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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル47巻8号

2013年08月発行

雑誌目次

特集 物理療法の再興

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.667 - P.667

 理学療法において物理療法は,理学療法士の法制度からみても,「理学」の語源的な意味からみても,運動療法とともに大きなウエイトを占めてきた.しかし近年,物理療法に関する臨床活動や研究,卒前・卒後教育などが停滞傾向にあることは否めず,臨床場面における物理療法が理学療法士の手から離れ,アスリート関係などの他領域のものになるのではないかという危機感を抱くようになっている.そこで本特集は,物理療法を取り巻く現況と課題を浮き彫りにし,物理療法を再興するための方略を提示することを目的に企画した.

物理療法の臨床適応の課題と方略

著者: 高岡克宜 ,   鶯春夫 ,   田野聡

ページ範囲:P.669 - P.675

臨床における物理療法の現況と位置付け

 物理療法は,運動療法,日常生活活動指導,義肢装具療法などとともに理学療法の根幹をなす治療法であることは言うまでもない.臨床においても運動療法と同じく臨床推論を基盤として,患者を評価し病態仮説を立て種々の物理療法機器を選択し,患者治療に活かされるべきである.

 しかし臨床においては,われわれ理学療法士が物理療法を十分活用できているかどうか疑問を感じる場面が多くみられる.山本ら1)は,物理療法は運動療法に対する補助的手段であり,施行は助手任せ,学生の臨床実習ではほとんどの治療体験なしと,理学療法士の物理療法軽視ともとれる状況を指摘している.また,庄本2)の日本理学療法学術大会における物理療法に関する発表等の調査によると,2005年では物理療法関係に関する発表は基礎,臨床研究を含めて41演題(3.3%),2006年では40演題(3.4%),2007年では44演題(3.2%),2008年では50演題(2.9%),2009年では44演題(2.4%),2010年では46演題(3.0%)であり,学術論文においては,日本理学療法士協会の機関誌である『理学療法学』では,2005年は0論文,2006年は2論文(5.6%),2007年は3論文(11.5%),2008年は0論文,2009年は1論文(2.9%)であったと報告している.これらの結果は,本来理学療法士が用いることができる貴重な治療手段である物理療法の積極的な使用がなされていない現況を示していると思われる.

物理療法における研究活動の課題と方略

著者: 庄本康治

ページ範囲:P.676 - P.684

はじめに

 物理療法は一部の疾患の治療として使用される場合もあるが,大部分はimpairmentレベルに対する治療である.米国理学療法士協会(American Physical Therapy Association:APTA)でも,理学療法分野で物理療法が使用される場合には,単独で使用するのではなく,運動療法などの他の治療と組み合わせるべきであると報告している1).APTAでは,物理療法を電気治療的物理療法(electrotherapeutic modalities),狭義の物理療法(physical agents),力学的物理療法(mechanical modalities)の3分野に分類している1).力学的物理療法には起立台でのトレーニング,continuous passive motionなども包含しているが,本稿ではこれらを取り扱わないこととし,これら以外の最近の物理療法研究結果,課題,研究の進め方などについて書面の許す限り論述する.

物理療法の卒前・卒後教育の課題と方略

著者: 菅原仁

ページ範囲:P.685 - P.690

はじめに

 物理療法は,温熱,寒冷,電気,力を利用するため,多くの疾患や障害に適応となるが,特定の物理療法に限って使用されている現状がある1).この背景には,物理療法領域の基礎的な研究や臨床的研究が停滞していることが挙げられるかもしれない.研究の停滞は物理療法の科学的根拠の未確立へつながり,臨床で物理療法が活かされていないことになる.しかし,科学的根拠の不足だけではなく,物理療法は機器による治療が中心であり,機器に頼ることへの不安感がセラピストには強いのではないかと考える.このことも物理療法が有効に活用されていない要因の一つではないかと言える.もちろん電気刺激療法や超音波療法では,機器なくして実施は不可能である.しかし,物理療法では他の理学療法と同様に,技術を適用するための思考過程,物理療法の選択,そして適用量(Dose)を決定するセラピストの判断が不可欠である.物理療法の適応を正しく判断できるのであれば,依然有用な治療として多くの物理療法手段を活用することができる.

