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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル48巻5号

2014年05月発行

雑誌目次

特集 老年症候群と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.375 - P.375

 日本は世界で唯一の超高齢社会となり,臨床に働く理学療法士も高齢者特有の症状や徴候により評価や効果判定に困難を感じたり,目標設定に難渋したりするケースを多く経験するようになった.対象者自身も「歳のせい」と症状を軽視したり,理学療法の効果にあきらめを感じてしまっていることも少なくないと推測される.高齢者医療や介護問題が社会的にも注目されるなかで,超高齢社会に働く理学療法士が科学的根拠に基づく理学療法を実践していくために,高齢者特有の症状や徴候(老年症候群)を正しく理解することは必須である.本特集は,高齢者特有の老年症候群を理解することが高齢者医療・介護・福祉での理学療法の質の改善の一助になることを期待して企画した.

老年症候群と高齢者医療

著者: 秋下雅弘

ページ範囲:P.377 - P.384

はじめに

 65歳以上の高齢者が総人口に占める割合,いわゆる高齢化率はついに24%を超え,超高齢社会の明確な定義はないものの,超高齢社会に突入したと考えてよいであろう.しかし,超高齢社会の抱える真の問題は高齢化率ではなく,75歳以上の後期高齢者の増加にある.図1に示すように,前期高齢者の人口は横ばい,さらには減少へ転じる一方で,後期高齢者は増え続け,2050年には全人口の4人に1人が後期高齢者という時代になる1)

 その後期高齢者の半数は疾患を有し,30%は要介護状態にあるという状況は,今後数十年の医学・医療の進歩ではさほど改善しないと見込まれており,医療機関の多くが後期高齢者で占められることは避けられない.すでに全国の入院患者の半数近くは後期高齢者である.都市部の高齢化が今後顕著なことを考えると,大都市の基幹病院でも,今後は必然的に高齢者医療の波をかぶることになろう.このように,われわれが今後直面する高齢者医療は,元気に通院する前期高齢者ではなく,多くの疾患と老年症候群,日常生活障害を抱え,しばしば救急搬送される後期高齢者を主な対象としたものになると考えられる.本稿では,このような高齢者医療の中心軸である老年症候群について解説する.

老年症候群の理学療法評価

著者: 大渕修一 ,   柴喜崇

ページ範囲:P.385 - P.395

はじめに

 老年症候群は加齢に伴う生活機能の低下である.したがって,生活機能低下を主たる治療対象としている理学療法にとって老年症候群の評価は新規的なものではない.ただし,超高齢社会が進むことによって,これまで生活機能低下が著明となった者の評価から,それが明らかになる手前で,すなわちおそれのある者に対しての評価まで範疇が広がるところが新規的なところである.

 例えば,Lawton1)が1972年に示した能力の諸段階(図1)であれば,これまでの理学療法士は,バイタルサインに始まる生命維持から食事,身づくろい,移動といった身体的自立までを主な評価対象としてきたが,手段的自立,状況対応(知的能動性),社会的役割などより高次の生活機能の評価が求められる.加えて高齢期の生活機能低下は,例えば運動機能のみ単要因の低下ではなく,複数の要因から構成される.すなわち運動機能に加えて,栄養状態,認知機能,社会・心理機能,口腔機能などの包括的(comprehensive)な評価が求められることが新規的である.

老年症候群と理学療法

1.理学療法で運動機能は改善するか?

著者: 池添冬芽

ページ範囲:P.397 - P.404

はじめに

 老年症候群の代表的な徴候として,加齢による運動機能低下や筋量低下(サルコペニア)が挙げられる.本稿では特に高齢者の日常生活動作能力や転倒との関連の深い筋機能およびバランス機能に焦点を当て,①加齢に伴う筋特性の変化,②高齢者に対する筋力トレーニングの効果,③高齢者に対するバランストレーニングの効果,④高齢者に対する複合運動トレーニングの重要性について,われわれの研究結果を踏まえながら解説する.

2.理学療法で認知機能は改善するか?

著者: 島田裕之 ,   上村一貴 ,   内山靖

ページ範囲:P.405 - P.412

はじめに

 認知症は加齢とともに増加し,高齢者数の増大とともに有症者数が急激に増大し,社会保障費を圧迫する原因となっている.実際に,わが国における認知症関連費用は約3兆5,000億円に達し,全世界においては米国に次ぐ世界第2位の費用となっている1).また,国民生活基礎調査による介護が必要となった主な原因をみると,2001年には認知症が原因で要介護となった者は10.7%(第4位)であったのが,2010年には15.3%(第2位)となり,団塊世代が今後10~20年の間に認知症の好発年齢を迎える2025年ごろには認知症高齢者の急増が見込まれ,その予防が急務の課題となっている.

