2.腹膜透析患者に対する理学療法
著者:
平木幸治
,
井澤和大
,
渡辺敏
,
櫻田勉
,
柴垣有吾
,
木村健二郎
ページ範囲:P.713 - P.718
はじめに
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は,血液透析(hemodialysis:HD),腎臓移植と並び,末期腎不全に対する腎代替療法の一つである.わが国の透析患者数は,2011年に30万人を突破し,2012年末時点で31万7人と増加の一途をたどっている.そのうち,PD患者数は9,514人であり,全透析患者数に占める割合はわずか3.1%である1).過去のPD患者数も2002年で8,569人,5年前の2007年で9,362人と10年前と比較すると増加しているが,この5年ではその増加も横ばいで推移している.HD患者は年に数千人単位で確実に増加しているのに対し,PD患者数は増加していない.その理由として,教育や医療システムの不備,血液透析施設グループ化による影響,被囊性腹膜硬化症の危惧,医療政策面でのPD誘導の欠如,透析液と機械の開発や治験の停滞,およびPDに関する医療者の考え方などが挙げられている2).
しかし,PDはHDと比較して生理的で持続的な透析方法であり,循環動態への影響が少ない.このことから,残存腎機能が維持されやすく,治療による拘束時間が少ないため透析導入前のライフスタイルを維持することが可能となり,QOLが保たれるなどの利点がある.特に,残存腎機能は死亡率の減少3)など生命予後に大きく寄与する重要な因子である.以上より,近年では残存腎機能を有する末期腎不全患者の治療として,PDを第一選択とするPDファーストの概念が提唱されている4).本邦では,2009年に日本透析医学会により「腹膜透析ガイドライン」が策定され,PDの普及に向けた取り組みが行われている5).
本稿では,まずPDの透析方法や特有の合併症について解説し,次にPDの理学療法についてはわれわれの経験をもとに運動を実施する際の注意点を中心に述べたい.