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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル48巻3号

2014年03月発行

雑誌目次

特集 地域における理学療法のパラダイムシフト

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.183 - P.183

 団塊の世代がすべて高齢期となる2025年に向けて理学療法士がどのように活動していくかは大きな課題である.地域包括ケアシステムの概念図の中央にリハビリテーションが明記され,地域ケア会議や介護予防において理学療法士の積極的な参画が期待されている.従来の病院・施設を場にした,疾病や障害を負った人に対し,個別的で,直接的支援重視から,病院・施設から地域社会に目を向け,健常者も含めたいかなる状態の人に対しても,地域単位で,組織化や教育・啓発を支援しながら,答えを創造していく理学療法へと意識変革をしていかなければ,その存在価値は薄れていくと予測される.

 そこで本特集では,先駆的に意識変革とその実践をしている理学療法士の地域での活動を紹介する.

地域における理学療法士の活動の現状と展望

著者: 森本榮

ページ範囲:P.185 - P.193

はじめに

 2025年には65歳以上の人口がピークを迎え,高齢化率は約30%に達する.以降2050年までに15歳未満の人口は減少し,高齢化率は35%以上となり,わが国は世界でも経験のない超高齢社会を迎える.独居高齢者,高齢夫婦世帯を誰が支えるのか.さらに,高齢者の増加は要介護障がい者の増加につながる.介護を支える仕組みにはマンパワーが必要になる.現在検討されている地域包括ケアシステムの構築の流れのなかでも,高齢者が障がいを受けても自立した生活を継続して営めるシステムづくりが望まれている.当然ながら,積極的に参画し,理学療法士の価値を高める重要な時期である.

 しかし,理学療法士は“地域=在宅サービス”と考える傾向があり,医療機関に就労している理学療法士のなかには地域に関心を示さない人もいる.利用者の“地域”には急性期病院も回復期リハビリテーション病院も含まれる.地域に密着し在宅サービスを展開する理学療法士だけでなく,医療機関に就労していても,介護保険制度や在宅サービスの内容を理解し,患者の在宅での生活を考える理学療法士が必要とされている.

 さらに,有資格者の急増に伴い,障がい者,予防・健康増進,産業疾病予防を行う理学療法士など今まで手がけられなかった領域にも視野を広げられる機会である.しかし,個々の理学療法士が職域を拡大する意識を持たなければ実現は困難である.本稿ではまず,医療・介護保険の両方を理解し,地域の中核的な役割を担える人材育成をめざし「地域における理学療法士の活動の現状と展望」について述べる.

高齢者に対する自助・互助支援体制構築における理学療法士の活動

著者: 有賀裕記 ,   内田智子 ,   椎名真希 ,   関澤智光 ,   飯田裕章 ,   伊藤綾 ,   小澤多賀子 ,   大森葉子 ,   大田仁史

ページ範囲:P.195 - P.202

はじめに

 団塊世代が65歳を迎える2015年問題に対し,茨城県立健康プラザ(以下,健康プラザ)の管理者である大田は「住民自ら学び,力をつけ,自らが社会に役立つことを自覚し,世代を超えた共助の精神で,官民一体となって乗り切る!」覚悟が必要であると述べている.茨城県では2005年より,2015年以降の人口構造の変化に備え,住民から介護予防の実践者を育て,介護予防の一翼を担う住民参加型の介護予防事業「シルバーリハビリ体操指導士養成事業」(以下,養成事業)を開始した.理学療法士は,当初より本事業において実践者を養成するシルバーリハビリ体操指導士養成講習会(以下,講習会)のテキスト作成,運営を行い,さらに講師として,その普及にかかわっている.

 本稿では,養成事業の全体像を紹介し,ヘルスリテラシーの段階的変化の視点からシルバーリハビリ体操指導士(以下,指導士)が主体的活動を行うに至ったプロセスを考察する.

