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雑誌目次

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理学療法ジャーナル47巻6号

2013年06月発行

雑誌目次

特集 脳卒中理学療法のシームレス化にむけて

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.469 - P.469

 脳卒中は,チーム医療・地域連携の代表的な対象疾患である.しかし現在,病期ごとに治療が行われるために,ともすれば担当病期以外の理学療法とどうつながっているのか,具体的にイメージできず理論上のつながりでしかない可能性もある.

 脳卒中の理学療法を真の意味でシームレスサービスとし,より良い連携を提供するために,理学療法が病期ごとに担う役割を確認し,実践することが重要である.それに加えて,脳卒中の理学療法にとって大切なみかた・もつべき視点を病期を超えて指摘し合い,リハビリテーション全体の確立に寄与する必要がある.

脳卒中の医学的管理と連携―急性期から慢性期まで何を行うか,何が望まれているか

著者: 藤本俊一郎 ,   出口貴行

ページ範囲:P.471 - P.478

はじめに

 2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定1,2)では,急性期病院から回復期リハビリテーション病棟/維持期施設を経て在宅復帰までを対象とした既存の医療連携への評価に,在宅復帰後の連携,すなわち医療と介護のシームレスな連携への重要性が指摘され,評価が追加された.本稿では,香川県で行われている脳卒中地域連携における継続医療とリハビリテーション,生活・ケア継続への取り組みと,2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定への対応について報告する.

シームレスな脳卒中理学療法のための視点―病院と地域,その共通点と相違点

著者: 津田陽一郎

ページ範囲:P.479 - P.486

はじめに

 リハビリテーション医療は急性期-回復期-生活期と機能分化され,脳卒中においても発症直後から一貫した流れでリハビリテーションを行うことが進められている.しかしながら,時期の区分については科学的な根拠がないとされ1),むしろ機能分化の流れは本邦の社会情勢の変化のなかで,財政と医療福祉の折り合いをどのようにつけていくのかという財源コントロール的な意味合いも強い.

 筆者が所属している法人は,急性期病棟から回復期リハビリテーション病棟,介護老人保健施設や通所,訪問リハビリテーション等,介護保険サービスを含むケアミックスの組織となっており,各病棟,施設それぞれに専属の理学療法士を配置している.このように,時代の流れに即し,組織が成長拡大するとともに業務の効率化,円滑化を推進していくなかで,運営や経営上の観点から組織内においても機能を分化し,各セクションに臨床上の成果と実績が求められている.

 病期が移るたびに次の段階に向け情報を伝達するが,その際,当院では同じ組織内で顔見知りの各期のスタッフ同士が現場で直接申し送りやカンファレンスを行えるため,口頭にて議論を交えながら,具体的な情報交換,共有が可能となっている.しかし,考え方に隔たりがあるのも事実である.さらに,病院・施設が異なる組織間においては,地域連携クリティカルパスなどを活用した,文面上の情報交換が主とならざるを得ない.シームレスな理学療法が難しい点は,組織,理学療法士が異なると,それぞれの経験や価値観によって患者の診かたが変わることに加え,病期によっても評価や治療戦略の視点に違いが生じることにある.その違いを補塡するためには,互いの視点を共有し,個々の理学療法士がどのような考えで患者と接しているのかを理解することが重要である.

 本邦の理学療法の歩みを遡ってみると,1990年代までは現在のように明確に機能分化しておらず,当時は発症直後から退院後の外来,訪問に至るまで臨床現場(以下,臨床)のなかで経験することができた.しかしながら,機能分化が明確になりだした2000年以降,個々の理学療法士が一部の病期のみを集中的に経験することになり,以前のようにさまざまな病期の脳卒中者を経験する機会が少なくなってきている.

 理学療法が必要となる脳卒中を含めた中枢神経系疾患患者は,多くの場合障害が残存する.そのため,他の運動器疾患と異なり,患者のみならずその家族を含め,人生の方向性を大きく変えざるを得ない状況の者が多い.障害をもっても主体的に自己実現に向けた人生を再構築していくことを支援するわれわれ理学療法士は目先の状況にとらわれず,病期全体を通した視点と患者の生活に思いを馳せる感性が必要である.