 有効活用するためには,卒前教育と卒後教育が重要となる.卒前には,理学療法を学び始めた学生に物理療法が機器のみで提供されているわけではなく,あくまでもセラピスト主導で行われる積極的な治療であることを教育していく必要がある.また,学生に物理療法への興味と関心をもたせ,知識を総合的に活用した実践的判断力を培うような内容とすべきである.

 一方,卒後教育の教育指導体制の遅れも物理療法の発展を減速させている要因と言える.卒後教育では,物理療法を熟知した認定理学療法士や専門理学療法士が少なく,教育・指導するための人材不足も物理療法の発展を妨げている.

 このような現状を踏まえると,卒前教育と卒後教育を充実させ,利用者のニーズに合った物理療法を提供できるように教育体制を整備する必要がある.そこで,本稿では卒前・卒後の物理療法教育の課題を挙げ,物理療法の有効的な利用を促すための卒前・卒後教育の方略について考えてみたい.

スポーツ傷害の靱帯損傷に対する物理療法の臨床適応と効果

著者: 安藤貴之

ページ範囲:P.691 - P.698

はじめに

 Jリーグ発足から20年が経過し,競技レベルの向上に伴いメディカルスタッフの役割が重要視されつつある.プロスポーツは常に結果が評価され,年間を通して傷害による選手のパフォーマンス低下や長期離脱を回避していかなければならない.そのため,スポーツ現場では競技中に生じた傷害に対し,運動療法だけでなく物理療法も多用し早期治癒を考慮に入れた取り組みが行われる.本稿では,スポーツ現場での靱帯損傷に対する物理療法に着目し,その適応について考察する.

糖尿病患者に対する低周波電気刺激療法の臨床適応と効果

著者: 上野将之 ,   中尾聡志 ,   池田幸雄 ,   末廣正 ,   寺田典生 ,   公文義雄 ,   杉浦哲郎 ,   杉本千鶴子 ,   野村卓生 ,   榎勇人 ,   西上智彦 ,   石田健司 ,   谷俊一

ページ範囲:P.699 - P.704

世界における糖尿病の現状

 わが国において,糖尿病患者数は第二次世界大戦後,車の普及や,食文化の変化に伴い急速に増加していることは周知の事実である.厚生労働省の2011年国民健康・栄養調査報告では,糖尿病が強く疑われる人や可能性を否定できない予備群を合わせると,国民の4人に1人が糖尿病かその予備群であることが報告されている.

 また,2012年国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)が発表した世界の糖尿病有病数の統計値では,世界の糖尿病患者数は3億7,100万人を超え,最も糖尿病患者が多い国は中国で9,230万人,第2位はインドで6,300万人,第3位は米国で2,410万人である.わが国の糖尿病患者は710万人で世界第9位となっている(2012年11月時点).

座談会「物理療法の再興を語る」

著者: 鶴見隆正 ,   杉元雅晴 ,   川村博文 ,   生野公貴 ,   安孫子幸子

ページ範囲:P.705 - P.714

鶴見 本日は,「物理療法の再興を語る」というテーマで,日々物理療法の臨床,研究,教育,そして学術団体での活動に精力的に取り組んでいる4人の方々に,理学療法界における物理療法の現状とその課題についてお話しいただき,物理療法を再興するにはどのような方略をもって取り組むべきかなど,忌憚のないご意見をいただきたいと思います.特に本座談会を通して,多くの若い理学療法士に物理療法の醍醐味,奥深さを知ってほしいと思いますし,現在物理療法にかかわっている方々の背中を押すようなヒントをいただければ幸いです.

 まず自己紹介を兼ね,これまで物理療法にどのようにかかわり,深めてこられたのか,ご自身の専門を含めてお話しください.

とびら

視線の先には?

