理学療法ジャーナル47巻10号

2013年10月発行

講座 産業衛生・1【新連載】

産業衛生領域での腰痛問題―福祉・医療職場での新たな腰痛予防対策

著者： 垰田和史¹

所属機関： ¹滋賀医科大学社会医学講座衛生学部門

ページ範囲：P.929 - P.936

はじめに

　腰痛は多くの労働者が罹患する職業性疾患であり，患者の苦痛だけでなく休業等に伴う社会経済的損失も大きいため，その予防が先進国に共通する課題となっている．わが国では近年，高齢者介護施設を中心とする保健衛生業での腰痛の増加が深刻な問題となっており，2013年6月，厚生労働省は19年ぶりに「職場における腰痛予防対策指針」（以下，指針）の全面的な改訂を行った．旧「指針」では，「重症心身障害児施設等における介護作業」と限定されていた職場・作業が，新「指針」では「福祉・医療等における介護・看護作業」全般に適用が拡大され，介護・看護作業で「原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」が指示された．

　「指針」で「福祉・医療等」とされた職場には，高齢者福祉施設や病院・診療所だけでなく，保育所や特別支援学校，障害児者施設が含まれる．対象となる職種には介護系職種だけでなく看護師，保育士，教員などが該当する．「指針」で新たに対象となった業種・職種は，理学療法士とかかわりの深い領域でもある．本稿では，産業衛生領域での腰痛問題および「指針」で指示された腰痛予防対策を概説し，福祉・医療職場における腰痛予防活動に関連して理学療法士に期待するところを記す．

参考文献

1）Charney W, et al：Back injury among healthcare workers, causes, solution, and impacts. Lewis publishers, Washington, D. C, 2003

2）中央労働災害防止協会：労働衛生のしおり，平成24年度，中央労働災害防止協会，2012

3）英国腰痛予防協会（編），加藤光宝（監訳）：刷新してほしい患者移動の技術―患者・看護師・医療者を身体損傷や医療事故から守るために，日本看護協会出版会，2003

4）Engkvist i-L：Nurses' expectations, experiences and attitudes towards the intervention of a‘No lifting policy’. J Occup Health 49：294-304, 2007

5）ISO：ISO/TR 12296：2012 Ergonomics-Manual handling of people in the healthcare sector.　http://www.iso.org/iso/home/store/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber＝51310（2013年7月31日閲覧）

6）北原照代：業務で起こる腰痛の発生状況とその要因，安全と健康14：647-650，2013

7）小島ブンゴード孝子：つらい介護からやさしい介護へ―介護の仕事を長く続けていくために，ワールドプランニング，2006

8）厚生労働省：職場における腰痛予防対策指針及び解説．http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/youtsuushishin.html（2013年7月31日閲覧）

9）松平　浩：新しい腰痛対策―Q & A 21非特異的腰痛のニューコンセプトと職域での予防法，産業医学振興財団，2012

10）National Research Council and Institute of Medicine：Musculoskeletal disorders and the workplace, National Academy Press, Washington, D. C, 2001