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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル46巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

特集 心疾患に対する理学療法の新たな展開

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.771 - P.772

 近年,心大血管疾患リハビリテーションの施設基準が大幅に改定され,循環器科を標榜する病院では新しく施設基準を取得し,理学療法士が心疾患のリハビリテーションに関わることも多くなってきた.一方,循環器医療は日進月歩で,心疾患の評価技術や治療技術の革新は目覚ましいものがあり,理学療法も医療の進歩に合わせた臨床実践が必要である.本特集は,近年の進歩した循環器医療の中での理学療法士の存在意味を確認しながら,心疾患に対する理学療法の新たな展開を紹介いただき,時代のニーズに合った理学療法の役割を展望することを目的としている.

心血管疾患のリハビリテーションの最新ガイドラインを読み解く

著者: 野原隆司

ページ範囲:P.775 - P.780

改訂ガイドラインの役割と今回の改訂のポイント

 2006年に,日本循環器学会でそれまで運用されてきた「心疾患における運動療法に関するガイドライン」(齋藤宗靖班長)の改訂版として,研究班報告を上梓した.運動療法は心血管疾患のリハビリテーションの一部であり,包括的治療において重要な位置を占めることを踏まえ,タイトルも「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2007年改訂版)」と改称した.それから5年が経過し,現在改訂作業を行っているが,作業は滞りなく進み,2012年秋に報告する予定である.多くの班員はそのまま残っていただいたが,長老については年齢制限もあり,外部評価委員となっていただいた.

 さて,前回の改訂から5年が経過したとはいえ,その後日本における心血管疾患のリハビリテーションのエビデンスが十分整ったとはとてもいえない.2000年以降,侵襲的治療,薬剤処方は多くのエビデンスを踏まえ,予後,QOL(quality of life)の改善に寄与している.それに比して,心血管疾患のハビリテーションは,診療報酬の改定が進んだとはいえ決して十分なものではない.包括医療が最終的には“ローコスト,ローリスク,ハイリターン”であることを強調しているにもかかわらず,エビデンスの集積が進まないことも含め,大きく前進したとはいいがたい状況にある.

和温療法の実際と展望

著者: 新里拓郎 ,   宮田昌明 ,   鄭忠和

ページ範囲:P.781 - P.784

はじめに

 心身のリラックス効果や疲労回復にも有用である温水浴・サウナ浴は,元来心疾患患者には不適で,特に心不全患者では禁忌とされてきた.われわれは,1989年より非薬物性血管拡張作用を有する温浴に注目し,心不全患者に禁忌とされてきた入浴をいかに安全に行えるかを検討し,入浴方法を確立した.そして,慢性心不全患者の臨床症状や血行動態の改善1,2),血管機能の改善3),自律神経や神経体液性因子異常の是正4)をもたらすことを明らかにした.

 本稿では,われわれが行ってきた慢性心不全における和温療法の効果とその機序について概説する.

重症心不全に対する補助人工心臓(VAS)と理学療法

著者: 花房祐輔 ,   牧田茂

ページ範囲:P.785 - P.789

はじめに

 心筋障害が高度で広範囲に及ぶ末期的重症心不全症例に対しては,薬物治療の効果に限界がある.そのような症例に対しては,心ポンプ機能の代行が必要であり,最終的な外科的治療として心臓移植が考慮される.心臓移植は,末期的心不全に対する現状で最も確実な治療手段とされているが,わが国では適当なドナー心が限られている.日本心臓移植研究会のレジストリ報告によると,2010年1月17日の改正臓器移植法施行後,脳死臓器提供が増加したことに伴い,法改正前(12年9か月)の脳死臓器提供43件,心臓移植69件が,法改正後1年5か月で脳死臓器提供71件,心臓移植51件と心臓移植の実施数も増加している.しかし,同時に心臓移植登録者数も増加傾向にあり,待機日数が飛躍的に減少するまでには至っていない.

 このような心移植の現状に対し,補助人工心臓(ventricular assist system:VAS)はいつでも施行可能な循環補助手段として適用されるようになってきた.Randomized Evaluation of Mechanical Assistance for the Treatment of Congestive Heart Failure(REMATCH)Study1)により,内科治療に対する左室補助人工心臓(LVAS)治療の優位性が示されたが,体内設置型拍動流式LVASの成績は決して満足し得るものではない.

