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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル47巻11号

2013年11月発行

雑誌目次

特集 呼吸理学療法の進歩

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.953 - P.953

 医学・医療は日進月歩であり,特に呼吸ケア領域では評価技術や人工呼吸器をはじめとした治療技術の革新はめざましいものがある.一方で,対象患者はより高齢化し,重複した障害を持つ患者も増えてきている.このようななかで,呼吸理学療法も医療の進歩に合わせた役割や治療技術の変化が認められる.本特集は,呼吸器医療の最近の変化や進歩を概観しながら,呼吸器ケア,リハビリテーションの過去10年を振り返り,理学療法士の存在意味を確認しつつ呼吸理学療法の進歩をまとめることで,時代のニーズに合った次世代の呼吸理学療法の役割を若い世代に伝達することが目的である.

呼吸理学療法の過去・現在・未来

著者: 千住秀明 ,   髻谷満 ,   神津玲 ,   田中貴子

ページ範囲:P.955 - P.962

呼吸理学療法の過去

 わが国の理学療法士の養成は,1963年国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院の開校から始まった.2年後の1965年には理学療法士及び作業療法士法が公布・施行され,翌1966年に国家資格としての理学療法士が誕生した.

 一方で呼吸理学療法は,理学療法士が誕生する以前から結核の外科療法の後療法として国立療養所を中心に行われていた(図1).1962年には長沢ら1)が『肺機能療法―lung physiotherapyの理論と実際』を出版し,1965年には,古賀ら2)によって肺理学療法について「日本胸部臨床」誌のなかでいち早く報告されている.それにもかかわらず,なぜ呼吸理学療法が日本の医療界で普及・発展しなかったのか,疑問がもたれるところである.その理由は,① 1950年代は死亡原因の第1位が結核から脳血管疾患へ推移するダイナミックな移行期であったこと,② 肺結核は空気感染が起こり得るため,排菌のある結核患者は感染を予防するために法律によって結核病棟への入院が義務づけられ社会から隔離されていたこと,③ 国民の関心が今日のように患者の社会復帰に向けられていなかったことなどが背景にあると思われる.

COPD患者に対する呼吸理学療法の進歩

著者: 高橋仁美

ページ範囲:P.963 - P.972

はじめに

 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は,厚生労働省が進める国民の健康増進計画「健康日本21(第2次)」で,がんや循環器疾患,糖尿病と並ぶ生活習慣病として取り組む疾患に位置づけられた.COPD患者はわが国で少なくとも530万人以上の潜在患者がいると推定され,この疾患に対する有効で早急な対策が必要とされている1).COPDに対する呼吸リハビリテーションや呼吸理学療法は,この10年間で多くの科学的エビデンスが集積され,有効な治療として認識されてきている.

 本稿では,COPD患者に対する呼吸理学療法の過去10年間の変化や進歩をまとめ,COPD患者に対する呼吸理学療法の最前線と今後予想される展開について解説する.

神経筋疾患患者に対する呼吸理学療法の進歩

著者: 三浦利彦 ,   石川悠加

ページ範囲:P.973 - P.978

神経筋疾患の呼吸ケアに関する国際的ガイドラインの動向

 2004年に米国胸部医学会(American Thoracic Society:ATS)から「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)の呼吸ケアのコンセンサス・ステートメント」1),2007年には米国胸部医師学会(American College of Chest Physicians:ACCP)による「DMDの麻酔・鎮静における呼吸とその他のケアに関するコンセンサス・ステートメント」2)が発表された.これらを基盤として,2009年には米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が作成を推進した「DMDのケアの国際コンセンサス・ガイドライン」3,4)が公表され,各国語への翻訳が進められた.これはTREAT-NMD(欧米の神経筋疾患患者会)のホームページからダウンロードができる5)