 リハビリテーションの機能分化に基づき,シームレス化,地域連携が各病院,施設間において意識されつつある.そのなかで,理学療法(士)はどのような位置付けにあり,連携していくべきかが論じられている.シームレス化が求められるなか,地域連携クリティカルパスなどのシステムに沿って,各病期の理学療法士が各々の役割を担いながらもその先を見据えた理学療法を展開していくことが求められている.こうした要請に対し,臨床の理学療法士はどのような視点をもたなければならないのだろうか? 本稿では,現状の診療報酬を勘案しつつも,脳卒中急性期から回復期,そして生活期におけるシームレスな理学療法のあり方について述べる.

脳卒中急性期理学療法に期待すること―回復期理学療法の立場から

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.487 - P.493

はじめに

 急性期病院にいるから見えるもの,急性期病院にいるから見えないもの,回復期病院にいるから見えるもの,回復期病院にいるから見えないものがある.病院あるいは病棟が機能分化され,一人の脳卒中患者を急性期から回復期,そして実際の生活の場へと続けて担当していくことができなくなって久しい.経験してわかること,経験したから注意できることがあるが,脳卒中患者について,縦断的な経験を積み重ねていくことができない時代になっている.

 疼痛などの深刻な問題を起こすことは共有されていても,それが何故に生じているかを探求できていないことがある.あるいはその事象の基礎的な因子について,卒前教育のなかでも取り扱われていないものがある.その結果,半世紀近く同じ問題を繰り返している.

 急性期で発生する疼痛や廃用性に関連する諸問題は,患者のその後のactivities of daily living(ADL)やquality of life(QOL)に大きく影響を及ぼす.本稿では,単に脳卒中急性期病院・病棟への期待を述べるにとどまらず,急性期理学療法にかかわるからこそもっていなければならない知識であるにもかかわらず,卒前教育でほとんど触れられることのない内容についても解説し,シームレス・リハビリテーション医療の実現を期待したい.

脳卒中回復期理学療法に期待すること―生活期理学療法の立場から

著者: 江口宏 ,   大久保智明 ,   野尻晋一 ,   山永裕明

ページ範囲:P.494 - P.502

はじめに

 2012年度診療報酬・介護報酬同時改定では,2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築1)が推進され,今後退院後の生活の場は在宅が多くを占めるようになる.さらに回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)においては,早期にかつ確実に患者を在宅復帰させることが望まれている.これからの脳卒中回復期理学療法には,短縮化される入院期間においても患者を在宅へ円滑に移行させることに努めなくてはならないという使命が課されている.

 そのために回復期理学療法(以下,回復期)に期待することは,まず入院当初から画像診断(CT,MRIなど)と正確なアセスメントを実施し機能予後予測(特に歩行)を行うことである2).そして機能回復が主目的2)でありつつも在宅生活のイメージをもって理学療法に取り組むこと,在宅復帰まで時間的制約を有したなかでも,回復期が実践できる具体的な介入方法を知ることである.

 そこで本稿では,生活期理学療法(以下,生活期)の立場から,① 在宅生活のイメージをもつための基本的視点,② 在宅復帰のために回復期に留意/行ってほしいこと,生活期へ提供してほしい情報を中心に述べる.

脳卒中生活期理学療法で活かす急性期の視点

著者: 関谷俊一 ,   大塚功

ページ範囲:P.503 - P.507

はじめに

 わが国における脳卒中患者は年間1,339,000人にのぼり,受療率(人口10万人あたり)は250人で,悪性新生物の233人を凌ぎ1位であり,かつ総数に対する入院患者の割合は,62.4%(悪性新生物は47.6%)と最も高い1).さらに,介護の現場においても,脳卒中が要介護となった主な原因疾患の21.5%(第1位)を占める2)ことからも,社会の急激な高齢化を背景に,急性期から生活期に至るまで,脳卒中患者に対する理学療法士の継続的なかかわりがさらに増すものと思われる.

 脳卒中の急性期理学療法を提供する立場として,昨今の理学療法対象患者は,高齢で元々の生活自立度が低い要介護者が多いように感じる.また,再発患者も多いことから,再発予防を目的とした患者教育と介護予防の重要性も高まっている.当院では,脳卒中急性期からリスク管理下での早期離床を積極的に実施することで,二次的合併症と廃用症候群の予防に取り組み,回復期以降への効果的な運動機能改善につなげている.

 生活期における理学療法士のかかわりは,軽症例には再発予防,中等度症例には転倒予防および介護予防,重症例には廃用症候群や寝たきりの予防など潜在的なリスクを管理しつつ予防理学療法の提供を基盤としている.加えて機能改善の視点に立った継続的なかかわりが求められる.そこで本稿では,急性期理学療法を行う立場から,脳卒中患者を重症度別に分けて,生活期におけるそれぞれのリスク管理について述べていきたい.

