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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル48巻2号

2014年02月発行

雑誌目次

特集 発達障害児の理学療法と生活指導

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.91 - P.91

 子供の理学療法において,脳性麻痺をはじめとする発達障害児への理学療法は重要な領域であり,その病態の理解,医学的管理,理学療法評価に加え,児への直接的治療アプローチだけでなく関係医療職との連携,家族への指導,育児支援,環境への配慮を含めた生活指導が求められている.本特集では,発達障害児のそれぞれの課題に応じた,基本的評価,治療アプローチ,およびそれらを考慮した生活指導への適切な提案を具体的に解説していただいた.

発達障害児の理解と生活指導

著者: 市川宏伸

ページ範囲:P.93 - P.99

はじめに

 発達障害という言葉はよく知られるようになったが,発達障害が十分に理解され,適切な支援が行われるようになったとは言いがたい.「発達上に問題があるのが発達障害である」というのは俗説であり,正しくは発達障害者支援法のなかで定義されている.法律には,「自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と記述されている.医学的な診断に基づいており,通達のなかでは,後述するInternational Classification of Diseases(ICD)-10に基づいて,「F8およびF9に該当するもの」とされている.

 発達障害は子育てなどの環境因のみが原因で生じるものではなく,何らかの脳機能障害の存在が前提である.脳機能障害の本質についての研究は途上であり,十分には解明されていない.現在の医療における考え方では,「発達障害はなくさなければならないものではなく,一つの特性とみることもできるもの」であり,その存在により,当事者が社会生活上の困難さを感じたり,生きにくさを感じたりしたときのみ,何らかの支援が必要となる.

低出生体重児の理学療法と生活指導

著者: 長谷川三希子

ページ範囲:P.101 - P.110

はじめに

 わが国の総出生数の減少に対し,出生体重2,500g未満の低出生体重児の出生数は逆に増加している.このようなハイリスク児の割合の増加にもかかわらず,新生児死亡率は減少を続けており,近年の新生児医療の進歩は著しいと言える(表1)1).しかし救命された極低出生体重児の長期予後については,まだまだ改善すべき点が多く存在し2),長期的にリハビリテーションの対象となることも多い.

 本稿のテーマである生活指導とは,低出生体重児と両親にとっては育児支援そのものである.新生児の育児と言えば,主に「ミルク,オムツ,沐浴,睡眠,安全な環境」であり,本来,家族主体で行われる.しかし,低出生体重児として出生すると,まず救命のための医療が必要となり,neonatal intensive care unit(NICU)という特殊環境で生活がスタートする.保育器のなかのわが子を見つめながらも,親としての無力感や後悔,将来に対する不安を味わいがちである.このように思い描いてきた出産や育児と異なるスタートを切った家族に対し,関係性を構築し,養育者として自信を持てるように支援することが重要である.

 低出生体重児は,退院後も発育・発達のみならずさまざまな問題を抱えやすいため,NICU入院中だけでなく,退院後の生活支援や地域連携も重要である.有効なフォローアップを行うには,小児科医を中心に,小児神経科医,心理士,保健師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,眼科医,歯科医,医療ソーシャルワーカーなどによるフォローアップチームが必要であり,症例により,必要な専門医との連携体制をつくる.また,地域の病院,小児科医,療育センター,保健所・保健センター,訪問看護ステーションなどとの連携,さらには教育機関との連携も不可欠である3)

 出生体重1,500g未満の極低出生体重児は,ハイリスク児フォローアップ研究会を中心に,小学3年生まで定期的にフォローするプロトコルが作成されている4).また,周産期母子医療センターネットワーク(Neonatal Research Network Database in Japan:NRN)により,そのプロトコルをもとにしたresearch follow-upシステムが構築されている5).このプロトコルが実施可能な施設は,2004年の時点では10施設にすぎなかったが,2012年には65施設まで増加している6).統一プロトコルによる全国多施設でのデータは,今後,理学療法の予後予測に有効と考えられる.

 当院ではリハビリテーションが必要な低出生体重児に対し,NICUより理学療法士が介入し,発達評価と支援を行っている.退院前には,入院中の評価をもとにスクリーニングを行い,外来での継続の有無を判断する.本稿では,NICUという特殊環境でスタートを切った家族に対する育児支援と,そのなかでの理学療法士の役割についてまとめた.