 さらに感染,出血,デバイス作動不全などの重篤な合併症が比較的高い確率で起きることも明らかとなり,永久使用を目的とするLVAS使用が広く行われるには至っていない.その問題点として,装置自体が大型であること,駆動部分に人工弁などが必要で,これが耐久性を規定していることなどが挙げられる.そこで,より小型で耐久性に優れた装置が求められ,それに応える形で回転型(遠心ポンプ式・軸流式)の定常流型LVASが登場した.

 わが国においても,昨年より在宅での移植待機が可能となる小型の埋込型遠心ポンプ式LVASが保険適用となり,これまでの体外設置型で行われてきた長期入院中の維持的なリハビリテーションから,今後は自宅退院,社会復帰を念頭に入れたリハビリテーションへと変わっていく可能性が考えられる.

心臓外科手術後のSuper Fast-Track Recovery Programと理学療法

著者: 澁川武志

ページ範囲:P.790 - P.797

はじめに

 心臓手術の最も大きな特徴は,術後に心臓の働きが劇的に改善することだと言われている1).術後に行われる心臓リハビリテーション(以下,心リハ)は,運動療法や患者教育を主体とし,運動耐容能改善,冠危険因子是正,長期二次予防効果,生命予後改善,quality of life(QOL)向上などが証明されている2,3).ここ10年で手術の低侵襲化,短時間作用性麻酔薬の使用が進み,早期離床,早期抜管,早期経口摂取が可能となった1,4~7).現在ではそのような心臓手術後の治療促進戦略におけるイノベーションの一つとして,Fast-Track Recovery Program(Fast-Track)が注目されている.

 Fast-Trackとは,術前検査など術前の準備から始まり,術後数日で退院するまで急速に進行する周術期のプロトコールを指す.術後の罹病率および死亡率を最小限に抑えるために多くの外科手術の分野で導入されている.Fast-Trackに必要な要素は,短時間作用性麻酔薬の選択と用量設定,基準化された高度な手術手技,術後疼痛コントロール,早期抜管,早期歩行等である.主な利点に在院日数の短縮・コスト削減が挙げられ,欧米では近年,罹病率,死亡率を低下させる方向から周術期治療の上昇コストを抑える方向へと焦点が移っている4,5,8)

 日本の心大血管疾患領域における急性期治療も年々変化し,循環器専門病院や大学病院では早期退院・早期社会復帰を目的としたクリニカルパスに準じる治療プログラムが実施されており7,9~11),当院と同じくガイドライン2,12)を基本的な進行基準とした上で独自のFast-Trackを実践する施設もある7,9,13,14).欧米と同様に医療経済学的側面も求められる昨今,Fast-Trackは罹病率や死亡率の増加なしで日本の医療システムへ安全に適応でき15),早期退院を可能にしている.

 本稿では,当院が実践しているSuper Fast-Track Recovery Program(Super Fast-Track)と理学療法士の役割を紹介する.

心臓外科手術後の腸管運動低下に対する理学療法

著者: 森沢知之 ,   高橋哲也 ,   西信一

ページ範囲:P.798 - P.802

はじめに

 手術侵襲の大きな心臓外科手術後は腸管運動が低下しやすく,理学療法を実施する上で問題になることも少なくない.心臓外科手術後の消化器合併症の発生率は0.5~3.1%と報告されており1~5),呼吸器合併症や創部感染症など他の合併症と比べると発生率は少ない.しかし,いったん消化器合併症を発症するとその死亡率は17~63%と高率であり5~12),予後を左右する重大な合併症であるため,心臓外科手術後の管理において消化器合併症を予防することは重要である.

 現在,手術の低侵襲化,術後管理の発展により,手術後早期からの離床が可能となった.順調例では手術後平均4.3日目には病棟内歩行が自立し13),合併症なく順調に回復する症例が多い.しかし一方では,手術後の各種合併症により離床が遅延し,ADL(activities of daily living)能力の低下や過度な運動耐容能低下を来す症例も一定数存在する.合併症発生後は呼吸理学療法など各種合併症に応じた対応が必要となるが,腸管運動の低下についても同様に,腸管運動促通を考慮した理学療法が必要である.