―座談会―脳卒中理学療法のシームレス化に向けて―臨床の現状と法律・制度

著者: 小山理惠子 ,   藤野雄次 ,   山口和之

ページ範囲:P.509 - P.516

 急性期・回復期・生活期という病院・施設の機能分化は,医療制度変革と診療報酬の改定に伴って生まれた.1997年に介護保険法が成立し,2000年に施行,同年回復期リハビリテーション病棟入院料が新設され,予防,医療,介護において一体となった高齢者リハビリテーション提供体制の統合整備が促進された.2006年に疾患別リハビリテーション診療報酬算定,そして2008年には早期リハビリテーション加算が導入された.理学療法のみならず,現在の医療・福祉システムはこれらの制度変革の結果であり,今後も変化していく.

 そのようななか,本特集「脳卒中理学療法のシームレス化にむけて」は,理学療法が担う役割を確認し,病期を超えてつながるべきこと・共有すべきことを中心に,理学療法が担う役割を確認し,よりよい連携の流れをイメージしたものである.チーム医療の現状とあり方,制度との関連,理学療法の今後をキーワードに座談会を企画した.(本誌編集委員会)

とびら

贋作と和魂洋才

著者: 加藤謙一

ページ範囲:P.467 - P.467

 幕末から明治にかけて,開国と同時に,わが国は富国強兵と殖産興業の名のもとに西洋諸国からさまざまな知識・技術,あるいは文化の導入を行ってきた.当時の西洋諸国の思惑は別にして,彼らが当時の日本人をどのように思っていたか,興味深いところではある.あるいはどこかで「サルまね」と呼んでいたかもしれないが.

 さて,物事の学び方においてはさまざまな方法があるが,その一つに,いわゆる師弟関係を基にして,知識や技術を伝承させていく方法がある.これはすなわち,「師匠」の言うとおり学習していく方法である.最初に寸分たがわず型どおりに習い,技術を完成させる方法である.そこから自分なりのものを作り出すのである.

理学療法臨床のコツ・37

足底板作製のコツ

著者: 入谷誠

ページ範囲:P.518 - P.520

はじめに

 近年理学療法分野において,足底板療法はさまざまな観点から臨床応用されるようになってきた.筆者が足底板を臨床応用し始めた1987年ごろには,足底板自体の医療分野や一般社会への認識が非常に薄く,理学療法分野においても当然行われていなかった.現在,少しずつではあるが社会の認識も高まってきており,喜ばしく思っている.

 本稿では身体機能を取り扱う理学療法士にとって足底板が重要な位置付けにあることを認識していただきたく,初めて足底板に触れて臨床応用する際の導入編として,機材を使用しない簡易な「入谷式足底板」処方について紹介する.

学会印象記

―第77回日本循環器学会学術集会―理学療法士がチーム医療の一員として確立していくために

著者: 花田智

ページ範囲:P.521 - P.521

 海からの浜風が確実に春の訪れを告げるなか,2013年3月15日から17日までの3日間,横浜にて,第77回日本循環器学会学術集会が,水野杏一先生(日本医科大学医学部長)を大会長に開催された.「世界へ翔く日本の循環器病学」と題して開催された本学会は,循環器領域では国内最大規模の学会の一つであり,期間中多種多様なプログラムが準備されていた.コメディカルセッションについても,シンポジウムが4セッション,その他一般演題が387演題(口述発表30題,ポスター発表357題)設けられるなど,私たちコメディカルスタッフに対しても,十分配慮いただいているプログラム構成であった.筆者は,現在心臓リハビリテーションに従事しているため,本稿ではこれに関連するセッションを聴講した印象を述べたいと思う.

 まず,心臓リハビリテーションについて,本学会を通してのキーワードは「心不全」「高齢化」「多職種」「疾病管理」であったように感じた.そして,心臓リハビリテーションにおいては,現在一つの変換期を迎えつつあるのではないだろうか.それを最も考えさせられ,印象に残ったのが,埼玉医科大学の牧田茂先生による講演であった.トピックスの一つとして紹介された「強心薬を切ることができない方への運動療法はどのように展開していけばよいか」は,重症心不全に対するリハビリテーションアプローチにおける近年の課題として取り上げられていた.われわれ理学療法士は,高齢かつ重症心不全というさまざまな因子が絡み合った病態にハイリスクが加わった方へ,「運動」という治療法を用いる.今後,「安全」と「積極性」という相反する両者のバランスの比重をどこに置き,患者さんに対して有益な運動をどのように展開していくのかは,興味深いテーマであり,これからさらに臨床における症例検討を行う必要性を感じた時間であった.