発達障害児の整形外科手術後の理学療法と生活指導

著者: 楠本泰士

ページ範囲:P.111 - P.117

はじめに

 発達障害児に対する整形外科術後の身体機能の改善は,粗大運動機能の改善や歩行パラメーターの向上,上肢機能の改善など多く報告されている1~3).われわれが経験している術後の身体機能変化は,手術による効果と術後リハビリテーションによる効果が合わさったものであり,それぞれの効果を明確に分けることはできない.

 脳性麻痺に対する手術では,障害の程度や機能レベルが異なるため,各症例に合わせて手術内容も異なり,術後の回復過程もさまざまな様態を示す.また,同様の運動レベルの患者であっても筋の痙性や関節可動域制限の程度が異なるため,同部位で同じ筋を侵襲していても筋の延長量が症例ごとに異なることもある4).このように,一定の運動レベルで同様の手術を施行した症例を集めることが困難なため,発達障害児に対する術後リハビリテーションの効果を検討した報告は限りなく少ない.しかし,手術の目的を整理し理解することで,手術の効果や限界を知ることができる.それにより,術後リハビリテーションの効果をとらえやすくなり,退院後の生活指導につなげることができると考えている.

 本稿では,整形外科手術の概念と目的を概説し,脳性麻痺患者に多く行われている股関節筋解離術と,脳性麻痺患者の二次障害で最も問題となる頸髄症に対して行われている頸部筋解離術,それらの術後理学療法について紹介する.

発達障害児の摂食・嚥下障害に対する理学療法と生活指導

著者: 永井志保

ページ範囲:P.119 - P.127

はじめに

 食事は,生きていくためのエネルギーや栄養を摂取する活動である.しかしそれだけでなく,楽しみやコミュニケーションなど心理・社会的な役割も大きい.覚醒が低く活動中は目を開けないのに,給食の匂いがするとパチッと目が開き口が動き出す子供たちをよくみる.おいしいものを楽しく食べることの幸せは,心のエネルギーの摂取につながると言える.

 毎日の暮らしのなかで繰り返される食事という場面で,こうした「食べる喜び」が育つことは,子供たち一人一人の生き生きと生きる力を育てる.しかし,発達障害を持った子供たちは,さまざまな理由から食べる力が育ちにくく,「食べる喜び」が育たないこともある.療育にかかわる理学療法士として,この子供たちの食べる力を育てるために,できることは何であろうか.

 本稿ではまず,食べる力の発達についてまとめる.続いてキーワードとなる,発達障害児の摂食・嚥下障害と理学療法評価アプローチの流れ,生活指導を考えるうえでのポイントについて述べる.そして具体的事例を報告するなかで,理学療法士の役割を考えていきたい.

自閉症スペクトラム障害の理学療法と生活指導

著者: 鶴崎俊哉

ページ範囲:P.129 - P.136

はじめに

 本稿は当初,「広汎性発達障害児の理学療法と生活指導」というテーマで依頼を受けた.広汎性発達障害(pervasive developmental disorders:PDD)は,コミュニケーション能力や対人関係・社会性の獲得に問題を呈する疾患で,世界保健機関(World Health Organization:WHO)が定めた「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(第10版)」(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD-10)と米国精神医学会が刊行した「精神疾患の分類と診断の手引(第4版新訂版)」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-Ⅳ-TR)が診断基準として広く用いられている1).ICD-10とDSM-Ⅳ-TRでは下位項目や診断基準に違いがみられる(表1~3)が,わが国においては発達障害者支援法(2004年)および改正学校教育法(2006年)を受け,2007年の文部科学省による初等中等教育局特別支援教育課名の通達により特別支援教育の対象となったことから広く知られるようになっている(図1)2)

 ところが,2013年に公表されたDSM-5(この版からはローマ数字からアラビア数字に変更されている)では,PDDが自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)に変更されている3).しかも単なる名称の変更にとどまらず,その枠組みが大きく異なっている.変更の詳細は後述するが,今後改訂されるICD-11も筆者がベータ版を確認した限りでは同じ方向性を持っていると思われる.これらの診断基準の変更がわが国の行政にどのように反映されるかは現時点ではわからないが,現在が大きな転換点にあることを踏まえ,本稿のテーマを変更させていただいた.

とびら

壁を越えろ

著者: 千住秀明

ページ範囲:P.89 - P.89

 日本の理学療法士教育が開始された当時は,専門職の教員は外国人講師によって占められていた.日本語ができない講師と英語のできない学生が,日本語の基礎医学と洋書の専門書を教科書に理学療法学を学んだ.筆者もその学生の一人である.学んだのは理学療法の知識・技術と「日本の理学療法の礎を築く大志」であった.

