icon fsr

文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル47巻6号

2013年06月発行

文献概要

特集 脳卒中理学療法のシームレス化にむけて

シームレスな脳卒中理学療法のための視点―病院と地域,その共通点と相違点

著者: 津田陽一郎1

所属機関: 1社会医療法人全仁会倉敷平成病院リハビリテーション部

ページ範囲:P.479 - P.486

文献購入ページに移動
はじめに

 リハビリテーション医療は急性期-回復期-生活期と機能分化され,脳卒中においても発症直後から一貫した流れでリハビリテーションを行うことが進められている.しかしながら,時期の区分については科学的な根拠がないとされ1),むしろ機能分化の流れは本邦の社会情勢の変化のなかで,財政と医療福祉の折り合いをどのようにつけていくのかという財源コントロール的な意味合いも強い.

 筆者が所属している法人は,急性期病棟から回復期リハビリテーション病棟,介護老人保健施設や通所,訪問リハビリテーション等,介護保険サービスを含むケアミックスの組織となっており,各病棟,施設それぞれに専属の理学療法士を配置している.このように,時代の流れに即し,組織が成長拡大するとともに業務の効率化,円滑化を推進していくなかで,運営や経営上の観点から組織内においても機能を分化し,各セクションに臨床上の成果と実績が求められている.

 病期が移るたびに次の段階に向け情報を伝達するが,その際,当院では同じ組織内で顔見知りの各期のスタッフ同士が現場で直接申し送りやカンファレンスを行えるため,口頭にて議論を交えながら,具体的な情報交換,共有が可能となっている.しかし,考え方に隔たりがあるのも事実である.さらに,病院・施設が異なる組織間においては,地域連携クリティカルパスなどを活用した,文面上の情報交換が主とならざるを得ない.シームレスな理学療法が難しい点は,組織,理学療法士が異なると,それぞれの経験や価値観によって患者の診かたが変わることに加え,病期によっても評価や治療戦略の視点に違いが生じることにある.その違いを補塡するためには,互いの視点を共有し,個々の理学療法士がどのような考えで患者と接しているのかを理解することが重要である.

 本邦の理学療法の歩みを遡ってみると,1990年代までは現在のように明確に機能分化しておらず,当時は発症直後から退院後の外来,訪問に至るまで臨床現場(以下,臨床)のなかで経験することができた.しかしながら,機能分化が明確になりだした2000年以降,個々の理学療法士が一部の病期のみを集中的に経験することになり,以前のようにさまざまな病期の脳卒中者を経験する機会が少なくなってきている.

 理学療法が必要となる脳卒中を含めた中枢神経系疾患患者は,多くの場合障害が残存する.そのため,他の運動器疾患と異なり,患者のみならずその家族を含め,人生の方向性を大きく変えざるを得ない状況の者が多い.障害をもっても主体的に自己実現に向けた人生を再構築していくことを支援するわれわれ理学療法士は目先の状況にとらわれず,病期全体を通した視点と患者の生活に思いを馳せる感性が必要である.

 リハビリテーションの機能分化に基づき,シームレス化,地域連携が各病院,施設間において意識されつつある.そのなかで,理学療法(士)はどのような位置付けにあり,連携していくべきかが論じられている.シームレス化が求められるなか,地域連携クリティカルパスなどのシステムに沿って,各病期の理学療法士が各々の役割を担いながらもその先を見据えた理学療法を展開していくことが求められている.こうした要請に対し,臨床の理学療法士はどのような視点をもたなければならないのだろうか? 本稿では,現状の診療報酬を勘案しつつも,脳卒中急性期から回復期,そして生活期におけるシームレスな理学療法のあり方について述べる.

参考文献

1)脳卒中合同ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2009 http://www.jsts.gr.jp/jss08.html(2013/04/01アクセス)
2)内閣府:平成23年度高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況,平成24年版高齢社会白書,2012 http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/gaiyou/pdf/1s1s.pdf(2013/04/01アクセス)
3)厚生労働省:平成23年人口動態統計(確定数)の概況,2012 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei11/(2013/04/01アクセス)
4)厚生労働省:平成22年国民生活基礎調査の概況,2011 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/(2013/04/01アクセス)
5)鈴木一夫:脳血管障害総論 疫学動向 世界および我が国の脳卒中発症率,死亡率の変遷と将来予測.日本臨牀64:32-37,2006
6)喜多義邦,他:脳卒中有病者数と脳卒中による要介護者数の推定 http://www.stroke-project.com/(2013/04/01アクセス)
7)高齢者リハビリテーション研究会:高齢者リハビリテーションのあるべき方向,2004年1月
8)橋本洋一郎,他:脳卒中の地域連携と診療ネットワーク.臨床リハ20:612-619,2011
9)原田和宏:脳卒中患者の将来はどうなるの?―慢性期脳卒中患者の予後を知る.奈良 勲(編):理学療法のとらえ方PART3,pp44-54,文光堂,2005
10)原田和宏,他:発症後1年以降の脳卒中患者におけるADL能力の低下量の予測に関する検討.理学療法学30:323-334,2003
11)Rodriquez AA, et al:Gait training efficacy using a home-based practice model in chronic hemiplegia. Arch Phys Med Rehabil 77:801-805, 1996
12)石川 誠:回復期リハ病棟からみたリハビリテーション医療の流れと今日的課題.日本リハビリテーション病院・施設協会,他(編):回復期リハビリテーション病棟,第2版―質の向上と医療連携を目指して,pp15-21,三輪書店,2010
13)香川幸次郎:介護予防と理学療法―平成18年介護保険制度改正が与えた影響,PTジャーナル41:335-340,2007
14)神田 直,他:脳卒中の長期予後―脳出血の長期予後を左右する因子.脳卒中22:663-667,2000
15)栗原正紀,他:地域で完結できるリハビリテーション体制の構築,MB Med Rehabil 102:1-7,2009
16)厚生労働統計協会(編):図説 国民衛生の動向2012/2013,厚生労働統計協会,2012
17)生駒一憲,他:脳卒中リハビリテーション地域連携パスに関する指針.Jpn J Rehabil Med 47:420-442,2010
18)鈴木一夫:まだまだ増える脳卒中患者,綜合臨牀58:194-198,2009
19)中村隆一,他(編):新版 脳卒中の機能評価と予後予測,医歯薬出版,2011
20)日本リハビリテーション病院・施設協会(編):高齢者リハビリテーション医療のグランドデザイン,青海社,2008
21)浜村明徳(監):急性期・回復期の実践実践指針とあり方―これからの脳卒中リハビリテーション,青海社,2005
22)平上二九三:新しい臨床実践モデルの紹介 医学モデルと障害モデルの結合―患者中心のアプローチと問題解決能力の向上.理学療法学37:380-386,2010
23)福屋靖子,他(編):人間性回復のためのケアマネジメント―リハビリテーションの視点からの展開,メヂカルフレンド社,2000
24)本久博一:早期・回復期・維持期理学療法の連携のあり方を考える.理学療法24:1456-1468,2007
25)Wade DT, et al:Physiotherapy intervention late after stroke and mobility. BMJ 304:609-613, 1992
26)Scmidt EV, et al:Results of the seven-year prospective study of stroke patients. Stroke 19:942-949, 1988
27)Mervi K, et al:The profile of recovery from stroke and factors influencing outcome. Stroke 15:1039-1044, 1984
28)Teixeira-Salmela LF, et al:Muscle strengthening and physical conditioning to reduce impairment and disability in chronic stroke survivors. Arch Phys Med Rehabil 80:1211-1218, 1999

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?