 心臓外科術後の消化器合併症は麻痺性イレウスをはじめとする腸管運動の低下,腸管虚血,上部または下部消化管出血,消化器潰瘍など多岐にわたるが,本稿では特に腸管運動の低下について述べる.

心疾患の骨格筋と電気刺激療法

著者: 小澤哲也 ,   齊藤正和 ,   高橋哲也

ページ範囲:P.803 - P.810

はじめに

 心疾患患者に対する有酸素運動やレジスタンストレーニングの有用性は多数報告されている1,2).しかしながら,血行動態が不安定で,息切れなどの自覚症状が強く出現する患者に対しては,これらの運動が実施困難な場合が多い.そのため,血行動態の変動や自覚症状を抑えながら骨格筋に対して刺激を与えることができる電気刺激療法(electrical muscle stimulation:EMS)が最近注目されている.

 EMSに関する先行研究は,病態や治療内容が一定期間安定している慢性心不全(chronic heart failure:CHF)患者に対する報告が多く,無作為化比較試験やメタアナリシスも報告されている3~9).一方,病態や治療内容が安定しない急性期の心疾患患者に対するEMSの効果を検討した報告は少ない10).近年,敗血症や多発外傷などにより集中治療室(intensive care unit:ICU)での治療(クリティカルケア)が必要とされる患者に対するEMSの効果が報告されていることからも11~16),今後は急性期の心疾患患者への応用が期待される.

 本稿では,心疾患の骨格筋異常,CHF患者に対するEMSの効果と敗血症や外傷患者に対するクリティカルケア領域でのEMSの報告を概説した上で,心疾患に対するEMSの適応と臨床応用について紹介する.

在宅心臓リハビリテーションの実際と展望

著者: 齊藤正和

ページ範囲:P.811 - P.816

高齢/複合疾患を保有する重症心大血管疾患患者の増加

 薬物療法の革新,カテーテル治療に代表される低侵襲治療の台頭により,従来は治療に伴う合併症のリスクから積極的な治療が敬遠されていた高齢者や複合疾患を有する重症心大血管疾患患者にも積極的な治療の適応が拡大されてきた.一方で,これらの患者の多くはクリニカルパスなどの治療計画に基づいた急性期治療やケア,さらには心大血管疾患リハビリテーションを遂行することが困難であることから,急性期からの各専門職種のスタッフにより構成されるチーム医療が求められてきている.

とびら

背中で語る

著者: 河野礼治

ページ範囲:P.769 - P.769

 最近,卒後1~3年まで理学療法に対する意欲が高く,研修会や勉強会に積極的に参加し将来有望だと楽しみにしていた理学療法士が,7~8年後ぐらいから姿が見えなくなり,寂しく感じることがあります.その原因として,業務が忙しくなった,家庭をもち時間や金銭面に余裕がなくなった,理学療法を自分の中で確立できた,などが挙げられるでしょう.しかしそれに加え,先輩が新しい考えを取り入れない,認めない(自分の積み上げてきた経験を壊したくない),努力や研鑽をせずに後輩に指示しているなど,手本となるべき先輩の背中(姿)が逆に後輩のやる気をそぐ原因となってはいないでしょうか?

 私の大好きな言葉に「やってみせ,言って聞かせて,させてみせ,ほめてやらねば,人は動かじ」という,連合艦隊司令長官であった山本五十六元帥の言葉があります.冒頭部分の「やってみせ」が重要ですが,この言葉は「背中を見せる」に該当すると捉えられがちです.しかし調べてみると,「背中を見せる」には「引き下がる」「逃げる」という意味もあるため,「背中で語る」というのが「行動で教え(やってみせ)る」ことになるようです.

学会印象記

―第47回日本理学療法学術大会―まさに過渡期! 理学療法士の今後を考える

著者: 小西聡宏

ページ範囲:P.820 - P.821

 異国情緒あふれる街,おしゃれな街の代名詞であり,なんとカラオケの発祥地(初めて知りました)である神戸市で2012年5月25日から27日までの3日間にわたり,第47回日本理学療法学術大会が開催された.天候もよく,また会場となった神戸ポートピアホテルと神戸国際展示場は大変利便性が良く,参加者は6000名を超え盛況であった.

