icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル45巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

特集 神経生理学的アプローチの転換

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.539 - P.539

 APTAではNUSTEP,Ⅱ STEP,そしてⅢ STEP Conferenceを通して中枢神経障害に対する運動療法のあり方を検討してきた.それは神経生理学的アプローチと呼ばれる狭い体系の乱立から,近年では脳科学の発展やICFを受けた幅広い概念をもった内容への変遷であった.一方,NUSTEP Conferenceと理学療法士の誕生とがほぼ同時期であったわが国の理学療法はどのような変遷を辿って今に至っているのだろうか.これまでの経緯を明らかにしながら,未来に向けた中枢神経障害に対するリハビリテーションの姿を探ってみた.

中枢神経障害に対する運動療法の変遷と動向

著者: 星文彦

ページ範囲:P.541 - P.549

はじめに

 中枢神経疾患に対する運動療法の変遷と動向というテーマは,古くも新しくもあり,常に問われる問題である.この問題を考える場合,中枢神経疾患に対する運動療法の理論と実践の関連性や理学療法とリハビリテーションの関連性,運動行動発現の理解などといった視点でとらえると糸口が見えてくるように思う.言いかえれば,障害モデルと生活モデルにおける理学療法の位置づけや運動制御や運動学習のメカニズムに対する脳科学の寄与,根拠に基づく実践などがキーワードとなる.

 中枢神経疾患に対する運動療法の理論と実践を結び付けようとする試みは,アメリカ理学療法協会が先駆的に開催してきた一連のSTEP会議注)に見ることができる.わが国における中枢神経疾患の運動療法に関する教育と実践は,この会議に関連する記事が多くの論文に引用されており,影響を強く受けていると言える1~8)

 では,NUSTEP・ⅡSTEP・ⅢSTEPの各STEP会議は,われわれ理学療法士をどのように導いてきたのか,また,この3つのステップは何だったのか.

 NUSTEP以来,40年有余のこの年月は,日本の理学療法(士)の誕生と発展の歴史と言ってもよい.この40年有余の年月の中で,日本の理学療法教育システムは様変わりし,理学療法士自らが理学療法の科学性を追及できるまでに成長した.また同時に,障害から可能性へ,構造と機能から機能と適応へというリハビリテーション医療における対象者への視点の転換は,理学療法士の行動を大きく変容させたと言えるのではないだろうか.これらの日本における理学療法の世界の変貌はSTEP会議のステップの過程を考えると透けて見えてくるように思える.本稿では,その過程を理解するための階層的記述レベルとパラダイムという概念について,またSTEP会議のもたらしたもの,中枢神経障害に対する運動療法の対象,運動療法のエビデンス,今後の動向について,私情の域を超えられないが記述することにする.

ボバースコンセプトの変遷と今後―成人分野を中心に

著者: 大槻利夫

ページ範囲:P.551 - P.559

はじめに

 ボバース概念とは,1996年に世界各国の成人部門の国際インストラクターで組織されているInternational Bobath Instructors Training Association(IBITA)の年次総会において「中枢神経障害によって姿勢制御と運動機能に問題をもつ患者個々人の評価と治療のための問題解決アプローチ」と定義されている(IBITA,1996).このアプローチは1940年代初頭にナチスの迫害から逃れイギリスに亡命したボバース夫妻(理学療法士のベルタ=ボバースと小児神経科医のカレル=ボバース)により,理学療法の臨床実践をその時代の最新の神経生理学で説明していくという二人三脚的作業により始められた.最近諸家により「神経生理学的アプローチとしてのボバース概念はすでに新しいアプローチに取って代わられている過去のもの」という扱いをされているが,現在のボバース概念は創始者による実践と理論をコアに据え,最新の神経科学の知識を基盤に世界のリハビリテーションの潮流に沿った新しい治療理論を積極的に取り込み,患者の運動機能障害を具体的に解決する治療スキルを提案・実践しつつ発展し続けている.今回は誕生してから70年になろうとするアプローチの歴史的変遷を紹介し,現代そしてこれからのボバースアプローチについて述べてみたい.

