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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル46巻6号

2012年06月発行

雑誌目次

特集 脳卒中理学療法のクリニカルリーズニング

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.475 - P.475

 本号では2009年の特集「クリニカルリーズニング」を発展し,脳卒中理学療法に焦点を絞ってクリニカルリーズニングの実際を整理した.リーズニングは理学療法士の心理・認定的過程であるが故に直接それを手に取ることは難しい.理学療法士らしさを感じる共通の枠組みと疾患や病態に特異的な視点と指標を相互に理解することで,科学的かつ実践的な理学療法の展開が可能となる.

 本特集では,脳卒中の病態を理解したうえで,脳卒中を有する対象者のニーズに応えるために様々な鑑別と選択を行う理学療法士の心理・認知的過程の一端を具体的にわかりやすく記述した.

脳卒中理学療法のクリニカルリーズニング―その特徴と共通性

著者: 佐藤房郎

ページ範囲:P.477 - P.485

脳卒中に対する理学療法の原則

 脳損傷により現れる障害は,随意運動の制限や感覚障害,行為を保障する自動的な姿勢制御の障害,高次脳機能障害に大別される.さらに,回復の過程で変化するものとして筋緊張,筋力,関節可動域,疼痛,抑うつなどの精神状態が挙げられる.これらに退行性の変形や内部障害などの併存症が加わり,病態を複雑化している.

 とりわけ自動的な姿勢制御は,移動能力や日常生活動作(activities of daily living:ADL)向上のカギを握っている.これは,筋緊張とシナジーが背景となる運動連鎖(運動パターン)として捉えられる.代償的で固定的な姿勢制御が獲得されると,すべての行為が非経済的活動に陥り,筋萎縮や拘縮などの二次的な機能障害を招く.脳の可塑性も望ましくない方向に進展する恐れがあり,可能な限り低緊張に陥った筋群を活性化させて安定性を向上することが重要になっている.

脳卒中理学療法のエビデンスとリーズニング

著者: 小島肇

ページ範囲:P.486 - P.494

はじめに

 EBM(evidence based medicine)の定着により,脳卒中分野でも,「脳卒中治療ガイドライン2009」をはじめ,脳卒中に関するエビデンスやガイドラインが整備されつつある.理学療法分野におけるクリニカルリーズニングにおいても,経験や直感による無意識的な評価治療プロセスから,外部のエビデンスを求めて定量的な推論へと精緻化することが求められる(図1).本稿では,理学療法士が知っておくべき標準的なリーズニングのひとつとしてEBMの手法を紹介し,目の前の患者の問題を解決する,個別適用のプロセスについて具体的に解説する.

急性期脳卒中理学療法のクリニカルリーズニング

著者: 岡田有司 ,   永冨史子

ページ範囲:P.495 - P.501

はじめに

 クリニカルリーズニング(clinical reasoning)とは,対象者の訴えや症状から病態を推測し,仮説に基づき適切な検査法を選択し,最も適した介入を決定していく一連の心理的過程のことである1).理学療法では,医学的情報を整理した後に評価を行い,病態解釈に基づいた治療となるよう意図し介入する.治療中に感知した患者の反応も情報に加え再考察し,適切な治療となるよう修正を繰り返す.

 脳卒中患者の急性期病態は,日々変化する可能性をもち,医師の治療方針や医学的処置もそれに伴い変更される.また近年の脳卒中治療では,遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA)静注療法2)や血管内治療2)などが一般的に行われるようになっている.さらに,「脳卒中治療ガイドライン2009」では,Stroke Care Unit(以下,SCU)・Stroke Unit(以下,SU)による発症早期からの集中的チーム医療とリハビリテーション(以下,リハ)開始が推奨されるなど3),脳卒中の治療環境とその内容は変化しており,理学療法士は急性期医療のチームメンバーとして,専門的かつ迅速な対応を期待されている.