甃のうへ・第3回

働くママとなって―息子が私にくれたもの

著者: 有馬麻衣子

ページ範囲:P.522 - P.522

「今日から入院しましょう」

 妊娠中の私の体調がすぐれないのを心配しみかねた姉が,半ば強引に私を連れてセカンドオピニオンで訪れた病院で担当医師から告げられた言葉だ.その数日後には,在胎33週にて約1,500gの息子を緊急帝王切開で出産することとなった.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

アブレーション(ablation,電気焼灼)

著者: 齊藤正和

ページ範囲:P.523 - P.523

●カテーテルアブレーション(radiofrequency ca-theter ablation:RFCA)(心筋焼灼術)って?

 RFCAは,大腿動脈から直径2mm程度の電極カテーテルを心臓に挿入し,高周波通電を行って,不整脈の原因となる心筋組織を焼灼・破壊する頻脈性不整脈の根治療法である.

 高周波数通電によるRFCA治療は,1987年から始められた新しい治療法である.特に,1990年代に入り,カテーテル先端の操作が可能で,先端の電極が長いカテーテルの開発により,高周波通電による治療成功率は飛躍的に向上した.これにより, RFCAは,WPW症候群(Wolf-Parkinson-White syndrome),房室結節リエントリー性頻拍(atrioventricular nodal reentrant tachycardia:AVNRT),通常型心房粗動,心房頻拍,特発性持続性心室頻拍(右室流出路起源心室頻拍,ベラパミル感受性左室起源心室頻拍など)に対する根治療法として確立されている.わが国では,1994年の保険償還後から高周波通電によるアブレーションは急速に普及し,不整脈に対する治療成功率は80~90%を超えるとの報告がある.

医療器具を知る

硬膜外カテーテル(硬膜外ブロック)

著者: 笹沼直樹

ページ範囲:P.526 - P.526

●硬膜外カテーテルの基本的な構成(図1)と挿入

 皮膚から硬膜外腔へは,皮膚→皮下組織→棘上靱帯→棘間靱帯→黄靱帯→硬膜外腔の順で到達する.黄靱帯より深部の構造を図2に示す.留置針は外径0.8~1.2mm,長さ900~950mm程度の物が多用され,異物除去のためのフィルター,自己調節鎮痛のためのPCA(patient control analgesia)ボタン,薬液が入ったインフューザーポンプが接続される.

新人理学療法士へのメッセージ

あなたにとっての天職は何ですか?

著者: 熊代功児

ページ範囲:P.524 - P.525

 今春,国家試験に合格し,理学療法士の道を歩み始めた皆さん,おめでとうございます.期待と不安を胸に入職され,日々悩みながら仕事に励まれていることと思います.

 突然ですが,皆さんにとっての天職は何でしょうか? 「天職」と辞書で調べると,「その人の性質・能力にふさわしい職業」とあります.数ある職業の中から理学療法士を志し,晴れてその資格を得て,今その道を歩み始めたのですから,「私の天職は理学療法士です」と胸を張って言える理学療法士をめざしてほしいと思います.私自身まだそのようには言えない未熟者ですが,そう言える理学療法士をめざす先輩として,皆さんにメッセージを贈りたいと思います.

入門講座 歩行のバイオメカニクス・2

歩行関連動作のバイオメカニクス―方向転換動作・着座動作

著者: 櫻井好美 ,   石井慎一郎 ,   石田啓子 ,   山中理絵

ページ範囲:P.527 - P.532

はじめに

 高齢者の転倒事故が,屋外よりも屋内で多く発生していることはよく知られている.屋外活動と屋内活動の相違点として,重心の上下動と方向転換の頻度が挙げられる.屋外では前方への推進が主であるのに対して,屋内では連続して同方向に歩行し続けることは少なく,「立ち止まってドアを開け,椅子に背を向けて座る」といったように,重心の位置や進行方向を適切なスピードで変化させることが必要となる.

 本稿では,屋内において転倒や骨折のリスクとなりやすいと考えられる方向転換動作と着座動作について,バイオメカニクス的観点から解説する.

