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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル46巻8号

2012年08月発行

雑誌目次

特集 外来理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.671 - P.671

 社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)から,在宅医療と地域ケアシステムの推進は明確である.医行為としての理学療法は,どこに住んでいても,「治す医療」と,その人らしく尊厳をもって生きられるよう「支える医療・介護」の双方において,適切に受けられる社会保障として不可欠である.しかしながら,各種制度の複雑さなどのため,急性期・回復期後の外来理学療法の提供は,十分あるいは適切とはいいがたい.

 そこで本特集では,外来理学療法の総論とともに,疾患・障害に対応した外来理学療法を紹介する.

外来理学療法の意義と今後の在り方

著者: 大工谷新一

ページ範囲:P.675 - P.681

はじめに

 2012年度診療報酬改定では在宅医療の促進が表され,高齢化等に伴う在宅医療の需要の高まりや在宅医療を担う医療機関等の機能強化の重要性について述べられている.こうした背景は,在宅時医学総合管理料や特定施設入居者に対する訪問診療料の引き上げの根拠となり,診療報酬上の評価や対象患者の要件等を見直すことで在宅での療養環境の充実が図られている.

 一方,外来でのリハビリテーションにおいて,現在は毎回医師の診察(いわゆるリハビリテーション前診察)が必要であるが,状態が安定している場合など,医学的に毎回の診察を必要としない患者が含まれている現状を鑑みて,リハビリテーションスタッフ(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士等)が毎回十分な観察を行い,直ちに医師の診察が可能な体制をとりつつ,カンファレンス等でリハビリテーションの効果や進捗状況を確認している場合に限り,医師の包括的な指示のもとにリハビリテーションを提供できるよう,評価体系が見直された.これに伴い,外来リハビリテーション診療料が新設されたが,算定日から一定期間はリハビリテーションを実施した日についての初診料,再診料,外来診療料の算定は不可となっている.さらに,外来リハビリテーション診療料の算定に際しては,毎回のリハビリテーション後にカンファレンス等で医師がリハビリテーションの効果や進捗状況を確認し,診療録に記載することが義務づけられている.ここで,外来リハビリテーション(外来理学療法)を実施するに当たり,毎回のリハビリテーション前診察を継続するのか,外来リハビリテーション診療料の算定に向けてカンファレンスの時間や仕組みを考慮した業務システムを構築するのかという選択を迫られることになる.

 「外来」とは,文字どおり病院に通って診察・治療を受けることであり,本稿の主題である「外来理学療法」とは,病院に通って理学療法を受けることと捉えられる.したがって,外来理学療法の対象者は自宅またはそれに準ずる施設から通院できる人となる.前段で述べたとおり,近年は在宅医療の重要性,必要性が強調され,それを否定する意見は全くないと言っても過言ではない.通院での医療と在宅医療が相反するものと仮定した場合,理学療法においても外来から在宅へと,その重要性はシフトしていると考えられる.そこで,本稿ではこのような社会情勢を踏まえたなかで,外来理学療法について,いくつかの研究論文を概観した上で,外来理学療法の問題と限界,競合する職種と業態,および自由診療も含めた代替となる戦略について述べる.

脳卒中疾患患者に対する外来理学療法

著者: 權藤大介

ページ範囲:P.682 - P.687

はじめに

 近年,目まぐるしく変化する医療や社会福祉の動向が,多くのメディアに取り上げられるようになり,医療関係者や患者や患者の家族だけでなく,一般の方々にも注目されるようになった.リハビリテーション(以下,リハビリ)も,2006年度診療報酬改定での疾患別リハビリの算定日数制限により生じたとされる「リハビリ難民」という言葉により,多くの人々の注目を集めた印象がある.以前までは維持期リハビリに位置付けられることが多かった外来リハビリは,前述のような在院日数の短縮化など医療情勢の変化に伴い,現在では在宅という環境で行われる回復期リハビリも担う立場にもなっている.同時に,患者や患者家族との関わりが長期化するなかで,機能回復および維持を目的とした運動療法および日常生活指導を行うだけでなく,これまでの様々な報告1~3)と同様,心理面のサポートなど広義のリハビリを求められることが多い.