 神経筋疾患のモデル疾患としてDMDが扱われ,他の疾患でも応用が可能であるとされていたが,その後,脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)6),先天性筋ジストロフィー7),先天性ミオパチー8)などDMD以外の神経筋疾患に関する国際ガイドラインも相次いで公表され,2012年には英国胸部疾患学会(British Thoracic Society:BTS)からも「筋力低下のある小児の呼吸マネジメントのガイドライン」9)が作成された.筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)に関する呼吸ケアの総説も発表されている10,11)

人工呼吸器の進歩と呼吸理学療法

著者: 鵜澤吉宏

ページ範囲:P.979 - P.986

はじめに

 図1は当院で1990年代後半から2000年ごろまで,約10~15年前に使用していた人工呼吸器と現在使用している人工呼吸器を示している.同じメーカーの新旧機種であるが,見かけだけでなく性能も変わってきている.

 人工呼吸器が使われ始めたころ,対象患者はポリオなど重度の換気不全であり自発呼吸がない,もしくは減弱している患者であった.そのためガスを送り込む機能が主であった.その後,人工呼吸器を用いる病態が拡大し自発呼吸がある状態でも使われるようになり,人工呼吸器が送るガスと患者の自発呼吸のタイミングが合うことが必要とされるようになった.

 また,人工呼吸器の設定はガス交換の改善を目的に使用されるが,動脈血酸素分圧(PaO2)や二酸化炭素分圧(PaCO2)を正常値に近づけるために1回換気量を増やす方法がとられていた.しかし,この設定では人工呼吸器による肺損傷(ventilator associate lung injury:VALI)が問題となり1),設定方法により生命予後に差が出ると報告された2).このことから,現在では人工呼吸器を設定する際には肺保護戦略と言われる治療法が用いられるようになった3,4).これは1回換気量や呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure:PEEP)を適度に調節することで肺の過膨張や換気ごとに繰り返される肺傷害を避け,肺の保護を目的として行われる設定方法である.具体的には,① 1回換気量を大きくしない(標準体重1kgあたり6~8mL程度を目安にする),② 肺胞圧とみなされる吸気プラトー圧を30cmH2O以下にする,③ PaCO2が増加している場合でも高炭酸ガス血症を容認し, 1回換気量をむやみに増加させない,④ PEEPは呼気での肺胞虚脱を防ぐために設定する,⑤ 自発換気を温存させる,などが挙げられており,死亡率の低下などが報告されている4)

 このように,人工呼吸器とその使用については対象疾患の拡大や治療指針の転換,安全性の強化などに伴い進歩してきている.本稿では10~15年前の人工呼吸器(以前の人工呼吸器)と,現在主に使用されている人工呼吸器(現在の人工呼吸器)とを比較しながらその変遷を述べていく.

ICUにおける急性期呼吸理学療法の進歩

著者: 嶋先晃

ページ範囲:P.987 - P.996

はじめに

 Stillerは2000年にICUにおける呼吸理学療法に関するレビュー1)を,2013年にはearly mobilizationに関する最新のレビュー2)を発表している.前者では,呼吸理学療法の適応に明確な根拠があるものとして,急性の肺葉性無気肺,下側肺障害,一側性の肺病変を挙げており,その他の病態では明確な根拠が乏しいと結論づけている.2000年前後では体位管理や気道クリアランスなどの呼吸(胸部)理学療法が注目を集めており,重症患者に早期離床が行われてこなかったわけではないが,現在ほど重要性が強調されていなかった印象がある.2013年のレビューでは,early mobilizationの効果として,身体能力の改善,ICU(intensive care unit)滞在期間・入院期間の短縮が挙げられている.表13)は最近の報告に基づいたearly mobilizationの利点を集約したものである.生命予後の改善には至っていないものの,期待される効果は大きく,近年の集中治療分野での関心は高い.

