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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル46巻10号

2012年10月発行

雑誌目次

特集 地域包括ケアシステムと訪問理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.871 - P.871

 一人暮らし高齢者と認知症高齢者の増加,都市部における急速な高齢化,要介護高齢者の急増,このような問題を地域の中で解決する仕組みが「地域包括ケアシステム」である.理学療法士は,要介護者の機能改善だけでなく,将来の機能変化を予測し予防する.そのために,訪問活動に携わる理学療法士は,多くが地域の他職種から頼られ,訪問の潜在的ニーズはかなりの数に上ると言われ,地域包括ケアシステムの中でも欠かせない職種である.本特集から,地域包括ケアシステムの歴史的背景,様々な地域事情,理学療法士の具体的な活動などに触れ,さらに理解を深めて,明日の訪問活動の活力としていただけることを期待する.

地域包括ケアシステムについて

著者: 井上智貴

ページ範囲:P.875 - P.881

地域包括ケアを巡る現状

 わが国の65歳以上の人口は,2005年には総人口の20%を超え,最近の統計では既に22%に迫るなど,本格的な「超高齢社会」を迎えている.戦後一貫して増加傾向が続いた総人口も,少子化などにより既に減少に転じている1~3)(図1).

 こうした急速な高齢化・少子化の進展に伴い,高齢者を中心とした医療費の急激な増加,将来の年金制度や介護に対する不安など,高齢者の保健福祉の様々な面で,わが国は大きな課題を抱えている.特に介護問題は,高齢化に伴い,重度要介護者,認知症を有する高齢者が増えるなかで,核家族化により家族介護に頼れない状況も多く,高齢者の生活にかかわる最大の不安要因となっている.

地域包括ケアの中の訪問理学療法

著者: 植松光俊

ページ範囲:P.882 - P.889

はじめに―「施設」から「住宅」へ

 日本の社会保障の方向性は,少子超高齢化人口推移に対応すべく動いていると言っても過言ではない.厚生行政の方向としては,急性期医療重点集中化・機能強化に伴い,医療保険の縮小化を図るとともに,在宅医療の拡大,そして介護保険領域の生活期リハビリテーション(以下,リハ)の拡大,そして介護予防や疾病(生活習慣病など)予防を中心とした民間健康事業の活性化を推進しようとしているのは間違いないところである.

 特に2025年に向けた住み慣れた地域での安心・安全と希望の生活を送ることができる社会づくりのための「地域包括ケアシステム」の構築においては,同システムの意義,目的に合致した行動ができる専門職人材の教育システムの確立が重要と言える.と同時に,この地域包括ケアシステムで取り上げられているように,国はあらゆる居住形態の拡充として,「施設」から「住宅」へと舵を切った.これにより,サービス付き高齢者向け住宅の拡充を前提として「自己能力を活用し,在宅生活を自立して過ごせるようにするためのサービス」,つまり「生活期リハ」においても,より在宅のリハ,特に「訪問リハ」に重点を置きだしたことを理解すべきである.このことを理解でき,推進でき,そして確かなサービス技術を実践できる人材(理学療法士)の教育が重要な時期にきている.

訪問理学療法の展開

1.公立みつぎ総合病院を核とした訪問リハビリテーション活動の展開

著者: 臂宏泰 ,   三宅貴志

ページ範囲:P.890 - P.896

はじめに

 高齢者人口が大きなピークを迎える2025年を目標に,地域包括ケアシステム(各中学校区単位で,24時間365日,誰もが安心して暮らせるように,医療・介護のみならず,地域住民の助け合いを含めた生活支援サービスが提供できる体制づくり)の確立が求められている.

 本稿では,公立みつぎ総合病院(以下,当院)を核とした地域包括ケアシステムの実践を概説し,その一翼を担うリハビリテーション(以下,リハ)部における訪問リハ活動に求められる視点について述べる.

2.サテライトの展開

著者: 鈴木修

ページ範囲:P.897 - P.904

はじめに

 訪問リハビリテーション(以下,リハ)を効率的により多くの利用者へ提供するうえで,移動時間の短縮は大きな課題である.人口密度の高い都市部では,利用者間の移動距離はわずかで1日に7件以上も訪問リハを提供している事業所もあると聞くが,地方で1日にその訪問件数をこなすのは難しい.