 その志を学んだ学生たちの夢は,「理学療法士教育を4年制大学で行うこと」であった.ここ4半世紀に,大学での教育は金沢大学医療技術短期大学部の開学に始まり,広島大学の4年制大学教育の開始,大学院修士,博士課程へと一歩一歩前進してきたが,ここまでの道のりは順風満帆ではなかった.しかし,今では多くの諸先輩方の努力で当初の目標を超えるまでに理学療法は成熟した.理学療法士による理学療法士のための教育が実現し,理学療法士が自ら基礎医学から臨床医学まで研究できる環境が整いつつある.さらに理学療法は,「障害がある者に対して,主として基本動作能力の……」と謳う法律も拡大解釈され,予防や健康増進事業にもその活動の場を広げている.この業務拡大は,国民のニーズと理学療法士自らの努力,そして患者団体や医師をはじめ多くの関連職種の方々のご尽力により獲得できたものである.

症例報告

大腿骨転子部骨折に対するCHS後に変形骨癒合した症例に対する人工骨頭置換術後の理学療法の経験

著者: 江戸優裕 ,   濱裕 ,   四本直樹

ページ範囲:P.140 - P.144

要旨:左大腿骨転子部骨折に対してcompression hip screw(CHS)を施行し,さらにその1年半後にバイポーラ型人工骨頭置換術(bipolar hip arthroplasty:BHA)を施行した症例を経験した.本症例はCHSにより良好な整復位が得られておらず,BHAを施行する前は頸体角等の大腿骨頸部のアライメント不良によって股関節は屈曲・内転・内旋位を呈していた.これに起因して歩行は内旋歩行となり,患肢の疼痛によって歩行器を使用していた.BHA後は緩徐ながらも股関節可動域に改善を認めたが,その一方で,大腿骨頸部が延長されたことによる脚長差の補正のため,歩行時にknee-inが残存していた.これらの改善を目的に運動療法と足底挿板を実施したところ,BHA後7週でknee-inはほとんど認められなくなり,疼痛は消失し独歩が自立した.その後は二次的な膝関節障害の予防を図り,BHA後16週で理学療法を終了した.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

地域包括ケアシステム

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.145 - P.145

 「地域包括ケアシステム」とは,地域住民が要介護状態となっても,必要なサービスを必要な分だけ受けることができ,地域に住み続けることができるよう,保健サービス,医療サービスおよび在宅福祉サービス等の福祉サービスが十分に整えられ,それらが連携し,一体的,体系的に提供される仕組みである.

 厚生労働省1)は,地域包括ケアシステムの実現に向けて「団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年以降の医療や介護の需要増加を見込んで,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもと,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制の構築を推進する」としている.また,人口が横ばいで後期高齢者が急増する大都市部,その逆の構成となる町村部など,高齢化の大きな地域差については,保険者である市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じてつくり上げていくことが必要であると述べている.さらに,地域包括ケアシステムを構築するためには,高齢者個人に対する支援の充実と,それを支える社会基盤の整備とを同時に進めることが重要で,これを実現する手法として「地域ケア会議」を推進している.いかに実現するかについては,東京都世田谷区,鳥取県西伯郡南部町,千葉県柏市などの取り組み事例があるので参照されたい1)

最近の患者会・家族会の活動

全国失語症友の会連合会

著者: 園田尚美

ページ範囲:P.149 - P.149

 全国失語症友の会連合会(連合会)は,1983年に言語聴覚士の故遠藤尚志氏の呼びかけで発足した.病院でのリハビリテーション終了後の地域失語症者の仲間づくりと情報交換の場として,約30年間活動を継続してきた.全国組織としての連合会は機関紙や啓発冊子等の発行や全国交流大会を開催してきた.2000年に施行された介護保険制度の開始により,“病院退院後,近隣のデイサービスに送迎を利用して通うこと”が障害者の生活になり,障害者自身の自主的活動の友の会の会員数は減少傾向にある.昨今の友の会の役割には,失語症者の住みやすい地域社会をつくる活動も加わった.