 一方,本邦の2000年ごろの呼吸理学療法の状況を振り返ると,スクイージング4)や呼吸介助手技5)などの排痰手技が広く紹介され,ICUや急性期病棟で理学療法士や看護師を中心に積極的に用いられていった.これがきっかけで,呼吸ケアの分野に興味をもった人も少なくないと思われる.しかし,これらの手技が呼吸障害に万能かのような誤解が一部で生じた可能性も否めない6,7).2005年前後にはこれらの手技に対し,用語の混乱や科学的根拠の不足を指摘する声や懐疑的な論調もあり8,9),このブームに似た状況は沈静化へと向かう.すべてに万能な手技があるわけもなく,情報発信の教訓として,メリットばかりを強調するのでなく,① 適応と限界や中止基準の明確化,② 評価とアセスメントの重要性,③ 他の有効な手段の検討,④ 一定の技術力がない場合は行わない,など注意点やデメリットに関しても十分な説明が必要と思われる.今後,他のアプローチの普及の際には留意しておきたい.

 制度面の変化では,2010年にリハビリテーションスタッフと臨床工学技士に対して喀痰吸引が認められた意義は大きい.これには日本理学療法士協会の内部障害研究班の厚生労働省への働きかけや2009年の厚生労働省「チーム医療の推進に関する検討会」の発足が大きく影響した.同じく2010年度診療報酬改定で呼吸ケアチーム加算が算定可能となり,呼吸ケアチームの活動が全国的に普及したことも,この分野のチーム医療を加速させる転換点となったと言えよう.

 急性期呼吸理学療法におけるここ10年の経過では,大きく変化した点,今も変わらない部分があるが,本稿では急性期呼吸理学療法および早期離床の変遷,最近のトピックスや基本コンセプトについて解説し,今後の課題と展望についても考えてみたい.

とびら

親族と患者

著者: 舟見敬成

ページ範囲:P.951 - P.951

 私の妻の近親者(以下,Aさん)が,胸部大動脈瘤の切迫破裂で失神発作を起こし,緊急で当院に入院治療となった.Aさんは80歳台半ばで,要介護1の夫との二人暮らし.2年ほど前から指摘されていた動脈瘤は,上行大動脈から弓部大動脈にかけて広い範囲に認められ,今回破裂した場所は70mmを超えていた.入院時のCTでは,血管外に出血を確認でき,非常に危険な状態であった.主治医からは,本人および家族に手術か保存治療かの選択を迫られた.そして,Aさんは,「これ以上長くない」,「手術をしたら,寝たきりになる」,「家族や親戚に迷惑をかけたくない」,「家に帰れなくなくなるのではないか」などの理由から保存治療を選んだ.

 ICUにて厳格な降圧治療を受け,収縮期血圧が100mmHg以下でコントロールされたのち,入院3日目に心大血管リハビリテーションの処方となった.私は,Aさんのことをよく知っている.だから,かかわることに際して個人的な感情が入ることを恐れたが,一方で,こんな想いもあった.それは,私の近親者のほとんどは,職場から300kmも離れた新潟県の田舎にいる.万が一,私の近親者の誰かがAさんと同じような病気になったとしても,献身的にかかわることができない.だとしたら,自分の近親者に対するのと同じ気持ちでAさんを担当してみよう,そう思った.

症例報告

約20年経過した左片麻痺患者の内反尖足変形に対する術後理学療法

著者: 齊藤貴文 ,   村田和優 ,   下川晋司 ,   浮橋明洋 ,   岩永賢士 ,   古賀崇正

ページ範囲:P.1001 - P.1005

要旨:本症例は,約20年前にくも膜下出血に伴う左片麻痺と診断された40歳台後半の女性である.内反尖足変形のため,反張膝および膝の痛みが強く,歩行障害を呈していたことから当院にてアキレス腱・後脛骨筋腱延長術および前脛骨筋腱移行術を行い,理学療法が開始されることとなった.術後1年の経過は良好で,歩行速度は向上し,歩容も対称性のある歩行となった.また,短下肢装具装着時でも未装着時でもそれらの差は少なかった.階段昇降は手すりなしで可能となり,日常生活での動作も実用的なレベルに向上した.本症例を通して,術後に機能改善を期待できる要因として,① 年齢,② 麻痺の程度,③ 自発性,④ 認知機能および高次脳機能,⑤ 体幹機能,⑥ 麻痺側脚伸展筋力,および ⑦ 術前ADL(activities of daily living)が影響することが考えられた.さらに,理学療法においては運動学習を考慮したアプローチが必要であることが考えられた.