 本大会のテーマは「プロフェッション! 新たなるステージへ」.多様化する社会情勢の中で理学療法士に求められる役割はますます大きくなっており,そうした現状を踏まえ,「理学療法士の未来像」「次世代へ託すものは何か」に焦点を当て,専門性を活かし新たなる変革を模索するシンポジウムが組まれ,議論された.

―第49回日本リハビリテーション医学会学術集会―リハビリテーション医療のトレンドを垣間見た3日間

著者: 大峯三郎

ページ範囲:P.822 - P.824

 第49回日本リハビリテーション医学会学術集会が2012年5月31日から6月2日の3日間にわたり,蜂須賀研二会長(産業医科大学リハビリテーション医学講座教授)のもと開催された.今回の学会は,昨年の第48回学術集会が東日本大震災により会期が大幅に延期され,それから間もない開催であったため,参加者数が気になるところあったが,予想をはるかに上回り,学術集会では過去最高の3,200余名の参加者数を得たと伺っている(図1).福岡(博多)の地の利もさることながら企画力によるところが大きかったのではなかったかと思われる.

 会場となった福岡サンパレス,福岡国際会議場では,毎年国内外の学会が数多く開催されている.昨年の九州新幹線の開通に合わせて装いあらたとなったJR博多駅から海側に車で10分程度に位置しており,公共交通の利便性も良い場所にある.また,4年前に第43回日本理学療法学術大会をわれわれが開催した会場だけに,当時の慌ただしさと喧噪の中で過ごした3日間が懐かしく思い出された.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

骨脆弱性

著者: 梅野裕昭

ページ範囲:P.825 - P.825

●骨脆弱性と骨粗鬆症

 一般的に脆弱性とは「身体,器物,組織などが脆く弱いこと」「組織がこわれやすくて,扱いに注意を要すこと」とされている.すなわち骨脆弱性とは,何らかの内的,外的な要因により骨強度が低下し骨が脆くなった状態であり,骨脆弱性=骨強度の低下といえる.臨床的には「骨粗鬆症による骨脆弱化」「脆弱性骨折」といった表現で用いられる.

 現在,高齢化率23.1%と超高齢社会を迎えたわが国において,要介護状態となった原因の第5位が骨折・転倒であり,65歳以上の女性では第1位である.高齢者に生じる骨折の大多数は骨粗鬆症を背景とした軽微な外傷によって起こる脆弱性骨折である.このような社会的背景から,本稿では骨粗鬆症に焦点を当て骨脆弱化のメカニズム,評価・治療について述べたい.

福祉機器―在宅生活のための選択・調整・指導のワンポイント

ポータブルトイレ

著者: 大渕哲也

ページ範囲:P.828 - P.828

 要介護者が在宅生活を送っていく上で,排泄ケアは大きなストレスとなり得るもので,その方法の検討と準備には,最新の注意を払いたい.本稿では,ポータブルトイレの導入を検討~準備するにあたって最低限考慮・確認しなければいけないこと,あるいは見落とされがちな点について,まとめてみる.

初めての学会発表

思い出の地,神戸での発表

著者: 中嶋翔吾

ページ範囲:P.826 - P.827

 2012年5月25日~27日,第47回日本理学療法学術大会が兵庫県神戸市にて開催されました.今回私は,学会初日である25日の14:50からの専門領域(内部障害/循環)のセッションにて口述発表する機会を得ました.本稿では,初めて学会発表を行った動機や発表までの経過,また発表を終えて感じたことを報告します.

入門講座 栄養と理学療法・3

栄養と理学療法

著者: 若林秀隆

ページ範囲:P.829 - P.836

はじめに

 理学療法を行っている患者の栄養状態が良好で栄養管理が適切であれば,栄養を意識せずに理学療法だけで考えても大きな問題はない.しかし,理学療法の臨床現場では若年の運動器疾患患者を除くと,栄養障害を認める患者が少なくない.

 施設別に低栄養の高齢者の割合を簡易栄養状態評価法(the mini-nutritional assessment:以下,MNA®)で調査したレビュー論文では,病院38.7%,リハビリテーション(以下,リハ)施設50.5%とリハ施設で最も低栄養の割合が高かった1).回復期リハ病棟でも入院患者の2~3割が低栄養で,1割は重度の栄養障害の可能性がある2)

 低栄養の場合にリハの予後が悪いことも,廃用症候群3),脳卒中4),大腿骨頸部骨折5)などで指摘されている.また,栄養を考慮せずに機能改善をめざした筋力増強運動や持久力増強運動を行うと,筋力や持久力はむしろ低下することがある.

