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特集 神経生理学的アプローチの転換
PNFの変遷と今後
著者: 富田浩1
所属機関: 1人間総合科学大学保健医療学部リハビリテーション学科
ページ範囲:P.561 - P.566
文献購入ページに移動はじめに
固有受容性神経筋促通法(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)は,1950年頃にKabat,Knott,Vossによって開発された神経生理学的アプローチの1つである1).当時はポリオの後遺症に対する手技として開発されたが,骨関節疾患,中枢・末梢神経疾患などの治療と幅広く用いられるようになった.PNFは,その発祥の地であるカイザー・リハビリテーション・センター(Kaiser Foundation Rehabilitation Center:KFRC)において,半世紀以上を経た現在までその技術が世界中のセラピストに伝えられている.
日本国内においては,KFRCに渡って学んできた理学療法士やアメリカから日本の理学療法士を教育・養成するためにやって来た理学療法士からその技術が伝達され始め2),現在も日本理学療法士協会(JPTA)や他の団体によるPNFの講習会が数多く実施されている.最近の日本理学療法士協会全国研修会や理学療法学術大会3~5)でも取り上げられ,PNFを学術的に展開するための学術集会なども開催されている.また,日本の理学療法士教育機関におけるPNFの教育についてみてみると,それは約40年前から始まっており,佐藤による2008年度の調査では,87.7%の養成校がPNFの講義を行っているという6).
本稿では中枢神経障害(脳卒中)に対するPNFについて述べていくが,アメリカ理学療法士協会によるSTEP会議にみるように,神経生理学の発展,理学療法のあり方の変化などにより,中枢神経障害に対する理学療法は近年大きく揺らいでおり,国内においても同様である7~10).また,日本脳卒中学会による脳卒中ガイドラインでは,運動障害・ADLに対するリハビリテーションの中で,「ファシリテーション(神経筋促通手技)は行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的根拠はない.」としており,ファシリテーションのエビデンスを示すうえで,伝統的なリハビリテーションとの比較において無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)による証明がされていないことが挙げられている11).
本稿では,そのような中にあってなぜこれほどPNFが広く長く受け入れられているのか,また,その今後の可能性や課題について,私見を述べる.
固有受容性神経筋促通法(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)は,1950年頃にKabat,Knott,Vossによって開発された神経生理学的アプローチの1つである1).当時はポリオの後遺症に対する手技として開発されたが,骨関節疾患,中枢・末梢神経疾患などの治療と幅広く用いられるようになった.PNFは,その発祥の地であるカイザー・リハビリテーション・センター(Kaiser Foundation Rehabilitation Center:KFRC)において,半世紀以上を経た現在までその技術が世界中のセラピストに伝えられている.
日本国内においては,KFRCに渡って学んできた理学療法士やアメリカから日本の理学療法士を教育・養成するためにやって来た理学療法士からその技術が伝達され始め2),現在も日本理学療法士協会(JPTA)や他の団体によるPNFの講習会が数多く実施されている.最近の日本理学療法士協会全国研修会や理学療法学術大会3~5)でも取り上げられ,PNFを学術的に展開するための学術集会なども開催されている.また,日本の理学療法士教育機関におけるPNFの教育についてみてみると,それは約40年前から始まっており,佐藤による2008年度の調査では,87.7%の養成校がPNFの講義を行っているという6).
本稿では中枢神経障害(脳卒中)に対するPNFについて述べていくが,アメリカ理学療法士協会によるSTEP会議にみるように,神経生理学の発展,理学療法のあり方の変化などにより,中枢神経障害に対する理学療法は近年大きく揺らいでおり,国内においても同様である7~10).また,日本脳卒中学会による脳卒中ガイドラインでは,運動障害・ADLに対するリハビリテーションの中で,「ファシリテーション(神経筋促通手技)は行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的根拠はない.」としており,ファシリテーションのエビデンスを示すうえで,伝統的なリハビリテーションとの比較において無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)による証明がされていないことが挙げられている11).
本稿では,そのような中にあってなぜこれほどPNFが広く長く受け入れられているのか,また,その今後の可能性や課題について,私見を述べる.
参考文献
1)Knott M, et al:Proprioceptive neuromuscular facilitation patterns and techniques, 2nd ed, Harper & Row, New York, 1968
2)溝呂木絢子:片麻痺のP. N. F. 臨床理学療法 1:65-73,1975
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5)新井光男:中枢神経疾患のFBPT-PNF運動パターンと間接的アプローチに関するエビデンス.理学療法学 36:424-427,2009
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21)柳澤 健,他:上肢PNF肢位のヒラメ筋H波に及ぼす影響.理学療法学 16:19-22,1989
International Congress of the WCPT Proceedings:1025-1027, 1991
23)柳澤 健,他:片麻痺患者の上肢PNF肢位変化が下肢運動ニューロンに及ぼす影響.都立医療技術短期大学紀要 6:125-127,1993
24)富田 浩,他:上下肢回旋肢位がヒラメ筋H波に及ぼす影響.理学療法学 22:175-177,1995
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32)上広晃子,他:脳卒中後片麻痺患者の骨盤の低降雨運動パターンの相違が患側肩関節可動域に及ぼす効果.PNFリサーチ 4:24-27,2004
33)名井幸恵,他:脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動が肩関節可動域改善に及ぼす継時的効果.PNFリサーチ 4:12-18,2004
34)桝本一枝,他:骨盤後方下制が麻痺側への荷重に及ぼす影響―脳卒中後片麻痺患者での検討.PNFリサーチ 7:6-16,2007
35)田中敏之,他:脳卒中後片麻痺患者の骨盤への抵抗運動が起き上がり動作と歩行速度に及ぼす影響.PNFリサーチ 7:56-60,2007
36)中間孝一,他:脳卒中後片麻痺患者に対する骨盤後方下制運動による下部体幹筋群の静止性収縮の促通手技が起き上がり動作に及ぼす影響.PNFリサーチ 7:61-65,2007
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38)平下聡子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する骨盤への抵抗運動が起居移動動作に及ぼす効果.理学療法学 35:55,2008
39)上広晃子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動の介入が起き上がり動作に及ぼす影響.PNFリサーチ 9:19-25,2009
40)平下聡子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する骨盤への抵抗運動の効果―観察的分析による所要時間の短縮の検証.PNFリサーチ 10:1-9,2010
41)Voss DE, et al:Proprioceptive neuromuscular facilitation patterns and techniques, 3rd ed, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, 1985
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