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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻1号

2015年01月発行

雑誌目次

特集 姿勢と歩行—理学療法士の診るべきこと

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.3 - P.3

 「姿勢」と「歩行」は相互に関連し合い,多くの身体機能に影響を受ける.理学療法士が歩行に介入するとき,必ず同時に姿勢も診る.正常運動学と異なる姿勢や歩行運動であっても,生理的変化・病態に伴う異常・そして非生理的な状態への適応の混在したすがたであるケースも多い.歩行異常が単一の機能的問題に起因するとは限らない.「姿勢と歩行」へ介入する専門職として,理学療法士に必要な知見・みかた・考え方をまとめた.

姿勢と歩行の成り立ちと運動制御

著者: 石井慎一郎

ページ範囲:P.5 - P.13

はじめに

 ヒトの移動様式は脊柱と後脚が直立した姿勢を基本姿勢として,二本の脚を交互に振り出して推進する直立二足歩行である.地球上には多種多様な生物が存在しているが,直立二足歩行が可能な生物はヒト以外に存在しない.ペンギンやダチョウ,サルなど,後脚で二足歩行を行う生物が存在しないわけではない.しかし,ヒト以外の生物の二足歩行では,脊柱と大腿が鉛直軸に対して傾斜しており,膝関節が屈曲した状態で体重を支持している(図1).したがって,これらの生物の二足歩行は直立二足歩行とは呼ばない.直立二足歩行は,ヒトだけにみられる極めて特異的な移動様式だと言える.

 生物の解剖学的特徴は移動様式と密接な関係がある.その生物が生息する環境と重力場の影響が外圧となり,適応条件として選択された移動様式が進化の指向性を決定する.筋骨格系の進化は,そうした力学対応の結果として生じたものである.最近の研究結果から,ヒトの祖先は初めから直立二足歩行をめざして進化したのではなく,直立姿勢への適応という段階を経て,その結果として直立二足歩行が可能になったと考えられている1).つまり,ヒトの姿勢と歩行の成り立ちは,重力場に対して姿勢を直立化させ,前肢を体重支持から完全に解放する指向性に基づいているということである.したがって,ヒト固有の移動様式である直立二足歩行の成り立ちを知るためには,姿勢が直立化した意味と,その成り立ちについて知る必要がある.

姿勢と歩行を関連づけた評価

著者: 原田和宏

ページ範囲:P.15 - P.20

はじめに

 歩行の評価は19世紀後半より姿勢と四肢の運動形態の連続的変化の計測が行われ,20世紀に入り力学的側面の解析に移った1).今では,歩行は高度に自動化された運動で個体間の差が少ない定型的な運動ということに加え,関節構造のほかに姿勢制御といった中枢神経を含む多くの機能的要素が関与している運動として解析されている.一方で,歩行動態は高齢社会となった現在では臨床的な関心事である転倒発生との関係性のなかで多面的な解明も進んでいる.たとえ生活機能が高い高齢者であっても,歩行動態は加齢による末梢および中枢システムの機能低下の影響を受け(図1)2),軽度な機能障害が重なることで転倒などの歩行障害に至るとされる.このことは私たちに何のメッセージを投げかけてくれているのだろうか.

 他方,姿勢(立位姿勢)の評価は,形態的側面と姿勢保持や変化を制御する機能的側面がある.理学療法では姿勢制御の側面に着目することが多く,それについては歩行と強く連動しているが,姿勢の形態的な側面についてはどう理解すればよいのだろうか.

 本稿では,歩行が幾多の機能的要素を含む統合された動態であることを前提として,立位姿勢も歩行動態に関与していることを示すと同時に,病態別・関節機能別ではない歩行動態の臨床評価の視点を説明する.

生理的変化か異常か適応か? 各病態における姿勢と歩行の解釈

1.高齢者の姿勢と歩行

著者: 太田進 ,   藤田玲美 ,   小島彰子 ,   鳥居善哉

ページ範囲:P.21 - P.28

はじめに

 高齢者の姿勢変化は全身に及び,臨床上,円背,骨盤後傾,膝関節屈曲が観察される.円背に関しては運動機能・転倒リスク1)との関連が報告されており,特に女性においてその傾向が強いと述べられている2).また,呼吸機能3),生命予後4),QOL5)と関連する報告が多くなされている.