甃のうへ・第8回

自分の原動力を忘れない

著者: 高村裕子

ページ範囲:P.1006 - P.1006

私は22年目の理学療法士で,中学2年生と小学6年生の子どもの母である.夫も理学療法士で,今流行の核家族(実家は愛媛と北海道)で山梨を生活の拠点としている.

 独身時代,さまざまな研修会に参加し,憧れのセラピストに数多く出会った.憧れの諸先輩方は,セラピストとしての専門性を生かし,患者さんを理解し支援している職人魂をもっていた.今の私がセラピストを続けられる原点でもある.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

嚥下造影検査―Videofluorography:VF

著者: 瀬田拓

ページ範囲:P.1007 - P.1007

●嚥下造影とは

 嚥下造影(videofluorography:VF)とは,摂食・嚥下障害の疑われる者を対象に,X線透視下に飲食物を摂食させ,食物の通過状態や,摂食に関連する構造物の形態や動きを観察するものである.検査の名称は必ずしも統一されてはいないが,日本では「嚥下造影検査」,略語は「VF」が最も使われている.

医療器具を知る

酸素マスク

著者: 柳英利

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 酸素の供給が不十分となり細胞のエネルギー代謝が障害された状態を低酸素症と言う.低酸素症に対し,吸入気の酸素濃度を高めて適量の酸素を投与する治療法が酸素療法である1).酸素療法の絶対的適応は,arterial oxygen pressure(PaO2)≦30mmHg,相対的適応はPaO2≦60mmHgである.

 中濃度(簡易)酸素マスク(図a)は,マスク内に貯留した呼気ガスを再呼吸しないように酸素流量は5L/分以上とするため,吸入酸素濃度は40%以上となる.

学会印象記

―第50回 日本リハビリテーション医学会学術集会―こころと科学の調和―リハ医学が築いてきたもの

著者: 網本和

ページ範囲:P.1008 - P.1009

多彩なプログラム企画

 小雨交じりのあいにくの天候のなか,記念すべき第50回日本リハビリテーション医学会学術集会が6月13~15日の3日間,東京都・有楽町の東京国際フォーラムにて開催された.大会テーマには「こころと科学の調和―リハ医学が築いてきたもの」が掲げられ,学術集会会長は昭和大学医学部リハビリテーション医学講座の水間正澄教授である.

 学術集会のプログラムは,50周年記念企画シンポジウムとして「アジア・リハ医との交流」,「関連専門職シンポジウム―未来のリハ医学会への期待」が設けられ,また50周年記念講演として,韓国のTai Ryoon Han先生がアジアにおける日本の役割を,千野直一先生が物理医学とiPS細胞を,米国のWalter R. Frontera先生がリハビリテーション医学における研究についてそれぞれ講演された.さらに3つの国際シンポジウム,内部障害,運動器,地域包括ケアに関するシンポジウム,外来診療の在り方,超急性期リハビリテーション,転倒予防に関する3つのパネルディスカッションが開催され,16の教育講演が提供されていた.

―第47回 日本作業療法学会―地域に暮らす―生活を支える作業療法

著者: 西村敦

ページ範囲:P.1012 - P.1013

 1966年理学療法士・作業療法士国家試験が日本で初めて実施されて以降10数年は養成機関が少なく,社会で活躍する理学療法士,作業療法士も少ないため,職業としての社会の認識はほとんどなかった.理学療法に比べて,作業療法は今までの治療の概念をはるかに超えていたために,医師をはじめ医療従事者でさえ正しく認識していなかった.そのようなこともあり,学会や研修会で「作業療法とは何か」といった趣旨のテーマが頻繁に取り上げられていた.誕生から共に歩んできた理学療法士として,第47回日本作業療法学会(学会長=長辻永喜・藍野大学教授)に参加する機会を得たので,「作業療法士の今後」の一端をみせていただければとの想いで学会に参加したので報告する.

