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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル48巻10号

2014年10月発行

文献概要

特集 安全管理

職場における安全管理

著者: 山上潤一1 加賀谷斉2 才藤栄一2

所属機関: 1藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部 2藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学Ⅰ講座

ページ範囲:P.909 - P.916

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はじめに

 この数年,「安全・安心」という言葉や表現が非常にクローズアップされるようになった.特に2011年の福島第一原子力発電所の事故は大きな衝撃とともに,いま一度自分たちの生活における安全性を考える機会になったのではないだろうか.医療における安全性がクローズアップされたのは1999年に発生した手術患者の取り違え事故に始まり,2000年前後に医療事故により患者が死亡に至る事例が立て続けに発生したことによる.このときにマスメディアが大きく報道し,世間では驚きとともに医療に対する不信感や疑念が高まり,大きな社会問題となった1).そして医療安全が社会問題になったことを契機に,2001年,厚生労働省に医療安全推進室が設置され,以来,医療安全の土台となる法整備の拡充や,各医療現場での医療安全に向けた取り組みが推進されてきた2).このように,医療事故の問題は,医療分野の抱える大きな問題の一つとなっている.

 医療の高度化・複雑化が進み,医療現場の業務はわずかな間違いでも対象の傷害に直結するような医療行為が増加している3).リハビリテーション医療も患者の身体に少なからずストレスを与える技術であり,医療事故が発生する可能性は十分にある.むしろ人口の高齢化,急性期の状態不安定症例,外科手術直後の超急性期におけるリハビリテーション,回復期や慢性期においても呼吸器・循環器疾患併存症例等,ハイリスク症例の増加に伴い,医療事故のリスクが高まっている背景がある4).このように,安全管理は医療従事者として職種を問わず取り組むべき問題となっている.しかしここで重要なことは,安全は一朝一夕でできるものではなく,むしろ実用的な対策を継続していくことによって徐々につくられるものであるということである.そこで本稿では,医療安全の基本的考え方やその重要性について説明する.

参考文献

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3)川村治子:医療安全,第2版,医学書院,2009
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5)広辞苑,第6版.岩波書店,2008
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16)中村隆宏:ヒューマンエラーを心理学から考える.セミナー年報:27-32,2009
17)Reason J(著),塩見 弘(監訳):組織事故—起こるべくして起こる事故からの脱出.日科技連出版,1999
18)菊池 浩:スイスチーズ・モデルと情報セキュリティ.防衛取得研究3:1-29,2009
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23)小松原明哲:人が守る安全を考える—安全マネジメントの視点から.公益財団法人JR西日本あんしん社会財団主催安全セミナー講演録,2009
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25)小林宏之:チーム医療に求められるノンテクニカルスキル.日職災医会誌61:314-318,2013
26)相馬孝博:CRM(Crew Resource Management)の医療分野への応用について.病院62:574-577,2003
27)平林明美:医療者をサポートする体制.看護60:89-95,2008
28)加藤良夫:安全な医療を求めて.第3回医療事故に係る調査の仕組み等の在り方に関する検討部会資料.pp1-7,2012 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000028iv0.html(2014年7月15日閲覧)
29)加藤済仁:リスクマネジメント.順天堂医学47:472-478,2002
30)日本看護協会:医療安全推進のための標準テキスト.2013 http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/anzen/pdf/2013/text.pdf(2014年7月15日閲覧)
31)東京大学医療政策人材養成講座「医療事故:真実説明・謝罪普及プロジェクト」メンバー(翻訳):(ハーバード大学病院使用)医療事故:真実説明・謝罪マニュアル「本当のことを話して.謝りましょう」.2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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