 2011年の東日本大震災発生時には,全国の会員から被災地友の会へ支援の申し出があり,実現した.同年,厚生労働省担当官・有識者を招き「災害時における失語症者への支援のあり方」シンポジウムを開催,翌年には「失語症リハビリライブと家族相談会」を東北4市で開催.避難所や仮設住宅等で不自由な生活を送る失語症者の支援活動をした.同年,「失語症者と家族の生活のしづらさ全国調査」を実施し,失語症者の ① リハビリテーションの必要量確保がない,② 障害年金が低く生活が困窮している,③ 日常過ごす場所が少ない,④ 身障手帳等級是正など多くの問題点と不安・疲労を抱えた家族の実態が明らかになった.報告書を作成し,全国に配布した.2012年に長野県で開催された全国大会シンポジウムにも行政担当者らを招き,主題を「失語症者の基本的人権保障・地域で当たり前の生活を送ることができる環境整備」とし,会場参加者からも活発な意見が出された.

学会印象記

―Australian Physiotherapy Association(APA) Conference 2013―学術と職能とを見事に融合させた企画・運営

著者: 内山靖

ページ範囲:P.146 - P.148

 2013年10月16日(水)から20日(日)にかけて,標記の学会が開催されました.オーストラリア理学療法士協会(Australian Physiotherapy Associa-tion:APA)から招待を受けて参加する機会を得ましたので,その内容を紹介させていただきます.

 なお,今回は公務の都合で2泊5日(機中2泊)の強行日程となり,私自身が学会へ参加できたのは17日から19日の3日間でした.

甃のうへ・第11回

『声』

著者: 熊丸めぐみ

ページ範囲:P.150 - P.150

 子供は高い声が好き.特に新生児から乳児においては「聴覚選好」により,男性の低い声よりも女性の高い声のほうが,早口よりもゆっくりで抑揚のある喋り方のほうが好きらしい.小児病院に異動して間もなくそんな話を聞いた.周りをみると,たしかに高くて優しい声を出すスタッフに対しては,子供の反応もちょっと違う.もともと低い声ではなかったが,それを聞いてから,さらに高い声で喋るようになった.女性はよく電話口で声が高くなるが,それ以上に(きっと1オクターブは)高くなっている.

 30代半ばで成人病院から小児病院に異動して,1年半になる.この歳まで「声」が理学療法の武器になるとは思っていなかった.もちろん,成人病院時代も年配者にとって聞きやすい声のトーンや喋るスピードには留意していたが,正直,そこまで重要視していなかったと思う.もともと扁桃腺炎にかかりやすく喉を痛めやすかったが,ガラガラ声になると「カラオケの歌いすぎ」とか「お酒の飲みすぎ」といった冗談にかえて患者さんと笑いあっていたくらいだ.しかし,当たり前だが,子供たちにこの冗談は通じない.昨日までニコニコしていた子供が,ガラガラ声には誰ひとりとして振り向いてはくれないのだ.子供の興味もやる気も引き出すことができない,つまりは理学療法として成立しないことを意味する.ちょっとした敗北感をおぼえた瞬間だった.

入門講座 拘縮・2

難治性の手の拘縮

著者: 浅野昭裕

ページ範囲:P.151 - P.157

はじめに

 臨床において手の拘縮にはしばしば遭遇し,その対応に苦慮することも多い.外傷や術後における拘縮は瘢痕性の癒着がベースとなるため,創傷治癒過程の理解が治療成績の向上につながる.一方,本稿で取り上げる脳卒中にみられる肩手症候群の手,橈骨遠位端骨折後の複合性局所疼痛症候群[complex regional pain syndrome:CRPS(reflex sympathetic dystrophy:RSD)]に伴う拘縮,Volkmann拘縮,Dupuytren拘縮などは,それぞれが外傷とは異なる拘縮の発生機序を持ち,あるいはその機序自体,十分に解明されていないため,難治化,遷延化することも珍しくはない.本稿では,これらの拘縮について現在考えられている機序を紹介し,理学療法について述べたい.

講座 低侵襲手術の今・2

低侵襲心臓手術と理学療法

著者: 木内竜太 ,   富田重之 ,   渡邊剛

ページ範囲:P.161 - P.165

低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery:MICS)

 一般に心臓手術は,胸骨正中切開という胸の中心を大きく縦に切り,その下の胸骨を全長にわたって縦切開して行われる(図1).このアプローチは良好な視野が得られ,確実な心臓の手術ができるという点で,数十年にわたり心臓手術のgolden standardとなっていた.しかしながら,胸骨正中切開法は,患者さんにとっては,術後の創部痛のため,排痰がうまくできず肺炎を併発したり,リハビリテーションが進まず社会復帰に時間を要したりする原因となる.また胸骨を切開することは,骨髄炎(あるいは縦隔炎)など命にかかわる重篤な合併症の危険が伴う.