 本稿では,筆者の勤務する白ゆり総合リハケアクリニック(以下,当院)における脳卒中疾患患者に対する外来理学療法の概要,その役割と実際を紹介するとともに,現在の外来理学療法の限界と今後の展開についての考えを述べる.

運動器疾患患者に対する外来理学療法

著者: 市川和人 ,   中村良雄 ,   相馬裕一郎 ,   杉元歩実 ,   伊藤謙 ,   板場英行

ページ範囲:P.688 - P.693

はじめに

 デフレ経済における景気停滞の経済情勢や急速な高齢化の進行により,医療保険財政の深刻さがより一層混沌となり,度重なる医療給付体制の改変で,外来理学療法の細分化も図られた.病床の有無により治療スタイルも多角的となり,運動器疾患を有する患者にも大きな変化がみられるようになってきている1,2).さらに2012年度診療報酬改定では,運動器リハビリテーションの在り方を根幹から考えていかなければならないほど,厳しさが増した状況となってしまった.

 理学療法においても,社会情勢の変化(①少子高齢化,②核家族化,③意識への変化),医療情勢の変化(①疾病構造の変化,②説明責任の増大,③疼痛機序の多様化),疼痛機序の解明が進むにつれ,その対応も生物医学的アプローチから生物心理社会的アプローチへと変化している.

 そこで今回は,外来理学療法の位置付けや評価の在り方,治療アプローチの考え方について私見を述べたいと思う.

神経難病患者に対する外来理学療法

著者: 金城三和子 ,   松川英一 ,   仲本哲 ,   小橋川敦 ,   川平稔

ページ範囲:P.695 - P.700

はじめに

 いわゆる「難病」とは,疾病を定義したものではなく,行政や医療の現場で難治性疾患を指すものである.1972年に出された「難病対策要網」によると,①原因不明,治療方法未確立であり,かつ,後遺症を残すおそれが少なくない疾病,②経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病,と定義されている.

 なかでも脳や脊髄を中心とした神経細胞が変性・脱落した結果生じる病気の総称である神経難病は,近年難病中に占める割合が増加傾向にある.発症原因が不明であり徐々に進行していくこと,疾病の種類,年齢により症状が多様であることなどから治療方法が未確立の疾患が多く,理学療法もまた未確立であると言わざるを得ない.また脳卒中や整形外科的疾患などと比較して症例も少なく,神経難病の診療に携わる医療機関が少ないため,理学療法の経験が乏しいのも現状である.

 そのようななか,当院は2000年に外来リハビリテーション科を開設し,翌年から難病リハビリテーションを開始,パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)をはじめとする神経難病患者に対して試行錯誤しながら外来リハビリテーションを実施してきた.当初は歩行介助レベルの違いによるリハビリテーションマニュアルを独自に作成し,治療を行っていた.しかし症例経験を積むに従い,マニュアルへの追加項目が増えてより細分化され,PDに関してはHoehn & Yahr分類によるリハビリテーションマニュアルが出来上がった.

 本稿では,神経難病に対する外来理学療法の意義や役割,理学療法を実施する上での要点について,当院における経験を踏まえて報告する.

心大血管疾患患者に対する外来理学療法

著者: 櫻井繁樹

ページ範囲:P.701 - P.707

はじめに

 2010年人口動態統計によると,循環器疾患は,がんに次いで日本人の疾患別死因の第2位を占めており,そのうち心筋梗塞は約23%に上る.心筋梗塞は働き盛りの中年以上で多く,何の前触れもなく突然に発症する.その急性期死亡率は高く,30%とも50%とも言われ,大多数は,高度救急医療が施される前のプレホスピタル死亡である.

 救命のためには心肺停止発症時に目撃者がただちに救命処置を行う必要があるが,実際には目撃者が存在する確率は30%程度にとどまる1).したがって,AED(automated external defibrillator)や救急救命医療などプレホスピタルケアの拡充だけでは死亡率を改善させることに限界があり,発症そのものを予防していく取り組みが不可欠である.