 低栄養の患者の機能,ADL(activities of daily living),QOL(quality of life)を最大限高めるためには,栄養と理学療法を切り離して考えることはできない.本稿では,「栄養ケアなくしてリハなし」「リハにとって,栄養はバイタルサインである」ことを解説する.

講座 廃用症候群・3

廃用症候群と理学療法

著者: 出口清喜

ページ範囲:P.837 - P.844

はじめに

 2010年度診療報酬改定関係資料では,診療報酬算定における「廃用症候群の患者」は,「外科手術又は肺炎等の治療時の安静による廃用症候群の患者であって,治療開始時においてFIM(functional independence measure):115以下,BI(barthel index):85以下の状態等のもの」とされている.ADL(activities of daily living)の低下=廃用症候群と一概には言えないが,廃用に至るまでの経緯(病前の活動性も含め)を十分に検討する必要がある.

 さて,廃用症候群の処方を受けると,臨床理学療法士の筆者としては「原疾患は何だろう?」と考える.廃用症候群とひと言でくくられても,その原因となる疾患は様々であるし,原疾患のコントロール状態や治療経過により理学療法の対応を柔軟に変えていくことを求められるからである.リハビリテーション施行患者の大多数は大なり小なり廃用症候群を伴っているであろうが,廃用症候群が第一診断名に掲げられるのはどのような場合だろうか.当院のリハビリテーション外来担当医師を対象にした廃用症候群の診断状況調査(2007~2008年)1)では,リハビリテーション施行患者全体の6~7%,年間約150患者が廃用症候群であり,圧倒的に内科的な急性増悪病態をきっかけとしているものが多かった(図1).

 当院は,廃用予防(早期離床,早期リハビリテーション)の概念が比較的浸透している施設だと思われる.表1は廃用症候群の多種多様な症状を示したものであるが,これらを数多く併発する重篤な廃用症候群は当院ではほとんど見かけなくなった.八幡1)は,放置すればさらに悪化するであろうその初段階の廃用状態に対し,「初期廃用」という言葉を使っている.初期廃用の段階あるいは廃用予備軍の段階から,いかに安全に対処できるかが廃用症候群を抑制する最大の鍵だといえる.

 廃用症候群には,「避けるべき廃用症候群」(必要以上に安静を強いられる)と,「避けられない廃用症候群」(安静にしていないと生命の危機がある)が存在すると仮定する.基本的廃用予防策(早期離床,早期リハビリテーション)が標準的に行われている施設では,理論的には「避けるべき廃用症候群」は減るだろう.そしてその結果,廃用全体における「避けられない廃用症候群」の比率が増える.そのような施設では,廃用症候群といえば「手ごわい」イメージかもしれない.

 廃用症候群の理学療法は,原因疾患や処方時期,患者の状態などによって対応の仕方は一定しないと思われる.今回は主に急性期の「避けられない廃用症候群」に焦点を絞り,環境,ストレス,呼吸・循環,筋力低下,栄養に分けて理学療法の考え方,実際を,私見を交えながら紹介したい.

臨床実習サブノート 基本動作の評価からプログラムを立案する・6

パーキンソン病患者の基本動作の評価からプログラムを立案する

著者: 大橋妙子 ,   江口淳子 ,   三宮克彦 ,   野尻晋一

ページ範囲:P.845 - P.850

はじめに

 パーキンソン病は,黒質緻密部や腹側被蓋領域のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性の神経変性疾患であり,運動系の障害として安静時振戦,筋固縮,無動,姿勢反射障害の4大徴候がある.また精神系の障害としては抑うつ,認知機能障害,幻覚,妄想,REM(rapid eye movement)睡眠行動障害などがみられ,自律神経系の障害として便秘,起立性低血圧,排尿障害,嚥下障害などもみられる.10万人に対して約150人の割合で生じ,多くは50~70歳で発症する.神経疾患の中でも有病率が高く加齢と共に増加している.