 一方,理学療法士はリハ専門スタッフの視点から,早期介入だけでなく将来も念頭に入れる必要がある.すなわち脳卒中急性期患者の“現在”に他職種と連携しながら対応し,同時に“将来”の状況を予測する,多次元の対応が求められる.本稿では,脳卒中急性期を発症後日数で定めず「情報収集―リスク管理と介入開始―離床」と便宜上定義し,脳卒中急性期治療において,理学療法士がどのようにクリニカルリーズニングを生かしてゆくのかを考察する.

回復期脳卒中理学療法のクリニカルリーズニング―装具の活用と運動療法

著者: 増田知子

ページ範囲:P.502 - P.510

はじめに

 「脳卒中治療ガイドライン2009」において,装具を用いた早期からの立位歩行訓練が推奨グレードAと認定された1)ことにより,脳卒中患者に対する装具療法はエビデンスに基づくものと認識されつつある.しかし実際には,装具装着下の立位・歩行トレーニングに関して検証した報告はわずかで,その方法論が確立されているとは言い難い.

 加えて,脳卒中患者が治療の段階で用いる装具は,免荷装具や矯正用装具のように装着すること自体が治療的意義を持つものではなく,セラピストが行う運動療法と併せて初めてその機能が発揮される.すなわち患者が使用するものでありながら,セラピストが運動療法を行うための道具という意味合いが非常に強い.そのため,脳卒中患者に対する装具療法を考える際には,装具自体の機能特性のみならず,実際の操作も含め,セラピストが立案する治療方略が科学的根拠に基づいていなければならない.

脳卒中理学療法のクリニカルリーズニング―現状と展望

著者: 内山靖

ページ範囲:P.511 - P.517

はじめに

 医療者は,対象者の訴えを基に必要な情報(自覚・他覚的な医学的・社会的要素を含む)を収集して病態を適切に把握したうえで,対象者の課題(問題点)を抽出しニーズに基づいた目標を設定し,安全で効果的な介入を行う.このような過程は,医療の歴史とともに繰り返されてきたことで,現在でも本質的な違いがあるわけではない.

 一方で,科学技術の進歩に伴い検査や治療の技術は進歩し,人口構成を含めた社会環境の変化とともに疾病構造や保健制度は変遷し,介入の目的や治療目標は変化している.あわせて,臨床疫学の知見による帰結を踏まえた根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の実践が推奨され,医療の過程における方法論には異なる戦略が求められている.

 クリニカルリーズニング(臨床推論)とは,「対象者の訴えや症状から病態を推測し,仮説に基づき適切な検査法を選択して,最も適した介入を決定していく一連の心理・認知的な過程」1)である.冒頭で述べたように,クリニカルリーズニングは医療の歴史とともに繰り返し実践されてきたことで,目新しい概念のように取り上げられていることには違和感を覚えるかも知れない.この点については,現代社会における情報処理の特徴や医療制度に伴う専門分化の影響などを含めて,理学療法ジャーナル43巻2号(2009年)の特集「クリニカルリーズニング」に整理されている.

 本特集では,理学療法士のクリニカルリーズニングという共通した思考過程に,脳卒中という病態を有する対象者をあてはめた時に,リーズニングの視点や方法が具体的にどのように構成されるのかを明確にする.このことによって,脳卒中理学療法の実践能力を高めるとともに,理学療法士のクリニカルリーズニングの枠組みを一層精緻化しようとするものである.

とびら

先見性と臨床能力

著者: 川村博文

ページ範囲:P.473 - P.473

 私は臨床現場にいたときは,患者の一挙一動に一喜一憂し,根拠に基づく理学療法と経験則の習熟に邁進し,学会発表と論文作成を行い,猪突猛進,情熱を持って精進してきた記憶が鮮明に残っています.教育現場に活動の場を移して,最初はリズムが掴めず苦労しました.しかし,講義・実習を通じて学生に逆に癒され,心を鎮静化しつつ順応していきました.その後は学生の日々の悩み,苦しみに共感し,希望,将来の展望などをともに語りながら,理学療法士としての生き様を考える経験を積み重ねてきたように思います.

 病院・教育それぞれの現場で患者・学生と向き合うことは,実は人と向き合うことの精進の積み重ねであったことに気づきました.人の方向に顔と心が向くときに何らかの力が働き,突き動かされるものにより経験則の習熟がなされ,私は活かされてきたように感じます.

