臨床実習サブノート スーパーバイザーの視点・論点―患者さんに触れるまで・3
変形性膝関節症
著者:
嶋田誠一郎
ページ範囲:P.523 - P.528
ステップ1.変形性膝関節症患者を診るうえでの理学療法士の役割と心構え
学生が変形性膝関節症(以下,膝OA)のある症例の理学療法を行う場合としては,次の3つの状況が想定される.1つは,膝OAに対し保存療法として理学療法が処方された場合である.次は,他疾患の理学療法を行う上で合併症として膝OAが存在する場合であろう.最後に,膝OAに対し手術が施行され,その術後理学療法が依頼された場合である.本稿では,最も学生が遭遇することが多いであろう全人工膝関節置換術(以下,TKA)術後理学療法の場合を想定して説明していきたい.
TKAは成績良好な手術でもあり,術後に理学療法士による関与は不要との考え方もある1).実際,理学療法士が所属していない施設でも好成績をあげているところもあるだろう.しかしながら,理学療法士の関与に求められることは,術後成績の向上と術後成績の安定(varianceの減少),患者の満足度向上などであろう.術後成績に関しては,理学療法士が関与することで術後の関節可動域や生活の質の3~4か月までの短期成績が改善するとされる2).客観的な成績には反映されにくいが,歩容の改善や細かい日常生活指導などを行うことも重要である.Ranawatら3)によると,85%のTKA患者はリハビリテーション(以下,リハ)・プロトコルなしでも回復するが,残りの15%は疼痛や可動制限のために個別のリハプログラム(持続麻酔やマニピュレーションを含む)が必要であった.成績が安定した手術と言っても,その10数%では特別な術後治療が必要となり,こういった症例では理学療法士が関わるか否かでその成績に大きな差が生まれてくるだろう.今回,学生が担当する症例は,この10数%に相当する例かもしれない.患者の満足度について客観的に評価するのは難しいが,理学療法士が術後療法の方法や量を症例個別の状態に応じてエスコートすることで,患者は最も効率的な方法と心理的負担の少ない状態で目標を達成し,さらに家庭復帰後の生活指導を受け,在宅での運動の仕方を習うことでこの手術の恩恵を最大限に享受することができるはずである.