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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル45巻7号

2011年07月発行

文献概要

特集 神経生理学的アプローチの転換

PNFの変遷と今後

著者: 富田浩1

所属機関: 1人間総合科学大学保健医療学部リハビリテーション学科

ページ範囲:P.561 - P.566

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はじめに

 固有受容性神経筋促通法(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)は,1950年頃にKabat,Knott,Vossによって開発された神経生理学的アプローチの1つである1).当時はポリオの後遺症に対する手技として開発されたが,骨関節疾患,中枢・末梢神経疾患などの治療と幅広く用いられるようになった.PNFは,その発祥の地であるカイザー・リハビリテーション・センター(Kaiser Foundation Rehabilitation Center:KFRC)において,半世紀以上を経た現在までその技術が世界中のセラピストに伝えられている.

 日本国内においては,KFRCに渡って学んできた理学療法士やアメリカから日本の理学療法士を教育・養成するためにやって来た理学療法士からその技術が伝達され始め2),現在も日本理学療法士協会(JPTA)や他の団体によるPNFの講習会が数多く実施されている.最近の日本理学療法士協会全国研修会や理学療法学術大会3~5)でも取り上げられ,PNFを学術的に展開するための学術集会なども開催されている.また,日本の理学療法士教育機関におけるPNFの教育についてみてみると,それは約40年前から始まっており,佐藤による2008年度の調査では,87.7%の養成校がPNFの講義を行っているという6)

 本稿では中枢神経障害(脳卒中)に対するPNFについて述べていくが,アメリカ理学療法士協会によるSTEP会議にみるように,神経生理学の発展,理学療法のあり方の変化などにより,中枢神経障害に対する理学療法は近年大きく揺らいでおり,国内においても同様である7~10).また,日本脳卒中学会による脳卒中ガイドラインでは,運動障害・ADLに対するリハビリテーションの中で,「ファシリテーション(神経筋促通手技)は行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的根拠はない.」としており,ファシリテーションのエビデンスを示すうえで,伝統的なリハビリテーションとの比較において無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)による証明がされていないことが挙げられている11)

 本稿では,そのような中にあってなぜこれほどPNFが広く長く受け入れられているのか,また,その今後の可能性や課題について,私見を述べる.