著者: 三原修

ページ範囲:P.665 - P.665

 患者さんに「えっ,この間教えたトレーニングしてないんですか?」,療法士は「それじゃ,よくならないですよ!」とさらに言います.どこかのリハビリテーション室で聞こえてきそうなやりとりではないでしょうか.

 最近私は,このようなやりとりが気になってしょうがないのです.患者さんの子どもや孫のような年齢の療法士にこのように言われて憤慨しないのであろうかと不安になるのです.経験のある療法士は,患者さんとのコミュニケーションを図り,信頼関係を構築して会話の中でうまく指導を行っています.しかし,若い理学療法士はストレートに物を言うことがあり,本当にコミュニケーションがとれているのか少々疑問であり不安でもあります.

印象記

―日本理学療法士協会の国際協力―第20回海外技術協力セミナー―開発途上国の障害者支援を続けた20年間

著者: 小林義文

ページ範囲:P.718 - P.718

 1993年の第1回から数えて20回目となる記念すべき海外技術協力セミナーが2013年1月26・27日に日本理学療法士協会田町カンファレンスルームで開催された.

 基調講演には,19回に引き続きアジアの高齢化に着目し,タイ王国において高齢者ケアの国際協力を行った厚生労働省の竹林経治氏,CBR(community based rehabilitation)の世界的権威であり当セミナー開設当初にかかわっていただいたハンドヨ・チャンドラクスマ医学博士(元インドネシア・ソロCBR開発訓練センター所長)を招いた.

甃のうへ・第5回

これまでの理学療法士生活を振り返って

著者: 坂本美喜

ページ範囲:P.720 - P.720

今年で,「理学療法士」として24年目に入りました.これまで,臨床・研究・教育と,主たる業務が異なる環境で仕事をしてきました.いつも多くの方々にご指導いただき,また助けていただいていることに感謝しています.

 臨床では,さまざまな患者さんやご家族の方から多くのことを学んでいます.疾患に関することのみならず,厳しい状態においても日々を過ごしていく人としての強さや優しさも,教えていただいていると思います.現在は臨床の時間は非常に少ないのですが,それでも患者さんと接していると自分の力不足を再認識し,学び続ける原動力になっています.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

コーチング

著者: 田邊素子

ページ範囲:P.721 - P.721

●コーチング(coaching)とは

 コーチングとは,「相手の自発的な行動を促進し,その人独自の目標達成を支援するコミュニケーションの技術」である1).コーチは会話のなかで,目標達成のために必要なビジョン・知識・技術・ツール・ファウンデーション(基盤)が何であるかを相手に気づかせ,それを備えさせ,目標への行動を支援する.「コーチ(coach)」の語源は「馬車」であり,そこから「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」という意味が派生した.普段よく耳にするスポーツの指導者という意味では,1880年代から使用されている.ビジネス分野では,1990年代にアメリカで国際コーチ連盟が設立されてから広がりをみせ,現在は日本においても医療や教育の現場に導入され成果を上げつつある.

医療器具を知る

胸腔ドレーン

著者: 小幡賢吾 ,   渡辺洋一

ページ範囲:P.725 - P.725

●胸腔ドレーンとは

 胸腔ドレーンは,胸腔ドレナージで用いられるチェストチューブのことである.胸腔ドレナージは他のドレナージと違い,空気と液体の両方が対象となる.適応は貯留した液体や気体が多量,もしくは持続的に発生する場合で,① 気胸,② 胸水(血胸,膿胸など),③ 開胸手術後などが挙げられる.胸腔ドレナージの目的は,胸腔ドレーンを用い胸腔内に貯留した空気,液体(血液,体液,膿など)を排出させることにより,肺実質を再膨張させ換気の改善を行うことである.

理学療法臨床のコツ・39

学生のやる気を引き出すコツ―臨床実習でのかかわり方

著者: 伴佳生

ページ範囲:P.722 - P.724

はじめに

 臨床実習について指導者側が教育を受ける機会は少なく,多くの場合自分の体験に基づいた経験則から実習指導が行われている.結果,指導者と学生の間でお互いにプラスにならない関係性が構築されてしまうケースが散見される.

