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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル47巻5号

2013年05月発行

雑誌目次

特集 医療系教育における臨床実習の現状と展望

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.371 - P.371

 医療系教育では,各専門領域のアカデミーの推進とともに,良質な専門職の養成に国民の高い期待が寄せられている.なかでも,臨床(臨地)実習教育の充実による,高い倫理観の涵養と実践能力の基盤を確立することは大きな課題である.

 本特集では,理学療法学に加えて,医学,看護学,薬学における,生涯学習システムを踏まえた臨床実習の位置づけと到達目標,臨床実習指導者の資格(能力)と育成,多彩なキャリアデザインを踏まえた選択型臨床実習の現状,学生の動機づけとメンタルヘルスの対応等について現状と課題を示し,今後の展望を模索する.

理学療法学教育における臨床実習の現状と展望

著者: 髙橋精一郎

ページ範囲:P.373 - P.379

はじめに

 理学療法士養成における卒前教育の根幹は「学内教育」と「臨床実習教育」である.学内教育はカリキュラムに則り,医学・理学療法学の基礎・専門科目を中心に理学療法士に必要な基礎知識や治療技術の習得を行うステージであり,臨床実習は学習で得た知識や技術を実際の医療場面で実行し,知識と実際の結び付けを行うステージである.

 この両ステージは理学療法士としてスタートするための準備段階であり,医療人に育っていくには卒後の自己研鑽が不可欠である.自己研鑽には,それが実施できる環境の整備が必要であり,その範囲や内容も個々のニーズや能力に合わせて選択できるように準備されなければならない.卒後教育の内容については卒前の経験や知識レベルによって,基礎的なものから応用的なものまで,幅広いメニューを揃えることになる.

 特に医療人として不可欠な臨床体験は,卒前では臨床実習に頼るところである.臨床での知識や技術を得るにはそれ相応の時間が必要となる.理学療法士教育が始まった初期の1966年には1,680時間あった実習時間が,1999年のカリキュラム改定では810時間へと半減している(表1)1).時間数や単位数の比率においても1966年は50.9%を占めていたものが,1999年では19.4%と,時間数からみると半減している(図1)2)

 その原因として,国家試験の出題範囲や内容の難度が高くなってきたことへの対応で臨床科目や専門科目の時間を増やさざるを得ないこと,医療の進歩に伴う理学療法へのニーズの増加,加えて医療保険において疾患別診療報酬へと変わったことによる専門領域における疾患別科目の増加も無視できず,これらの影響が臨床実習時間の削減となって現れていると考える.

 臨床家を育てる教育において,臨床を経験する時間の減少こそが重大な問題であるという認識のもとに,本稿では卒前の臨床実習の現状を考察しながら,日本理学療法士協会(以下,協会)が考える理学療法士教育の方向性を提示する.

看護学教育における臨地実習の現状と展望

著者: 山口桂子

ページ範囲:P.380 - P.386

はじめに

 看護学教育における臨地実習は,「講義や学内演習で得たさまざまな知識や技術,態度を統合する場1)」として位置付けられ,「あらゆる健康レベルにある人々への援助場面を通して看護学の本質と可能性への理解を深め,基礎的な看護実践能力を養うこと」1)を目的とした,看護学教育における中心的で重要な学習の方法である.しかし,昨今の著しい少子高齢社会や,めまぐるしい医学の進歩・医療技術の高度化・複雑化,それに伴う医療費の高騰や入院日数の短縮化といった臨床現場の変貌は,看護学生の臨地実習にもさまざまな影響を及ぼしている.また,そればかりではなく,社会全体の生活様式や価値観の多様化,情報化社会を背景とした利用者の権利意識の向上など,臨地実習という学習方法そのものの存在や目的達成を危うくするようなさまざまな状況もみられるようになっている.

 本稿では,このようななかにあっても日々展開されている臨地実習の実際と今後の課題・展望についての私見を述べるなかで,その特性について明らかにしていきたい.なお,実際のカリキュラムにおいては,看護学の専門分野ごとに「臨地実習」科目が設定されているが,今回,総称的な表現で述べることで若干の齟齬が生じる可能性があること,また,今回対象とする実習とは,割合的にも多くを占める,病院等の施設の入院病棟で行われている専門領域別実習を念頭に置きながら述べること,また,筆者が大学に所属していることから,そこでの経験が前提となるであろうことをあらかじめ申し添えておきたい.

