞いてもピンと来ない表情の人も多い.試しに「病院でリハビリする仕事って言うと分かります?」と尋ねてみる.多くの人がYESと頷いてくれる.病院から来たリハビリの人=体に良いことを教えてくれる専門家,という構図をイメージしてもらおうという魂胆である.この構図が生きるのは,長年,治療や研究や生活再建の現場で実績を挙げてきた全国の理学療法士のお陰だと,感謝する一瞬である.

 「リハビリの仕事は,回復の喜びを一緒に味わえる仕事です.でも,その方の辛い気持ちに触れるたび,何とか防ぐ手だてはなかったかと,いつも残念に思っていました.1人でも多くの方がケガや病気で辛い思いをしなくてすむように,健康で暮らせるように,そんな思いでこうして伺っています」.こんな話をすると,皆,身に沁みて健康でいることの大切さを感じておられるのか,大きく頷いてくれる.

あんてな

第46回日本理学療法学術大会(in宮崎)の企画と開催地の紹介―ひむかの国「みやざき」へ

著者: 児玉祐二 ,   柏木俊彦

ページ範囲:P.315 - P.320

 「神々が舞い降りる天孫降臨」,いわゆる「ひむか神話」の数々が伝承される宮崎県は九州の中央東に位置し,県のシンボルとされる「緑と太陽」は,訪れた人を温かく迎え入れてくれる自然の恵みと言えます.

 このような宮崎で開催される第46回日本理学療法学術大会は,南国ならではの初夏を感じさせる2011年5月27日(金)から5月29日(日)の3日間で行われます.

報告

後出しジャンケン課題の信頼性およびMMSEとの関連

著者: 杉本諭 ,   伊勢﨑嘉則 ,   丸谷康平 ,   工藤紗希 ,   室岡修

ページ範囲:P.321 - P.325

要旨:介護保険サービスを利用する高齢者69名を対象に3種類(あいこ・勝ち・負け)の後出しジャンケン課題を実施し,課題の再現性およびMMSEとの関連を検討した.課題は30秒間を1セットとし,「あいこ」→「勝ち」→「負け」→「負け」→「勝ち」→「あいこ」の順に各2セット施行した.連続測定の再現性のICC値は0.721~0.893,日の違いの再現性のICC値は0.639~0.913であった.認知機能評価との相関分析では,MMSEとの相関係数ρは,あいこ0.252(p<0.05),勝ち0.283(p<0.05),負け0.407(p<0.01)であった.以上の結果より本研究で行った後出しジャンケン課題は,再現性が高く,短時間で遂行可能であり,MMSEとの関連が見られたことから,認知機能のスクリーニング検査の補助的手段としての可能性が示唆された.

1ページ講座 義肢装具

義足膝継手―安全膝継手からバウンシング,イールディング機構付膝継手へ

著者: 小嶋功

ページ範囲:P.327 - P.327

 大腿義足の立脚相制御は,随意制御と機械的制御に分けられる(45巻2号143頁を参照).機械的制御とは,膝継手の機械的構造のうち,静的(固定,摩擦式)・動的安定性を利用して,立脚相での膝折れを制御する方法である.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ミラーセラピー

著者: 山田佳代子 ,   園田茂

ページ範囲:P.329 - P.329

●概要

 ミラーセラピー(mirror therapy)とは,鏡を使用して運動の視覚フィードバックを与える治療法である.ほぼ矢状面で両肢間に鏡を設置し,鏡に映された一側肢が鏡に隠れた反対側肢の位置と重なるようにする(図).切断や麻痺などの患側肢の遠位部に健側肢の映った鏡像がつながって見えることで,患側肢が健常な実像であるかのように感じさせながら運動を行う.1995年にRamachandran1)が上肢切断者の幻肢痛の軽減に有効であると初めて報告した.その後,脳卒中患者の麻痺改善や下肢幻肢痛,複合性局所性疼痛症候群,腕神経叢引き抜き損傷患者の疼痛軽減効果などが報告されている2)

新人理学療法士へのメッセージ

Boys, Be Ambitious!

著者: 平野明日香

ページ範囲:P.330 - P.331

 今春,国家試験に合格された新人理学療法士の皆さん,おめでとうございます.

 私は愛知県豊明市の1,494床ある大学の総合病院で勤務し,理学療法士になって8年目を迎えました.新人理学療法士へのメッセージとして,私の新人の頃から今までの道のり,そして今描く理想の理学療法士像を述べさせて頂きます.

ひろば

認知症患者1症例の理学療法経験から学んだ「工夫」や「視点」

著者: 中田加奈子 ,   池田耕二 ,   山本秀美

ページ範囲:P.332 - P.332

・はじめに

 認知症を合併する症例の理学療法は,プロトコール通りに進まず難渋することが多い.今回,大腿骨頸部骨折後,人工骨頭置換術を施行されたアルツハイマー型認知症合併症例を担当し,理学療法を進める中で,介入時に留意すべきことがらを学んだ.