 2013年6月28~30日の3日間,大阪国際会議場において「地域に暮らす―生活を支える作業療法」をテーマに全国の作業療法士約5,300名が参加し,学生を含む会員外参加者1,200名あまりを合わせると,総勢6,500名(第47回日本作業療法学会組織委員会より)の盛大な学会となった.開会式,表彰式などのセレモニーを終えるとすぐにメインホールで学会長講演「民のまち大阪―リハビリテーションのあゆみ」が始まり,他の9会場でも口述発表やポスター発表の一般演題が同時に開始され,一気に学会らしい活気が呈されてきた.

入門講座 食する・3

「食する」介助の実際

著者: 甲田宗嗣 ,   柏田孝志 ,   吉田光由 ,   矢田かおり ,   片瀬由佳 ,   川端直子

ページ範囲:P.1015 - P.1021

はじめに

 食事は,日常生活のなかで最も楽しみな行為の一つであり,自分のペースで苦なく食べられることにより,その楽しみは増す.一方で,脳血管疾患や廃用症候群,加齢などによる摂食・嚥下機能の低下により,食事に時間や労力を要することで楽しみが半減することは少なくない.さらには,嚥下障害による誤嚥性肺炎の発症や口腔ケアの不足による口腔内の不衛生などが,医学的リスクに直結することもある.

 われわれ理学療法士が日々かかわる対象者のなかには,食する行為が障害されていたり,労力や苦痛を感じたりしている者も存在するが,状況を十分に把握できていないこともある.そこで本稿では,食する介助について,理学療法士として理解しておきたい基本事項を概説する.

講座 産業衛生・2

産業衛生領域における健診・保健指導の取り組み―人間の一生を守る健康診断・保健指導

著者: 荒木田美香子

ページ範囲:P.1023 - P.1031

 産業保健は,公衆衛生のなかでも働く人の健康を維持・向上することを目的として活動している.産業保健が関与する年代は主に15~64歳の生産年齢人口である.この年代は約8,017万5,000人,日本の人口の62.9%を占めている.その具体的な方法の一つに健康診断や保健指導がある.

 本稿では健康を守る仕組みである健康診断や保健指導について,人のライフステージに沿ってその目的や具体的役割を概観しながら,産業保健における理学療法士の関与や寄与を考えてみたい.

臨床実習サブノート 理学療法をもっと深めよう・8

脳血管疾患患者の生活を理解する

著者: 小林量作

ページ範囲:P.1033 - P.1041

はじめに

 障害者の生活をイメージするとは,どういうことであろうか.学生に「担当患者の自宅での生活はどうなるのか」と質問しても,多くの学生は将来の生活をイメージできない.生活という用語があまりにも漠然としており,指導者の考える生活の範囲と学生の考える生活の範囲は異なっている可能性がある.そのことは,すでに用語の理解というスタート位置でギャップが生じていることになる.学生はなぜ高齢障害者の生活をイメージできないのだろうと考えるとき,この生活という用語理解の多様性と,人生経験も浅く臨床未経験の者が,入院入所の生活,退院後の在宅生活をイメージすることは困難と言わざるを得ない.学生は,このような制約の中で生活を漠然とイメージするのではなく,できるだけ客観的な情報に基づいて論理的にイメージする,つまり「推測」する練習が必要になるだろうと考える.

 論理的にイメージするには,常に理学療法の視点から「生活とは」「高齢障害者の生活とは」を考え,生活の「何を測り,評価して」,「何を目標に」,「何を指導するのか」筋道立てて考えるクセをつけておくことが必要である.