PNFの変遷と今後

著者: 富田浩

ページ範囲:P.561 - P.566

はじめに

 固有受容性神経筋促通法(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)は,1950年頃にKabat,Knott,Vossによって開発された神経生理学的アプローチの1つである1).当時はポリオの後遺症に対する手技として開発されたが,骨関節疾患,中枢・末梢神経疾患などの治療と幅広く用いられるようになった.PNFは,その発祥の地であるカイザー・リハビリテーション・センター(Kaiser Foundation Rehabilitation Center:KFRC)において,半世紀以上を経た現在までその技術が世界中のセラピストに伝えられている.

 日本国内においては,KFRCに渡って学んできた理学療法士やアメリカから日本の理学療法士を教育・養成するためにやって来た理学療法士からその技術が伝達され始め2),現在も日本理学療法士協会(JPTA)や他の団体によるPNFの講習会が数多く実施されている.最近の日本理学療法士協会全国研修会や理学療法学術大会3~5)でも取り上げられ,PNFを学術的に展開するための学術集会なども開催されている.また,日本の理学療法士教育機関におけるPNFの教育についてみてみると,それは約40年前から始まっており,佐藤による2008年度の調査では,87.7%の養成校がPNFの講義を行っているという6)

 本稿では中枢神経障害(脳卒中)に対するPNFについて述べていくが,アメリカ理学療法士協会によるSTEP会議にみるように,神経生理学の発展,理学療法のあり方の変化などにより,中枢神経障害に対する理学療法は近年大きく揺らいでおり,国内においても同様である7~10).また,日本脳卒中学会による脳卒中ガイドラインでは,運動障害・ADLに対するリハビリテーションの中で,「ファシリテーション(神経筋促通手技)は行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的根拠はない.」としており,ファシリテーションのエビデンスを示すうえで,伝統的なリハビリテーションとの比較において無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)による証明がされていないことが挙げられている11)

 本稿では,そのような中にあってなぜこれほどPNFが広く長く受け入れられているのか,また,その今後の可能性や課題について,私見を述べる.

脳卒中に対する理学療法の現状と今後の取り組み

著者: 渡邉要一

ページ範囲:P.567 - P.573

はじめに

 2000年,介護保険がスタートし,回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟が新設された.制度上別物であるが,それ以降,本邦のリハに関しては治療時期(急性期―亜急性期<回復期>―慢性期<維持期,生活期>)に応じた機能分化が進み,それは脳血管疾患に関しては一層顕著である.2008年,医療制度改革として医療費適正計画では平均在院日数の短縮に向けて,①医療機能の分化・連携,②在宅医療の充実が明確に掲げられた.その特徴的取り組みとして地域連携クリティカルパスの作成と運用が圏域ごとに進められている.また脳血管疾患のリハにおいては医療機関で完結することは非常に少なく,介護保険関連機関との連携が不可欠であることは周知のことである.

 現在,永生会は医療施設と介護施設の複合事業体であり,患者・利用者に望ましいリハ・サービスを提供するためには法人機能の適切な連携と運用が重要な課題となっている.本稿ではこれらを踏まえて,これまでの当会,リハ部門の変遷と活動を紹介し,リハ部門の中の理学療法士(以下,PT)として脳卒中に対する今後の方針,目指すものについて述べる.

脳性麻痺のNDTを考える

著者: 宮崎泰

ページ範囲:P.575 - P.581

はじめに

 近年は,医療全般に根拠のある医療(evidence based medicine:EBM)への関心が高まり,医療の効果についての質的検討が始まっている.その流れは小児リハビリテーション領域にも及んでいる.

 脳性麻痺に対する運動療法には様々な介入があるものの長期的成績についての十分な検討はなされておらず,介入効果についてのエビデンスは乏しい.神経発達学的治療(neurodevelopmental treatment:NDT)は,広く世界中で神経学的運動障害のある小児や成人の脳性麻痺や頭部外傷などに適用されている.このNDTの効果についての検討も少ない.その理由として,子ども側の要因としては中枢神経系の傷害の程度に起因する障害の重障度と合併症,加齢に伴う二次的傷害の多様性が挙げられる.セラピスト側の要因としては介入に関する質的・量的問題があり,環境的な要因としては家庭環境,教育環境,社会的環境などがあり,これらが絡み合って問題の所在を複雑にしている.また,これらの問題に対応できる研究体制の不備がある.加えて,脳性麻痺児の運動機能の変化を捉える客観的な評価尺度についての十分な検討がなされていなかったことも挙げられる.