入門講座 筋力増強の指導法・3

高齢者の筋力増強の指導法

著者: 杉本諭

ページ範囲:P.520 - P.526

はじめに

 筋力は日常生活動作(activities of daily living)を行う上で重要な要素の1つであり,特に下肢筋力は歩行や移乗動作などに影響を与えやすい.筋力低下は加齢,廃用性,神経・筋疾患,外傷に伴う筋や神経の損傷など様々な原因によって生じる.高齢者では加齢や廃用性の影響を受けやすいが,特に介護保険サービスを利用している者は,健常高齢者に比べて活動性が低下しており,さらなる筋力低下に陥りやすいため,適切な筋力増強運動が必要である.

 本講座では,筋力の発生機序について,筋の構造的・機能的特徴を踏まえて簡単に触れた後,高齢者に関連しやすい筋力低下と筋力増強のポイントについて紹介する.

ひろば

理学療法の科学性再考に向けた取り組み

著者: 瓜谷大輔

ページ範囲:P.528 - P.528

1.理学療法の科学性についての現状認識

 医学研究では無作為化比較試験やメタアナリシスなどがヒエラルキーの上位におかれ,「質の高い」研究として推奨されている.しかし,理学療法は日々患者の状態に合わせながら多様な文脈から病態を評価し治療を行う営みであるため,主観的な実践が不可避である.したがって現在の科学性の認識に立脚するかぎり,理学療法の臨床におけるすべての事象を科学的に担保することは難しい.

人間の個性と理学療法士としての人格

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.541 - P.541

 動物学者によれば,人間以外の動物にも個々の性質・性格があるとのことである.双方を個性(individuality)と呼ぶこともある.しかし,動物の種は確認されているだけでも175万種であり,実際にはその7倍は存在するとも推定されている.さらに各種の個々の総数となると,天文学的数字になるに違いない.確認されているすべての種の動物に個性があるのか否かは検証しようがないと思うが,人間が日ごろ接触しているペットや家畜などの個々の動物の個性は掌握できると思える.私がペット店で文鳥を買ったときも,店員に「この子は気が強いですよ!」と言われた.多くの動物に接触していると,それらの個性まで掌握できるのだろうと思い,納得した.

 だが,動物に関しては,人格(personality)に対比することばは見当たらない.製品の規格基準について用いることがある「動格」という言葉はあるが,通常,動物の格としての意味では用いない.むしろ英語のanimality(動物性,獣性)は,personalityに類似した言葉だが,動物の個性を意味するものだろう.とは言え,ゴリラ,ライオンなどの群れを統一する立場に置かれたボス格の動物は,群れの仲間からは種の保存と見守り能力を備えたanimalityを認められているに違いない.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

血圧脈波検査

著者: 古堅貞則

ページ範囲:P.529 - P.529

 血圧脈波検査は,足首と上腕の血圧の比較や脈波の伝わり方を測定し,動脈硬化の度合いや血管障害を調べる検査である.動脈硬化は心疾患の発症や予後を規定する因子と知られている.そのため,血圧脈波検査は循環器病を引き起こす動脈硬化の早期診断と管理に不可欠である.

 実際の検査ではベッドに仰臥位となり,両側の足首と上腕に血圧計の帯,心電図の電極,心音マイクを装着し,足関節上腕血圧比(Ankle Brachial Pressure Index:ABI)と脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity:PWV)を求める.測定結果は,コンピューターによってABI値とPWV値として数値化される.検査時間は5~10分程度である.循環器病保有者では,理学療法が処方される以前にすでに検査されていることもある.骨関節疾患においては,動脈硬化を疑わせる検査値が多く含まれるとの報告もあることから,潜在的に存在する血管病変を疑い,検査によって動脈硬化の傾向を把握し,運動負荷の質と量を考慮することは,運動療法にてリスク因子を増加させないために必要である.