理学療法臨床のコツ・31

脳血管障害に対する理学療法のコツ・4―誤嚥予防のコツ

著者: 吉田剛

ページ範囲:P.854 - P.856

はじめに

 脳卒中による嚥下障害は,唾液誤嚥による誤嚥性肺炎がリハビリテーション阻害因子となり,その後も栄養摂取方法の限定などQOL(quality of life)にも大きな影響を与える.理学療法士は,誤嚥性肺炎に対する呼吸理学療法を行うだけでなく,誤嚥予防のための理学療法に関する知識を身につけ対応したい.

プログレス

関節リウマチの最新治療

著者: 三浦靖史

ページ範囲:P.857 - P.863

 2003年に本邦で初めての関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に対する生物学的製剤が承認されてから間もなく10年を迎える.生物学的製剤は,それまでの治療と比較して著しく強力な効果を持ち,RAの薬物治療にパラダイムシフト(革命的かつ非連続的変化)をもたらした.RAが不治の難病から,薬で治療可能な疾患へと大きく変容を遂げたことにより,診断基準,評価方法,治療目標,治療体系,さらにはリハビリテーション(以下,リハ)までもが一変することとなった.

 RAの最新治療戦略は,発症早期に確定診断を行い,疾患活動性を客観的に評価し,予後不良が予想される場合に,遅滞なく生物学的製剤を含む薬物療法を体系的かつ積極的に開始して,臨床的,構造的,機能的寛解のすべてを満たした完全寛解を速やかに導入することである.さらに,薬物療法の効果を最大限に発揮させ,生涯にわたって障害を来さないためには,早期からの患者教育とリハによる関節保護をチーム医療で行う必要がある.本稿では,高い生活の質(quality of life:QOL)をめざした生物学的製剤時代のRA治療について概略する.

お知らせ

藤田リハADL講習会(FIMを中心に)応用コース/第13回日本リハビリテーション心理研究会/アスリートケア2012年度研修会/2012年度静岡呼吸リハビリテーション研修会/第34回臨床歩行分析研究会定例会/行動発達研究会第11回研修会

ページ範囲:P.797 - P.853

藤田リハADL講習会(FIMを中心に)応用コース

日 時:2012年10月6日(土)13:00~16:30(予定)

会 場:藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科棟(愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98)

書評

―山岸茂則(編)―「臨床実践 動きのとらえかた―何をみるのか その思考と試行」

著者: 加藤浩

ページ範囲:P.819 - P.819

 編者の「山岸茂則先生」と言えば,昨年,同社から“実践MOOK・理学療法プラクティス”シリーズの『運動連鎖~リンクする身体』をゲスト編集され,その内容は臨床現場で活躍中の臨床家に様々な新しい視座を与え好評を博している.その続編となるのが,今回の『臨床実践 動きのとらえかた』である.“実践MOOK”では運動器疾患,スポーツ障害,神経系疾患,呼吸器疾患,後期高齢者,小児発達障害など臨床でよく経験する主要な疾患に対する多関節運動連鎖の視点からの実践的評価と治療内容が主に紹介されている.それに対して本書では,動作分析の考え方や分析の視点を基本動作である「寝返り」「起き上がり」「立ち上がり」,そして「歩行」などを例に,詳細かつ丁寧に解説されている.つまり“実践MOOK”が応用編とすれば,本書は基礎編の位置付けであろう.

 なぜ今,あえて基礎なのか? 小生の頭には,ふと,むのたけじ氏の有名な詩(詩集たいまつⅠ)「より遠くへ跳ぼうとするものは,より長く助走距離を取る」が浮かんだ.基礎の土台なくして実践的な治療評価,さらには治療技術をどれだけ積み上げようとしても,所詮,それは成書の模倣であり,成書の技術を超えることはできない.読者諸氏が,そこからさらに創造的で新しい理学療法を展開するためには,しっかりと基礎から掘り下げ,臨床実践につなげるプロセスが必要である.本書を読み進むうちに,そのような編者の強い信念と熱い思いが伝わってきた.