 認知症の主な原因疾患であるアルツハイマー病および脳血管疾患に対する根治療法や予防薬の開発が確立されていない現在において,認知症の予防もしくは発症遅延のための非薬物療法の可能性を検討することも重要である.近年,この非薬物療法のうち,認知機能改善,またはその低下予防に対して身体活動量増大の促進や有酸素運動による習慣的な運動介入の有効性に関するエビデンスが構築されつつある.運動による介入プログラムは比較的低コストで実施でき,短期間で効果を得ることが期待できることから,認知症予防事業の中核を果たす可能性を持っている.より効果的な運動プログラムの開発と効果検証,さらに地域医療の現場における実践のために,医療分野における「運動」の専門家である理学療法士の果たすべき役割は大きいと考える.

 本稿では,理学療法による治療手段の主軸と言える「運動」が認知機能に及ぼす影響と,そのメカニズムについて概観するとともに,介護予防の新たな方向性として,認知症の予防を目的とした運動介入の効果についてわれわれの研究グループでの取り組みを含めて概説する.

3.理学療法で息切れ,嚥下困難は改善するか?

著者: 野添匡史 ,   間瀬教史 ,   荻野智之 ,   和田智弘 ,   福田能啓 ,   道免和久

ページ範囲:P.413 - P.422

はじめに

 高齢者が息切れ(呼吸困難),喀痰・咳嗽,嚥下困難などの症状を訴えることは少なくない.これは,基礎疾患の病状変化に加えて,加齢に伴う呼吸機能の低下,骨格筋の機能低下(筋量の減少)などが関与している.本稿では,息切れ,喀痰・咳嗽,嚥下困難などの症状が高齢者で生じやすいメカニズムと,各症状に対する理学療法の実際について述べる.

4.理学療法で頻尿・失禁や便秘は改善するか?

著者: 橋立博幸

ページ範囲:P.423 - P.432

はじめに

 尿失禁,頻尿,便秘は加齢とともに増加する1)老年症候群の症状であり,疾患の罹患によって助長される排泄障害である.これらの排泄障害は,日常生活活動制限,社会参加制約を引き起こし,生活の質の低下や閉じこもりを招くとともに家族介護者の介護負担増加の要因となる2).そのため,排泄障害の効果的・効率的な改善は超高齢社会において継続的に求められる課題である.排泄障害を有する高齢者を対象とした理学療法では,排泄動作にかかわる動作障害への介入3)とともに,尿失禁や便秘の症状そのものの改善に資する介入を積極的に推進していくことが望ましい4)

 本稿では,老年症候群を有する高齢者の尿失禁と便秘に対して理学療法士がどのような手段で改善を図ることができる可能性があるか,病態を整理しつつ近年の研究報告を交えて述べることとする.

とびら

尊敬する恩師との出逢い,そして世界の窓へ

著者: 山本大誠

ページ範囲:P.373 - P.373

 私が理学療法士の養成校の教員になってから9年が経ち,臨床経験の年数とほぼ同じ歳月が流れたことになります.教育現場では私が尊敬する恩師のもとで,理学療法はもちろんのこと,ホモ・ルーデンス(遊戯の人)としての人生哲学,理学療法の本質,教育学,世界情勢などについて,ときに居酒屋で,ときにご自宅で,そしてときに英語での対話を振り返ると質の高い学びの場であったことに気づきます.

 人生と理学療法を楽しむ恩師は,近年では子象への理学療法を実施するなど,その好奇心において新たな領域の先頭を今なお進まれています.このような精力的な活動を目の前でみせてくれる,己の成長に力を与えてくれる恩師に出逢えたことは幸運でした.良き恩師との出逢いとは,己の生活設計や仕事上の目標を考えるときの貴重な参考になると言えます.

甃のうへ・第14回

訪問看護ステーションを立ち上げて

著者: 山田恵

ページ範囲:P.434 - P.434

 私が訪問リハビリテーションの仕事を始めたのは,40歳のときです.障害を持って生まれた甥の存在がきっかけでした.姉は重度の自閉症であるわが子を抱え,片時も目が離せず,いつも一人で育児とたたかっているようにみえました.障害を持つ子供を育てる母親の大変さを目の当たりにし,理学療法士として,そして私自身も子供を育てる母親として,「力になれることは何?」と,考える時間が増えていきました.そして,「まずは自分のできることからやってみよう」と訪問看護ステーションを立ち上げ,この世界に飛び込むことになったのです.