福祉機器―在宅生活のための選択・調整・指導のワンポイント

シルバーカー

著者: 藤井智

ページ範囲:P.532 - P.532

●特徴と適応

 シルバーカーは,フレームの下端に車輪が付き,ハンドル,ブレーキ等で構成された歩行補助具で,かごや休憩用の椅子が付いているものが多い.介護保険の適用はないが,ホームセンターなどで購入できるため市場の流通は多く,自治体によっては補助金を支給しているところもある.

 シルバーカーと似た機能を持つものに歩行車があるが,歩行車では,立つ位置により用具の支持基底面の中に利用者の重心を入れることができる.しかし,シルバーカーでは,用具の支持基底面の外に利用者の重心が位置するため,ハンドルに体重を大きく掛けて寄りかかると,車体だけがより前に進み転倒しやすくなるので注意が必要である(図)1)

新人理学療法士へのメッセージ

若い力で!

著者: 大野愛美

ページ範囲:P.530 - P.531

はじめに

 今春,国家試験に合格し,晴れて理学療法士となられた皆さん,おめでとうございます.昨年は本当に大変な年でした.何といっても,3月に起こった東日本大震災です.皆さんのなかには,東日本大震災の影響を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか.また,国家試験の問題傾向が少し変わったことで,合格率がやや下がり,不安だった方も多かったのではないでしょうか.

 しかし,皆さんは無事に合格され,すでに国の認める理学療法士となられました.さあ,これから理学療法士として頑張るぞ,という気持ちと,自分にのしかかる大きな責任に対する不安と重圧感,新しい環境の中,先輩や同僚,他のスタッフとの人間関係に対する不安など,とても複雑な心境のなか,とにかく毎日,一生懸命頑張っているのではないでしょうか.

 私は,理学療法士になって29年目になります.自分でも驚いています.私が新人のころは,今ほど世の中に理学療法士が存在しておらず,新人だから……という温かい配慮は全くなく,すぐに20人を超える患者さんを担当していました.また,医療の機能分化もなく,急性期病院に20年入院して,理学療法を毎日受けているという患者さんもいらっしゃいました.先輩から何かを教えてもらうというより,技術は見て盗め,という物作りの職人のような世界でした.そのような毎日のなか,「本当にこれでよいのか?」「このままでよいのか?」という不安から,研修会に出たり文献を読んだり,時間を見つけて誰かに相談したり,自分から発信しなければ誰も何も言ってくれませんでした.今ほど研修会がたくさん開催されているわけでもなく,簡単に情報が得られるわけでもなく,新人教育などもない状況でした.けれど,患者さんが歩けるようになること,できることが増えていくことが自分のことのように嬉しく,やりがいというものを感じていたような気がします.

 今,皆さんが感じている不安感,期待感は,私が新人のころ感じていたものと同じだと思います.偉そうなことが言える立場ではありませんが,理学療法士として,人間として色々な失敗,挫折,喜びを経験し,そこから得た私の勝手な思いを述べさせていただきます.何かのお役に立つことができれば幸いです.

講座 運動学・3

足関節の機能解剖と臨床応用

著者: 壇順司

ページ範囲:P.533 - P.540

はじめに

 理学療法における障害構造の捉え方は,罹患関節の局所的視点のみでは不十分であり,姿勢や動作などの全身的視点からも捉える必要がある.この視点で重要となるのが多関節運動連鎖の概念である.これは治療戦略を考える上で欠かすことのできない概念である.しかし,多関節運動連鎖は,足からの運動連鎖,骨盤からの運動連鎖,各関節を構成する骨の相対的位置関係など様々な表現方法が用いられているため,理解するのが難しい.特に下腿の動きに対する足部の動きが,どのような機構で制御されているか明確でないため,障害構造を捉える時に混乱を起こすことがある.そこで,荷重下における足関節の動きとそれに関与する軟部組織を整理し,足関節に対する相対的な骨の位置と運動連鎖の関係を解剖学的に検証することで,臨床に応用できるのではないかと考えた.