 筆者は,学生に「理学療法士になりたい」と感じてもらうことを目的に臨床実習指導にあたっている.本稿ではその内容を紹介したい.

入門講座 歩行のバイオメカニクス・4

義足歩行のバイオメカニクス

著者: 長倉裕二

ページ範囲:P.727 - P.733

健常者の歩行と義足歩行の違い

 健常者の歩行は各関節の動きと筋や靱帯などの軟部組織の粘弾性や筋力によって変化するが,義足歩行は義足部品で機械的な動きを再現し,人体に取り付けたソケットの形状やそのフィッティングによって義足のコントロールが大きく左右される.例えば,従来多く使用されていた肩吊り型差し込み式大腿ソケットと固定膝継手,SACH(solid ankle cushion heel)足部での義足歩行とライナー式IRC(ischial ramal containment)ソケットとマイコン制御式膝継手,エネルギー蓄積型足部を使用した義足歩行では到達できる歩行形態が大きく異なる.ここでは義足歩行における正常歩行とはどのようなものか,正常歩行は可能なのか,義足で生活するために必要な義足操作方法はどのようなものなのかについて,義足歩行の原理と義足部品に合わせた歩行について解説する.

講座 理学療法診療ガイドライン・5

脳性麻痺の理学療法診療ガイドライン

著者: 大城昌平 ,   儀間裕貴

ページ範囲:P.735 - P.741

はじめに:脳性麻痺の理学療法診療ガイドラインの課題と展望

 臨床医学における根拠に基づいた医療(evidence-based medicine:EBM)の潮流は,発達障害領域の理学療法診療においても「根拠に基づく理学療法(evidence-based physical therapy:EBPT)」へとパラダイムシフトを要請している.これまでの経験則に基づいた画一的な臨床思考を改め,質の高い研究論文やシステマティックレビューなどを加味した臨床思考と,プロフェッショナルとしての説明責任と成果の保証が必要である.

 EBPTを実践するには,エビデンスを「作り伝える」「使い吟味する」取り組みが必要となるが,特に脳性麻痺(cerebral palsy:CP)などの領域はこれらの取り組みが遅れている.「作り伝える」ことでは,過去10年間のわが国のCP理学療法診療におけるリハビリテーション治療介入(整形外科的手術や髄腔内バクロフェン投与療法などの薬物療法は除く)に関するエビデンス研究は,メディカルオンライン(検索用語“脳性麻痺”の原著論文うち)で3件,PubMed(検索用語“cerebral palsy”“Japan”とし,article type「clinical trial」を選択)で1件のみヒットした.また,日本リハビリテーション医学会や日本理学療法士協会などのCP診療ガイドラインに取り上げられているエビデンス研究は,ほとんどが国外からの報告である.このことは,いかに日本発のCP理学療法診療のエビデンス研究が少ないかを示している.CP理学療法診療のエビデンス研究には,① 病態や障害像がきわめて多様であり,これに生育環境や成長・発達の要素などの多くの変数が加わること,② 各施設でさまざまな治療方法が実施されていること,③ 理学療法士の介入(ハンドリング)の定量化が困難であり,理学療法士の技能が対象児の機能・能力に影響する可能性があること,④ 標準化された評価尺度の使用がなされていないこと,⑤ 日本では依然としてファシリテーションテクニックの土壌が根強いこと,など解決すべき問題が多い.しかし,今こそCP理学療法診療に携わる理学療法士が問題意識をもってエビデンス研究に取り組み,治療効果を科学的に示さなければ理学療法の発展は危うい.なぜならば,社会レベルの意思決定(医療制度)では,治療の科学的根拠が確立されていない分野の診療報酬は削減されることが必至だからである.このことはその分野を後退させ,ひいては対象者および国民の健康や福祉を衰退させることにつながる.