医学教育における臨床実習の現状と展望

著者: 北村聖

ページ範囲:P.387 - P.393

はじめに

 医学教育は,大きく基礎医学,社会医学,臨床医学に分けられ,いずれも座学の講義と実習から構成されている.このうち,臨床医学の教育において主に大学病院で行われる臨床実習はいわば臨床教育の花形であり,最も長い期間が設定されている.本稿では,この花形の臨床実習について過去から現在までの簡単に変遷について触れ,主には診療参加型臨床実習について紹介する.さらに,臨床実習の評価のあり方についても論ずる.

薬学教育における臨床実習の現状と展望

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.394 - P.398

6年制薬剤師教育制度への移行に伴う実習教育の変化

 日本の薬学教育は,明治以来100年以上にわたり4年制の学部教育と5年間の博士課程(前期2年と後期3年間)であった.卒業生の進路は広く,薬剤師から製薬企業および大学における薬学研究者,製薬企業における学術情報提供者をカバーしていた.しかし,医療における薬剤師の職能に求められる内容が高度化し,4年制教育のなかでは収まりきらなくなったとの認識から,厚生労働省と文部科学省は法令を改正し2006年度から薬剤師国家試験の受験資格として6年間の教育と長期実習を課すことになった.このため,薬科大学における教育に大きな変化が訪れ,日本のすべての薬科大学は薬剤師国家試験受験資格を得る6年制学科に移行した.

 しかし,日本では明治に薬科大学が開学して以来,100年間にわたり創薬科学の研究者および技術者の養成を指向するアカデミズム重視の教育と,国家試験取得を前提とする専門医療人の実務教育を指向する2つの異なるキャリアパスをめざした教育内容が併存していた.各キャリアパスへの教育比重のかけ方は大学により異なり,国公立大学では主として前者を,私立薬科大学においては主として後者に重点を置いた教育が行われていたのである.また,このような歴史を背景として,2006年以降も多くの国公立大学および一部の私立薬科大学は6年制薬学科を設置するだけでなく,同時に薬剤師国家資格の取得を必ずしも目的としない4年制の学科(生命科学科などの名称が標榜されている)の併設を選択し,現在に至っている.したがって,多くの薬科大学は異なるキャリアパスをめざす学生の教育を同時に実施するなかで臨床実習を行っている.この点が,薬剤師の臨床実習を考える際に他の医療人教育と異なる点である.例えば,医学部医学科では6年制の医師教育のみが実施されており,看護学校あるいは理学療法士養成機関においても同一学部・学科内に教育目標が異なる学生の教育は実施されていないであろう.

臨床実習への期待と要望

1.看護師,理学療法士の立場から

著者: 安藤誠

ページ範囲:P.399 - P.400

はじめに

 私は,4年制大学の看護師養成課程を卒業後,4年制大学の理学療法士養成課程を修了し,現在は訪問看護ステーションで看護師・理学療法士として業務に携わっている.本稿では,私が経験した看護実習と理学療法実習の相違点(表)を振り返りながら,現在の理学療法実習の課題や今後の展望について私見を述べたい.

2.理学療法士養成課程卒業後に医学科に在籍している立場から

著者: 石田瞳

ページ範囲:P.401 - P.402

 私は神戸大学医学部保健学科を卒業後,医学科に編入し現在臨床実習を行っている最中である.本稿では理学療法の臨床実習の課題について,日本の医学教育との違いを踏まえ,述べる.

3.理学療法士と医師養成の学生を経験した立場から

著者: 渡会昌広

ページ範囲:P.403 - P.404

 私は8年間理学療法士として民間病院に勤務していたときに,臨床実習指導者を経験した.何をどのように教えるかは各指導者に大部分が任されていて,手探りで指導項目等を作成していたことを覚えている.その後,医学部に学士編入し,自らが再び臨床実習を受ける立場となった.本稿では,再び学生となった臨床実習の感想と,それを理学療法の臨床実習へ応用できると感じた点について私見を述べたい.

臨床実習について言いたいこと,期待すること

ページ範囲:P.405 - P.415

 本誌では,特集「医療系教育における臨床実習の現状と展望」の企画にあたり,臨床実習の今後のあり方をより多角的な視点で議論するために,「臨床実習について言いたいこと,期待すること」と題した原稿を募集しました.本稿ではその中から12編をご紹介します.