 日本リハビリテーション病院・施設協会が,2010年度老人保健健康増進等事業として実施した「リハビリテーションの提供に係る総合的な調査研究事業(単独型訪問リハビリテーション事業所の実現性に関する研究)」の調査結果1)では,半径15km以上を訪問範囲と回答した事業所は全体の41%を占めている(図1).

 筆者が所属する社会医療法人財団慈泉会(以下,慈泉会)は,長野県松本市に所在する.訪問範囲は半径約30kmであるが山間部も多く,端から端まで移動するのに2時間以上を要する.そこで,慈泉会では訪問看護ステーションサテライトを展開し,利用者により近い場所から訪問リハを届けることで移動効率を高める工夫をしてきた.

 本稿では,訪問看護ステーションにおけるサテライト展開を中心に,筆者らの訪問リハの取り組みを紹介する.

3.過疎地,都市部の活動現場から考える

著者: 田村茂

ページ範囲:P.905 - P.910

はじめに

 筆者がリハビリテーション(以下,リハビリ)の世界に入ってから40年が経とうとしている.在宅・地域へのかかわりは,最初に勤務した横浜での筋ジストロフィー児の在宅訪問が最初である.その時の記憶は今なお鮮明で,医師,理学療法士,作業療法士が自宅を訪問し,理学療法士は寝返りの福祉用具,作業療法士はBFO(ball-bearing forearm orthosis)が適応かと提案したものの見事に失敗した.教科書通りにはいかないことを実感させられた出来事であった.

 その後,1983年に施行された老人保健法に基づく機能訓練事業では,市町村の保健センターへ病院から出向き,個別対応,そして集団レクリエーションなどを行った.もちろん在宅へも訪問指導としてかかわった.さらに,当時全国で初めてかもしれないが,長尾竜郎副院長の発案で設置された地域リハビリ部を有する富山県高志リハビリテーション病院に転職し,2,3年後からは県内各市町村で地域リハビリ支援事業を展開し,寝たきり老人等の事例にチームでかかわった.1992年からは本格的に病院単独の退院患者の訪問リハビリに携わるようになり,2000年の退職後は訪問看護ステーションを支援する形で在宅の要介護者にかかわるようになった.現在は県東部の5つの訪問看護ステーションとかかわっている.いずれも常勤換算2.6~4.85人の小規模のステーションであり,人口14,000人,高齢化率32.4%という超高齢の農魚村町から県庁所在地まで,それぞれの地域の特色も多様である.

 本稿では,小さな行政区(いわゆる過疎地)から比較的大きな行政区(いわゆる都市部)の訪問理学・作業療法士としてみえてきたことを,地域包括ケアシステムに不可欠な連携強化の視点を踏まえ,私論を交えて述べる.

とびら

“Reverse”Integration

著者: 橘香織

ページ範囲:P.869 - P.869

 私が車いすバスケットボールと出合ったのは13年前のことです.スキー事故で膝関節を悪くし,大好きだったバスケットボールを思う存分楽しめなくなっていたときに,友人に誘われて車いすバスケットボールの試合を観に行ったのがきっかけでした.最初は「健常者なのに,なぜ車いすバスケットボールを?」と訝しく思われることもしばしばでした.しかし,とにかくバスケットボールがしたい一心だった私は,中古の競技用車いすを借り,一人で練習を始めました.そんなある日,とあるチームの方が,「人数が足りないからゲームに入ってよ」と声をかけてくださいました.一人で黙々とシュートを打つより,みんなでゲームをするほうが,それはもう何倍も楽しいものです! 健常者の私でも人数の足しになることでお役に立てるのも嬉しくて,私はどんどん車いすバスケットボールの魅力にはまっていきました.

 そんな私の転機となったのは,「理学療法士なのであれば,チームのトレーナーをやってくれないか」と頼まれたことでした.それまでは自分がプレーをするだけだったのですが,車いすバスケットボールという新たな世界を開いてくださった皆さんに何か恩返しができるのであればと思い,トレーナーの勉強を始めました.トレーニング,コンディショニング,車いすの設定方法等々…….それらはいずれも理学療法士としての仕事に多くのヒントをもたらしてくれました.1人でも多くの方に車いすバスケットボールの楽しさ,素晴らしさを知ってもらいたいという思いが高じて,今は主にコーチとしてこの競技にかかわっています.