 十分な準備も基盤もない,今思えば恐ろしいほど,無謀なスタートを切った当初は,訪問の依頼も少なく,借金に足が震える毎日…….さらに,リーダーシップがうまくとれない私の未熟さから,スタッフ間の調整に追われ,「戻れるものなら白紙に戻して別の職場を探したい」と,何度もくじけそうになりました.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

発達指数

著者: 臼田由美子

ページ範囲:P.435 - P.435

 発達指数(developmental quotient:DQ)は小児期の身体・精神機能の発達を評価する発達検査の結果として算出される,発達年齢(developmental age:DA)を暦年齢の比で示したものである.
① 算出式:DQ=DA÷暦年齢×100
② 対象:発達課題が明確で,個体差の少ない乳幼児期に用いられることが多い.
③ 判定基準(新版K式の場合):正常80~120,境界域70~79,遅滞69以下

最近の患者会・家族会の活動

日本筋ジストロフィー協会

著者: 大竹みふみ

ページ範囲:P.439 - P.439

 「日本筋ジストロフィー協会」の前身である「全国進行性筋萎縮症児親の会」は,1964年に結成されました.その前年に筋ジストロフィー症児の母親たちの訴えがマスコミを通じて広まり,43名の親が立ち上がり国に要望を提出したのが,会の始まりでした.1968年には厚生省より社団法人の認可を受け,本格的な活動を始めることとなります.

 筋ジストロフィー症は徐々に体中の筋肉が萎縮し,その機能を失っていく病気の総称で臨床経過などからいくつかのタイプに分類されますが,そのうちデュシェンヌ型筋ジストロフィーに関しては臨床研究が進み,治療薬の治験段階に入るなど,筋ジストロフィーに関する医療への期待は近年急速に高まっています.

新人理学療法士へのメッセージ

今しかできないこと―コツコツとがむしゃらに

著者: 東海林崇弘

ページ範囲:P.436 - P.438

はじめに

 今春,国家試験に合格された新人理学療法士の皆さん,おめでとうございます.

 皆さんは既に入職し,1か月程度経過したころでしょうか? 熱い思いを胸にやりがいのある日々を過ごしている方,思いどおりいかず葛藤の日々を過ごしている方,さまざまだと思います.しかし,人の成長は皆一定ではありません.焦ることなく,背伸びをせずにしっかりと先輩の背中から学び,相談し,自分の歩幅で歩んでください.新人の皆さんにとって,今がさまざまなことを吸収できる最高の時期です.また,これから歩んでいく長い理学療法士としての骨子をつくる最も重要な時期でもあります.私の経験から,今この時期に培わなければならないと考えることについてお伝えし,少しでも葛藤を抱えている皆さんに笑顔とゆとりをつくるお伝いができたら幸いです.

新たな50年に向けて いま伝えたいこと・第2回

遠藤文雄

ページ範囲:P.441 - P.445

 私は宮城県の鳴子の生まれです.高校卒業後に一度上京したのですが,長男だからと呼び戻され,国立鳴子病院に看護助手として就職しました.鳴子温泉は「鳴子八湯」と言われるように泉質が多種多様で,1938年には傷痍軍人の温泉治療を目的に陸軍病院が設立された経緯があります.名称が国立鳴子病院に変わってからも整形外科が中心で,私が入職した当時,鳴子病院では温泉療法のほかに,すでに運動療法が行われていました.それを指導したのは,当時福島医科大学の助教授であり,後に生涯お世話になる土屋弘吉先生です.先生は院長の菊地正三先生と兄弟弟子という間柄で,留学先のニューヨーク大学で学んだ運動療法を指導してくださったとのことでした.

 鳴子にはもう一つ,東北大学医学部附属病院鳴子分院がありました.ここでは特にリウマチ治療に力を入れていて,ドイツ医学の考え方を取り入れ,内科的なリハビリテーションの一つとして患者さんに温泉を飲ませていました.私も小学生のころ,被験者として温泉を飲まされたことがあったんですよ.鳴子病院の内科に分院から医師が派遣されてきていたこともあり,2つの病院の影響を受けながら,日々の実践のなかで「リハビリテーションというのはこういうものなのだな」と学んでいったように思います.