釜ヶ崎越冬闘争随見記―一人の餓死者も凍死者もださないぞ

著者: 丸田和夫

ページ範囲:P.342 - P.343

・釜ヶ崎越冬闘争

 「一人の餓死者も凍死者もださないぞ」.

 テレビや新聞でよく見聞きする外国の難民キャンプでのことばのようだが,じつは日本国内で行われている活動の合言葉なのである.

講座 福祉ロボット工学・4

歩行機能再建のための歩行支援ロボット

著者: 和田太

ページ範囲:P.333 - P.340

はじめに

 近年,ロボット技術のめざましい進歩により,様々なリハビリテーション(以下,リハ)関連のロボットの開発が各国で始まり,下肢用のロボットでは,脳卒中や脊髄損傷などでの機能回復の支援や日常生活の場面での移動支援に利用されはじめている.海外では,“Gaittrainer”や“Lokomat”などの商業用モデルが既に発売され,本邦でもHAL(Hybrid Assistive Limb)が福祉用として,医療機関向けにレンタルが開始されている.しかし,これらのリハ支援ロボットを,実際の歩行練習の場面でどのように活用すればよいのか,その他の理学療法との兼ね合いをどのようにすればよいのかなど,ソフト的な面では不明な点が多い.

 本稿では,当講座で使用している歩行支援ロボットプロトタイプ(bio-responsive motion system:BRMS)(図1)1)について概説し,臨床現場での経験や基礎研究の成果に基づいて,歩行練習での活用や工夫について解説をする.

入門講座 訪問理学療法の基本・4

連携と管理

著者: 露木昭彰

ページ範囲:P.345 - P.350

はじめに

 訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)は2000年の介護保険制度開始後,大幅に利用が増加し,急激に普及してきている(図1).介護保険制度により在宅生活を重要視した医療が推進され,訪問看護と同様に訪問リハは医療サービスとしての一翼を担うこととなった.

 医療現場ではチーム医療が基本であり,医師,看護師,作業療法士,言語聴覚士,医療ソーシャルワーカーなど多くの医療職が協働している.介護保険制度においても同様にチームアプローチが推奨され,連携の範囲は介護職,福祉職も加わり,多岐に亘る.

 本稿では,理学療法を中心とした訪問リハの視点から,医療施設におけるリハビリテーション(以下,リハ)との比較を交えながら,介護保険制度での医療サービスにおける職種連携について私論を述べる.

臨床実習サブノート スーパーバイザーの視点・論点―患者さんに触れるまで・1【新連載】

脳血管障害(回復期)

著者: 諸橋勇

ページ範囲:P.351 - P.358

はじめに

 脳血管障害を発症し,急性期を経て回復期を迎えた患者は,機能回復や社会への復帰に向けての不安や焦り,期待が混在している状態である.特に多くの場合,急に半身の麻痺や感覚障害が主な症状として出現し,麻痺を伴った身体が自分の身体でない感覚から混乱し,さらに不使用,誤用による障害を来す場合も少なくない.発症前と同じように動こうとしても,半身が重く,意志通りにコントロールできずに寝返りや起き上がることすらできない状態から,徐々に身体のコンディションが整い身体感覚を取り戻し,運動学習を通じて日常生活動作(ADL)を回復することが回復期の主要なプロセスである.こうして心身ともに大きな変化にさらされる患者の状況を理解した上で,理学療法士が脳血管障害患者を評価するまでの準備や,どのように関われば良いのかについて述べていく.

理学療法臨床のコツ・16

腰痛体操実践・継続のコツ

著者: 伊藤俊一

ページ範囲:P.360 - P.361

はじめに

 腰痛の治療は90~95%の対象で保存療法が主体となることから,腰痛体操は最も一般的な治療法とされてきた.しかし,厚生労働省の国民生活基礎調査の有訴受診率の結果では10年以上も連続して男女合わせて第1位となっている.この結果は,急性腰痛では発症2週間以内に50~60%,3~4か月以内に80~90%,慢性腰痛でも90%が保存療法で改善するとされる世界的疫学結果1)と乖離している.

 本稿では,エビデンスに基づいて腰痛体操の選択と実践法を整理し,前述した乖離が起こる原因に照らして継続のコツを解説する.

