文献詳細
文献概要
特集 糖尿病の理学療法 こんなときどうする―糖尿病合併症に対する症状別アプローチ
4.糖尿病性腎症
著者: 澤近房和1
所属機関: 1宇多津浜クリニックリハビリテーション科
ページ範囲:P.661 - P.665
文献購入ページに移動はじめに
糖尿病患者において,糖尿病性腎症(以下,腎症)は生命予後およびquality of life(QOL)に与える影響が大きな合併症である1).近年,わが国における累積慢性透析患者数は頭打ち状況にあるとされているが2),2009年末の統計では慢性透析療法を実施している患者数は29万人を超え,2009年の導入患者数は37,543人となっている3).なかでも,腎症は新規に導入される患者の原疾患の中で,1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となって以来増加の一途を示し,2009年では1年間に導入された患者の44.5%に達している.
腎機能が低下すると,心血管疾患の発症リスクが高くなるとともに,死亡や入院のリスクが高くなることが明らかにされ4~7),腎移植や透析導入に至る末期腎不全,心血管疾患死の予備軍としての慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)という概念が数年前から注目されるようになっている.CKDは「尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか(特に蛋白尿の存在が重要)」「腎機能低下:糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)が60ml /分/1.73m2未満」のいずれか,または両方が3か月以上続く状態と定義されており,その腎機能(GFR)の進行度によって5つに分類されている8).CKDは単一の疾患ではなく,腎症や慢性糸球体腎炎などの慢性疾患群の総称であり,その主要疾患としての腎症の対策が急務となっている.
本稿では,このような腎症に対して,臨床経過に対応した生活指導を含めた,理学療法士として備えておくべき知識について概説する.
糖尿病患者において,糖尿病性腎症(以下,腎症)は生命予後およびquality of life(QOL)に与える影響が大きな合併症である1).近年,わが国における累積慢性透析患者数は頭打ち状況にあるとされているが2),2009年末の統計では慢性透析療法を実施している患者数は29万人を超え,2009年の導入患者数は37,543人となっている3).なかでも,腎症は新規に導入される患者の原疾患の中で,1998年に慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となって以来増加の一途を示し,2009年では1年間に導入された患者の44.5%に達している.
腎機能が低下すると,心血管疾患の発症リスクが高くなるとともに,死亡や入院のリスクが高くなることが明らかにされ4~7),腎移植や透析導入に至る末期腎不全,心血管疾患死の予備軍としての慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)という概念が数年前から注目されるようになっている.CKDは「尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか(特に蛋白尿の存在が重要)」「腎機能低下:糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)が60m
本稿では,このような腎症に対して,臨床経過に対応した生活指導を含めた,理学療法士として備えておくべき知識について概説する.
参考文献
1)花井 豪,他:糖尿病性腎症.臨床透析 24:929-931,2008
2)阿岸鉄三,他:頭打ちになった透析患者の増加傾向.透析会誌 40:347-350,2007
3)日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療法の現況(2009年12月31日現在),2010
4)Go AS, et al:Chronic kidney disease and the risks of death, cardiovascular events, and hospitalization. N Engl J Med 351:1296-1305, 2004
5)Keith DS, et al:Longitudinal follow-up and outcomes among a population with chronic kidney disease in a large managed care organization. Arch Intern Med 164:659-663, 2004
6)Irie F, et al:The relationships of proteinuria, serum creatinine, glomerular filtration rate with cardiovascular disease mortality in Japanese general population. Kidney Int 69:1264-1271, 2005
7)Ninomiya T, et al:Chronic kidney disease and cardiovascular disease in a general Japanese population:the Hisayama Study. Kidney Int 68:228-236, 2005
8)日本腎臓学会(編):CKD診療ガイド,東京医学社,2009
9)日本糖尿病学会・日本腎臓学会糖尿病性腎症合同委員会:糖尿病性腎症の新しい早期診断基準.糖尿病 48:757-759,2005
10)繁田幸男,他:糖尿病性腎症病期分類.総括研究報告糖尿病性腎症に関する研究.厚生省平成3年度糖尿病調査研究班報告書,1992
11)日本腎臓学会・日本糖尿病学会:糖尿病性腎症合同委員会:糖尿病性腎症に関する合同委員会報告.日腎会誌 44:i,2002
12)Yokoyama H, et al:Microalbuminuria is common in Japanese type 2 diabetic patients:a nationwide survey from the Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group(JDDM 10). Diabetes Care 30:989-992, 2007
13)Molitch ME, et al:Diabetic nephropathy. Diabetes Care 26(Suppl 1):94-98, 2003
14)Ritz E:Nephropathy in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med 341:1127-1133, 1999
15)古家大祐:糖尿病性腎症の病因と臨床経過.臨床栄養 115:360-366,2009
16)日本腎臓学会(編):エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン,pp87-104,東京医学社,2009
17)Sigal RJ, et al:Physical activity/exercise and type 2 diabetes-A consensus statement from the American Diabetes Association. Diabetes Care 29:1433-1438, 2006
18)Poortmans JR, et al:Evidence of differential renal dysfunctions during exercise in men. Eur J Appl Physiol Occup Physiol 76:88-91, 1997
19)押田芳治:合併症時の運動療法.河盛隆造・他(編):糖尿病最新の治療2010-2012,pp105-108,南江堂,2010
20)Cheema BSB, et al:Exercise training in patients receiving maintenance hemodialysis:A systematic review of clinical trials. Am J Nephrol 25:352-364, 2005
21)鶴屋和彦,他:脳血管合併症とQOL.透析療法ネクストV,pp63-77,医学図書出版,2006
22)鈴木洋通:透析患者の循環器合併症Up to Date.透析会誌 40:215-223,2007
23)澤近房和:Do Notで学ぶ合併症をもつ糖尿病患者の運動療法(No. 11)腎症の生活指導.糖尿病ケア 2:93-96,2005
24)澤近房和:ケアの?に理学療法士が答える! 糖尿病療養援助誌上相談室 糖尿病腎症の患者さんに対する運動や生活指導はどうすればよいのでしょうか?.糖尿病ケア 5:1212-1216,2008
25)「腎疾患患者の生活指導に関する小委員会」ならびに「腎疾患患者の食事療法に関する小委員会」合同委員会:腎疾患の生活指導・食事療法ガイドライン.日腎会誌 39:1-37,1997
26)石井 均:糖尿病性腎症患者への生活指導―QOLとのバランス.腎と透析 48:855-860,2000
27)O'Hare AM, et al:Decreased survival among sedentary patients undergoing dialysis:results from the dialysis morbidity and mortality study wave 2. Am J Kidney Dis 41:447-454, 2003
28)Johansen KL, et al:Physical activity levels in patients on hemodialysis and healthy sedentary controls. Kidney Int 57:2564-2570, 2000
29)Gaede P, et al:Multifactorial intervention and cardiovascular disease in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med 348:383-393, 2003
30)Shikata K, et al:Diabetic nephropathy remission and regression team trial in Japan(DNETT-Japan):rationale and study design. Diabetes Res Clin Pract 87:228-232, 2010
掲載誌情報