入門講座 義肢装具の適合・1【新連載】

プラスチック短下肢装具の適合

著者: 島津尚子

ページ範囲:P.449 - P.456

 プラスチック短下肢装具(ankle-foot orthosis:AFO)は,AFOの処方のなかでも多くを占め,脳卒中片麻痺者だけでなく,末梢神経障害などにも使用され,多くの理学療法士が臨床のなかで接するAFOであろう.しかし近年では,装具の適合判定に理学療法士がかかわることが少なくなっている現状もある.患者が装具を適切・安全に処方,使用していくためにも,患者の身体・精神・運動機能を理解し装具の適合・調整を行うことは,義肢装具士とは異なり患者と多くの時間を共有し,ADLの状況をよく理解している理学療法士の知識・技術が発揮できる分野と思われる.そこで本稿では,プラスチックAFOの適合調整について,靴べら式AFO(shoe horn brace:SHB)を中心に身体機能,活動の特性を考え,ポイントを述べる.

講座 子供の理学療法・1【新連載】

小児メタボリックシンドローム

著者: 岡田知雄

ページ範囲:P.457 - P.461

はじめに

 メタボリックシンドローム(metabolic syndrome:MetS)の成因には,運動不足と栄養過多が関係していることが,2005年における成人のMetS診断基準を発表した日本内科学会雑誌にも記載されている1).また,2004年国民健康・栄養調査の成績で,40歳以上の日本人男性の半数以上が,腹囲85cmを超えて,1項目以上の代謝異常(または高血圧)を有するMetSないしはMetS予備群となっている.このうちの大部分は,就労後の運動不足と食習慣の乱れが原因となって,このような状態に至っていることが明らかにされている.

 わが国の小児におけるMetSの成因については,まだ十分に解明されているとは言えない.英国の小児肥満外来における調査では,低出生体重児と糖尿病の家族歴が有意にMetSの因子として関連していたことが報告されている2).肥満の程度が高度であるからといって,必ずしもMetSとならないことは,われわれも日ごろ実感するところである.われわれの健常児を対象とした調査3)では,MetSの前提となる腹囲の基準が,日常における運動習慣のなさと関連していた.

臨床実習サブノート 臨床実習における私の工夫・2

実習指導者と実習生のコミュニケーション―私ならこうする

著者: 荒木茂

ページ範囲:P.464 - P.468

はじめに

 私が理学療法養成校で学んでいたのは1977年ごろのことで,今の臨床実習とはまったく異なる内容であった.理学療法士が非常に少ない時代で,大多数の病院では先輩理学療法士の助手のように理学療法,物理療法を手伝っていたようなものであった.卒業してからは即戦力として期待されており,まさに体で覚える実習であった.「習うより慣れろ」である.レポートは症例を1例書くらいであったし,勤務時間外のフィードバックというものはほとんどなかった.夜遅く病院に残る人もあまりいなかったように思う.理学療法士養成校が非常に少ない時代で,卒業生に就職してほしいということもあり実習生が歓迎された.実習期間も1か所8週間と長かったので,学生でありながら半分職員のような変なプライドを持っていた時代だった.

 私自身,学生のころはコミュニケーションが上手ではなかったし,どちらかと言えば態度の悪い学生だったので,このようなテーマで原稿を書くのは恐れ多いが,今までの経験と反省のなかから実習生に少しでも役立つように,また実習指導者がもう一度学生の立場になって実習を見直す機会になればと思い,できの悪い先輩からの助言として書かせていただきたい.

 コミュニケーションがうまくいかないというのは一方だけの問題ではない.したがって,この稿では実習指導者と実習生双方が努力し工夫すべき点について思いつくことを述べてみたい.

お知らせ

リハ栄養フォーラム2014/第9回兵庫リウマチチーム医療研究会/第21回日本赤十字リハビリテーション協会研修会/日本転倒予防学会第1回学術集会

ページ範囲:P.404 - P.456

リハ栄養フォーラム2014

 昨今,リハビリテーションにおける栄養管理の重要性がますます高くなっています.障害者や高齢者の方々の社会活動を支え,QOLを向上させるためにも栄養ケアは欠かせません.このフォーラムでは,リハ栄養の最前線で活躍される先生方を講師にお招きし,臨床で実践できるリハ栄養の知識を学ぶ機会を提供させていただきます.