 近年これに対して,患者さんへの侵襲を軽減するための低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery:MICS)が導入され広く行われるようになってきた.MICSという手術の概念は,胸骨正中切開を行わず,小肋間開胸にて心臓手術を行うことである.MICSは術式別に大別すると,小さい左肋間開胸下に,人工心肺装置を用いず,心拍動下でバイパスを行うminimally invasive direct coronary artery bypass(MIDCAB)と,人工心肺装置を用いて,右小肋間開胸もしくは3~4個のポートを右肋間において完全内視鏡下に,弁膜症や心房中隔欠損症(atrial septal defect:ASD)などの心内手術を行う2つに分けられる.

臨床実習サブノート 理学療法をもっと深めよう・11

高齢者の生活環境支援を理解する

著者: 河添竜志郎

ページ範囲:P.167 - P.172

はじめに

 高齢者の生活支援というと難しく考えがちであるが,例えば,皆さんが自ら下肢のケガをし,歩行が困難な状態で自宅に退院しなければならないとしよう.病院で退院前にどんな支援をしてほしいだろうか.

 例えば,松葉杖歩行で病院内のトイレを自立できたとする.その松葉杖を使用した歩行が,自宅の廊下の移動やトイレの扉の開閉,トイレのなかの空間の移動に適していなければ,病院だけでの自立となり退院後に不安を残す.入浴においては,浴槽の出入りに一部介助を要すレベルであった場合,病院では一部介助で可能と言われても,自宅に介助者がいなければ,不可能となってしまう.外出しようにも,更衣から靴の着脱,玄関の出入り,交通手段の確保とあらゆる行為が可能となって初めて実現できる.病院内での治療は,あくまでも自宅に帰ってからの生活が目的だと痛感するのであろう.

 このように,病院での価値判断はそのまま自宅での生活とはなり得ない.このことからも,病院での対象者の生活支援を特別なことと思わず,身近な人に置き換えて考えると理解しやすい.しかし,実際には今あなたの隣にいる友人であっても,入浴を第一に考えるのか,外出を第一に考えるのか,価値観には違いかある.このことは十分に理解して支援する必要がある.また同様に,皆さんのような年齢の人たちと高齢者には,身体的機能ばかりではなく高齢者特有の特性も存在する.

 今回は高齢者の在宅を支援するうえで知っておかなければならない点を,装具や福祉用具,住環境などの生活環境の整備という視点から考えてみる.

書評

―鈴木重行(編集)―「ストレッチングの科学」

著者: 藤縄理

ページ範囲:P.139 - P.139

 ストレッチングは理学療法,特に運動療法や他動的治療手技の基本の一つである.スポーツの場面においてもウォーミングアップやクーリングダウンで必ず用いられている.本書では,ストレッチングについての第一人者である編著者によって,ストレッチングの基礎,対象となる病態生理,評価指標,効果の検証,研究のトピックスについて紹介されている.

 最初にストレッチングの種類を分類し,詳述している.大分類としてバリスティック・ストレッチングとスタティック・ストレッチングについて述べ,さらにリハビリテーション領域やスポーツ領域で用いられているindividual muscle(ID)ストレッチング,proprioceptive neuromuscular facilitation(PNF)ストレッチング,ダイナミック・ストレッチング,そして研究で用いられているコンスタントアングル・ストレッチング,サイクリック・ストレッチング,コンスタントトルク・ストレッチングの原理や実際について,従来の研究をもとに解説している.

―石川 朗(総編集)/森山英樹(責任編集)―「理学療法評価学 Ⅰ・Ⅱ」

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.159 - P.159

 近年,1万人以上の理学療法士が毎年誕生する時代となり,その総数は10万人を超えている.これは,明らかに高齢者人口が増加し,社会的要請が保健・医療・福祉領域を総括したサービス提供へと変遷していることによると思われる.それに伴い,理学療法士の質と量がバランスよく保たれることがますます求められる時代である.

 本書は,理学療法士が対象者の課題解決に臨む段階で,その根幹となる理学療法評価について詳細かつ具体的に記述されたものである.ここで紹介する「理学療法評価学Ⅰ・Ⅱ」は,それぞれ15章で構成されており,理学療法士養成施設のカリキュラムに沿って,15回または30回の講義を想定した形式でまとめられている.また,分野によっては複数の章に分けることで学習すべき最小限の項目が配分されており,偏りなく講義を進めることが可能となっている.

