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講座 脳・4
小脳の神経回路
著者: 筧慎治1 石川享宏1
所属機関: 1公益財団法人東京都医学総合研究所運動失調プロジェクト
ページ範囲:P.1135 - P.1143
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小脳は,運動制御および運動学習に重要な役割を果たしている.この古典的小脳像は,実験動物を対象にした厖大な基礎研究や,100年以上にわたる小脳疾患患者でのさらに厖大な臨床観察に基づく揺るぎないものである.しかし,議論の余地がないのはここまでである.運動制御や運動学習はきわめて広い概念である.小脳とよく対比される基底核も,運動制御と運動学習に重要な役割を果たしている点で変わりはない.そこで「小脳が運動制御や運動学習のどのような側面に,どのように関わっているのか?」さらに「それがどのような神経回路のメカニズムで実現されているのか?」という,より具体的な機能的問題に踏み込むと,定説と呼べるものがないのが現状である.
一方,小脳を神経解剖学的な入力・出力関係に基づいて,前庭小脳,脊髄小脳,そして大脳小脳という3つの領域に分ける古典的区分に関しては,最新の神経解剖学的研究によるさらなる裏付けが得られており,小脳の基本構造としてかなり確かな部分である.
そこで本稿では,最初に小脳全体に共通する入出力の基本回路について概観し,次いで,前庭小脳,脊髄小脳,大脳小脳の3つの機能領域のそれぞれにおける入力と出力の特殊性についてまとめ,各領域の障がいによる典型的臨床症状との関係についても触れる.最後に,ここ数年の最新の研究により現れつつある,小脳の新しい側面についても触れ,小脳の神経回路に関するアップデートとしたい.
小脳は,運動制御および運動学習に重要な役割を果たしている.この古典的小脳像は,実験動物を対象にした厖大な基礎研究や,100年以上にわたる小脳疾患患者でのさらに厖大な臨床観察に基づく揺るぎないものである.しかし,議論の余地がないのはここまでである.運動制御や運動学習はきわめて広い概念である.小脳とよく対比される基底核も,運動制御と運動学習に重要な役割を果たしている点で変わりはない.そこで「小脳が運動制御や運動学習のどのような側面に,どのように関わっているのか?」さらに「それがどのような神経回路のメカニズムで実現されているのか?」という,より具体的な機能的問題に踏み込むと,定説と呼べるものがないのが現状である.
一方,小脳を神経解剖学的な入力・出力関係に基づいて,前庭小脳,脊髄小脳,そして大脳小脳という3つの領域に分ける古典的区分に関しては,最新の神経解剖学的研究によるさらなる裏付けが得られており,小脳の基本構造としてかなり確かな部分である.
そこで本稿では,最初に小脳全体に共通する入出力の基本回路について概観し,次いで,前庭小脳,脊髄小脳,大脳小脳の3つの機能領域のそれぞれにおける入力と出力の特殊性についてまとめ,各領域の障がいによる典型的臨床症状との関係についても触れる.最後に,ここ数年の最新の研究により現れつつある,小脳の新しい側面についても触れ,小脳の神経回路に関するアップデートとしたい.
参考文献
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