とびら

四十四の瞳へ

著者: 丹野克子

ページ範囲:P.369 - P.369

 壺井栄の『二十四の瞳』は有名作品ですから,読んだという勘違いをしていたのですが,ひょんなことから,ついに昨秋,読みました.若い女先生と学童たちが織りなす心温まる物語と思い込んでいたので,序盤でそれが終わってしまい,焦りました.心温まる物語は,主題へのイントロダクションに過ぎなかったのです.あとに続く,戦前から戦後の時代の人々が受け入れた運命の過酷さや生き抜く強さを,息苦しくなりながら読み終えました.主人公の女先生は,さまざまな人生経験を経て成長していき,その時代に起こった出来事に対する怒りと疑念をもちつつ,子どもたちに対しては,笑顔と涙と,時に配慮ある沈黙の共感をもって受容します.物語には,人々の必死のLife(生命,生活,人生)が描かれていました.

 理学療法士が現場で担当する人々も,必死に生きています.私は,理学療法の臨床と,ケアマネジメントや地域包括ケアのフィールドを経て,4年前に教員になりました.そのような私の現場経験が,高齢者とのかかわりが多かったためもありますが,「生きるって大変なことよぉ」と多くの人からうかがいました.保健・医療・福祉・介護の支援が必要な人々からは,生きづらさを抱えた切迫感からくる緊張度の高さを,いつも感じます.

あんてな

第50回日本リハビリテーション医学会学術集会のおしらせ―こころと科学の調和―リハ医学が築いてきたもの

著者: 川手信行 ,   水間正澄

ページ範囲:P.419 - P.422

 50年前何があったか,すなわち1963年,その年に生まれた人は50歳になりますが,もう少し上の年代でないと記憶にないかもしれません.この年は,東京オリンピックの開催を翌年に控え,現在の2020年東京オリンピックの招致活動以上に,日本全体がオリンピックで盛り上がっていた時代だったと聞きます.日米間のテレビ宇宙中継実験が成功すると同時に米国のケネディ大統領の暗殺が伝わったのもこの年であり,NHKの大河ドラマが開始されたのもこの年でした.このような年に,日本リハビリテーション医学会は誕生しました.日本では,リハビリテーション医療はまだまだ浸透しておらず,大学での講座や講義,リハビリテーション医療を専門とした診療科もない時代でしたから,創立にあたっては幾多の困難や苦労があったか計り知れません.各々の診療科のなかでリハビリテーション医療にご努力されてきた多くの先生方や海外でリハビリテーション医学を学んで帰国してきた先生方がともに集い活動するなかで,日本リハビリテーション医学会は創立したと聞いています.また,その年にはリハビリテーションスタッフの重要な一員である理学療法士,作業療法士育成のための専門学校も設立され,日本のリハビリテーション医療にとってまさしく大きな一歩を踏み出した年であったと言えます.

 それから50年,多くの方々のさまざまな活動やご尽力により,リハビリテーション医学・医療は着実に発展し,わが国に広く定着するようになりました.そして,2013年6月13日(木)~15日(土)の3日間,東京国際フォーラム(図)において,第50回日本リハビリテーション医学会学術集会を開催することになりました.本大会のテーマは,「こころと科学の調和―リハ医学が築いてきたもの」としました.リハビリテーション医学は,他の医学分野,診療科と同様にサイエンスを基盤としています.しかし,それだけではリハビリテーション医療は成立しません.リハビリテーションを担っているすべての人がもつべき「医のこころ」もまた,リハビリテーション医療には必要であると考えています.サイエンス万能の世にあって,忘れてしまいがちな「こころ」,これとサイエンスの調和こそが先達が築いてこられたリハビリテーション医療であり,さらにその伝統の上に力強い歩みを重ねていく第一歩を踏み出す誓いの意味を込めて,このテーマにしました.