 発症予防のために介入すべきハイリスクグループの同定には,莫大な資金・人材・高度医療機器を投入するまでもない.すでに医療者の目の前にいる冠動脈疾患を発症した者こそがハイリスクグループの中のハイリスク患者である.これらの患者に対する再発予防治療を確実に実施することが,最初の一歩として,すぐにでも取り組むことのできる対策である.幸いにも心筋梗塞の再発を予防し,QOL(quality of life)を向上させ,予後を改善するための治療法はすでに多く知られている2).それらの治療法を的確に確実に安全に行うための枠組みを心臓リハビリテーション(以下,心リハ)と呼ぶ.

外来呼吸リハビリテーションの実際

著者: 北川知佳 ,   宮本直美 ,   角野直 ,   城石涼太

ページ範囲:P.708 - P.715

はじめに

 長崎呼吸器リハビリクリニック(以下,当院)は,慢性呼吸器疾患のリハビリテーションを行うことを主目的として1997年に開業した19床の有床診療所で,入院,外来,通所,訪問にてリハビリテーションサービスを提供している.開院当初,入院患者は呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハビリ)を目的に入院する患者が約8割を占めていたが,最近は呼吸リハビリ目的が約3割,肺炎などの急性増悪の治療目的で入院される患者が5割以上と,治療目的の入院が年々増加してきている1).また,慢性呼吸器疾患は増悪後も継続した治療が必要であることから,身体機能を維持するために,退院後も外来や通所,訪問での継続を勧めている.

 本稿では,呼吸器疾患を専門とした有床診療所における外来リハビリテーションの実際について報告する.

地域診療所における運動発達障害の理学療法―公立診療所における実践報告

著者: 金城歩

ページ範囲:P.716 - P.721

はじめに

 運動発達障害患者に携わる理学療法士の割合は少なく,依然特殊な分野と思われがちだ.しかしながら,対象者数は少ないものの必要不可欠な分野であり,「地域」という視点に立てば遠方の総合施設でのみ理想的な事業が展開されればよいというものではない.むしろ規模が小さくても子どもたちが暮らす地域に発達を支援する施設が保障されることが重要だ.

 今回,実践報告でご指名をいただいたが,当診療所は小さな診療所で特筆するような業績もない.強いて言えば,運動発達障害患者に対する理学療法(以下,運動発達障害理学療法)過疎地での実践や公立の特性を生かし保健師と連携しながら早期療育を支援していることを紹介する程度だ.甚だ僭越ではあるが,地域で子どもたちを支える意義を考える一助にしたい.

 なお,文中で症例の写真を掲載しているが,事前にご両親に許可をいただいている.

とびら

生き方(逝き方)に関係できる理学療法士の力に誇りを感じて

著者: 赤羽根誠

ページ範囲:P.669 - P.669

 10年以上前になるが,知人のH医師に緩和ケアの病棟を案内されているとき,ある病室から「違うのぉ,違うのぉぉ」と細い泣き声が聞こえてきた.H医師と病室に入ると,白衣の方々とご家族らしき方々がベッドを囲んで硬直していた.H医師が,「どうしたのぉお~」と優しく,そして力強い声をかけた.白衣の方々の1人が非常に困った表情をしながら,小声で「○○さんはお花の先生なのですが,もう一度お花を生けたいと言われまして……,ですが……」と途切れ途切れに話した.

 H医師は,ベッドに近づき,女性に「違うのぉ~」と声をかけた.女性は「自分で生けたいのです.でも,力が入らないんです」と弱々しく話した.そこで,H医師と私で女性に話しかけながら,女性の足が床に着くであろう高さまで電動ベッドの高さを低くした.その後,介助しながら女性にベッドの端に腰掛けてもらい,足はスリッパを履かず裸足のまま床に下ろしてもらった.H医師には女性の左側に腰掛けてもらい,ご家族らしき方には生花用の給水スポンジが入った花器を持ってもらい,私は女性の右側に腰掛けた.そして私は女性の胸郭右側面と前腕を支えた.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

瘢痕

著者: 前重伯壮

ページ範囲:P.725 - P.725

●瘢痕とは

 瘢痕(scar)とは,損傷を受けた組織の欠損部分が線維組織により修復された状態を指し,その組織を瘢痕組織という.皮膚では,損傷が表皮にとどまれば皮膚は再生され,瘢痕形成を認めないが,表皮と真皮を区切る基底膜を越えて損傷が及ぶと皮膚は再生されず,真皮の線維芽細胞が増殖して傷を修復することで瘢痕が形成される.