 このような社会情勢の変化および脳性麻痺に特有の要因を考慮し,脳性麻痺の運動療法に一定の方向性を与えるガイドラインとして,「脳性麻痺リハビリテーションガイドライン(以下,ガイドライン)」が刊行された.このガイドラインでは,現段階でエビデンスに基づいた治療がどこまで可能なのかを明らかにしている1)

 本稿ではガイドラインを基に,NDTの推奨段階決定の根拠になった最終の採択論文について,その概要を紹介し,NDTに関するエビデンスについて若干の検討を加えることとする.

とびら

巨人の肩の上に立ち,私たちは何をすべきか

著者: 亀井健太

ページ範囲:P.537 - P.537

 お恥ずかしい話ではあるが,幼いころから社会人になるまで,私は全くといっていいほど本を読むという習慣がなかった.むしろ読書は嫌いであったといってもいい.それが今では,活字がないと不安感さえ覚える体質になってしまった.

 特に私のお気に入りは,伊坂幸太郎である.彼の作品には,過去の名言や格言を登場人物の会話の中に巧妙に織り交ぜるといった手法がよく見受けられる.その中でも,私が特に考えさせられた表現が,彼の代表作でもある「重力ピエロ」に描かれている.

1ページ講座 義肢装具

油圧ユニット付AFO

著者: 大畑光司

ページ範囲:P.582 - P.582

●油圧ユニット付AFO(GS)の特徴と適応

 Gait Solution(GS:図1)は足関節継手に油圧機構を備えた装具であり,初期接地(IC)から荷重反応期(LR期)のheel rocker functionを補助することを目的としている1).通常の歩行ではIC直後の床反力によって生じる足関節底屈モーメントを前脛骨筋の遠心性収縮により制御している.この前脛骨筋活動はIC前後でピークであるため,この機能の代償には,IC直後に最大の制動力を生じるGSの油圧制動が非常に有利であるといえる.このような運動学的変化によって,下肢筋活動パターンを健常歩行に近づけることができる2).適応としては,前脛骨筋の機能障害を有する疾患であり,脳卒中後片麻痺のみでなく,腓骨神経麻痺などの整形外科的問題に対しても使用可能である.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

6分間歩行試験

著者: 山田拓実

ページ範囲:P.585 - P.585

 自己のペースで6分間に歩くことができる最大距離を測定する検査で,その距離により運動耐容能を評価する.6分間歩行試験(6MWT)は簡易で特殊な器具も必要ない検査法であるが,信頼性があり,呼吸器疾患・心疾患患者の運動耐容能の測定では臨床的にも研究にも標準的な検査法となっている.中等度から重度の呼吸器・心疾患患者に対する医学的介入効果の判定に強い適応とされるほか,患者の運動機能の評価や疾患の重症度や生存率予想の指標としても使用される1)

 標準的な検査法について,ATS(アメリカ胸部学会)より6MWTのガイドラインが出されており1),通常は室内の安全な場所で行われる.ATSガイドラインでは,歩行コースは30mを推奨しているが,15m以上であれば6MWTに影響しないという報告がある.3mごとにマークをし,コースの両端にコーンを設置する.

紹介

タイトハムストリングスに対する新たなストレッチング法

著者: 川村健 ,   平岡弥生 ,   青山雄祐 ,   阿部恭子 ,   西良浩一

ページ範囲:P.583 - P.584

はじめに

 現在,タイトハムストリングスを改善させる数多くのストレッチング法が存在するが,1人でできる有用なストレッチング法についての報告は少ない.

 今回,われわれはより効果的なストレッチング法を模索する中で1人のサッカー選手に出会うことができた.その選手はタイトハムストリングスがあったにもかかわらず,1か月後の受診の際,見事にそれを克服し指床間距離(FFD)において掌を床に付けてみせた.そこで見事な回復を遂げた経緯を尋ねたところ,その選手の行っていた日々のストレッチングの方法の斬新さにとても驚かされた.それは1人でできるストレッチング法であり,その様子があたかも折りたたみナイフのような動作であったため,その方法をJackknifeストレッチング法と命名し,誰しもが効果を得ることができるのかを知るため今回検証を行うこととした.

