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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル46巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

特集 運動学習と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.3 - P.3

 運動学習理論は,心理学ならびに生理学的な領域で深化と体系化が進み,様々な実践適用が模索されている.現在の理学療法モデルでは,課題志向型アプローチのみならず,かつては反射理論や神経筋促通手技を基盤としたアプローチ法においても運動学習の概念が包含されるに至っている.

 本特集では,運動学習にかかわる理論の変遷と発展,脳科学による裏付け,効果的な方法論など,脳障害を有する対象者を含めた臨床適用のために最新の知見と課題を提供する.

運動学習理論と理学療法―オーバービュー

著者: 大橋ゆかり

ページ範囲:P.9 - P.15

米国におけるパラダイム・シフト

 ここ数年の間に,日本の理学療法関連雑誌や研修会で「運動学習」というテーマが取り上げられることが多くなってきた.このような変化が生じている背景には,やはり米国の影響を考えないわけにはいかない.

 米国では,神経系理学療法学の科学的基盤を検討するために,過去45年の間に3回の大規模な学術会議が開催された.NUSTEP(Northwestern University Special Therapeutic Exercise Project,1966年開催),ⅡSTEP(Special Therapeutic Exercise Project,1990年開催),ⅢSTEP(Symposium on Translating Evidence to Practice,2005年開催)である.STEP会議の経過は図1に示すように考えることができる.これらの会議におけるより詳しい議論の変遷と意義については星論文1)を参照されると良いだろう.

フィードバック・教示と運動学習

著者: 谷浩明

ページ範囲:P.19 - P.24

はじめに

 理学療法士の臨床での技術レベルというと,徒手的な治療テクニックのスキルを十分に駆使できるか,もしくは動作分析など治療者としての理論的背景に依存する評価がうまく行えるか,といった視点でとらえられることが多い.しかし,そういったものとは別に,当の理学療法士にとって当たり前すぎるために,技術として意識されていないものがある.たとえば,治療中の口頭指示や声かけなどがそれにあたる.ところが,筋力増強練習中の「かけ声効果」のような特殊な例を除けば,そういったものを臨床での技術ととらえ,その効果を科学的に検討する試みはまだ少ない.本稿では,運動学習研究における教示やフィードバックの知見をとりあげ,臨床での一般化の可能性や注意点を考えてみたい.

感覚刺激と運動学習

著者: 内藤栄一 ,   上原信太郎 ,   村田哲 ,   出江紳一

ページ範囲:P.25 - P.35

はじめに

 人間が様々な運動を学習する際,実行した運動に関する感覚フィードバックは重要な役割を担う.特に,運動を実際に行う自己の身体に由来した体性感覚は本質的な役割を果たしている.体性感覚のうち,特に四肢の空間的位置や動きに関する固有受容感覚入力に障害がみられる患者では,わずか10cm程度しか手から離れていない目標に向かって手を伸ばす場合でも,正確な手の到達運動ができないことがある1).このような患者でも,自分の手や腕の動きに関する視覚情報があれば,正確な到達運動が可能になる.ところが,視覚の助けによって,いったんは改善したかのように見えた到達運動も,自分の手の視覚情報を遮断されてしまうと,わずか1分後には乱れ始め,数分後にはまた軌道は大きく外れる.このような現象は,健常者では観察されない.到達運動に限らず,手指第一指と残り4指との間の対立運動でも同様の現象が報告されている2).すなわち,視覚の助けがあると正確な対立運動が可能になるが,閉眼でこの運動を行うとわずか30秒で正確な運動ができなくなる.もちろん健常者は閉眼であっても正確にこの運動を行える.

 つまり,このような患者では,視覚の助けがあると一時的に正確な運動が可能になるが,体性感覚入力がないため,運動を獲得しにくいと考えることができる.実際,第一次体性感覚野(以下,体性感覚野)を破壊されたサルでは新規運動の習得が困難になることが示されている3).これらの事実は,2つの重要な点を示している.1つは運動学習における体性感覚の重要性であり,もう1つは運動制御における視覚の有用性である.そこで,本稿では主にこれらの感覚に注目し,その運動制御や学習に及ぼす影響について概説する.