福祉機器―在宅生活のための選択・調整・指導のワンポイント

段差昇降機

著者: 加藤めぐ美

ページ範囲:P.728 - P.728

 わが国の家屋は建築基準法により,住宅の床は地面より45cm以上高くするよう決められている.日本の気候風土を考慮すれば合理的ではあるが,そのため多くの住宅は屋外から屋内までの移動には「段差」を越えなければならない.

 道路から居室までには多くの高低差があり,この高低差が移動能力の低下してきた人にとっては大きな障壁となっている.しかし,この高低差を上手に解決できれば,本人の移動能力が自立したり,移動にかかる介助者の負担を軽減させたり,生活場面の拡大を図ることができる.

初めての学会発表

研究の奥深さを再認識

著者: 丸岡祥子

ページ範囲:P.726 - P.727

 2012年5月25~27日に兵庫県で開催された第47回日本理学療法学術大会に参加する機会を得ました.口述発表にて研究内容を発表させていただき,得たものがたくさんあり,私にとって大変貴重な経験となりました.

ひろば

痛みの緩和に介入する際の理学療法士の感性

著者: 堀寛史

ページ範囲:P.729 - P.729

 日本語の成り立ちは,基本的に「音」から始まっており,その「音」に外来語である漢語を当てはめて文字にしてきたと言われている.平安時代には平仮名は用いられていたのだが,紀貫之の『土佐日記』(10世紀半ば)では,作者が女性に扮して平仮名を用いているように,教養としての文字は漢語であった.平安の世は多様な文化が開花した時代であったようで,後世に残る文献が数多く存在する.

 日本語では話し言葉としての「音」が先にあり,文字を後につけたのは現代のスラングでも同様であり,言葉の意味が先にあったわけではなかったようである.つまり,言葉はそれらが用いられる過程で定義めいた統一的な意味がじわじわと付与されていくのである.よって,同じ音から派生しているにもかかわらず,意味が異なるものが多々みられる.その代表例として,私たち理学療法士にとって常に難題となる音としての「いたみ」について考えてみたい.その言葉の意味としては痛み,傷み,悼みの3つがある.

あんてな

第47回日本理学療法士協会全国学術研修大会(in鹿児島)のご案内

著者: 平名章二

ページ範囲:P.730 - P.735

 昨年,未曾有の大災害となった東日本大震災により被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます.皆様の安全と,一日も早い復興を心よりお祈りいたします.


 第47回日本理学療法士協会全国学術研修大会が2012年10月5日(金)・6日(土)の2日間にわたり,鹿児島市与次郎で開催されます.会場は鹿児島のシンボル「桜島」を眼前に望む鹿児島市民文化ホール(図1)と隣接する南日本新聞会館(図2)です.この与次郎地区は海とレジャーと文化施設が融合する市民の憩いの場所として親しまれており,桜島の雄大さと錦江湾の美しさの両方を見て感じ取れるスポットです.

入門講座 栄養と理学療法・2

臨床栄養学・栄養不良と運動との関わり

著者: 大原寛之 ,   東口髙志 ,   伊藤彰博

ページ範囲:P.738 - P.745

はじめに

 わが国において,現在高齢者対策は極めて重要な問題の一つである.高齢者ができる限り自立した幸福な生活を送るためには,「元気なお年寄り」である期間を少しでも長く保つことが大切である.その一つとして,高齢者が寝たきりになることを防ぎ,自宅で過ごすことが可能となるように筋力維持,廃用予防のための筋力増強運動が必要となってくる.そこには理学療法を中心にリハビリテーション医学が必要となってくることは言うまでもない.

 それらを下支えするものとして,栄養管理は極めて重要である.たとえ筋力維持のために一生懸命理学療法を行っても,十分な栄養管理がなされなければ,患者は疲弊し,かえって害をなすことすらある.通院による理学療法,あるいはホームプログラムなどにおけるコストやマンパワーには限りがあるため,医療資源・介護資源をできる限り有効に利用し,「栄養管理」と「理学療法」が車の両輪のように共同して活用されなければならない.