ひろば

理学療法士発達論に基づいた教育方法の開発に向けて

著者: 池田耕二

ページ範囲:P.423 - P.423

 近年の理学療法士教育は,養成校における学内教育や学外で行われる臨床実習教育,新人教育,専門分野別における専門教育などに多くの問題を抱えてきた.そのため,学内教育ではさまざまな工夫が実践され,臨床実習教育ではクリニカル・クラーク・シップなどが導入されてきた.また新人教育や生涯教育については,新人教育プログラムや認定・専門理学療法士制度が日本理学療法士協会によって開始されている.このように,理学療法士教育は少しずつ発展をみせているが,ここで改めて理学療法士の成長や発達を考えてみると,それは医学などの知識の獲得や治療技術の向上だけでは説明できないことがわかる.なぜなら,実践の中で育まれる「考え方」や「価値観」,「理学療法哲学」など,内面の変化も理学療法士としての重要な成長や発達の一部だからである.成長と発達は厳密には区別できないが,おおむね,成長は時間に比例した変化として,発達は時間に比例しない変化として筆者はとらえている.そこで筆者は,内面の変化を理学療法士の発達と位置付けることにしたい.では,内面はどのようにして育まれるのだろうか? おそらくそれは,患者との深いかかわりや熟練医療スタッフなどからの指導,施設や地域文化との触れ合いなどによって育まれるものと推察される.そして,育まれた内面はやがて理学療法士の視野を広げ,洞察力を高め,理学療法に対する新しい気づきや価値観を創出させることになる.さらには理学療法士の行動をも変化させ,新しい技術などを生み出すことになると考えられる.このように,理学療法の発展には,理学療法士の発達が必要不可欠と言える.

 しかし,近年急速に変化する医療現場では,入院期間の短縮などによって患者と深くかかわる機会は少なくなっている.さらには熟練理学療法士の不足や業務の多忙さなども重なって,実際のところ理学療法士には内面を育む時間が少なくなっている.そのため,例えば「今後,理学療法はどう発展すべきか?」などといった議論に対しては,「今後,理学療法はどうなるだろう?」と受け身でとらえることが多くなり,自らが積極的に「このようにすべきだ」と主張することが少なくなっている.こうした状況を放置しておくと,理学療法士は新たな気づきや価値観を創出しなくなり,理学療法の発展は停滞してしまう.したがって,現場には内面を育む教育が必要と考えられる.

甃のうへ・第2回

これからを,自信をもって楽しみたい

著者: 峰悠子

ページ範囲:P.424 - P.424

 このままでいいのかな…….自分の仕事や人生に対するこんな漠然とした思いを,社会人の方は誰でも一度や二度は抱えたことがあるのではないだろうか.私もこういった思いにとらわれることが,これまで幾度もあった.

 私は理学療法士として臨床を5年,事務職を4年経験した.今も学ぶことが日々たくさんあるが,自分を成長させる糧として,周りの方の助けをいただきながら充実した日々を過ごすことができている.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

粗大運動能力尺度(gross motor function measure:GMFM)

著者: 濱岸利夫

ページ範囲:P.425 - P.425

 粗大運動能力尺度(gross motor function measure:GMFM)は,1988年にRusselらにより脳性麻痺(cerebral palsy:CP)児の運動機能レベルを正常な発達基準と比較するための評価として考案・開発された.その後,欧米においてCP児を評価する際には一般的に使用されるようになった.

 2000年,本尺度は近藤らにより日本に導入され,『GMFM粗大運動能力尺度―脳性麻痺児のための評価的尺度』が出版された1).導入前,子どもの理学療法評価で使用されていた運動年齢検査(motor age test:MAT)では,動作が「可能」あるいは「不可能」でしか表記できなかった.導入後はCP児の粗大運動機能を量的・質的に評価できるようになり,運動機能レベルや時間的変化を客観的に検出可能となった.評価尺度は,5歳児が可能な88項目の運動課題達成度を観察・判定する.88項目はA:臥位と寝返り(17項目),B:座位(20項目),C:四つ這いと膝立ち(14項目),D:立位(13項目),E:歩行・走行とジャンプ(24項目)の5領域に分類.採点は各項目ともに0(=まったくできない),1(=少しだけできる),2(=部分的にできる),3(=完全にできる)の4段階のLikert Scaleを用いて行い,総合点を算出する.

医療器具を知る

経腸栄養2:胃瘻・食道瘻

著者: 笹沼直樹

ページ範囲:P.428 - P.428

●基本的な構成(図)

 胃瘻(食道瘻)とは胃壁(食道壁)と腹壁(胸壁)を貫いた瘻孔のことを指す.その瘻孔からチューブを挿入し胃内腔(食道内腔)に到達させ,チューブを経由した栄養摂取を行う.胃瘻の造設にはPEG(percutaneous endoscopic gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)が用いられ,食道瘻の造設にはPTEG(percutaneous trans-esophageal gastro-tubing:経皮経食道胃管挿入術)が用いられる.PTEGは出血傾向が強い場合,胃全摘出術後,多量腹水の症例などに適用される.PEGは内視鏡を用いて胃壁と腹壁を癒着させ,胃に瘻孔を作る手技である.