学会印象記

―第46回日本作業療法学会―宮崎で技(わざ)と愛(こころ)を伝える

著者: 武田禎彦

ページ範囲:P.914 - P.915

 梅雨に入り雨が降り続く2012年6月15日(金)~6月17日(日)の3日間,第46回日本作業療法学会が,宮崎市のシーガイアコンベンションセンターで開催されました.私が大会長を務め, 2011年5月に開催された日本理学療法学術大会と同じ会場であり,宮崎で2年連続リハビリテーション関係の全国学会が開催されたことになります.実は今回の日本作業療法学会の学会長である東祐二氏(藤元早鈴病院)は古くからの友人であり,以前お酒を飲みながら,理学療法士・作業療法士のそれぞれの学会を宮崎で同時に開催し,自由に行き来できるようにすると面白いのではないかと話したことがありました.同時開催は実現しなかったものの,宮崎での2年連続の開催が実現したわけです.

入門講座 動画の活用・1【新連載】

動画の撮り方と保存

著者: 坂口顕 ,   山田哲

ページ範囲:P.917 - P.923

 近年,映像技術はめざましい進歩を遂げている.理学療法場面でもその恩恵を受け,映像技術を駆使した患者の治療や研究を行うことができるようになった.特に,ヒトの「動き」の変化をとらえ,ヒトの「動き」に対して介入する理学療法において,映像を駆使するメリットは計り知れない.

 ひと昔前であれば,ビデオカメラで撮影したとしてもビデオテープをビデオデッキに入れなければ,撮影した映像を見ることができなかった.うまく撮影できていなければ,再度ビデオテープをビデオカメラに入れ直して撮影することになる.そもそも高価なビデオカメラを所有していることが少なかったのではないだろうか.

1ページ講座 福祉機器―在宅生活のための選択・調整・指導のワンポイント

入浴用いす

著者: 大塚啓司

ページ範囲:P.924 - P.924

 入浴は転倒の危険性が高く,介護者にとっても負担の大きな動作の一つである.入浴用いす(本稿では,一般的にシャワーいすと呼ばれているものについて解説)を使用することは,安全な動作の獲得や,介護負担の軽減を図るための一助となる.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

滑液包

著者: 古川裕之

ページ範囲:P.925 - P.925

●滑液包とは

 滑液包とは,滑膜の内腔に滑液が入った袋状の構造で,腱と骨や筋の間,皮膚と骨の間などに存在し,互いの摩擦を軽減する役割があると定義されている1).滑液包は肩関節部に多く,そのほか肘関節,股関節,膝関節,踵部などにみられるが,出現部位やその発達程度は個人差が大きい.関節近傍の滑液包は関節腔と交通するものや,骨軟骨腫の表面,外反母趾の骨突出部など,病的な状態で新たに形成されることもある2).滑液包の内壁は滑膜で覆われているため,血管,神経,リンパ管が豊富に分布し,神経組織学的には痛覚受容器である自由神経終末が高密度に分布している.組織学的特徴に加え,その力学的特徴からも炎症反応が起こりやすいことがうかがえる3)

理学療法臨床のコツ・32

不定愁訴の多い患者への対応のコツ

著者: 富樫誠二

ページ範囲:P.926 - P.928

はじめに

 理学療法士なら誰でも,理学療法を行う上で患者との信頼関係を構築することが重要であることはよく知っている.しかし,そのことを理解していても,実際に臨床の場で患者の訴えが不定で,しかもその訴えがどうしても納得できない場合,やりにくいなぁと感じ,対応に戸惑うことがある.

 一般的に,患者の愁訴に一貫性がなく,その身体愁訴を器質的な面で理解できない場合に不定愁訴と判断される.この状況は,患者との信頼関係構築にも影響を及ぼしかねない.臨床の中で,患者対応に苦渋するケースが多々あるが,不定愁訴を連発するケースもその一つである.対応の仕方によってはさらに対応を困難にすることがある.

 こうしたケースでは,対応の仕方がその後の理学療法に影響を与えるため,十分な配慮が必要である.そこで本稿では,不定愁訴の多い患者への対応のコツについて,筆者の経験を踏まえ述べる.

