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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル47巻2号

2013年02月発行

文献概要

特集 心理・精神領域の理学療法

心理・精神領域の理学療法教育

著者: 富樫誠二1

所属機関: 1大阪河﨑リハビリテーション大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科理学療法学専攻

ページ範囲:P.129 - P.135

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はじめに

 「理学療法士及び作業療法士法」では,理学療法士は,身体に障害のある者を対象に理学療法を行うとあるが,身体だけをみてきたわけではない.理学療法士は従来,身体に障害のある患者をこころと身体の両面からとらえ,こころの面においては,心理的対応を行ってきた.理学療法は患者のこころと身体を対象とした治療体系である.

 筆者は臨床に携るなかで,脳卒中片麻痺,脊髄損傷,小脳失調症などの身体障害に対する運動療法と同時に患者への心理的対応を行ってきた1).さらに,それらの疾患に随伴する精神症状を経験した.例えば脳卒中に伴ううつ状態やせん妄,感情失禁,易怒性などである.疾患や障害と向き合うなかで,治療の基本となる患者と治療者関係,やる気などの感情,行動に興味をもって心理学の理論や手法,あるいは行動科学をベースに心理学的理学療法を名づけて取り組んできた2,3)

 しかし,理学療法における心理領域は間口が広く,なかなか焦点を合わせにくい分野である.精神領域については歴史のある精神科作業療法に比してエビデンスを構築する機会も少なく,これからの分野である.振り返ってみると,今まで系統立った心理・精神領域の理学療法教育は行われていないのが現状と言えるだろう.そういった状況のなかであるが,日本理学療法士協会に設立された心理・精神理学療法部門は,世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy:WCPT)のサブグループの一員として一歩を踏み出した.

 そこで,本稿ではまず心理・精神領域について述べ,次に理学療法において心理・精神的対応が求められている場合を概観する.次に,心理・精神領域の理学療法教育において基本的に必ず学ばなければならないことについて説明する.さらに心理・精神領域における理学療法を教育するためのカリキュラムについて述べる.

参考文献

1)富樫誠二:障害受容の困難な脳卒中片麻痺のケースから学んだこと.PTジャーナル29:131-133,1995
2)富樫誠二:心理学的理学療法のすすめ方.PTジャーナル31:294-295,1997
3)富樫誠二:理学療法と感情―私たちは感情をどのようにあつかってきたのでしょうか? PTジャーナル39:68,2005
4)黄野博勝,他:精神科身体合併症―精神科身体合併症医療の特殊性.野村総一郎(監修):精神科身体合併症マニュアル―精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の診療と管理,pp12-14,医学書院,2008
5)桑原達郎,他:精神科身体合併症―精神科身体合併症の対処法,メディカル精神医学の歴史.前掲書4),pp2-10
6)朝田 隆:認知症への非薬物療法―認知症に対する運動療法の効果.老年精神医学雑誌19:1231-1235,2008
7)内海雄思,他:精神科・身体科合併症病棟における認知症高齢者医療の検討.老年精神医学雑誌19:1221-1229,2008
8)富樫誠二:ヒューマン・サービス職における感情労働研究概観―リハビリテーション専門職の感情労働研究の課題を見据えて.大阪河﨑リハビリテーション大学紀要1:33-41,2007
9)森岡壯充,他:身体疾患を扱うリハビリテーション科と精神科の連携.臨床精神医学27:1041-1049,1998
10)速水敏彦:感情的動機づけ理論の展開―やる気の素顔,pp95-123,ナカニシヤ出版,2012
11)丹野義彦:患者をわかる.海保博之,他(編):患者を知るための心理学,pp102-164,福村出版,1987
12)先崎 章:精神医学・心理学的対応リハビリテーション,pp158-162,医歯薬出版,2011
13)姫野昭男:対応困難事例に出会う医療者のためのメンタルヘルスの知識と技術,pp2-10,医学書院,2011
14)遠藤寛子,他:怒りの維持過程―認知および行動の媒介的役割.心理学研究82:505-513,2012
15)高橋雅延:心理学入門コース2認知と感情の心理学,pp1-32,岩波書店,2008
16)森岡壮充:治療の場における精神症状とその対応―リハビリテーション病棟,臨床精神医学講座,pp232-238,中山書店,1998

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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