東日本大震災復興特別区域法における訪問リハビリテーション事業所での理学療法士の活動

著者: 松井一人 ,   安部ちひろ ,   石田英恵

ページ範囲:P.203 - P.209

はじめに

 2011年3月11日,三陸沖で発生した東北地方太平洋沖地震により最大震度7の強い揺れと国内観測史上最大の津波を伴い,東北・関東地方を中心とする広い範囲に甚大な被害をもたらした.また,東京電力福島第一原子力発電所が被災し,放射性物質が漏れ出す深刻な事態になった.これを受け,2011年12月に東日本大震災復興特別区域法が成立し,そのなかに「訪問リハビリテーション事業所整備推進事業」が位置づけられた.

 被災地では,特に災害弱者と言われている障害者や高齢者が,仮設住宅やこれまでとは違った地域環境のなかでの生活を強いられることとなったと同時に,限られた医療機関等の資源も災害により失われた.さらに,福島県においては津波被害に加え,原子力発電所からの放射能漏れの影響もあり,子供たちや働き手が他の地域に避難を余儀なくされた.その結果,地域における高齢化率が一気に高まり,医療機関の稼働可能ベッド数が低くなるという,まさに,これからの日本の高齢化社会の進展の縮図のような状況となった.

 このような状況下,日本理学療法士協会ではいち早く被災県の県士会長を招集し,対応を検討した.その結果,被災地の復興を第一義として,訪問リハビリテーション事業所の設置を積極的に推進していくこととなった.さらに,今後の日本の高齢社会の進展に対応し得る訪問リハビリテーション事業所の在り方を模索し,日本の仕組みにおいて過去になかった,病院・診療所・老人保健施設以外の法人が経営する事業所運営が適正になされることを実証することが重要である.その結果として,全国の標準サービスとしての訪問リハビリステーションが認められ,地域のリハビリテーションニーズに対し,必要な人に,必要なとき,必要な量のリハビリテーションサービスを提供できることを視野に入れ,活動を始めている.

 本稿では,その背景やこれまでの経過とともに,実際の訪問リハビリテーション事業所における活動を紹介し,今後の訪問リハビリステーションの在り方について考えてみたい.

成長期スポーツ選手の障害予防における理学療法士の活動と今後の展望

著者: 青木啓成

ページ範囲:P.211 - P.219

はじめに

 文部科学省では2010年8月に,スポーツ立国の実現に向けて必要となる施策の全体像を示す「スポーツ立国戦略」を策定した1).この戦略は,日本の「新たなスポーツ文化の確立」をめざし,人(する人,観る人,支える・育てる人)の重視と連携・協働の推進を基本的な考え方として,今後概ね10年間で実施すべき5つの重点戦略(表1),政策目標,重点的に実施すべき施策や体制整備の在り方などをパッケージとした広範囲をカバーするものとなっている.

 さらに2011年には「スポーツ基本法」1)が施行された.これは1961年に制定されたスポーツ振興法を50年ぶりに全面改正したものであり,スポーツに関し,基本理念を定め,国および地方公共団体の責務ならびにスポーツ団体の努力等を明らかにするとともに,スポーツに関する施策の基本となる事項を定めるものである.

 スポーツ振興法が1964年の東京オリンピックの開催を控えて制定され,施設設備等に主眼が置かれていたのに対し,スポーツ基本法は前文で「スポーツ立国の実現を目指し,国家戦略として,スポーツに関する施策を総合的かつ計画的に推進する」ことを謳い,スポーツの振興を国家戦略として位置づけている.

 特に,スポーツ立国戦略の5つの重点戦略のなかでは,「安心してスポーツ活動を行うための環境を確保するためにスポーツ医・科学を活用し,日常のスポーツ活動におけるスポーツ障害等を予防するため啓発活動や指導者の資質の向上を図る」と述べられている.さらに学校・運動部活動の充実においては地域の医療機関などの専門家等と連携をとることの必要性を示している.

 こうした国家戦略をもとに,われわれ理学療法士が地域で行うべき活動の目的は「スポーツを行う方々の心身の健康の保持増進および安全の確保が図られ,安心してスポーツ活動が行えるようにスポーツ障害・外傷を早期発見するとともに予防対策を講じるために,地域での連携・協働を図ること」であると考えられる.

 2020年の夏季オリンピックの開催都市が東京に決定した.これからの時代を担う成長期スポーツ選手の育成において,われわれ理学療法士は前述した戦略を念頭に置きながら,地域での活動を考えていくべきである.