講座 医療経済・1【新連載】

これからの医療・介護と理学療法

著者: 川渕孝一 ,   梶谷恵子

ページ範囲:P.929 - P.937

 2012年度診療報酬改定は6年ぶりに介護報酬と同時改定となった.本体が1.379%の引き上げ(内訳は医科1.55%,歯科1.70%,調剤0.46%),薬価等が1.375%引き下げで改定率はネットで0.004%のプラス.金額にして約5,500億円となるが,医科はそのうちの4,700億円を医科に配分した.その内訳は,①「負担の大きな医療従事者の負担軽減」(1,200億円),②「医療と介護との機能分化や円滑な連携,在宅医療の充実」(1,500億円),③「がん治療,認知症治療など医療技術の進歩の促進と導入」(2,000億円)である.前回とは異なり,入院・外来に区別は設けなかったが,厚生労働省の試算では入院が3,300億円(2.07%増),入院外が1,400億円(1.01%増)となる.このほか,それぞれ500億円,300億円配分された歯科や調剤薬局も在宅歯科医療や在宅薬剤管理指導に重点を置いている.

 まさに社会保障・税の一体改革で示したグランドデザインの実現に向けた改定だが,ポイントは在宅医療への布石作り.果たして,施設から在宅へのシフトは生まれるのだろうか.本稿では,これからの医療・介護の方向性をとらえたうえで,理学療法士はどのような姿勢で取り組むべきか,またどのような研究をすればevidence based lobby(根拠に基づくロビー)ができるかについて概説する.

臨床実習サブノート 基本動作の評価からプログラムを立案する・7

脊髄損傷患者の基本動作の評価からプログラムを立案する―対麻痺患者の寝返り動作から移乗動作まで

著者: 江口雅之

ページ範囲:P.939 - P.945

はじめに

 私たちが自己の身体を認識するためには,視覚や体性感覚の情報が重要である.突然の事故などにより脊髄に障害を受けると,体性感覚情報が断たれ,身体の認識が困難となる.脊髄損傷患者は受傷した時点から,損傷髄節より下位の身体機能が障害される.このことは損傷部位以下の知覚,運動を失うことによるボディイメージの喪失を意味する1).脊髄の障害では,身体機能が横断的に損傷されるため,受傷前とは異なった姿勢制御や運動戦略の選択が必要となる.これらのシステムを再構築しADL(activities of daily living)を獲得するためには,上肢を主とした基本動作を学習する必要がある.

 本稿では,脊髄完全損傷の対麻痺患者について,障害特性から考えられる姿勢や動作の特徴を理解し基本動作を獲得するための運動療法について概説する.

報告

ハンドヘルドダイナモメーターを用いた立位バランス評価指標における信頼性と基準関連妥当性についての研究

著者: 岩本浩二 ,   吉尾雅春

ページ範囲:P.949 - P.955

要旨:本研究は,ハンドヘルドダイナモメーター(Hand-held Dynamometer:HHD)を用いた立位バランス評価法(HHD評価指標)における信頼性と妥当性について明らかにすることを目的とした.対象は,脳卒中片麻痺患者,骨関節疾患患者,健常高齢者(健常者)などとし,疾患または加齢により立位バランス能力が低下している者とした.

 信頼性は級内相関係数(Intraclass correlation coefficients:ICC)を用いて検者間信頼性について評価した.妥当性はスピアマンの順位相関係数を用いてFuctional Balance Scale(FBS)およびTinetti Balance Test(TBT)との対応を検討し,基準関連妥当性について評価した.その結果,ICC=0.883~0.956,FBSとの対応はr=0.87,TBTとはr=0.80の強い相関が得られ,HHD評価指標の信頼性および妥当性が確認された.

書評

―増島麻里子(編著)―「病棟・外来から始めるリンパ浮腫予防指導」

著者: 辻哲也

ページ範囲:P.913 - P.913

 リンパ浮腫は,適切な治療がなされず放置されると徐々に進行していく.悪化させると,仕事や家事に支障を生じたり,見た目に気を配って生活しなければならないなど,QOLを低下させる切実な問題である.最近ではリンパ浮腫の患者会の発足や,テレビ,新聞などのメディアで取り上げられる機会も増え,患者向けの解説書もいくつか出版されるようになっている.しかし,わが国で現在,リンパ浮腫に対して積極的に治療を行っている医療機関はいまだ数少なく,「リンパ浮腫難民」が生じているのが現状である.

 リンパ浮腫は,その病態を十分に理解して,発症予防のための指導や発症早期から適切な生活指導・治療を行えば,発症してもそれ以上の悪化を防止することが可能である.したがって,婦人科がんや乳がん術後などで,まだリンパ浮腫を発症していないが発症のリスクのある場合には,病棟や外来のすべての医療者のかかわりが強く求められ,非常に重要である.