講座 理学療法診療ガイドライン・3

脳卒中の理学療法診療ガイドライン

著者: 松田淳子

ページ範囲:P.533 - P.540

はじめに

 「脳卒中 理学療法診療ガイドライン第1版」(以下,理学療法ガイドライン)は,脳卒中理学療法の指針を作る目的で作成され,他の理学療法診療ガイドライン同様,日本理学療法士協会から2011年に発行された1)

 脳卒中は治療技術の進歩により,その死亡率は悪性新生物,心疾患,肺炎に続く第4位となったが,「発病後,介護が必要になる疾患」では依然第1位であり続けている.脳卒中後遺症者にとってリハビリテーションはきわめて重要なものであるが,その内容は必ずしも完成されたものではない.脳卒中のガイドラインとして広く浸透している脳卒中合同ガイドライン委員会策定の「脳卒中治療ガイドライン2009」においても高い評価は得られなかった2)

 理学療法の臨床場面では主観的側面を極力避け,多くの客観的情報に基づいてその技術が提供されるべきである.理学療法ガイドラインでは,理学療法評価(指標),理学療法介入について,その推奨グレードを示し,現状と展望について解説している.以下,それぞれについて述べる.

臨床実習サブノート 理学療法をもっと深めよう・3

運動器疾患の上肢疼痛を理解する

著者: 尾崎尚代

ページ範囲:P.543 - P.550

頻度の高い愁訴=肩の痛み

 日本人に最も頻度の高い愁訴は肩周囲の痛みである.なかでも肩こりは国民生活基礎調査では男女とも常に上位を占め,非常に多くみられる(図1).患者さんの愁訴は痛みであることがほとんどであり,機能障害だけを主訴に来院することはきわめて少ない.また,入院患者の理学療法場面でも,寝返りや更衣動作などで肩関節に痛みを訴える症例も多く,痛みのために理学療法プログラムの変更を余儀なくされることもあり,activities of daily living(ADL)の拡大が制限されることがある.

 上肢機能は,ADLの自立度に大きく関与する重要な機能であり,肩関節周囲炎をはじめとする上肢の運動器由来の疼痛を伴う疾患は,整形外科疾患のみならずさまざまな病気でみられ(表1)1),理学療法士がかかわる機会は増えている.

報告

ICFの概念に基づいた地域リハビリテーションの実践報告―SF-36とFIMからの検証

著者: 池田登顕 ,   菊地邦夫 ,   小泉勇樹

ページ範囲:P.553 - P.559

要旨:地域リハビリテーションでは,障害のある方々が,住み慣れた地域社会において,いかに自発的かつ能動的に行動できるように支援し,健やかで質の高い地域生活を送れるようにICFの概念に基づいたアプローチを行うかが重要となる.われわれの通所リハビリテーション施設では,ICFの概念に基づき,「心身機能や身体構造」や「活動」,「参加」に対するアプローチを行うとともに,各種行事などを組み入れ,利用者のQOLを高めるよう数年間取り組んだ.その効果を検証するために,FIMおよびSF-36の測定を,2010年12月から2011年12月までの1年間,継続して通所リハビリテーションを利用した21名(男性11名,女性10名,平均年齢73.2±10.3歳)に対して実施した.その結果,リハビリテーション前と1年後のFIMの測定値において差を認めなかったが(p=0.35),SF-36においては1年後の測定値が向上し差を認めた(p<0.05).そのことから,われわれのリハビリテーションアプローチによって,利用者の「心身機能や身体構造」は維持され,さらには,「活動・参加」を体験することによって,QOLの向上につながったのではないかと推察した.今後の課題としては,自宅内において,利用者がいかに自発的かつ能動的に活動できるように促すかであると考えている.

お知らせ

国際PNF協会認定ベーシックコース/第38回日本リハビリテーション工学協会車いすSIG講習会in盛岡/第7回学生のためのホスピス・緩和ケアの集いin名古屋/2013年度発達が気になる子の育ちを考える夏季セミナー/第11回藤田リハADL講習会(FIMを中心に)一般(ベーシック)コース/学会へ行こう・第54回日本神経学会

ページ範囲:P.493 - P.541

国際PNF協会認定ベーシックコース

日 時:2013年7月3日(水)~7日(日),2013年7月21日(日)~25日(木),計10日間のコースとなります

内 容:このコースは国際PNF協会の規定するプログラムで行われます.

    PNF理論,肩甲帯骨盤帯体幹上下肢パターン,マット動作,歩行治療評価と治療,治療デモンストレーション,2人1組での治療実習など.修了者には国際的に有効な修了証が発行されます.