特別支援学校での障がい児・家族と学校教員に対する理学療法士の活動

著者: 小玉美津子 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.221 - P.228

はじめに

 1994年のサラマンカ宣言(特別なニーズ教育に関する世界会議),障害者の権利条約採択(2006年)1),世界保健機関(World Health Organization:WHO)の総会での国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)の採択(2001年)2)など,国際的動向とともにわが国における福祉,教育も大きく変化してきている.

 そのなかでも近年,脳性まひ児や小児の骨関節疾患に加えて,学習障害(learning disabilities:LD),注意欠陥多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)などの発達障害児の教育に注目が集まっている.その児たちの病態,障害像は多様で,障害の重度・重複化が進み,特別支援学校に通学する児の人数は年々増加傾向にある.文部科学省によると,2013年6月時点で,特別支援学校に在籍する児数は12万8,425人に達している.このように特別支援学校に在籍する児が増加している背景には,養護学校義務化に加え,教育環境の整備などが挙げられる.そのなかでも2003年「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議)3)において,障害のある児に対する教育を特殊教育から特別支援教育へと教育の質を踏まえた教育システムに進化させ,さらに従来用いられてきた養護学校の名称を特別支援学校へと変更し,地域のセンター的機能を有するものとして位置づけた.また特別支援教育は,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,発達障害を含む特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍するすべての学校において実施されるものとなった.これがすべての子供を包み込む(include)教育システムを構築し,そのなかで一人ひとりのニーズに合った教育を展開しようとするインクルージョン教育の始まりとなる.中央教育審議会では「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」が2012年に報告され4),教育環境のユニバーサル・デザイン化やインクルーシブ教育の展開に向けた新たな取り組みが始まろうとしている.

 2009年に特別支援学校学習指導要領5)が改訂され,障害の重度・重複,多様化に対応するとともに,一人ひとりに応じた指導を充実するため「自立活動」の指導内容に新たな項目が追加された.また,重複障害者の指導にあたっては,専門的な知識や技能を有する教師間で協力して指導を行うことや外部の専門家を活用することが明記された6)

 このように,障害児を取り巻く教育システムは質的にも制度的にも変容しており,特に特別支援教育では,児の教育的観点のみでなく地域や生活場面までを視野に入れた取り組みが求められている.そこで本稿では,わが国における肢体不自由児の障害児教育の変遷を,教育制度と理学療法士のかかわりから解説し,さらに筆者がかかわっている神奈川県の障害児教育において理学療法士が自立活動教諭として配属されている現状について触れ,特別支援教育のパラダイムシフトについて論じる.

とびら

「とびら」に思う

著者: 齋藤幸広

ページ範囲:P.181 - P.181

 「暮らしの手帖」随筆欄と本誌「とびら」が好きである.「暮らしの手帖」は四半世紀以上購読しているが,随筆は作家の作品が多く,さすがにその道のプロだけにいつも爽やかさと感動を与えてくれる.「とびら」は物書きの素人であるが,同じ生業を持つ輩が旬の思いを伝えてくれる.両者に共通していることは,字数もそれほど多くなく,集中力のなさと老眼鏡の鬱陶しさを思うと,ゆっくり読むのには最適な量なのである.

 心は壮年なのだが黄昏暦(辞書にはこの言葉は見当たらない)の節目を迎えて,二つ目標を立ててみた.一つは文才もないのに,身の回りの自然と理学療法の経験を融合させた,エッセイ風の文章を書いてみよう思い立ったこと.そしてもう一つ,手元にある「とびら」をすべて読んでみようと思ったのである.前々から「とびら」は理学療法の歴史と,理学療法士として歩んできた自分を振り返るには絶好の内容と考えていたからである.

報告

姿勢安定度評価指標(IPS)による適切なバランス能力評価の臨床指標についての検討

著者: 鈴木康裕 ,   田邊裕基 ,   丸山剛 ,   塩見耕平 ,   船越香苗 ,   石川公久 ,   江口清

ページ範囲:P.232 - P.236

要旨:本研究の目的は,重心動揺検査によるバランス能力の評価において適切な臨床指標を検討することである.

 姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability:IPS)を検討の対象として,IPSを重心動揺計によって従来用いられてきた各指標(動揺面積,単位軌跡長,ロンベルグ率)と比較し,またIPSの適切な臨床指数として最小可検変化量(minimal detectable change:MDC)を求めた.

 対象は若年健常者101名(年齢:25.3±5.6歳,男性45名,女性56名)とした.各指標における2回の測定値間の変動率を比較した.またIPSにおける再現性の検討を系統誤差の観点から行うことでMDCを算出した.その結果,1-2回目の変動率についてはIPSの変動率が他の指標と比べ有意に少なく,またIPSにおいて系統誤差は認められず,MDCは0.26と算出された.

 これらのことから,重心動揺計を用いたバランス能力の評価において,IPSが系統誤差においても再現性に優れた指標であることが示唆され,また適切な臨床指数も示すことができた.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

日本語版変形性膝関節症機能評価尺度―Japanese Knee Osteoarthritis Measure:JKOM

著者: 神戸晃男

ページ範囲:P.237 - P.237

 日本語版変形性膝関節症機能評価尺度は,変形性膝関節症(膝OA)のQOL評価として赤居ら1,2)によって開発された.従来用いられてきた膝関節JOA(日本整形外科学会)スコアは患者立脚型でないことから,JKOMはわが国の文化を反映しかつ国際的比較を行うことができ,疾患特異的・患者立脚型評価表尺度による評価として推奨されている1).この評価は運動療法の効果のエビデンスを検証するために開発されたものであり,妥当性,信頼性が認められている1,2)

 評価は,最初にこの数日間の痛みの程度を「痛みなし」から,「これまでに経験した最も激しい痛み」の範囲である10cmの線上にチェック(×印)した後,疼痛とこわばり,日常生活機能,全般的活動,健康状態を自記式で回答する(表).この5段階のスケールでは,1(痛みがまったくない,困難がないなど)が最も良く,5(ひどく痛い,非常に困難など)が最も悪いスコアとなる.したがって,JKOMの採点において125点が最も悪い状態を指す1,3).なお,自己評価の際には医師または担当者の前では記載しないことなどの留意が必要である.

最近の患者会・家族会の活動

日本ALS協会

著者: 平岡久仁子

ページ範囲:P.239 - P.239

●活動内容を教えてください.

 当会は,会員が力を合わせて筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)と闘い,患者が人間としての尊厳を全うできる社会の実現をめざすとともに,ALSに関する社会啓発・原因究明と治療法の確立のための研究助成・療養環境整備の活動として以下の事業を行っている.

・ALSに関する正しい知識の普及と啓発事業

・ALSの原因究明および治療法の確立等の研究助成事業

・ALS患者・家族に対する療養支援事業

・ALSに関する調査研究事業

・上記に掲げる事業に附帯または関連する事業

甃のうへ・第12回

人との「縁」を大切に!

著者: 谷口千明

ページ範囲:P.238 - P.238

 理学療法士になってから30年近くが経過しようとしています.その間には,数えきれない人とのご縁(めぐり逢い)がありました.私は,人は出逢うべくして出逢うのだと思っています.『出逢い』は,「偶然」ではなく「必然」のもとに起こる「めぐり逢い」.ですから常用漢字では「出会う」ですが,ただ「あう」のではなく「めぐりあう」という意味を持つ『出逢う』という漢字を使いたいと思います.

 今までの人生を振り返ると,大切な節目で大切な方々との出逢いがありました.高校生のとき,この道に進学したいと思うものの,まだあまり知られていない職業で進路指導の先生も進学先がわからず困惑していたとき,教頭先生の友人に理学療法士養成校の理事長がいるということで,そこへ進学することとなりました.教頭先生の導いてくれたご縁です.そして,入学の後には,養成校の先生方や臨床実習指導をしていただいた先生方にも大変お世話になり,いまだにお付き合いが続いています.

入門講座 拘縮・3

股・膝関節の拘縮

著者: 立山真治

ページ範囲:P.241 - P.250

はじめに

 関節拘縮とは,関節包や関節包外の軟部組織(靱帯,筋・腱,腱鞘,筋膜,皮下組織,皮膚など)が原因となって,関節の運動が制限される病態を指す.拘縮に対する理学療法は,関節や関節周囲組織の病態把握と関節可動域(range of motion:ROM)制限を評価し,① 拘縮の予防,② ROMの維持・改善に努めることが主な目的となる1)

 本稿では,ROM評価・運動上の留意点や股関節・膝関節疾患の拘縮発生機序,そして,それらの拘縮に対する理学療法について述べたい.