 理学療法診療ガイドライン(社団法人日本理学療法士協会:「理学療法ガイドライン第1版」1))は「理学療法を行ううえでの基本的な指針」となり,今後は理学療法診療においてガイドラインの活用は欠かせない.しかし残念ながら,理学療法士のガイドラインの活用は進展していないようである.筆者らが行った,理学療法士がどの程度,日本理学療法士協会などのガイドラインを臨床活用しているか調査した結果では,一般病院16施設の理学療法士293名のうちガイドラインを「活用している」(① 必ず活用する,② しばしば活用する,③ 時々活用する)の回答割合は2割であった(図1).この結果は,CP理学療法診療にもあてはまると推測される.確かに,ガイドラインのEBPT研究に基づく推奨グレードは,臨床現場の多様な個別性をもち再現性の不安定な対象者すべてに適応できるものではないが,ガイドラインを尊守しなくてもよいということではない.特にわが国のCP理学療法診療は,各施設や療法士個々人がそれぞれ異なった治療法や評価法を用いて治療技術の向上をめざしてきた長い歴史があり,治療法や評価方法のエビデンスをあまり問わない文化があったように思われる.しかし理学療法士は,理学療法業務に対する裁量権(与えられていると解釈できる)を有するがゆえに,倫理規範を遵守し,患者の人権擁護を第一とするprofessional autonomyを涵養しなければならない.自らの臨床判断に自信と信頼をもち,説明責任を果たし,また医療の質を向上させ,社会からの信頼を得るには,ガイドラインを尊守・活用して,その有効性を吟味する態度を涵養することがエビデンスサイクルの活性化につなげるうえでも欠かせない.そのような倫理性と科学的態度を育成するには,卒業前の養成教育からの取り組みが不可欠でもある.

 以下では,CP診療ガイドラインを参照し,その有効な臨床活用としての実践モデルを提案することを試みたい.

臨床実習サブノート 理学療法をもっと深めよう・5

脳血管疾患患者の疼痛を理解する

著者: 木村圭佑 ,   太田喜久夫

ページ範囲:P.743 - P.748

はじめに

 筆者には,理学療法士の免許取得後10年以上経過した今でも,非常に記憶に残っている症例がいる.それは1年目に勤務していた通所リハビリテーションにて,回復期リハビリテーション病棟退院直後の脳血管疾患患者を担当したときのことである.麻痺側上肢に触れるだけで激しい痛みを訴える患者に対し,どのように対処すればよいのかわからず,ただ困惑し理学療法どころではなかった.その後,患者はある日を境にまったく痛みを訴えなくなった.当時はその原因がまったくわからず,自然治癒以外に説明ができなかった.今振り返れば,視床痛などの中枢性疼痛や複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)type Ⅰが疑われ,その疼痛メカニズムもある程度説明することができる.少なくとも「困惑するのみ」であった未熟な理学療法士の対応よりは,症例の状態に適した理学療法を選択できたはずであると大変悔やまれる.

 あらかじめ断っておくが,筆者は決して「脳血管疾患の疼痛」を専門としている理学療法士ではないし,大学病院に勤務している理学療法士でもない.言い換えると,一般の理学療法士は臨床において前述のような「脳血管疾患の疼痛」に直面する可能性が高く,その対処方法も適切に選択する必要がある.しかし,いざ臨床で直面すると困惑する理学療法士も多く,それは臨床実習の場合でも同様である.

 そこで本稿では,脳血管疾患患者にみられるさまざまな疼痛,神経由来の異常感覚,拘縮,廃用によって起こる関節痛等について,その疼痛の病態のみならず,さまざまな視点から評価方法,対処方法について解説する.また,近年増加傾向にある血管由来の疼痛についても言及する.

ニュース

第24回「理学療法ジャーナル賞」授賞式開かれる

ページ範囲:P.750 - P.750

 第24回「理学療法ジャーナル賞」授賞式が,4月13日,医学書院会議室にて行われました.理学療法ジャーナル賞は,本誌に1年間に掲載された投稿論文の中から優秀論文を編集委員会が顕彰し,理学療法士の研究活動を奨励するものです.2012年は,総投稿数102本のうち11本が受賞対象となり,入賞,準入賞,奨励賞2本の下記4論文が選ばれました.