 しかしながら,実際の医療現場では,患者の栄養状態に合わせた理学療法の取り組みがまだまだ不十分なことも多い.その結果として,患者は理学療法の成果が得られないまま,徐々に寝たきり状態へと移行していくことになる.このことは,在宅に戻れない高齢者が,後方施設である療養型病床や老健施設などにあふれてしまうことにつながる.たとえ自宅に戻れたとしても,セルフマネジメントができないために,家族や介護職員の介護量が多くなり,疲弊にも繋がってしまう.これらの問題を解決するためには,最初の入り口すなわち入院当初からの適切な理学療法と,それを成功させるための栄養管理が必要不可欠なのである.

 本稿では,高齢者の理学療法の成否に重要である代謝栄養状態について,正しい評価法にはどのようなものがあるかについて言及し,栄養不良の結果引き起こされる不具合にどのようなものがあるかについても述べる.

講座 廃用症候群・2

廃用/過用/誤用症候群とリハビリテーション

著者: 小田太士 ,   蜂須賀研二

ページ範囲:P.746 - P.752

 今日,未曾有の超高齢社会を迎え,急性期から維持期に至るまでリハビリテーション(以下,リハ)の需要は高まり,今後もさらなるリハ医療・福祉の介入が期待されている.リハ対象者の多くは麻痺などの機能障害に加えて合併症も多岐にわたる.近年では超急性期あるいは術直後からリハが開始され,ますますリハ運動中の高いリスク管理能力が要求されている.本章ではリハ介入により生じやすい廃用,過用,誤用についてそれぞれ述べる.

臨床実習サブノート 基本動作の評価からプログラムを立案する・5

膝関節手術後患者の基本動作の評価からプログラムを立案する

著者: 中村睦美

ページ範囲:P.753 - P.758

はじめに

 変形性膝関節症(osteoarthritis:OA)の発生頻度は年齢とともに増加し,日本の40歳以上の患者数を推定するとX線画像により診断される患者数は2,530万人(男性860万人,女性1,670万人)であり,OAの有症状患者数は800万人と推定される1).また,高齢者が要支援になる原因の1位,要介護になる原因の4位が関節疾患であり2),高齢者の生活の質(quality of life:QOL)を著しく障害している3).保存的治療によって十分な疼痛緩和と機能改善が得られず,健康関連QOLの低下を伴う重篤な症状や機能制限を有する患者に対しては,人工膝関節置換術(total knee arthroplasty:TKA)が有効であり,費用対効果も高い手段である.

 TKA施行患者の特徴としては,骨折などの外傷疾患とは異なり多くは自らの意思で手術を選択する点である.そのため,手術に対する期待が高い.理学療法士は,術前に患者が何を期待しているかを十分把握し,それを基に患者とともに目標を設定し,治療の方向性を決めていくことが大切である.近年,在院日数の短縮が推奨され,TKA施行患者への治療は可動域獲得・筋力増強など機能障害を中心にアプローチされることが多い印象だが,手術前の高度OA患者は機能障害の改善だけでなく活動制限や参加制約の改善も期待しており4),われわれ医療提供者は,これを念頭に入れて治療を行う必要がある.

 TKA施行患者では,手術により術前のアライメントが矯正されるが,術直後では筋や筋膜,神経などの軟部組織はアライメントの変化に即座に対応できない場合が多い.そのため,術後も術前の習慣化された方法で動作を行うことが多く,これによる軟部組織の機能異常やアライメント変化による二次的障害の発生が予測される.術後のアライメントに合った関節運動や基本動作を学習させることが,TKA術後の理学療法を行う際,重要となってくる.