―森岡 周,松尾 篤(編)―「イメージの科学」

著者: 伊藤克浩

ページ範囲:P.853 - P.853

 私は日ごろ臨床で中枢神経疾患のリハビリテーションに従事していますが,やはり整形外科疾患と違って中枢神経疾患のリハビリテーションにおいては感覚障害や知覚障害,そして身体図式の欠如やボディーイメージの低下が運動機能やADL(activities of daily living)障害に大きく関わっていることを実感します.ところが学校教育や症候学の著書では依然として中枢神経疾患の病態を運動出力の問題として説明されている部分が多く,ADLの障害も多くの部分が麻痺した身体が「動かないこと」に焦点をあてて説明されています.しかしながら中枢神経疾患の問題,そして神経リハビリテーションの難しさは脳に伝わるべき情報がきちんと伝わらないこと,そして伝わったとしても的確に処理されないことにあるとも言えます.すなわち損傷脳者の運動行為を建築に例えると,「土地を見て状況を把握し,的確な地図・設計図を書くことが重要なのに,不十分な測量と,デタラメな地図・設計図を基に,のこぎりだけを使って家を建てようとしている」と表現できるかもしれません.のこぎりだけでは家は建ちませんので道具(身体や姿勢制御機構)を揃えることも重要ですが,地図・設計図が間違っていると,基礎さえ打つことができません.本書はこの地図・設計図を正しく書く部分,すなわち「イメージ(脳の情報処理やイメージマップ)」に関する世界的な研究成果をはじめ,治療のヒントとなる神経基盤についてわかりやすく解説された臨床応用に役立つ本です.

 一般的な臨床現場で悩ましいところはこの地図・設計図(脳の情報処理やイメージマップ)が外から見えないことですが,本書ではfMRI(機能的磁気共鳴画像/functional magnetic resonance imaging)等の最新イメージ機器を用いてその脳の情報処理やイメージマップの最新研究を紹介し,そして左半側身体失認の神経学的背景など,普段臨床で私たちが困っている現象・症状の原因についても科学的根拠に基づいて解説してくれています.また運動イメージに関する最新のリハビリテーションも多数紹介されています.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.856 - P.856

文献抄録

ページ範囲:P.864 - P.865

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.868 - P.868

 本年2月18日,天皇陛下が冠動脈バイパス手術を受けられました.手術は無事終了し,手術後の回復も順調でほぼ予定通りの手術後15日目の3月4日に退院されました.私も国民の一人として手術が無事終わられたことに心から安堵し,予定通り退院されたことに心から嬉しく思いました.手術後の医師団の会見では術後早期からリハビリテーションを行うことが強調され,「心臓病でもリハビリをするのか」と驚かれた一般市民も少なくなかったと思います.また,全国の理学療法士も,陛下が身をもって心臓外科手術後のリハビリテーションの重要性をお示しになったことに感謝し,心臓リハビリテーション分野での国民からの期待を感じたことも多かったことと思います.天皇陛下は1999年のWCPT学会横浜大会の開会式に出席され,「理学療法が今後とも急速な医学の進歩の成果を取り入れながら,人々の生活の質を向上させるためにさらに貢献していくよう願っております」とのお言葉を頂戴しています.さらなる回復をご祈念申し上げたいと存じます.

 さて,今回の特集は「心疾患に対する理学療法の新たな展開」です.今秋に更新される予定の新しいガイドラインの使用法についてガイドライン班長の野原隆司先生が理学療法士への檄文とともに解説しています.エンドユーザーの理学療法士はガイドライン(治療指針)の本質を読み解き正確に使用する責務があります.和温療法は物理療法の一つの温熱療法ですが,今では「Waon Therapy」と呼ばれ,患者の予後にも影響するとして,世界中から注目されています.補助人工心臓の進歩も著しく,これからは人工心臓を植え込んで自宅へ退院する患者も増えてくることと思います.心臓外科手術や周術期管理の進歩はめざましく,その進歩の中で新しい理学療法士の役割を確立しなければなりません.早期離床は腸管運動を促通しないことも報告されており,もはやただ早く起こせばいいという時代ではありません.電気刺激療法にも新たな可能性が見えてきました.病院の機能分化と強化,在宅医療体制の強化の社会的流れの中で,心疾患を在宅で診ることも必ず多くなってきます.一方で,心臓リハビリテーションは未だに理学療法士の中ではマイナーで,先輩方が「背中」で示すどころか,拒絶することもあり,急性期病院の中で未だに市民権を得ているとは言えません.陛下が身をもって心臓リハビリテーションの重要性を示された今こそが,理学療法士が心臓リハビリテーション分野で活躍を広げられる絶好のチャンスであることを先輩理学療法士は自覚すべきです.

理学療法ポケットシート

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読者の声募集

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基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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