脳障害と運動学習

著者: 長谷公隆

ページ範囲:P.37 - P.44

はじめに

 中枢神経疾患に対する運動療法の目標は,感覚―運動統合を促して運動制御能力を高め,患者のパフォーマンスを最適化することにある.その治療成果は,課題の難易度を調整し,患者が利用できるフィードバック(以下,FB)を駆使して,運動スキルを再構築する過程を推し進める運動学習によってもたらされる.「顕在記憶と手続き記憶をいかにして操作するか」がニューロリハビリテーションにおけるパラダイムシフトのひとつとして位置づけられており1),感覚―運動統合を高めるためには,どのようなFBを呈示して行くべきかが検証されつつある.本稿では,運動学習を司る神経機構を概説しながら,運動制御に問題を生じた患者に運動スキルを習得させていくために利用できる運動学習の方法について述べる.

運動学習理論にもとづく理学療法の展開

著者: 池田由美

ページ範囲:P.45 - P.50

はじめに

 運動学習について,シュミット(Schmidt. RA)は「熟練パフォーマンスの能力に比較的永続的変化を導く練習や経験に関連した一連の過程」と定義している1).これを理学療法に応用すると,運動学習とは「練習や経験を通じて運動や行為能力を獲得する一連の過程」と定義することができるのではないかと考える.運動や行為能力を獲得するための練習の場が理学療法であり,理学療法を通じて経験されたことが記憶として蓄積されていくことになる.毎回の理学療法の経験が,それまで蓄積された記憶と比較照合されて運動のモデルが更新されていき,更新されたモデルが次の経験を生み,またその先の経験を生むというように,経験の積み重ねの記憶が,運動・行為能力を創り出していくと考えられる.このように経験の積み重ねの過程が学習であり,理学療法を通じてどのような経験をすれば,運動・行為能力の回復につながるのかを念頭において,実施することが必要となる.

とびら

「生活を知る」ということ

著者: 原由美子

ページ範囲:P.1 - P.1

 ご存知の方も多いと思うが,長野県民は,どこでも「万歳三唱」をする.お祝いの席である結婚披露宴はもちろん,新年会・忘年会,職場の歓送迎会,暑気払いに至るまで,宴会の最後は万歳で締めくくる.保育園の運動会でも,父兄代表が「○○保育園と,お集まりの方々のご健勝とご発展を祈念いたしまして」と挨拶し,整列もままならない幼い園児たちも当然全員参加で万歳を唱和している.県外から観に来ていたご家族が「長野県は本当に万歳するんだね」と感心していた.根っからの長野県人である私は,県外の宴会に出席した際,万歳がないと何か締まりがない気がしてしまうほど当然の風習である.

 人は,それぞれに独自性を持った地域社会の中で生活している.昔は地域の風習やしきたりになじめないと村八分され,仲間外れにされた.現代は,それほどに地域ごとの独立性はないものの,県民性などと呼ばれるその地域独特の気質や風習といった文化が残っている地域は多く,高齢になるほどこれに浸って暮らしている.住んでいる地域によって異なる文化があり,この中で暮らす各家庭にはさらに異なる習慣や価値観がある.自宅へ伺って理学療法を行う訪問リハビリテーションではその家庭の生活を垣間見ることができるが,1日のスケジュールや誰が何をするか,どこに何を置くか,近所の人の関わりなどは家庭の習慣や地域性が現れ,まさに千差万別である.

報告

男性において肘関節肢位が肩甲骨面上の肩甲上腕リズムに与える影響

著者: 勝木秀治 ,   中山誠一郎 ,   遠藤康平 ,   今屋健 ,   園部俊晴 ,   戸渡敏之 ,   堤文生

ページ範囲:P.51 - P.56

要旨:本研究の目的は,肘関節伸展位と屈曲位の肩甲上腕リズムの違いを調べ,特に肘関節屈曲位のリズムの特徴を調査することである.対象は健常男性10名20肩とした(年齢29.4±3.9歳).肘関節伸展位と屈曲位の2肢位において,肩関節の3つの測定区間(下垂位~90°,90°~最大挙上位,全可動域)における肩甲骨上方回旋角度変化量を計測し,肩甲上腕関節角度変化量と肩甲上腕リズムを算出した.統計処理では,分散分析を用いて各計測項目と肘関節肢位との関連を調査した.統計分析の結果,肩甲骨上方回旋角度変化量,肩甲上腕関節角度変化量,肩甲上腕リズムにおいて,肘関節肢位(肘伸展位と肘屈曲位)と3つの測定区間の間には高い相互作用が認められた.肩甲上腕リズムにおいては,全可動域では2肢位の間に有意差を示さなかった.しかし,90°を境にした測定区間(下垂位~90°と90°~最大挙上位)では,肘伸展位では下垂位~90°で有意に大きく(p<0.01),肘屈曲位ではこれらの測定区間に有意差を認めなかった.つまり,90°を境に分けた測定区間では,肘関節伸展位と屈曲位で肩甲上腕リズムは異なる特徴的な傾向を示した.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