お知らせ

スポーツ選手のためのリハビリテーション研究会 2013年度第31回研修会/看護師・コメディカルのためのFIM講習会/臨床応用講習会

ページ範囲:P.978 - P.1041

スポーツ選手のためのリハビリテーション研究会 2013年度第31回研修会

会 期:2013年12月1日(日)9:00~17:10(9:30より受付開始)

会 場:神戸大学医学部会館シスメックスホール

書評

―上杉雅之(監修)―「イラストでわかる小児理学療法」

著者: 崎田正博

ページ範囲:P.999 - P.999

 本書は,大学や養成校での発達障害系理学療法の教科書として企画されており,その特色は3点ある.イラストや写真を多数掲載している点,「先輩からのアドバイス」や「トピックス」等のコラムを多数配置している点,各章末に「確認してみよう!」を配置して国家試験対策を行っている点である.

 内容としては,人間発達(運動発達,上肢・摂食・反射と姿勢反応の発達など)から始まり,脳性麻痺の概略,痙直型脳性麻痺-両麻痺,痙直型脳性麻痺-四肢麻痺,痙直型脳性麻痺-片麻痺,脳性麻痺-アテトーゼ型脳性麻痺,重症心身障害(重度脳性麻痺),小児整形疾患,デュシャンヌ型筋ジストロフィー症,ダウン症候群,低出生体重児・ハイリスク児,発達障害,小児理学療法の特殊性までが14の章に構成されている.

―沖田 実(編)―「関節可動域制限 第2版 病態の理解と治療の考え方」

著者: 平川善之

ページ範囲:P.1043 - P.1043

 関節可動域制限――臨床で最もよく聞く言葉であり難敵な強敵であるが,その詳細を説明できたうえで治療展開に結び付けているだろうか? 恥ずかしい話であるが,この問いに答える自信はない.しかしわれわれはこの難敵に対して,効果的なリハビリテーションアプローチを実施することが求められる.そのためには関節可動域制限が生じるのは何故なのか? という根本的解釈が必要となる.本書にはこのアプローチを実践するために必要な根本的知識が多く備わっている.

 本書は,2008年1月に発刊された『関節可動域制限―病態の理解と治療の考え方』の第2版として2013年5月に出版されたものである.その内容は,第1章では「関節可動域制限の基礎」として関節可動域制限の発生状況と発生要因などその基本的事項を整理したうえで,本書の特色ともなる関節可動域制限の病態を筋収縮に由来するものと拘縮に由来するものに分類し,その違いを説明している.そして第2章では「拘縮の病態と発生メカニズム」として,動物実験の実施方法を示したうえで,皮膚・骨格筋・靱帯・関節包・その他の関節構成体などそれぞれの変化に由来した拘縮の成因について,過去の文献のレビューとともに豊富な自験例を紹介している.そして第3章では「関節可動域制限に対する治療の考え方」としてストレッチングや物理療法および振動刺激を利用した治療効果に関し,これまでの報告や自験例を織り交ぜながら考察を加えている.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1031 - P.1031

文献抄録

ページ範囲:P.1044 - P.1045

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.1048 - P.1048

 WCPT-AWP,ACPT学会は盛会のうちに幕を下ろした.1,057名の参加者のうち471名が日本からの参加であったことから,台湾理学療法士協会から深い感謝の言葉をいただいた.学会で目に付いたのは,日本人若手理学療法士の積極的な学会参加である.日本人の多くは英語を苦手としているためか,これまで経験した理学療法関係の国際学会では参加登録者に比して会場で会う日本人の少なさに興ざめしていたが,親日的で母国語が同じく英語でない台湾での学会ということもあってか,ポスター会場は大変な賑わいであった.

 世界はまさにグローバル化の真っただ中.現在,その必要性を感じようと感じまいと,今後はいやでも世界に目を向ける必要に迫られる.時に日本の独自路線や独特な発展はグローバル企業のビジネスマンや大学の知識人からは「ガラパゴス化」と揶揄される.今回のWCPT-AWP,ACPT学会での光景は,20年後の理学療法にわずかながら期待が感じられるものであった.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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