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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル48巻2号

2014年02月発行

文献概要

特集 発達障害児の理学療法と生活指導

低出生体重児の理学療法と生活指導

著者: 長谷川三希子1

所属機関: 1東京女子医科大学病院リハビリテーション科

ページ範囲:P.101 - P.110

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はじめに

 わが国の総出生数の減少に対し,出生体重2,500g未満の低出生体重児の出生数は逆に増加している.このようなハイリスク児の割合の増加にもかかわらず,新生児死亡率は減少を続けており,近年の新生児医療の進歩は著しいと言える(表1)1).しかし救命された極低出生体重児の長期予後については,まだまだ改善すべき点が多く存在し2),長期的にリハビリテーションの対象となることも多い.

 本稿のテーマである生活指導とは,低出生体重児と両親にとっては育児支援そのものである.新生児の育児と言えば,主に「ミルク,オムツ,沐浴,睡眠,安全な環境」であり,本来,家族主体で行われる.しかし,低出生体重児として出生すると,まず救命のための医療が必要となり,neonatal intensive care unit(NICU)という特殊環境で生活がスタートする.保育器のなかのわが子を見つめながらも,親としての無力感や後悔,将来に対する不安を味わいがちである.このように思い描いてきた出産や育児と異なるスタートを切った家族に対し,関係性を構築し,養育者として自信を持てるように支援することが重要である.

 低出生体重児は,退院後も発育・発達のみならずさまざまな問題を抱えやすいため,NICU入院中だけでなく,退院後の生活支援や地域連携も重要である.有効なフォローアップを行うには,小児科医を中心に,小児神経科医,心理士,保健師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,眼科医,歯科医,医療ソーシャルワーカーなどによるフォローアップチームが必要であり,症例により,必要な専門医との連携体制をつくる.また,地域の病院,小児科医,療育センター,保健所・保健センター,訪問看護ステーションなどとの連携,さらには教育機関との連携も不可欠である3)

 出生体重1,500g未満の極低出生体重児は,ハイリスク児フォローアップ研究会を中心に,小学3年生まで定期的にフォローするプロトコルが作成されている4).また,周産期母子医療センターネットワーク(Neonatal Research Network Database in Japan:NRN)により,そのプロトコルをもとにしたresearch follow-upシステムが構築されている5).このプロトコルが実施可能な施設は,2004年の時点では10施設にすぎなかったが,2012年には65施設まで増加している6).統一プロトコルによる全国多施設でのデータは,今後,理学療法の予後予測に有効と考えられる.

 当院ではリハビリテーションが必要な低出生体重児に対し,NICUより理学療法士が介入し,発達評価と支援を行っている.退院前には,入院中の評価をもとにスクリーニングを行い,外来での継続の有無を判断する.本稿では,NICUという特殊環境でスタートを切った家族に対する育児支援と,そのなかでの理学療法士の役割についてまとめた.

参考文献

1)楠田 聡(監):NICU必携マニュアル,p2,中外医学社,2012
2)楠田 聡:新生児医療の現状と医療の標準化.小児内科43:1164-1169,2011
3)仁志田博司,他:超低出生体重児―新しい管理指針,改訂第3版,p172,メジカルビュー社,2006
4)河野由美,他:極低出生体重児のフォローアップ―身体発育の評価,ハイリスク児フォローアップ研究会プロトコールも含めて.Neonatal Care 15:1026-1039,2002
5)河野由美:ハイリスク児の発達評価法―わが国におけるフォローアップ体制の構築とそのプロダクト.日本周産期・新生児医学会雑誌49:109-112,2013
6)河野由美:データベースによる予後解析―極低出生体重児のフォローアップ体制の整備.周産期医学43:641-645,2013
7)河野由美:ハイリスク児のフォローアップ―NICUを退院した子どもたちへの支援.小児保健研究70:134-137,2011
8)河野由美:超低出生体重児の予後と支援.小児内科43:1170-1174,2011
9)鈴木順子,他:滋賀県の脳性麻痺の疫学的検討 1977~2000(第1編)―滋賀県の脳性麻痺の発生動向 出生体重別・在胎週数別分析.脳と発達41:279-283,2009
10)Hemmelmann K, et al:The changing panorama of cerebral palsy in Sweden. X. Prealence and origin in the birth-year period 1999-2002. Acta Paediatr 99:1337-1343, 2010
11)河野由美,他:育児不安軽減を目的とした低出生体重児の運動発達指標の作成.小児保健研究64.258-264,2005
12)木原秀樹,他:早産・低出生体重児のより良い発達を支援するために.ベビーサイエンス9:2-14,2010
13)坪倉ひふみ:超・極低出生体重児における神経学―General Movementsの臨床的意義.脳と発達34:122-128,2002
14)木原秀樹,他:極低出生体重児のGeneral Movements(GMs)評価と3歳時の発達予後の関係.日本周産期・新生児医学会雑誌44:684-688.2008
15)今川忠男:発達障害児の新しい療育―こどもと家族とその未来のために,p58,三輪書店,2000
16)木原秀樹,他:ポジショニングが早産児の睡眠覚醒状態や脳波に及ぼす影響.日本周産期・新生児医学会雑誌42:40-44,2008
17)木原秀樹,他:極低出生体重児のポジショニングが長期的な下肢の発達に及ぼす影響.日本周産期・新生児医学会雑誌44:1159-1163,2008
18)仁志田博司,他(編):超低出生体重児―新しい管理指針,p203,メジカルビュー社,2006
19)木原秀樹:運動発達 早産児の運動発達の評価方法,遅れがあった場合の介入について教えてください.周産期医学41:1312-1314,2011
20)宮地泰士:高機能広汎性発達障害の早期徴候に関する予備的研究.脳と発達43:239-240,2011
21)木原秀樹:NICUからはじめるリハビリテーション.未熟児・新生児誌24:241-245,2013
22)木原秀樹:小児リハビリテーション―乳幼児期における課題.理学療法学40:44-49,2013
23)Brazelton TB,(編著),穐山富太郎(監訳):ブラゼルトン新生児行動評価,原著第3版,医歯薬出版,1998
24)石田宗司:退院時確認事項(医師の立場から).前掲書1),pp72-74
25)大城昌平,他:発達障害のリスクを持つ乳児と母親に対するブラゼルトン新生児行動評価を用いた早期介入.理学療法学32:326-332,2005
26)木原秀樹:ディベロップメンタルケアと予後.周産期医学42:605-609,2012
27)烏山亜紀:Dubowitz神経学的評価法.大城昌平,他(編):新生児理学療法,pp115-134,メディカルプレス,2008
28)中野恵美:退院時確認事項(看護師の立場から).前掲書1),pp75-78
29)前掲書3),pp196-210

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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