講座 低侵襲手術の今・3

小切開による人工股関節置換術と理学療法

著者: 出沢明 ,   長谷部清貴

ページ範囲:P.251 - P.257

はじめに

 自然治癒能力をもった生体に対して最小の手術侵襲(minimally invasive surgery:MIS)を行い,病巣にアクセスすることから生じる二次的正常組織の損傷を最小限にして,損なわれた生体の恒常性(homeostasis)の時機をみた回復が外科医療の目標である.小さな切開により明るく拡大された視野のもとでの確実な手術手技に基づいた治療は,患者が軽度の局所痛とより少ない合併症で早期の社会復帰が可能となる.Approach related traumaを最小限にし,早期の社会復帰と入院期間の短縮を目的としたMISによる人工関節置換術の手技が一般化しつつある.

臨床実習サブノート 理学療法をもっと深めよう・12

認知症患者の生活を理解する

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.259 - P.266

 認知症とは,いったん正常に発達した知能が何らかの原因で減退,あるいは後天的に脳が広範囲に障害され,大脳皮質の神経細胞の機能低下が起こっていることを意味する.さらに,種々の認知機能の問題が日常生活に支障を来す程度に強く障害された状態を指し,認知症の診断基準(DSM-Ⅳ-TR)では,表1のように定義されている1)

特別寄稿

理学療法の知と技の融合とバランス―実学としての理学療法学の観点から

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.270 - P.273

はじめに

 日本に正規に理学療法が導入されたのは,1965年に「理学療法士及び作業療法士法」(以下,法律)が制定されたときである.それ以前には,医療類似行為者などが理学療法従事者として主な医療施設などで勤務していた.しかし,理学療法学教育を通じて理学療法士を育成することの必要性が認められ,1963年に国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院が設置され,その第1回生の卒業年度に合わせて法律が制定された.だが,理学療法従事者の方々が所属する団体からの要請があり,国は特例措置として,一定の基準を満たした方々の国家試験受験を1974年まで認めていた.

 その後,日本の高齢社会の到来に比例して理学療法学教育施設が急増し,現在では大学院課程を有する大学も実現するなど,「理学療法の知」は顕著に進展してきた.一方,理学療法士の国家試験の一環として,当初は口頭試問が含まれていたが,受験生が増えてきたことからこれを実施することが物理的に困難となり,1970年代後半に廃止された.国家試験で口頭試問が廃止されたのは,理学療法士のみではなく,他の医療関連職種についても同様である.

 理学療法士の国家試験に口頭試問が含まれていたころ,受験者は,知識はもとより実技の習得にも相当の時間を費やしていたが,廃止後には,幾分「理学療法の技」が軽視されてきたような印象を受ける.筆者は,理学療法士国家試験委員を歴任した経験と長年理学療法学教育に携わってきた者として,理学療法士の「知と技」の融合とバランスとを担保することの重要性を感じている.よって,本論では,人間の知を基盤にした実学としての理学療法(学)の知と技の融合とバランスについて論じてみたい.

書評

―新田 收,竹井 仁,三浦香織(編集)―「小児・発達期の包括的アプローチ―PT・OTのための実践的リハビリテーション」

著者: 中徹

ページ範囲:P.231 - P.231

 新刊書『小児・発達期の包括的アプローチ―PT・OTのための実践的リハビリテーション』は,理学療法士と作業療法士が共有できる小児リハビリテーションにおける包括的アプローチの書籍である.ナンシー・フィニーの名著『脳性まひ児の家庭療育』(医歯薬出版)以降で久々の書籍であろう.