理学療法臨床のコツ・30

脳血管障害に対する理学療法のコツ・3―筋緊張抑制のコツ

著者: 澤田明彦

ページ範囲:P.760 - P.763

はじめに

 脳血管障害後遺症者は,上位運動ニューロン症候群とこれに続く低運動状態や運動の再獲得の過程で筋緊張亢進状態を呈する.筋緊張亢進の中心を成す痙縮の病態は,脊髄神経機構の機能変化と,より上位の中枢の調節障害が想定されているが,不動や異常な筋収縮の結果による筋の伸展性低下といった生化学的な問題も含む.筋緊張亢進は単なる反射の亢進よりも,もう少し複雑な構成であると捉えられている(図1)1)

 筋緊張の抑制がどのような作用機序で得られるかについては,推論の域を出ないことが多い.例えば上腕二頭筋の抑制を考えた場合,近位橈尺関節の関節授動によるものは,筋膜を介した生化学的な要因ではないかと考えられる.一方,麻痺側を下にした側臥位をとることで上腕三頭筋の緊張が高まり,上腕二頭筋の緊張が減ずるのは姿勢変化に伴う神経原性の作用ではないかと考えられる.いずれにしても変化を提供できなければ作用機序の解明も困難であることから,技能を構築しin vivoでの計測が可能となる日を待つしかないのかもしれない.

書評

―ジーン・アン・ゾラーズ(著)/上杉雅之,成瀨 進(監訳)―「イラストでわかるスペシャルシーティング―姿勢評価アプローチ」

著者: 濱岸利夫

ページ範囲:P.723 - P.723

 原著者のジーン・アン・ゾラーズ女史は長く小児理学療法領域やシーティングに関わってきた理学療法士である.また監訳者の上杉雅之氏も長く小児理学療法領域で活躍されてきた実績があり,シーティングにも長く携わってきておられる.

 本書は冒頭部分からセラピストが姿勢評価を行うにあたっての出発点とも言える「骨盤の位置」の重要性を指摘しており,構成は6部とアーロンの物語から成っている.

―庄本康治(編)―「最新物理療法の臨床適応」

著者: 鈴木重行

ページ範囲:P.737 - P.737

 この度,庄本康治先生の編集による『最新物理療法の臨床適応』が文光堂より出版された.本書出版のきっかけは,ご自身が序文で記載しているごとく,本邦における物理療法に関する書籍が教科書,国家試験レベルのものしかなく,臨床家が実際に物理療法を臨床適応するのに参考となる書籍がほとんどないことに日ごろより苦慮されていたことが大きく関係していると想像できる.本書は,主に臨床現場に勤務する理学療法士を対象とした内容となっており,物理療法の中でも,電気療法,超音波療法,レーザー療法に焦点を当て,筋力低下,弛緩性肩関節亜脱臼,脱神経筋,摂食・嚥下障害,痙縮,痛み,創傷,石灰沈着性腱板炎,手根管症候群,関節可動域制限など,日ごろ臨床によく遭遇する病態を対象としている.

 本書の特徴の1つは,各病態に対する物理療法の効果について,基礎および臨床研究から非常に多くの論文を引用してエビデンスを提示するとともに,これらの研究成果をベースとした各病態に対する最新の治療理論,臨床的適応技術について網羅していることである.このことは執筆された先生方が物理療法を専門分野の1つとして日ごろより研鑽されている成果であり,読者の先生方にとっては臨床上有益な情報が満載されていると言える.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.694 - P.694

文献抄録

ページ範囲:P.764 - P.765

編集後記

著者: 斉藤秀之

ページ範囲:P.768 - P.768

 今年も多くの新人理学療法士が入職してきました.卒後初期教育が終わり,徐々に担当理学療法士として単独で患者さんに接する機会が増えていることと思います.一方で,お勤め当初から即戦力として,一気に即実践となった方も居ると思います.

 いずれにせよ,皆さんは既に「リアリティショック」を経験済みでしょうか.リアリティショック(reality shock)とは,新たに職についた労働者等における期待と現実との間に生まれるギャップにより衝撃を受けることです.企業においては新たに職に就いた人材が,事前に思い描いていた仕事や職場環境のイメージと,実際に現場で経験したこととの違いを消化しきれず,不安や幻滅,喪失感などを強め,時に離職にまで至る問題をいいます.新人だけでなく,ベテランも大きな環境変化に直面すると,リアリティショックに陥ることがあります.すなわち誰もが必ず経験することなのです.

理学療法ポケットシート

ページ範囲:P. - P.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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