新人理学療法士へのメッセージ

臨床と研究と教育と

著者: 田上未来

ページ範囲:P.426 - P.427

 今春,国家試験に合格された新人理学療法士の皆さん,おめでとうございます.理学療法士養成校入学時に抱いた理学療法士への夢が現実のものとなり,約1か月が経過したころでしょうか.志に燃え充実した毎日を過ごされている方,わからないことや忙しさに追われ,既に自信を失いつつある方など,さまざまだと思います.これからの長い療法士生活を考えると,スタート地点に立ったばかり,どうか焦らず毎日ただひたすら上司や先輩の後ろ姿をみて,とにかく自分なりに毎日頑張ったと言える毎日を過ごしてください.

 今回,新人理学療法士へのメッセージという原稿依頼をいただき,何を書こうかと随分悩んだのですが,私の療法士生活を振り返り,そのなかで学んだこと,経験したこと,感じたことを書きたいと思います.

入門講座 歩行のバイオメカニクス・1【新連載】

正常歩行の運動学とバイオメカニクス

著者: 山﨑敦

ページ範囲:P.429 - P.437

はじめに

 日本語の「歩行」を意味する英語には,ambulation,walk,gaitといったものがある.英英辞典をみると,ambulationは「to move from place to place」,walkは「to move along on foot」と記されている.この観点から,ambulationは両足を使って体を移動させること(介助となる何を使用してもよい),walkは「介助物を使用せず両足のみを使用して歩くこと」と定義される1).一方のgaitの意味は,「a manner of walking or moving on foot」であり,歩行の方法を示している.本稿では,正常歩行(normal gait)における運動学的基礎知識を整理したうえで,そのバイオメカニクスの概要を記す.

講座 理学療法診療ガイドライン・2

腰椎椎間板ヘルニアの理学療法診療ガイドライン

著者: 伊藤俊一 ,   久保田健太 ,   菊本東陽

ページ範囲:P.439 - P.444

はじめに

 腰痛に関しては,1994年に米国で最初のガイドラインが出されてから,現在14か国17のガイドラインが示されている.特に本邦では2001年に「科学的根拠(Evidence Based Medicine:EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究」1)が発表され,2011年に「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン(改訂第2版)」2),2012年に新たに「腰痛診療ガイドライン」3)が作成されている.

 この理由には,厚生労働省の国民生活基礎調査有訴受診率(健康保険を使用しての受診者数)で腰痛が男女合わせて10年以上第1位となっているという誇れない結果が続いたことが挙げられる.腰痛を訴える患者数が多く受診する診療科が多岐にわたることを考慮して,診療ガイドラインを作成することによって内科医やプライマリケア医にも腰痛診療を可能にし,腰痛に悩む患者を科学的根拠に基づいて少しでも減少させることが目的とされている2~4)

 今回の理学療法診療ガイドラインでは,腰痛に関する多くの報告の中からまず疫学に関するエビデンスを整理し,その後保存療法と手術療法の比較に関する検討を加え,保存療法に必要な診断および評価に関して吟味した.言うまでもなく,腰痛とは1つの疾患単位ではなく症状の名称である.画像診断により確定できる腰痛は10~20%と言われ,80~90%は非特異的腰痛とされている5)

 本講座では,腰痛の中で特異的疾患の1つである腰椎椎間板ヘルニアに関して,エビデンスに基づき現状での理学療法評価・治療・介入に関して概説する.

臨床実習サブノート 理学療法をもっと深めよう・2

運動器疾患の下肢疼痛を理解する

著者: 永井聡

ページ範囲:P.445 - P.452

疼痛すべてを運動療法では解決できない

 運動器疾患のほとんどに疼痛は合併しており,疼痛発生原因をどのようにとらえ対応するかは理学療法上重要である.運動器疾患の病態は,正常な関節運動からの逸脱に起因することが多く,日常生活でのメカニカルストレスが疼痛の原因となる.したがって,正常な関節運動に近づけることが疼痛寛解につながる.

 しかし,疼痛を訴える患者すべてに運動療法を適応できるものではなく,メカニカルストレスに起因する疼痛なのか,メカニカルストレスとは関係なく自発的な関節破壊や変形(関節リウマチに代表される疾患)による疼痛なのか,原疾患は何かなど,対象と病態を明確にしなければ,当然理学療法の効果も得られにくい.すなわち姿勢の改善などをアウトカムにした運動療法で対応できるものなのか,それとも疼痛に対応する物理療法,あるいは内服や注射,安静・固定などで治療すべきなのか,判断できるようになることが重要である.