 足関節の運動は,背屈には外返しが,底屈には内返しを含む複合的な関節運動1)を行うことから,距腿関節と距骨下関節(Subtalar関節:以下,ST関節)を足関節複合体として捉える必要がある.通常足関節複合体としての底背屈の可動域は,距腿関節が80%,ST関節が20%といわれている2)

 また,距腿関節は,底屈約30°から背屈方向の運動では,距骨体が脛腓骨間にロックされる3)ため,矢状面上での1軸性の運動となる.よって,歩行などの荷重下での運動は,距腿関節とST関節が連動しながら,安定した運動を行っている.しかし,距腿関節に比べ,ST関節の関節構造や動きは複雑で理解することが難しいため,本稿では足関節複合体の中でも機能的に重要なST関節の動きを中心に紹介する.

理学療法臨床のコツ・28

脳血管障害に対する理学療法のコツ―拘縮を予防するコツ

著者: 萩原章由

ページ範囲:P.542 - P.544

はじめに

 病院でリハビリテーションを受けている対象者に行った実態調査1)では,そのほとんどに関節可動域(ROM)制限が認められたとあり,特に体幹,股関節,頸部の順に多く,年齢が高いほど,発症後の期間が長いほど,そして動作能力が低いほど制限角度が大きいと報告している(表1).脳血管障害では運動麻痺や異常筋緊張,特異的な姿勢や動作,活動の狭小化により,病期を問わず拘縮を生じてしまうことが理解できる.つまり脳血管障害による片麻痺者には,何らかの拘縮が生じてしまうという考えを持ったうえで,その対応を常に考えておく必要があると言える.しかしすべてのROM制限を拘縮と考えて治療対象にするのは,時間的制約からも得策とは言えない.そこで本稿では,拘縮を予防するコツとしていくつかの私見を述べる.

臨床実習サブノート 基本動作の評価からプログラムを立案する・3

片麻痺患者の基本動作の評価からプログラムを立案する(起立動作から歩行まで)

著者: 井上和章

ページ範囲:P.545 - P.552

はじめに

 本稿は臨床実習に臨む理学療法学生を対象に述べたものです.実習中のあなたは,片麻痺の患者さんに関わることになりました.当然,実習生として理学療法プログラムを立案することが求められます.こうした場面で活用できる臨床のヒントを提供することが,本稿の目的です.「基本動作の評価からプログラムを立案する」シリーズにおいて,片麻痺患者の床上動作から座位保持については,すでに前回述べられていますので,ここでは立ち上がりから歩行までを取り上げます.

プログレス

脳梗塞に対する自己培養骨髄幹細胞の静脈内投与

著者: 佐々木雄一 ,   本望修

ページ範囲:P.553 - P.556

 脳梗塞をはじめとする中枢神経疾患に対する神経再生医療は,世界的にも注目されている.従来,「損傷を受けた中枢神経系の再生は困難である」という考えが,中枢神経疾患の治療において支配的であったが,近年の生命科学の進歩によって,自己複製能と多分化能を有する“幹細胞”が神経系にも発見されたことにより,中枢神経疾患に対しても新しいアプローチによる治療が期待されるようになった.

 われわれは,1990年代初期から神経系細胞をはじめとする種々のドナー細胞の研究を開始し,特に神経幹細胞やES細胞などの幹細胞を用いた基礎研究を展開してきた.近年では,実用化を念頭に臨床応用に最も近いと予想される骨髄細胞をドナー細胞とした神経再生研究に注目し,基礎的研究成果を数多く報告してきた1~14).その中でも特に神経再生作用の強い骨髄間葉系幹細胞の治療効果が,経静脈内投与でも実験的脳梗塞に対して著明に認められることを報告してきた.これらの基礎研究結果に基づき,2007年1月より脳梗塞亜急性期の患者を対象とした自己骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与について,その安全性と治療効果について検討している15)

