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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル46巻2号

2012年02月発行

文献概要

特集 慢性疼痛への包括的アプローチ

慢性疼痛への包括的アプローチ

著者: 大道裕介12 牛田享宏2

所属機関: 1愛知医科大学医学部解剖学講座 2愛知医科大学医学部学際的痛みセンター

ページ範囲:P.101 - P.109

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はじめに

 日本国民の愁訴として痛みは最も多く訴えられるものであり,風邪と並ぶ一般症状のひとつとして病院を訪れる患者は多い.痛みの医療従事者はその原因を追求するために痛みの局在,性質,経過を問診し,治療効果の判定のために痛みの強さを評価していくであろう.しかしながら痛みは主観的なものであり,これまでの感覚的および情動的な体験や自分を取り巻く環境に修飾されているため,現に訴えられているものが患者の痛みとして純粋に客観的な情報とはなり得ない.ただ,患者はその痛みのみならず痛みにより引き起こされた苦痛を含めて痛みとして訴え,それを取り除いてほしいと願う.

 1986年に国際疼痛学会では,痛みを次のように定義した1).「痛みとは不快な感覚性・情動性の体験であり,それには組織損傷を伴うものと,そのような損傷があるように表現されるものがある」.一見,非常に分かりにくく,理解に苦しむような表記であるが,その内容は痛みの複雑性を内包し,見事に明文化したものである.痛みは本来,警告信号としての役割を果たすものであり,組織損傷に伴う危機的な状態を痛みという感覚を通じて知らせてくれるものである.そして,痛みを感じた瞬間に不快な情動を伴うことは誰もが体験したことがあるであろうが,痛みは伝達とこの不快情動の2つをもって警告信号としての役割を果たす.人間は,「痛い感覚」と不快情動を伴うものである痛みがなくなることを切に願い,二度と同じ経験をしたくないがために回避するのである.なくなってほしいと切に願う痛みが長く続けば抑うつを生じ,ついには絶望感,生きることへのあきらめすら生じてしまうことになる.

 痛みによる経験が個々で異なるように,疼痛に対する心理反応や行動も複雑になる.慢性化すれば,この反応や行動が一人歩きし,新たな身体症状を引き起こすこともあり得る.そのような状態では,傷がないにもかかわらずあたかもその場所が傷ついているかのように患者は痛みを訴えてくる.この複雑さが痛み患者,とくに慢性疼痛患者の理解を困難とし,治療を試みる医療従事者の大きな障壁となっている.本稿では,これまでの研究で明らかとなってきた慢性疼痛の病態メカニズムにふれ,慢性疼痛患者を取り巻く複雑な問題を整理し,その捉え方と包括的アプローチについて概説する.

参考文献

1)Merskey H, et al:Classification of Chronic Pain, 2nd ed, IASP Press Seattle, 1994
2)Loeser JD, et al:Managing the chronic pain patient:theory and practice at the University of Washington Multidisciplinary Pain Center. Raven Press New York, 1989
3)IASP Guidelines:Recommendations for Pain Treatment Services. http://www.iasp-pain.org/AM/Template.cfm?Section=Pain_Treatment_Facilities & Template=/CM/HTMLDisplay.cfm & ContentID=9218
4)大道裕介,他:難治性腰下肢痛の病態と治療 慢性腰痛に対する集学的アプローチ,中山書店,2010
5)Huskisson EC:Measurement of pain. Lancet 2:1127-1131, 1974
6)有村達之,他:疼痛生活障害尺度の開発.行動療法研究 23:7-15,1997
7)Zigmond AS, et al:The hospital anxiety and depression scale. Acta Psychiatr Scand 67:361-370, 1983
8)八田宏之,他:Hospital Anxiety and Depression Scale日本語版の信頼性と妥当性の検討 女性を対象とした成績.心身医学 38:309-315,1998
9)東あかね,他:消化器内科外来におけるhospital anxiety and depression scale(HAD尺度)日本語版の信頼性と妥当性の検討.日消病会誌 93:884-892,1996
10)Sullivan MJL, et al:The pain catastrophizing scale:development and validation. Psychol Assess 7:524-532, 1995
11)松岡紘史,他:痛みの認知面の評価 Pain Catastrophizing Scale日本語版の作成と信頼性および妥当性の検討.心身医学 47:95-102,2007
12)Burns DD:The feeling good handbook, Plume, New York, 1999
13)Lamb SE, et al:Group cognitive behavioural treatment for low-back pain in primary care:a randomised controlled trial and cost-effectiveness analysis. Lancet 375:916-923, 2010
14)慢性の痛みに関する検討会.今後の慢性の痛み対策について.http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ro8f.html
15)Nicholas M:Manage your pain:practical and positive ways of adapting to chronic pain. Souvenir, London, 2003
16)Otis JD:Managing chronic pain:a cognitive-behavioral therapy approach:therapist guide. Oxford University Press, New York, 2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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