理学療法臨床のコツ・19

筋力トレーニングのコツ―在宅における虚弱高齢者の日常生活における筋力トレーニング

著者: 平野康之

ページ範囲:P.586 - P.588

はじめに

 在宅において,虚弱高齢者の筋力トレーニングを効果的に実施するためのコツとは何か? それは,虚弱高齢者を取り巻く在宅生活環境を熟知し,いかにその環境に見合った,安全で分かりやすい筋力トレーニング方法を指導できるかということにつきる.

講座 炎症と理学療法・3

侵襲に対する生体反応―SIRS(サーズ)について

著者: 松嵜志穂里 ,   山口芳裕

ページ範囲:P.589 - P.595

SIRS(全身性炎症反応症候群)の定義

 通常の病原微生物由来の物質による刺激以外にも,非感染性侵襲によって産生された組織損傷やトロンビン形成,アノキシアなども全身性の炎症の原因となる.これには炎症性サイトカインをはじめとした種々のメディエーターが関与し,原因によらず,似たような非特異的全身性炎症が引き起こされる.

 1991年8月,米国胸部医会(ACCP:American College of Chest Physicians)と米国集中治療医学会(SCCM:Society of Critical Care Medicine)の合同委員会は敗血症に関連する疾患・病態の定義を明確化することで,その病態解明や新たに開発された薬剤の臨床試験を促進する目的で,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)の概念を提唱した1).表1の2項目以上を満たした場合がSIRS,sepsisは「感染が原因で生じるSIRS」と定義された(図).

入門講座 理学療法における接遇とコミュニケーション・3

学生・新人指導に関連する接遇・コミュニケーションスキル

著者: 斉藤秀之 ,   飯島弥生

ページ範囲:P.597 - P.603

 理学療法は「ヒューマン・サービス組織」が提供するサービスに位置づけられる.病院などの医療や保健,福祉などの組織が提供する対人サービスと交通や金融などのサービス産業が組織として行うサービスとは明らかに区別される.ある特定の個人を対象にサービスが提供され,サービスの受け手が不特定多数の集団ではなく,サービスの送り手が受け手の1人ひとりに関心を集中させなければならない点で区別される.サービスが良くなければ受け手の生存を脅かし,不幸に追いやることもある.だからこそ,その関係は1対1が望ましいとされ,かゆいところに手が届くようなサービスが理想となる.このようなサービスを提供する病院に代表される組織がヒューマン・サービス組織である.

 病院は患者に対して,医療サービスを施す.そして,これらサービスの送り手と受け手の間には均衡が成り立つことが難しく,不等号で結ばれるような関係である.つまり,例えばサービス資源を独占できる送り手は強い立場に立つことができうる.他方,患者など受け手は,依存せざるを得ない弱い立場におかれやすい.このような,端的にいえば,強者と弱者の関係にサービスのための場所を提供しているのがヒューマン・サービス組織である.

臨床実習サブノート スーパーバイザーの視点・論点―患者さんに触れるまで・4

関節リウマチ

著者: 山際清貴

ページ範囲:P.605 - P.610

ステップ1.はじめに―この症例から何を学ぶか

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は関節を構成している滑膜が炎症を来し,それが増殖することによって関節の痛みや腫れを起こす原因不明の自己免疫疾患である.炎症がひどくなると,骨や軟骨が破壊されて変形を起こす.また,関節の症状だけではなく,発熱,朝のこわばり,全身の倦怠感,易疲労性,体重減少,貧血,リンパ節の腫大なども起こす可能性がある.男女比は1:3~4と女性に多く,30~50歳代に多くみられるが,あらゆる年齢層に発症する可能性がある.わが国の患者数は約60万人と推定されている1)

 RA患者を担当する際の理学療法士の主な役割は,筋力の維持・増強や関節可動域(ROM)の維持・拡大などに力を尽くし,日常生活活動(ADL)能力や生活の質(QOL)を向上させることにある.また,徒手的な手段に限らず,物理療法(特に温熱療法)を用いた関節痛の緩和,自主トレーニングや関節保護法の指導,自助具や家屋改修のアドバイスなども必要な知識であり能力である.このように,RA患者を担当する際には多岐にわたる知識を有していなければならないが,まずは心構えとしてRA患者が関節痛や関節変形などの様々な障害を有しながらどのようにADLを行っているのか,また,私たちにどのような働きかけを求めているのか,さらには私たちに何ができるのかについて理解を深めようとする姿勢が肝要である.