 〔入 賞〕諸澄孝宜,他:内外側大腿骨後顆の厚さが人工膝関節全置換術後屈曲可動域に与える影響(第46巻7号掲載,原著)

 〔準入賞〕赤羽根良和,他:鵞足炎におけるトリガー筋の鑑別検査(46巻2号,報告)

 〔奨励賞〕田中武一,他:年齢層別にみた高齢者の歩行速度および歩行変動係数―地域在住高齢者270名を対象とした横断研究(46巻6号掲載,報告)

 〔奨励賞〕岩田研二,他:在宅脳卒中片麻痺者の排泄動作自立者における下衣操作能力の検討(46巻12号掲載,報告)

報告

血液透析施行中に行うレジスタンストレーニングの効果―システマティックレビューとメタアナリシスによる検討

著者: 河野健一 ,   矢部広樹 ,   森山善文 ,   西田裕介

ページ範囲:P.751 - P.757

要旨:血液透析施行中のレジスタンストレーニングの効果をシステマティックレビューとメタアナリシスにて検討した.システマティックレビューにて9編のRCTが抽出され,メタアナリシスにてデータの統合が可能であった評価指標を解析した結果,最大酸素摂取量(95%CI:4.00~7.58)と膝伸展筋力(95%CI:0.53~6.02)は有効性が示された.しかし,筋量(95%CI:-3.71~4.55)や自律神経活動(95%CI:-0.001~0.36)に対する有効性は認められなかった.血液透析施行中のレジスタンストレーニングは,運動耐容能や筋力を改善させるうえで有効な治療手段と考えられる.ただし,不十分なアウトカム指標については,エビデンスレベルの高い臨床試験の蓄積がさらに必要であると示唆された.

お知らせ

第14日本リハビリテーション心理研究会/第28回日本RAのリハビリ研究会学術集会/神経学的音楽療法研修会/第5回FIM講習会in倉敷

ページ範囲:P.690 - P.714

第14日本リハビリテーション心理研究会

日 時:2013年10月6日(日) 9:30~16:30

場 所:慶應義塾大学三田キャンパス大学院校舎313教室(東京都港区三田2-15-45)

書評

―中山恭秀(編)―「3日間で行う理学療法臨床評価プランニング」

著者: 藤澤宏幸

ページ範囲:P.717 - P.717

 「人間は時間を識り,時間的世界のうちに時間的に存在する.動物には時間を識るということはない(『人間と動物』より)」とは心理学者ボイテンディクの言葉である.人は,時間を自ら管理できる可能性を与えられたと言ってもよい.しかし,適切な修練を積まなければ具体的な能力に結びつかないというのも,また真実であろう.

 その意味で,本書はプランニングという時間管理に焦点をあてて編集されていることに特徴がある.これまでに出版されている理学療法評価学の書籍は,標準的な検査・測定法について疾患ごと,障害ごとにまとめられたものが大半を占めている(それはそれで大事なことではあるが).しかし,この本はひと味違う.「流れ」を大切にして,事前準備,1日目,2日目,3日目と時間軸で行うべき作業がまとめられている.「前日までに必要な医学的知識」,「あると助かる知識」では,最低限確認すべき知識とアドバンスなものが別々に提示されている.さらに,「前日に始める情報収集」についても,箇条書きでまとめられ一つずつチェックできるようになっている.その後,評価1日目からの流れがイラストを有効に活用しながら書かれており,手順を直感的に理解できるという印象で,抵抗感が少ない.

―大八木秀和(著)―「心電図を見るとドキドキする人のためのモニター心電図レッスン」

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.719 - P.719

 本書『心電図を見るとドキドキする人のためのモニター心電図レッスン』(以下,『モニター心電図レッスン』)では,波形の特徴からモニター心電図を極めてわかりやすく解説している.「この本はいい!」心電図を教えた経験がある者ならば,必ずや誰もが共感する内容である.私もこれまで,医療チームの一員としてこれだけは覚えてほしい(国家試験対策のためにも覚えるべき)内容を厳選し講義資料を作成していたが,この本にはそのすべてが完璧に網羅されている.特に,まさに覚えにくいところ,理解しにくいところに,小気味よいコラムが挿入されていて知識の定着をサポートしてくれている.