腱鞘炎

著者: 高田雄一

ページ範囲:P.57 - P.57

 腱鞘炎(tenosynovitis)とは,腱を覆う腱鞘の炎症であり,関節リウマチのような自己免疫によるびまん性浸潤性腱鞘滑膜炎,アミロイド・石灰・尿酸などの沈着に伴う腱鞘滑膜炎,細菌やウイルスによる化膿性腱鞘滑膜炎,腱や腱鞘の肥厚を伴い,ばね指やde Quervain病を生じる狭窄性腱鞘炎がある1).本稿では臨床場面で多く見受けられる手指の狭窄性腱鞘炎(ばね指)とde Quervain病について述べる.狭窄性腱鞘炎は腱鞘が退行性変性を生じ,その厚さを増すか,腱の表面に存在する滑膜が炎症を起こして,腱に対する口径が相対的に狭くなり,その部に腫脹や疼痛,手指の運動障害を生じたものをいう2)

福祉機器―在宅生活のための選択・調整・指導のワンポイント

車いすクッション

著者: 沖川悦三

ページ範囲:P.68 - P.68

●車いすクッションの役割と使用目的

 一般的な車いすには車いすクッションは付属しておらず,別途,市販のものを組み合わせて使用する.そのため,障害や身体状況によってクッションは必要ないと思われる場合があるが,クッションを使用しない車いすのシート面は布製であっても板のように平らで堅く,長時間座っていると痛みを感じ,姿勢が崩れてくる.つまり,生活で使用する車いすには,必ずクッションを使用しなくてはならない.クッションには主に,座面(殿部)にかかる体圧を分散し痛みの軽減や褥瘡を予防する目的と姿勢を安定させて車いす上動作をしやすくする目的がある1,2)

理学療法臨床のコツ・23

居宅訪問時の状態把握のコツ①

著者: 大森豊 ,   齋藤崇志 ,   大森祐三子

ページ範囲:P.58 - P.60

はじめに

 訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)における理学療法士の役割は,いわゆる理学療法という部分のみではなく,「訪問してくれる医療の専門職」として多岐に渡るケースが少なくない.本稿では,訪問リハにおける状態把握のコツについて2回に分けて執筆する.まず1回目は,全体像把握のための問診などを中心に説明する.

入門講座 理学療法と吸引―実施にあたり確認しよう・1【新連載】

基礎編①:吸引手順と理学療法士が注意すべき事項―口腔・鼻腔内吸引

著者: 高橋仁美

ページ範囲:P.61 - P.67

はじめに

 喀痰などの吸引は,口腔,鼻腔,挿管チューブ,または気管カニューレ口から,吸引カテーテルを用い機械的な陰圧によって行われる.吸引の目的は,「口腔内吸引・鼻腔内吸引」では口咽頭・鼻咽頭の分泌物や貯留物を機械的に除去し,誤嚥や気道閉塞を防ぐことで,「気管吸引」では気管内に貯留した分泌物などを取り除くことによって気道を開存させることにある.

 喀痰などの吸引は侵襲的医療行為であり,不必要な吸引は患者に多大な苦痛を与える.よって,咳嗽や体位ドレナージなどの呼吸理学療法によって排痰が十分にできるならば,吸引は第一選択にならない.また日常においても,口腔内の清潔保持,適度な湿度・温度設定,水分補給,吸入薬の処方,疼痛管理など,できるかぎり自力喀出できるように配慮することが重要である.吸引は,このような呼吸理学療法や日常の管理を適切に行っても,喀痰などの自力喀出が困難なケースに,その必要性が判断された上で実施される.本稿では,吸引を行うにあたっての基本的事項を含め,口腔内・鼻腔内吸引の実際について解説する.