報告

足圧中心の逆応答時特性と下肢筋活動による後方ステッピング動作の解析

著者: 竹内弥彦 ,   三和真人 ,   大谷拓哉

ページ範囲:P.611 - P.616

要旨:後方へのステッピング動作における足圧中心(COP)の逆応答現象と片脚立位期に着目し,COP変位と下肢筋活動の特性から,そのメカニズムを明らかにすることを目的とする.対象は健常学生12名.フォースプレート上での随意的な後方ステッピング動作において,逆応答現象(RRP)期と片脚立位(SS)期を定義し,COP変位と下肢筋(大腿直筋,前脛骨筋,腓腹筋,母趾外転筋)の筋活動を記録した.統計手法には単回帰分析と相関分析を用い,RRPの有意な説明変数の検出,およびCOP変位と下肢筋活動間の相関関係について検討した.単回帰分析の結果,RRPの有意な説明変数として,側方向のCOP変位速度が検出され(R2=0.60),相関分析の結果,側方向のCOP変位速度と母趾外転筋活動量との間に有意な負の相関関係を認めた(r=-0.61).本研究の結果,後方ステッピング動作中のRRPに影響を与える因子として,側方向のCOP変位速度が検出され,その制御には母趾外転筋活動が関与していることが示唆された.

短報

Mirror therapyにおけるボール回し運動学習の効果の検討

著者: 野嶌一平 ,   奥野史也 ,   川又敏男

ページ範囲:P.617 - P.620

要旨:本研究の目的は,近年脳卒中片麻痺患者のリハビリテーションに利用されているmirror therapy(以下,MT)の運動学習効果を検討することである.対象は健常成人28名,課題は非利き手でのボール回しとした.介入方法は,①反復群,②対側群,③MT群,④対照群の4群とし,被験者を任意に振り分け介入を実施した.介入方法は各群30秒間のボール回し練習と30秒間の休憩を1セットとし,10セット実施した.結果は,反復群とMT群において対照群と比較して有意にボール回し回数の増加率が向上し,運動学習効果が見られた.反復群における運動学習効果は,経験的にも周知の事実であり,反復群と同等の効果がMT群で得られたことは,MTの高い運動学習効果を示唆しているものと考える.また,高い巧緻性を必要とする課題においてもMTの効果が見られたことから,臨床における幅広い適応が期待される.

あんてな

アスリートケア

著者: 小柳磨毅

ページ範囲:P.621 - P.624

 理学療法士によるスポーツをする人々への幅広い健康支援をアスリートケア(athlete care)と名付けて活動している.本稿ではこれを支える組織と,医療から保健に及ぶ活動の実際を紹介する.

書評

―森 惟明・鶴見隆正―「PT・OT・STのための脳画像のみかたと神経所見[CD-ROM付] 第2版」

著者: 石川誠

ページ範囲:P.574 - P.574

 かつてリハビリテーション医療の対象疾患は骨関節系が主流であったが,いつしか脊髄損傷,頭部外傷,脳卒中等の中枢神経系の疾患へと移行していった.ところが,脳という「神経の中枢」はブラックボックスと言われたように,解明された部分は極めてわずかで,大部分は未知の臓器であったことから,中枢神経系のリハビリテーションは科学として成立しにくい時代が続いていた.脳神経外科医,神経内科医,精神科医,リハビリテーション科医などの臨床家,さらに神経科学にかかわる多くの学者達の長年の努力により,ひところに比べれば脳の解明は格段に進んできた.とはいえ,いまだにブラックボックスであることに変わりはない.