―木村彰男(監修)/正門由久・大田哲生(編集)―「脳卒中上下肢痙縮Expertボツリヌス治療―私はこう治療している」

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.175 - P.175

 2010年から始まった上下肢痙縮に対する保険適用により,ボツリヌス治療は痙縮に対する新たな治療法として定着しつつあります.脳卒中に対する治療としてマスコミに取り上げられることも多く,臨床の現場にいる療法士は患者さんから質問を受けることもあるかと思います.

 本書は2009年の脳卒中ガイドラインで,痙縮の関節可動域制限に対しグレードAで使用が推奨されているボツリヌス治療について,臨床の現場で本治療を用いている多くの医師により著されています.治療の作用機序に関する解説は省かれていますが,総論として現状と課題についてまとめ,各論において上肢の治療,下肢の治療,上下肢同時治療の工夫,装具の併用,リハビリテーション,在宅患者の治療の各項を取り上げています.多くのことについてコンパクトに言及しつつも,各々の項には実に36もの症例が提示されており,治療の実際を通して,リハビリテーション医学において本治療がめざしているものが示されています.多くのリハビリテーション医が,その治療効果の検証と標準化への努力を行っていることが理解できます.適応を考えること,対象筋の選定,投与量,濃度など,職人技に近いことをいかに科学的に積み上げていくか,という姿勢は,リハビリテーション関連職種も大いに見習わなければならないことだと思います.

お知らせ

第16回日本褥瘡学会学術集会/第4回日本訪問リハビリテーション協会学術大会in熊本/日本関節運動学的アプローチ医学会理学・作業療法士会第15回学術集会

ページ範囲:P.144 - P.172

第16回日本褥瘡学会学術集会

日 時:2014年8月29日(金),30日(土)

テーマ:長寿社会における褥瘡医療・ケアの融合

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.127 - P.127

文献抄録

ページ範囲:P.176 - P.177

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.180 - P.180

 どういう星のめぐりか,昨年と同じ時期にこの編集後記を書かせていただいております.本号がお手元に届くころには本格的な冬を迎えつつあることと思います.2013年が過ぎ,2014年は変わらないたたずまいをみせてくれるでしょうか,それとも何やら怪しげな秘密を守らねばならない世の中でしょうか.

 今特集は「発達障害児の理学療法と生活指導」です.まず市川論文では「発達障害はなくさなければならないものではなく,一つの特性とみることもできるもの」との考え方が冒頭に提起され,発達障害の数の多さ,外見からの問題点のわかりにくさ,障害の存在の境界の不明確さなどの特徴を持つと指摘されています.このことを背景として「生きにくさ」が生じてくるが,早期対応が必要ではあるが生活に根差した育児の延長として行われることが受け入れやすいとされています.長谷川論文では「低出生体重児」の生活指導について,抱き方のポイントやポジショニングなど具体的例が示されています.楠本論文では「整形系外科手術後」の理学療法と生活指導について,股関節筋解離術,頚髄症に対して行われる頸部筋解離術を取り上げ,症例を紹介しつつ解説されています.永井論文では「摂食嚥下障害」について,食べる力の発達,摂食・嚥下障害の評価,アプローチに関して各機能の獲得時期に応じた対応が示されています.また,食べる力を育てる目的は,定型発達に近づけるのではなく,一人一人が持つ力を効率よく発揮し,安定して生活することであると述べています.鶴崎論文では,「自閉症スペクトラム障害」について最新の知見が示されています.理学療法の対象としてのASDおよびPDDへの認識は世界的にみても高くないと思われ,評価方法や理学療法アプローチについても確立したものはなく,その理由はASDやPDDが中枢神経系の疾患であり早期発見・早期介入の必要性があるというコンセンサスが得られたのが比較的最近であること,その症状が行動やコミュニケーションの問題が大きいために運動面を中心にアプローチする理学療法は必要ないと判断されたためとではないかと指摘しています.このように,今特集の守備範囲は広く,多くの発達障害児にかかわる理学療法士にとってアップデートな内容になっています.今号では,入門講座「拘縮:難治性の手の拘縮」において肩手症候群,橈骨遠位端骨折後の複合性局所疼痛症候群に伴う手の拘縮,Volkmann拘縮,Dupuytren拘縮の理解と運動療法の実際が解説されています.講座「低侵襲心臓手術と理学療法」では低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery:MICS)が紹介され,その究極形であるda Vinciシステムについて詳述されています.大変興味深いのでぜひ一読ください.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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