参考文献

1)Knott M, et al:Proprioceptive neuromuscular facilitation patterns and techniques, 2nd ed, Harper & Row, New York, 1968
2)溝呂木絢子:片麻痺のP. N. F. 臨床理学療法 1:65-73,1975
3)市川繁之:PNFを用いた脳卒中片麻痺治療.理学療法学 35:142-143,2008
4)今井基次:エビデンスに基づいたPNF法とインテンスプログラム―回復期リハビリテーション病棟への応用.理学療法学 36:514-515,2009
5)新井光男:中枢神経疾患のFBPT-PNF運動パターンと間接的アプローチに関するエビデンス.理学療法学 36:424-427,2009
6)佐藤 仁:理学療法士養成校におけるPNF教授活動の現状.PNFリサーチ 10:42-46,2010
7)高橋正明:成人中枢神経障害に対する理学療法モデルの変遷と今日的課題.吉尾雅春,他(編):理学療法MOOK2脳損傷の理学療法,pp2-7,三輪書店,2000
8)藤田博暁,他:中枢神経系に対する理学療法アプローチ.理学療法科学 22:319-324,2007
9)吉尾雅春:脳卒中に対する理学療法の歴史的変遷.PTジャーナル 39:669-673,2005
10)潮見泰藏,他:脳卒中における評価と理学療法評価.PTジャーナル 37:639-646,2003
11)日本脳卒中学会:2-1.運動障害・ADLに対するリハビリテーション.脳卒中ガイドライン2009(http://www.jsts.gr.jp/jss08.html(2011年5月閲覧))
12)柳澤 健,他(編):PNFマニュアル第3版,南江堂,2011
13)Kabat H:Studies on neuromuscular dysfunction. Ⅺ. The role of central facilitation in restoration of motor function in paralysis. Arch Phys Med 33:521-533, 1952
14)今井基次:神経生理学的アプローチの歴史と今後の展望―PNF法を中心にして.群馬大学医療技術短期大学紀要 8:9-17,1987
15)Kabat H:Chapter 19. Studies on neuromuscular dysfunction on scientific bases. Payton O, et al(eds):Neurophysiologic approaches to therapeutic exercise, pp219-235, Davis Co., Philadelphia, 1977
16)柳澤 健,他:PNFアプローチ.細田多穂,他(編):理学療法ハンドブック,pp275-335,協同医書出版社,2010
International Congress of the WCPT Proceedings:119-123, 1974
18)Fujita M, et al:The effect of PNF positions of the upper extremity on rapid knee extension. Tohoku J Exp Med 150:31-35, 1986
19)柳澤 健,他:上肢PNF肢位の行動覚醒への影響.理学療法学 18:143-144,1991.
20)Nakamura R:Effect of facilitating positions on behavioral arousal. JJA Phys M Bal Clin 46:131-137, 1983
21)柳澤 健,他:上肢PNF肢位のヒラメ筋H波に及ぼす影響.理学療法学 16:19-22,1989
International Congress of the WCPT Proceedings:1025-1027, 1991
23)柳澤 健,他:片麻痺患者の上肢PNF肢位変化が下肢運動ニューロンに及ぼす影響.都立医療技術短期大学紀要 6:125-127,1993
24)富田 浩,他:上下肢回旋肢位がヒラメ筋H波に及ぼす影響.理学療法学 22:175-177,1995
25)Chida T, et al:EEG changes induced by passive postural changes. J Human Ergol 12:217-218, 1983
26)Hosokawa T, et al:EEG activation induced by facilitating position. Tohoku J Exp Med 147:191-197, 1985
27)小坂健二,他:小脳運動失調患者におけるPNF施行後の肢位変化による脳波覚醒.リハ医学 30:45-47,1993
28)柳澤 健,他:股関節肢位変化による膝関節伸展加速度への影響.理学療法学 25(Suppl 2):188,1998
International Congress of ACPT(Abstract):299, 2008
30)Wang RY:Effect of proprioceptive neuromuscular facilitation on the gait of patients with hemiplegia of long and short duration. Phys Ther 74:1108-1115,1994
31)平下聡子,他:肩甲骨と骨盤の抵抗運動が患側肩関節可動域に及ぼす影響.PNFリサーチ 4:19-23,2004
32)上広晃子,他:脳卒中後片麻痺患者の骨盤の低降雨運動パターンの相違が患側肩関節可動域に及ぼす効果.PNFリサーチ 4:24-27,2004
33)名井幸恵,他:脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動が肩関節可動域改善に及ぼす継時的効果.PNFリサーチ 4:12-18,2004
34)桝本一枝,他:骨盤後方下制が麻痺側への荷重に及ぼす影響―脳卒中後片麻痺患者での検討.PNFリサーチ 7:6-16,2007
35)田中敏之,他:脳卒中後片麻痺患者の骨盤への抵抗運動が起き上がり動作と歩行速度に及ぼす影響.PNFリサーチ 7:56-60,2007
36)中間孝一,他:脳卒中後片麻痺患者に対する骨盤後方下制運動による下部体幹筋群の静止性収縮の促通手技が起き上がり動作に及ぼす影響.PNFリサーチ 7:61-65,2007
37)上広晃子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動の介入が起き上がり動作に及ぼす効果.PNFリサーチ 7:23-27,2007
38)平下聡子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する骨盤への抵抗運動が起居移動動作に及ぼす効果.理学療法学 35:55,2008
39)上広晃子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動の介入が起き上がり動作に及ぼす影響.PNFリサーチ 9:19-25,2009
40)平下聡子,他:脳卒中後片麻痺患者に対する骨盤への抵抗運動の効果―観察的分析による所要時間の短縮の検証.PNFリサーチ 10:1-9,2010
41)Voss DE, et al:Proprioceptive neuromuscular facilitation patterns and techniques, 3rd ed, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, 1985

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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