―James Earls, Thomas Myers/赤坂清和(監訳)―「ファッシャル・リリース・テクニック―身体構造のバランスを整える筋膜リリース技術」

著者: 黒澤和生

ページ範囲:P.938 - P.938

 筋筋膜に対する徒手的治療手技は,マッサージ師,理学療法士,整骨師,スポーツトレーナー等の間に広く普及しているが,John F Barnesらにより体系づけられた筋膜リリースは比較的最近になり徒手療法に加わった手技である.

 2012年6月,『ファッシャル・リリース・テクニック―身体構造のバランスを整える筋膜リリース技術』が医道の日本社から出版された.James Earlsと『アナトミー・トレイン―徒手運動療法のための筋筋膜経線』(医学書院)の著者で有名なThomas Myersの2人の共著である.監訳は,徒手療法に精通されている埼玉医科大学大学院の赤坂清和先生が担当されている.

―山田英司(著)―「理学療法士列伝―EBMの確立に向けて 山田英司 変形性膝関節症に対する保存的治療戦略」

著者: 森岡周

ページ範囲:P.947 - P.947

 まずこの本を見た瞬間,「同期生よ! 思い切ったことをしたな」と思い,いろいろな言葉が脳の中を駆け巡った.それだけインパクトのある表紙と内容であった.「列伝」と聞くと,ギタリスト? などと思ったりもし,果たして理学療法士という職業にそのような言葉が当てはまるかは明言できないが,いずれにしても,理学療法士は医療者でありながら,職人としての要素を含んでおり,それを意図した書であると思う.

 本書は3章の構成であり,第1章は「衣鉢相伝」と題して,著者のこれまでの臨床研究をベースとした記述である.衣鉢相伝とは教法や奥義を伝え継承することの意であり,平たくいえば,広く先人の事業や業績を継ぐことに当たる.著者はこれまで主に大学病院に属しながら変形性膝関節症の臨床研究を実施してきたが,それから得た保存的治療戦略に関して,運動学的あるいは運動力学的分析から一つの方向性を打ち出し,その具体的な実践例を丁寧に臨床的に記述している.衣鉢相伝と題されるように,著者には今までの自分の思考をありのままに伝えるが,後輩たちがそれをよりよい方向性に改変し,場合によっては批判し新しいものを創造し提案してもらいたい意図があるのであろう.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.937 - P.937

文献抄録

ページ範囲:P.956 - P.957

編集後記

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.960 - P.960

 高齢社会から波及する様々な困難を解決する方策として,国は「地域包括ケアシステム」の検討を始めました.そもそも地域包括ケアシステムの原点は,広島県御調町(現尾道市)にある公立みつぎ総合病院で,リハビリテーションを受けて退院した患者さんが在宅復帰後に寝たきり状態になることを防ぐために「出前医療」を始めたのがきっかけでした.現在,同院の特別顧問である山口昇先生は,その原点の渦中におられた医師です.全国老人保健施設協会の会長に就かれていたころ,研究事業で何度かお目にかかりましたが,本当に優しそうな方で,その人間性を誰もが敬愛し,多くの方々に尊敬されていたことを改めて思い起こしました.今回の企画の中で,公立みつぎ総合病院リハビリテーション部の臂先生と三宅先生に執筆していただくことができ,嬉しく感じつつ,改めて地域包括ケアの原点を自然体で作り上げた山口先生の偉大さに感銘を受けております.

 厚生労働省老健局老人保健課の井上先生は,地域包括ケアシステムに関することばかりでなく,リハビリテーションについても言及され,現状と課題についてわかりやすく述べております.超高齢社会に附随する様々な問題を解決する切り札を「地域包括ケア」とした意義,その中でのリハビリテーションのあり方など,訪問や通所,施設などに勤務する理学療法士にはぜひ読んでいただきたい部分です.また,植松光俊先生は,訪問活動を理学療法士が実施する上で直面する問題点を整理し,あるべき姿などについて率直に述べております.理学療法士の訪問は地域ニーズが高く,専門職からも重要性が叫ばれているにもかかわらず,現場では未だ不十分な面が多いのが現状です.本稿では,それらの解決に向けた日本理学療法士協会の活動も紹介されており,東日本大震災復興特区の取り組みなどは,今後の理学療法士の地域活動に大きく影響するものと期待しています.

理学療法ポケットシート

ページ範囲:P. - P.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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