書評

―丹羽滋郎,高柳富士丸,宮川博文,井上雅之,山本隆博,稲見崇孝(著)―「メディカルストレッチング(第2版)―筋学からみた関節疾患の運動療法」

著者: 丸山仁司

ページ範囲:P.447 - P.447

 メディカルストレッチングは二関節筋に着目し,いずれかの関節を緩めて目的の筋肉を伸ばすという新しいストレッチングである.従来のコンディションで利用されているストレッチングとは異なり臨床場面で治療目的のストレッチングというところからメディカルストレッチングと名付けられた.なお,重力に着目して実施していくことで効果がより得られやすいのが特徴である.本書は図が非常に多く,わかりやすく構成されている.そのため,実際にストレッチを行いやすく,また効果を実感しやすく,セルフケアにもつなげやすい点が特徴として挙げられる.

 理学療法の基本は運動学であり,それを構成しているのが解剖学,生理学などであり,人体の構造および機能は非常に重要である.特に人体の骨,関節,靱帯,筋の解剖学は運動療法を実施する職種にとって専門であるといっても過言ではない.運動は骨,関節,靱帯,筋の作用で行われ,障害もこれらの影響で生じる場合が多い.運動においては骨・関節の形態,筋・靱帯の起始と停止(走行),筋の起始,停止(走行),および作用などが重要である.

―山口晴保(著)―「認知症予防(第2版)―読めば納得!脳を守るライフスタイルの秘訣」

著者: 池添冬芽

ページ範囲:P.463 - P.463

 「認知症を予防する手立てはない」と思っている方は一般の中高齢者のみならず専門職にも多いのではないだろうか? 認知症への関心の高まりとともに,近年,認知症に関する本が多く出版され,科学的根拠が不確かなことでもトピックスとして取り上げて「○○をすればボケない」と謳っている本も多くみられる.本書はそのような本とは一線を画し,質の高い科学研究で示された信頼性の高い根拠(エビデンス)に基づいて認知症の予防策を示している.もちろん,「これをすれば認知症にならない」という絶対的な方法はなく,あくまでも認知症の発症を遅らせるということが「認知症予防」であり,発症を遅らせて,その間に生き生きと余生を楽しんで天寿をまっとうすることが認知症予防の目標であることを説いている.

 「エビデンスに基づいた」と言うと,一見,難解な本のように思うかもしれない.しかし,非常に専門的・学術的な内容が多く含まれているにもかかわらず,本書は平易な文章でわかりやすい例を示しながら書かれており,誰が読んでも理解しやすいように配慮されている.動物実験・疫学研究の両観点からエビデンスレベルの高い研究報告を紹介し,あるいはエビデンスレベルが高くない研究を引用している場合には「ただし,この研究の信頼性は高くない」と明示し,実に明快で説得力のある解説がされている.例えば,テレビや雑誌でも話題のテーマとして「カレーを食べることは(クルクミンを摂取することは)アルツハイマー型認知症を予防するか?」については,「複数の動物実験では有効性が示されているが,疫学研究では信頼性が高くない横断調査しかないので,推奨レベルはBランクである」というように,きちんとした根拠や確証をもって効果が期待できるものかどうかが示されている.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.412 - P.412

文献抄録

ページ範囲:P.470 - P.471

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.474 - P.474

 私の専門は内部機能障害系理学療法である.内部機能障害の理学療法には,運動機能障害が強調される老年症候群はあまり関係ないのではと思う読者もいるかもしれないがとんでもない.3月21~23日に東京国際フォーラムで行われた第78回日本循環器学会学術集会でも,多くのセッションで老年症候群に関連する内容が議論されていた.冠動脈のカテーテル治療を得意としている医師は「カテ屋」と称されることもあるぐらい,カテーテルのみに強い興味を示すが,そのようなカテ屋の医師ですら,老年症候群への対応がカテーテル治療の成否に重要だ,と力説されていた.これまで以上に高齢者に対する関心が高くなっている.もはや「私の専門は……」ということ自体ナンセンスなのかもしれない.

 本号の特集「老年症候群と理学療法」では,まず,秋下先生に老年症候群をわかりやすく解説いただいた.老年症候群を扱う難しさとチャレンジを教えてくれている.続く大渕先生はさまざまな老年症候群の評価を紹介し,縦断的かつ包括的評価の重要性を説かれている.老年症候群は,「包括的な対処を要する加齢に伴うさまざまな症状と生活機能の障害」と要約することができるが,理学療法で老年症候群は改善するのであろうか? 運動機能については高齢者トレーニングの第一人者の池添先生に最新の知見を加えて解説いただいている.また,NHKにも登場した島田先生は運動による認知機能改善のメカニズムを自験例とともにまとめている.続く野添先生が息切れや嚥下困難について,橋立先生が頻尿や失禁,便秘について,理学療法が及ぼす影響や効果についてレビューしている.どちらも理学療法の可能性を感じさせてくれる.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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