お知らせ

PTママの会第6回勉強会/「理学療法ジャーナル」バックナンバーのお知らせ/2011年度畿央大学ニューロリハビリテーションセミナー/アメリカ足病医学会のバイオメカニクスに基づく足部の評価と運動制御アプローチ/第18回日本赤十字リハビリテーション協会研修会

ページ範囲:P.328 - P.359

PTママの会第6回勉強会

テーマ:患者さんの行動と結果を引き出すコーチングスキル

期 日:2011年5月15日(日)

会 場:星城大学リハビリテーション学院

    名古屋市中区栄1-14-26

    http://www.seijoh-reha.jp/index.html

書評

―嶋田智明・大峯三郎・小林 聖(編)―「実践MOOK・理学療法プラクティス 脊柱機能の臨床的重要性と上下肢との連関」

著者: 井﨑義己

ページ範囲:P.340 - P.340

 実践MOOK・理学療法プラクティスのシリーズは新人理学療法士の臨床能力向上を目的に刊行されている.その最新刊である本書からも,シリーズに共通する編者や執筆された先生方の気概と葛藤が十分に伝わってくる.活字を読むことが極端に苦手な年代を対象としているため,文字数が多いと敬遠されるし,手にして読むまでに至らない場合が多い.そうかと言って,あまりにも簡潔すぎると逆に「意味が通じず,理解しにくい.」ということになりかねない.何よりもその体をなさなければ専門書しての意味がなくなってしまう.このように二律相反する難しい状況の中で「まずは手にとって,読んでもらわないと始まらない.」という担当の先生方のご苦労と努力の跡が随所に伺える仕上がりになっており,まずこのことに敬意を表したい思いである.

 理学療法士が「脊柱」に関心を寄せる場合と言えば,「腰痛」やそれに対する「徒手療法」,そしてその原因や結果となる「姿勢分析」を行う際などがまず頭に浮かぶ.本書の特長は,それらに関する基本的な事項はもちろんであるが,特にミニレクチャーなどにおいて,解剖学や運動学と障害とをリンクした形で評価のポイントや考える視点などが分かりやすく丁寧に示されており,臨床での評価や介入やとらえ方の根拠がそこにしっかりと見出すことができる点にある.

―Andrew Kertesz(著),河村 満(監訳)―「バナナ・レディ 前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード」

著者: 中島健二

ページ範囲:P.359 - P.359

 本書は,ウェスタン失語症総合検査(WAB)という失語評価法を開発したAndrew Kertesz氏が“The Banana Lady and other stories of curious behaviour and speech”と題し,英国においてペーパー・バックとして一般読者向けに出版された本の日本語訳版である.本書の監訳は神経心理学に精通された本邦の代表的な神経内科医のひとりである河村満氏である.原著者のKertesz氏とは30年近くの付き合いだそうである.

 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)は,医学的に未だ不明な点が多く,実際の頻度も明らかではないが,本邦においても神経変性性の認知症の中ではアルツハイマー病,レビー小体型認知症に次いで多いとされる.1900年前後にArnold Pickが記載して以来,1つの臨床症候群として知られてきたが,臨床的・病理学的特徴の多様性から,別々の疾患として報告されたりしてきた経緯もある.そのため,日常診療においてはアルツハイマー病や躁うつ病などと間違えられたりすることも多く,多くの症例が診断されなかったり,死後の病理学的検討によってやっと診断されたりしてきた.しかし,FTDという疾患名が登場して以来,再び注目が集まるようになった.また,近年ではタウ蛋白に続いて,TDP-43やFUSなどの新たな関連異常蛋白が報告され,その基礎医学的研究の発展も目覚ましく,大きな関心を集めるようになっている.このような時期に本書が発刊されることは,まさに時宜を得ているものと思われる.

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次号予告

ページ範囲:P.307 - P.307

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.325 - P.325

文献抄録

ページ範囲:P.362 - P.363

編集後記

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.366 - P.366

 春を迎え,新入生,新社会人があちこちで誕生する季節です.新人の皆さんは新たなスタートラインに立ち,不安を抱えているかも知れませんが,まずは基礎と基本とを押さえてしっかりとした足腰をつくり,これからの活動の土台を築くことが目標になるでしょう.そしてそれは迎える側も同様です.しっかりと準備して迎えたいものです.

 さて,今月の特集は「ロコモティブシンドローム」です.石橋論文では,「ロコモティブシンドローム」の提唱時から深く携わっている医師の立場から,その概念をわかりやすく整理していただき,理学療法士の活動への期待を寄せていただきました.牧迫論文では介護予防との関連から機能低下を予防する取り組みの大切さが述べられ,具体的な方法論へのヒントが示されています.田中論文,伊藤論文では,それぞれ「ロコモティブシンドローム」に深く関係のある「足」と「腰」の問題を取り上げ,理学療法士の視点で論じていただきました.特に田中論文では,実際に行ったロコモーションチェック調査の詳細を通して,「ロコモティブシンドローム」に対する理学療法士のこれからの取り組み方を述べていただけたと考えています.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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