講座 臨床検査データの理解と活用法・1【新連載】

臨床検査データ判読の基礎

著者: 三宅一徳

ページ範囲:P.69 - P.75

はじめに

 理学療法の対象者の多くは何らかの病態を有しており,その病態を把握する指標として臨床検査が広く用いられている.特に糖尿病,脂質異常症などの代謝異常症や慢性腎臓病など,自覚症状や診察所見に乏しい病態では臨床検査値が唯一の判断根拠である場合も少なくない.この検査値の意義を的確に判断するには,それぞれの検査項目がどのような変動メカニズムで生体の状態を反映するかを理解する必要がある.加えて,すべての項目に共通する臨床検査の基本的な特性を把握しておくことが不可欠である.特に基準値の意義や検査の診断特性については,正しく理解しておかないと思わぬ病態の誤認につながることがある.

 本稿では,この臨床検査データ判読の基礎となる事項について概説したい.

臨床実習サブノート スーパーバイザーの視点・論点―患者さんに触れるまで・10

心疾患(高齢心不全)

著者: 内山覚

ページ範囲:P.77 - P.85

ステップ1.理学療法士の役割,理学療法士としての心構え,目標

 急性期治療の進歩に伴って,救命された心疾患を持つ患者さんが巷にあふれています.低い心機能で延命し,入退院を繰り返しながら徐々に心不全が進行していきます.もとの病気の治療を十分に行うこと,心不全への進行を食い止めること,心不全の再発や再入院を予防すること,生活の質(QOL)を高く保つことなどがわれわれ医療者に求められています.私たちの目の前には,糖尿病や高血圧などの心不全発症リスクを持つ方から,心不全の最終ステージともいえる末期の方まで様々な病期の患者さんがいらっしゃいますが,それぞれの病期で理学療法士はどのように貢献すべきでしょうか.また,それらの患者さんの多くは高齢者です.複雑な合併症を複数持ちながら独居を継続している方,家族の介護を受けながら生活している方,心不全を抱える高齢者ご自身が家族を介護している方まで様々です.

 一人ひとりの病気や支援体制が異なる中で,ご本人だけでなく家族全体のQOLを支えるためには,多職種が連携してオーダーメイドで支援体制を考えていかなくてはなりません.心不全理学療法は複雑な応用問題なのです.理学療法士を目指す学生諸氏には,ぜひこの応用問題に挑んでいただきたいと思います.医療や社会全体の中で,理学療法士が果たす役割について多くを学ぶことができると思います.

資料

2012年リハビリテーション領域関連学会

ページ範囲:P.87 - P.87

書評

―対馬栄輝(編)―「筋骨格系理学療法を見直す はじめに技術ありきの現状から,どう新展開するか」

著者: 櫻井好美

ページ範囲:P.16 - P.16

 従来から,筋骨格系の理学療法は関節可動域の改善と,筋力の増強が主な目的とされてきた.臨床現場では,種々のテストバッテリーに則って正常と異常に分類することが「評価」とされ,正常な数値に近づけることを「治療(ゴール)」とする考え方が今もまかり通っている.また,もっともらしい言葉で評価や治療の不足をなんとなくごまかしていると思われる例もある.

・速さや力の大きさ,回数や距離のみでしか動作を評価しない(「エビデンスが大事」).

お知らせ

行動リハビリテーション研究会認知症研修会/第38回日本整形外科スポーツ医学会学術集会/アメリカ足病医学会のバイオメカニクスに基づく足部の評価と運動制御アプローチ(3日間コース)/臨床理学療法研究会第23回研修会・第5回学術研修会

ページ範囲:P.56 - P.75

行動リハビリテーション研究会認知症研修会

日 時:2012年2月11日(土)9:30~17:00

東京会場:臨床福祉専門学校

北海道会場:日本福祉リハビリテーション学院

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「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.24 - P.24

第23回理学療法ジャーナル賞発表

ページ範囲:P.85 - P.85

文献抄録

ページ範囲:P.88 - P.89

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.92 - P.92

 「脳は柔らかく壊れやすいものです.しかし,その構造とは裏腹に,いったん傷害された機能は容易く変わるものではありません.」

 上記は,編集子が30年近く前の講義で聞いた一コマです.現在では,理学療法の基盤として,脳の可塑性や運動学習の理論を知らない学生はいないでしょう.このような水準の変化こそ進歩といってもよいのではないでしょうか.

理学療法ポケットシート

ページ範囲:P. - P.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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