 心電図(特に不整脈)については理学療法士や作業療法士の国家試験で必ず出題されるため,ほとんどの理学療法士や作業療法士は心電図についてはひととおり勉強しているはずであるが,心電図を苦手とする者は少なくない.かくいう私も心電図を理解するため何冊参照しただろう.二十余年の臨床生活で理学療法士として必要な心電図の基本はマスターし(たつもりで),現在は大学で教鞭をとっているが,経験の乏しい学生に心電図を教えることほど難しいものはない.

―関 啓子(著)―『「話せない」と言えるまで―言語聴覚士を襲った高次脳機能障害』

著者: 辻下守弘

ページ範囲:P.749 - P.749

 医療者プロフェッショナルの到達点は,患者の立場を真に理解して治療やケアが行えることであろう.医療者の立場として,疾患の病態は説明できるが,病気や障害のつらさを語ることは難しい.それを補う唯一の方法は,患者側の立場となった人々の体験談から真摯に学ぶことである.

 まさにプロフェッショナルをめざす医療者にとって待ち望んだ絶好の本が出版された.本書は,言語聴覚士である著者が脳卒中となって倒れ,その後片麻痺を克服して復職し,さらに新しい人生を獲得されるまでの物語がつづられている.ただし,本書は体験に基づいた体験記という範疇を超えて,高次脳機能障害のテキストであるとともに,自ら被験者となって取り組まれた臨床研究をまとめた学術書でもある.

読者の声

著者: 西岡稔

ページ範囲:P.724 - P.724

 理学療法ジャーナル2013年4月号(特集:予防と理学療法)を読み,特に「産業保健領域における予防と理学療法」(高野賢一郎氏)の稿は,大変勉強になりました.私は,リハビリテーション科で理学療法部門の管理職を務める立場にあります.リハビリテーション科の職員がどうすれば成長し,患者さんによりよいリハビリテーションを提供できるかを考えるにあたり,職員が各々勉強してスキルを高めるだけでなく,各職員が高いスキルを発揮できる環境を整備することも大事であると考えていました.本稿を読み,その環境整備の一つに各職員が健康であること(腰痛やメタボリックシンンドローム,うつ病などにならないこと)という当たり前のことが大前提であると確信しました.私自身の経験でも,例えば自分が風邪気味の状態では,正直言ってモチベーションが上がりにくく,患者さんへ100%集中してリハビリテーションを提供することが難しいと感じます.

 したがって,患者さんを治療する医療従事者が不健康であっては,質の高いリハビリテーションを提供することは難しいので,管理職にある人は,各職員へ腰痛,メタボリックシンドローム,うつ病といった身体面,生活習慣,メンタルヘルス等の広い範囲で,健康障害の予防と健康の保持増進を支援するスキルも必要なのではないかと考えます.一方で,各職員においても,自身の健康に対する意識を高め,健康管理を行っていく必要があると思いました.本稿を読み,産業保健分野の理学療法についてもっと詳しく勉強したいと強く感じました.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.741 - P.741

文献抄録

ページ範囲:P.758 - P.759

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.762 - P.762

 2013年8月号の特集は「物理療法の再興」です.

 近年,物理療法に関する臨床活動が,運動療法や地域理学療法などと比べて停滞傾向に陥っているのではないかと危惧されています.その背景には,理学療法士の関心が,物理療法よりも各種の徒手療法や中枢神経系などの運動療法により高い価値観やエビデンスを求める傾向が影響していると考えられます.それ故に「電気をかける,温める」といった安寧的な物理刺激に終始し,物理療法を「療法」として位置づけた理学療法の取り組みが少なくなっているのではないでしょうか.このような状態が続けば,これまで先人たちが築き上げてきた物理療法の領域を理学療法士自ら手放すことになるのでは,という危機感があります.そこで本号では,物理療法の現状と課題を明らかにして,物理療法を再興するための方略を示すことに焦点をあてました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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