 発達の障がいを対象とする小児リハビリテーションは,その明解な名称に反して「状況」は単純ではない.対象疾患が幅広く,障がい内容は多様である.かかわる時期は乳幼児期から成人期に及び,理学療法士と作業療法士の区別も明確ではない.小児リハビリテーションに携わる理学療法士・作業療法士が少ない一方,臨床では小児リハビリテーションのニーズが広く存在している.これらの複雑な「状況」のなかでも日々進む小児リハビリテーションには,そのエネルギーを減ずることなく「自己変革」するミッションが課せられている.本書のタイトルは,小児リハビリテーションの「状況」を動かすための一提言でもあろう.

―田久浩志(著)―「医療者のためのExcel入門 超・基礎から医療データ分析まで」

著者: 濱岸利夫

ページ範囲:P.240 - P.240

 パソコン初心者にとってやさしい本がようやく出版された.著者の田久浩志氏は病院管理学(医療管理学),医療情報学などがご専門である.本書のような入門書が今までになかったこと自体が不思議であり,キーボード操作に始まる超・基礎から医療データまでをわかりやすく解説してある.また基礎だけにとどまらず,大量の医療データを分析することに適しているエクセルのピボットテーブル機能をも紹介してあることは注目すべき点である.私も本書をみた瞬間に「今から11年前にこの本があったら,もっと楽に卒業論文を書けただろう……」と大声で叫びたい衝動に駆られた.

 今から13年前,私は40歳を超えていたが,大学3年時に一般学生として編入学した.その後,大学4年生で卒業研究に取り組んでいたとき,パソコン操作に苦労した記憶がいまだに鮮明に残っている.私はそれまでにパソコン操作を経験したことは一応あったが,エクセルを使って数値を入力し,データを分析,そしてグラフを作成したことは皆無であった.

―中川法一(編集)―「セラピスト教育のためのクリニカル・クラークシップのすすめ(第2版)」

著者: 内山靖

ページ範囲:P.269 - P.269

 この度,2007年5月30日の初版から6年の歳月をかけて第2版が刊行されました.

 教育の重要性を否定する者はおらず,さまざまな苦悩や熱意が語られている一方で,いざ研修会を行うと参加者が集まらずに困るという話も耳にします.中でも臨床実習という統制しがたい多要因に加えて,自由度の高い教育環境では,裁量,臨機応変,ケースバイケースなど,耳ざわりのよい言葉が先行して,明確な指針と方法論の提示がなされてきませんでした.その結果,若い臨床実習指導者は,自身が受けた経験だけを頼りに学生を指導することになり,学生時代のこんな理不尽な思いだけは後輩にさせたくないと思っていたはずが,周囲からみれば“倍返し”の状態に陥っている状況もまれではありません.

お知らせ

リハ栄養フォーラム2014/第19回3学会合同呼吸療法認定士認定講習会および認定試験

ページ範囲:P.236 - P.258

リハ栄養フォーラム2014

 昨今,リハビリテーションにおける栄養管理の重要性がますます高くなっています.障害者や高齢者の方々の社会活動を支え,QOLを向上させるためにも栄養ケアは欠かせません.このフォーラムでは,リハ栄養の最前線で活躍される先生方を講師にお招きし,臨床で実践できるリハ栄養の知識を学ぶ機会を提供します.

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「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.209 - P.209

文献抄録

ページ範囲:P.274 - P.275

編集後記

著者: 斉藤秀之

ページ範囲:P.278 - P.278

 今年度も終わりに近づき,診療報酬改定への対策に翻弄されていることと思います.昨年4月に就職した皆様においても,1年があっという間に過ぎ去り,ようやく仕事に慣れた方,まだまだ日々の業務に追われている方などさまざまだと思います.そろそろやり残したこと,過ぎ去ったことを振り返ることから,明日の準備を開始してはどうでしょうか.

 さて,厚生労働省の地域包括ケアシステムの議論において「リハビリ専門職の活用」という文言が明記されています.国策は,都道府県に通知され,都道府県で計画され,市町村に落とし込まれていきます.「リハビリ専門職」である理学療法士が,介護認定審査会などの委員としてだけではなく,市町村が計画する自助・互助・共助・公助に資するさまざまな事業や事業計画の段階から参画することが次年度から求められます.直接的支援活動を保険診療上の技術料として理学療法は発展してきました.地域包括ケア時代には,組織化活動や教育・啓発活動および評価に基づく助言技能が,理学療法士の専門性として問われると考えられます.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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