理学療法臨床のコツ・36

医師との連携のコツ

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.454 - P.456

はじめに

 今回のテーマは医師と連携するコツである.医師と連携をとりたいのに難しい,と感じている方は多いかもしれない.ではなぜ難しいと感じるのか,何が連携のポイントなのか,考えてみたい.参考になれば幸いである.

症例報告

浅指屈筋腱弓における正中神経障害が疑われた手指の運動時痛を呈した症例の理学療法経験

著者: 猪田茂生 ,   林典雄 ,   佐藤昌良

ページ範囲:P.457 - P.461

要旨:浅指屈筋腱弓における正中神経障害の発生頻度は低いとされており,運動療法の効果を示した報告は見当たらない.今回,上腕骨近位端骨折に対する三角巾固定除去後に,安静時の手指のしびれと把持動作によって出現する耐え難い手指の運動時痛を強く訴えた症例を経験した.理学所見を主体とした評価の結果,浅指屈筋腱弓における正中神経障害が強く疑われ,その原因として,持続的な筋攣縮,外傷後の浮腫の存在,関節運動の欠如に伴う一過性の拘縮が考えられた.周辺組織を弛緩させ,解剖学に沿った神経の伸張と弛緩の反復によって癒着を剝離することにより,症状の軽減が得られると考えた.浅指屈筋のリラクゼーションとストレッチング,正中神経の滑走運動を実施した結果,症状の改善が得られた.解剖学的構造上,筋の攣縮が神経絞扼に関与することが予想される場合,理学所見を中心とした的確な機能評価とともに,適切な運動療法の実施が症状改善に有効と考えられた.

お知らせ

脳卒中予後予測セミナー/第2回日本訪問リハビリテーション協会学術大会in松本/第40回日本肩関節学会/“CI療法”講習会/第7回兵庫リウマチチーム医療研究会/第21回日本物理療法学会学術大会

ページ範囲:P.400 - P.461

脳卒中予後予測セミナー―先を見越したリハビリテーションを実践するために

 従来の有用な脳卒中予後予測法から,最新の予後予測法の研究まで詳しく紹介します.さらに症例検討から具体的な使用方法を学びます.これらを通じて臨床にすぐ役立つ予後予測能力を身につけていただくことを目指します.

日 時:2013年6月16日(日) 9:00~13:00(予定)

会 場:日本交通協会大会議室(東京都千代田区丸の内3丁目4-1 新国際ビル9階)

書評

―潮見泰藏(編)―「ビジュアル実践リハ 脳・神経系リハビリテーション―カラー写真でわかるリハの根拠と手技のコツ」

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.417 - P.417

 本書をひと言で紹介すると,脳・神経系リハビリテーションの根拠と手技のポイントをカラー写真でわかりやすくまとめた書籍である.近年,カラー印刷された書籍が多くなってきたが,これほどまでカラー写真を多用したものはない.カラー写真が多いのは無条件にうれしいものである.視覚的注意を引きつけてくれる.

 本書は総論に始まり,第1章「脳疾患」,第2章「神経筋疾患」,第3章「小児神経疾患」,第4章「脊髄疾患」,第5章「末梢神経」,第6章「その他の神経疾患」,計365ページで構成されている.

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次号予告

ページ範囲:P.386 - P.386

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.398 - P.398

文献抄録

ページ範囲:P.462 - P.463

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.466 - P.466

 大学教員は,教育者であるのか研究者であるのか?

 冒頭から個人的な話で恐縮であるが,私自身が病院に勤務していたころ,他領域を含めた先輩や恩師が,上記のことを折に触れ語り合っていたことを記憶している.その時には,教員なのだから教育者以外の何者であるのだろうかと思って話をお聞きしていた.自身が非常勤を含めた教員の立場になると,先輩方の話の真意がわかり始めてきた.それは,業務配分の問題であったり,自身の生きざまを踏まえた哲学的な次元であったりと多要因にわたっている.また,私立大学,研究所,いわゆる地域と大都市の国立大学に勤務する中で,それぞれに期待される役割が異なることも理解できた.医療専門職が,臨床ではなく教育や研究を通して国民の健康に寄与しようと考えることは,ある意味で強い決意が必要な点もある.保健学科や理学療法学科に勤務している一部の教員から,ここは雑務が多くて大変だ,とくに講義の負担が大きいと言われるたびに心が痛む.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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