会 場:PNF研究所研修センター(東京都千代田区神田駿河台3-5 サンジュ共和十番館5F)

書評

―山口美和(著)―「PT・OTのためのこれで安心 コミュニケーション実践ガイド」

著者: 吉井智晴

ページ範囲:P.542 - P.542

 コミュニケーションスキルに関する成書は近年増えている.それだけ問題意識をもつ人が増えていることの表れだろう.即効性を求めるあまりマニュアル本に飛びつくと,一瞬,簡単に自分でもできそうだと錯覚してしまうが,現実はそんなに甘くないのである.

 「学んだはずなのに……教えたはずなのに……できない」,このような状況が蔓延している.そして次に手にするのが,だいたい社会学系や心理学系の本.これは奥が深く読み物としては面白いが,ではいったい何をすればよいかを読み取ることが一朝一夕には難しい.

―奈良 勲・鎌倉矩子(シリーズ監修),冨田 豊(編)―「《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》小児科学 第4版」

著者: 近藤敏

ページ範囲:P.551 - P.551

 本書の編集・執筆者である冨田豊氏は,1995年に開学した広島県立保健福祉短期大学の初代作業療法学科長として,現在の県立広島大学作業療法学科の礎を築かれた.冨田氏は臨床家,研究者,教育者の3つの立場を実にバランスよくもっておられる方である.当時,理学・作業療法士というご自身がこれまであまり接したことのないスタッフに囲まれながら,“医師にはない発想である”というADL(activities of daily living)に関心をもち,「重症心身障害児・者の機能障害とADL」について研究されていた.その後,この研究は「リハビリテーション医学」に原著論文として掲載されている.

 また,助教の教育にことのほか熱心であった.大学の力は助教を育てることであると考え,学科全員の前で,よく助教への厳しい指導がなされていたが,これは間接的に講師以上の教員への教育でもあったと思われる.現在,小児領域の理学・作業療法士は,医療機関や福祉分野のみならず幼稚園や小学校などの教育機関に求められる職種となっている.4年前から始まった教員免許状更新講習において,本学では「特別支援教育講座」を開設しており,最も受講者の多い講座となっている.少子化にもかかわらず問題を抱える子どもはむしろ増えており,本学の附属診療所の小児科医は多忙を極めている状況にある.

―高橋仁美(著)―「ゴロから覚える筋肉&神経」

著者: 福井勉

ページ範囲:P.561 - P.561

 理学療法士や作業療法士になろうとする学生や新人の臨床家にとって,運動器の機能解剖は当然クリアしなければならない問題である.人参や玉葱を知らないままカレーライスを作ることが難しいのと同様,筋や神経の名称,機能についての知識なしに病態は語れないし,何より臨床的考察の発展性への大きな壁となる.つまり,運動器の知的基盤とも言うべき筋や神経の名称,機能,神経支配については,反射的に想起されたうえに人の運動への3次元的イメージが要求されている.これらの基礎体力をつけるためには,反復を伴う学習が余儀なくされ,多少の味気なさを伴うものである.本書にはそこに味付けを盛り込もうとした優しさが感じられる.

 例えば,指の外転に関しては「じゃんけん,パーはハイ(8,1)リスク」として,髄節レベルを覚えるゴロが盛り込んである.その他,いくつか紹介すると,「ハムストは,四股(4,5)合図(1,2)」「膝を,胃に指す(1,2,3,4)腸腰筋」「三頭筋,軟派(7,8)な腕立て伏せ」など,がある.ゴロにはすべてイラストが付き,各筋がページ単位で構成され,さらに「MEMO」として解説が加わり,イメージをしやすく,わかりやすくなっている.

読者の声

著者: 西岡稔

ページ範囲:P.541 - P.541

47巻2号特集「心理・精神領域の理学療法」を読んで

 理学療法ジャーナル2013年2月号(特集:心理・精神領域の理学療法)を読みました.

 当院にも精神科病棟があり,精神科病棟に入院している患者様の高齢化が問題となってきています.それに伴い,易転倒による骨折,脳卒中の発症,また精神疾患の増悪によって長期臥床を強いられたことで生じた廃用症候群など,さまざまな患者様の理学療法を実施しています.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.550 - P.550

文献抄録

ページ範囲:P.562 - P.563

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.566 - P.566

 6月です.新人さんもそうでない方も,年度替わりや大型連休,学術大会などのばたばたから,取り組むべきことにじっくり腰をすえ向かう,そんな季節です.

 今月の特集テーマは,「脳卒中理学療法のシームレス化にむけて」です.「専門病期の理学療法を専門の立場で著す」のでなく,他病期へむけ「こう意識してほしい」と提言していただく,斬新な企画が実現しました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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