報告

年齢層別にみた高齢者の歩行速度および歩行変動係数―地域在住高齢者270名を対象とした横断研究

著者: 田中武一 ,   山田実 ,   永井宏達 ,   竹岡亨 ,   上村一貴 ,   森周平 ,   市橋則明

ページ範囲:P.557 - P.562

要旨:[目的]高齢者とは65歳以上といった幅広い層を指す名称にもかかわらず,これまでの身体機能評価を用いた研究では「高齢者」と一括りにして報告されている.本研究では,高齢者を年齢層により分類し,各層における歩行機能を比較検討した.[対象・方法]対象は地域在住高齢者270名および若年者60名である.高齢者を前期高齢者,後期高齢者,超高齢者に分類し,若年者と合わせて4群間で,単一課題条件および二重課題条件での歩行速度および歩行周期時間の変動を比較検討した.[結果]どの評価項目においても高齢者の年齢層間で有意な差を認めたものの,若年者―前期高齢者間ではどの評価においても有意な差を認めなかった.また,歩行周期時間の変動では二重課題条件にすることで,単一課題条件では認められなかった年齢層間の差が認められた.[結語]高齢者の身体機能を評価する際には,年齢層に分類して評価する必要性が示唆された.

症例報告

リスフラン靱帯損傷に対する理学療法の経験―保存治療について

著者: 岡徹 ,   中川拓也 ,   奥平修三 ,   古川泰三 ,   橋本雅至

ページ範囲:P.563 - P.567

要旨:リスフラン靱帯損傷に対し動的安定性を得るために,近年,観血的治療が試みられているが,保存治療についての詳細な報告は見当たらない.そこで今回,リスフラン靱帯損傷後にテーピングと足底挿板を中心に理学療法を施行した症例について検討した.受傷後のテーピングとして,損傷靱帯の機能を考慮した方法を実施した.足底挿板はアーチの低下を防止するよう使用した.また,患部である足部機能や患部外の下肢・体幹機能の向上も同時に図った.その結果,本症例は重度の靱帯損傷であったが,足部への負担を考慮した理学療法を行うことにより,受傷24週後も疼痛や不安定感なくテニスを継続している.

お知らせ

第1回理学療法士および作業療法士法をもっと知るための啓発セミナー/第9回看護師・コメディカルのためのFIM講習会/第4回重症心身障害理学療法研究会セミナー/第36回日本リハビリテーション工学協会―車いすSIG講習会in福岡

ページ範囲:P.501 - P.519

第1回理学療法士および作業療法士法をもっと知るための啓発セミナー

日 時:2012年7月15日(日)10:00~15:00

会 場:広島大学広仁会館(広島市南区霞1-2-3)

書評

―ジェローム. V. シウロ,ジェロミー. R. シウロ(著)/稲垣克記(監訳),伊藤元治,宮下 智(訳)―「肩のスポーツ傷害―診断・治療・リハビリテーション」

著者: 小柳磨毅

ページ範囲:P.519 - P.519

 整形外科医師であるJerome V. CiulloとJeremy R. Ciulloによって執筆された本書は,医師,理学療法士,アスレチックトレーナーなどの幅広い専門家を読者対象としている.スポーツ医学チームにおける職種を越えたコミュニケーションの輪を広げることを発刊の目的とし,「肩損傷の分析と診断」「肩の損傷」「肩のリハビリテーションの原理」の3部から構成されている.

 肩損傷の分析と診断(第1部)は,肩関節の解剖,問題点の言及,臨床試験技術,画像診断,関節鏡の章から構成されている.最も重要視したとされる解剖学と運動学に始まり,適切な病歴聴取と多角的な診断の重要性が示されている.豊富なイラストや画像によって,臨床検査と画像診断の実際,関節鏡による病態ごとの診断と外科的手技が詳細に示されている.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.540 - P.540

文献抄録

ページ範囲:P.568 - P.569

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.572 - P.572

 今回は,編集委員会の様子を少し紹介してみたいと思います.これは,本特集のテーマとも関連する編集委員としてのクリニカルリーズニングの一端を示すことになるのかも知れないと考えたからです.

 本誌は現在46巻を数えていますが,当初は「理学療法と作業療法ジャーナル」として発刊されていたものです.23巻から「理学療法ジャーナル」となり,今日に至っています.編集委員は,38巻から理学療法士のみとなりましたが,編集顧問と編集同人には関連職種の先生がいらっしゃり,貴重な助言や指導をいただいています.

理学療法ポケットシート

ページ範囲:P. - P.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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