 かつて,多くの臨床家による詳細な神経所見や行動観察,剖検所見等のすり合わせにより,大脳の機能局在論が一世を風靡した時代があった.19世紀の後半のことである.その後100年が経過した20世紀後半にはX線CTが登場し,新たな局面を迎えることになった.さらにMRIやPETなどの新鋭機器が開発され,未知の分野が徐々に解明されつつある.画像診断の進歩により新たな事実が続々と確認されているのである.

―坂井建雄(監訳),市村浩一郎・澤井 直(訳)―「プロメテウス解剖学アトラス コンパクト版」

著者: 埴原恒彦

ページ範囲:P.596 - P.596

 解剖学の初学者にとって,用語の暗記はいつも重くのしかかる.「解剖学は暗記ではなく理解する学問である」という言葉は教える側の常用句であるが,それ以前に基本的な解剖学用語は覚えておかなければ,理解の段階までいかないのである.ゲームでいえば,そのゲームが面白いか面白くないか,どうしたら勝てるのかなどを理解する前に,まずはルールを覚えなければ何も始まらない.ゲームであろうが勉強であろうが,それを理解し発展させるための第一歩は,多くの場合,砂を噛むような思いも伴う.

 解剖学は近代医学として最初に確立され,ヴェサリウス以降400年以上にわたり蓄積されてきた知識体系があり,したがって,その用語も膨大な量である.初めて解剖学を学ぶ学生の多くはその量の多さに圧倒され,最初から消化不良を起こす.分厚い,何分冊かの解剖の教科書,アトラス,あるいは解剖学用語といった本を前に,学生が何から手をつけたらよいのか呆然としてしまうのは,むしろ当たり前であろう.

--------------------

「理学療法ジャーナル」バックナンバーのお知らせ

ページ範囲:P.559 - P.559

次号予告

ページ範囲:P.560 - P.560

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.588 - P.588

文献抄録

ページ範囲:P.626 - P.627

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.630 - P.630

 5月末に第46回日本理学療法学術大会が宮崎で開催されました.日本の理学療法の未来を問う大会でしたが,未来を考える前に宮崎ではいろんなことがありました.牛の問題や新燃岳の噴火により深刻な被害を受け,東北の大震災と重なって開催そのものが危ぶまれる状況になりました.なんとか大会初日を迎えることができるというときになって台風2号の影響をもろに受け,航空便の欠航や行き先変更などのために座長が変更になるなど,大会本部の御苦労,心痛は相当なものだったことでしょう.しかし,4,000人近い理学療法士が集って活発な意見交換がなされ,充実した3日間であったと思います.日本の理学療法の未来を考えていく中で,たくさんの課題が明らかになってきました.臨床においてもさることながら,教育現場も大きく変革しなければならない課題がそれぞれの領域から示されたのです.

 今を,そして未来を考えるとき,これまでの歴史を振り返るという手続きも大切なことです.本号特集では神経生理学的アプローチに注目してみました.APTAではNUSTEP Conference,Ⅱ STEP Conference,そしてⅢ STEP Conferenceを通して中枢神経障害に対する運動療法のあり方を検討してきました.それは狭い範囲の神経生理学的アプローチの紹介から,システム理論や脳科学の発展,およびICFの概念を受けた幅広い内容への変遷に至るまで,世界の理学療法に道筋を示してきた歴史的過程です.日本において中枢神経障害の理学療法にかなりの影響を与えてきた神経生理学的アプローチはどのような経緯を辿ってきたのでしょうか.特に脳卒中の理学療法について,現在でも多くの理学療法士たちに受け入れられているボバースコンセプトによるものとPNFについてまとめていただきました.神経生理学的アプローチが誕生したころの神経生理学はそれぞれの立場が主張し合い,相互に相容れるような世界ではなく,必然的にボバースの主張とPNFとは融合するような動きはまったくみられなかったのでした.しかし,今や融合の時代と言われる神経生理学や社会の変化を背景に両者は転換を進めてきました.一方で,厚生行政に左右されながらも広い視野をもって現実的な活動を行う医療現場があります.そこではどのような指針で中枢神経障害の理学療法を展開しているのか紹介していただきました.その経緯は脳性麻痺の領域においてさらに深刻ですが,今後どのような転換がなされていくのか注目されるところです.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?