 高齢者を対象とした姿勢の研究では,参加する高齢者の運動機能がかなり良く,運動習慣のある高齢者を対象としていることが多い1,2).ボランティアバイアスがかかっていない高齢者(平均的に運動機能が低下している地域高齢者など)でないため,一般化するうえで対象者は運動機能が比較的良いと考慮する必要がある.対象者のリクルートの問題より,ボランティアバイアスがあまりかかっていない高齢者を対象とし,全身姿勢を評価した報告は少ない.

 本稿では,デイサービス利用者を対象とした全身姿勢の各体節間の関連とそれらと歩行機能の関連を検討した研究を中心に紹介する6).また,高齢者の姿勢の特徴として頭部前方偏位があり,頭部前方偏位と頸部伸展筋力,姿勢と呼吸機能,変形性膝関節症の歩行についても,姿勢と歩行の関連という視点で言及する.なお,姿勢の変化が大きいとされている女性を対象とした研究を主にまとめた.

2.パーキンソン病患者における姿勢と歩行

著者: 堀場充哉

ページ範囲:P.29 - P.37

パーキンソン病の姿勢異常と歩行障害

 歩行障害はほとんどすべてのパーキンソン病に出現し,移動能力の低下や死亡率増加の原因となる.パーキンソン病の歩行障害は,歩幅や歩隔の減少,歩行速度の低下,歩行中の腕振り減少や消失といった運動症状だけでなく,すくみ足,加速歩行に代表されるような,精神症状,認知症状などの非運動症状あるいは環境にも影響を受ける症状としての側面も有する1)

 また,パーキンソン病の歩行障害の特徴は疾病の進行によっても変化する.発症早期から中期では,歩幅の減少や歩行速度の低下が特徴であるが,はっきりしない場合も多い.年齢や気分障害(抑うつ)などの他の要因やサブタイプによっても歩行障害の程度,特徴は影響される.一方,進行期以降になると,歩行障害はより複雑になり,すくみ足や加速歩行,姿勢不安定性が出現し,転倒に至る患者も著しく増加する.この病期になると,いわゆるパーキンソン姿勢と呼ばれる前傾前屈姿勢(stooped posture)に加え,頸部前屈やcamptocormia,Pisa徴候など頸部や体幹の姿勢異常を呈する場合もある.本稿では,パーキンソン病の姿勢異常や歩行障害について概説するとともに,理学療法やその効果に関する知見を紹介する.

3.COPD患者における姿勢と歩行

著者: 浅香満 ,   千木良佑介

ページ範囲:P.39 - P.47

はじめに

 われわれは,体内で生じている事象に特有の姿勢をとることにより対応している.姿勢に影響を及ぼす因子としては,器質的因子,心理面,生活習慣,生活環境,衣服等多くの因子が挙げられる.例えば,心理的に不調のときは「肩を落とし,うつむき傾向」にあることが多い.呼吸に関して言えば,高強度の負荷が身体にかかったとき,「体幹を前傾」し「両手を前方に支持」し「肩甲帯を使って呼吸をして」呼吸の回復を図る.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や喘息の患者が呼吸困難時にとる姿勢は,起座呼吸など臥位よりも座位をとっていることが多い.

 本稿では,COPDを中心とした呼吸不全患者がとりやすい姿勢について関連する基礎知識や,姿勢が呼吸に与える影響についてまとめる.理学療法の臨床における評価・考察の一助となれば幸いである.

とびら

己所不欲,勿施於人

著者: 佐藤哲哉

ページ範囲:P.1 - P.1

 この業界に入って早四半世紀以上が経過した.

 私がリハビリテーション養成校に入学した当初は「リハビリテーション」という言葉も現在よりは社会的な認知度は随分低かったように思われる.

甃のうへ・第22回

多くの人に支えられて在る“今”

著者: 奥佐千恵

ページ範囲:P.50 - P.50

 「私は理学療法士に向いていない」これまで何度そう思ったことか.

 初めてそう思ったのは,学生時代,初実習に行った後だった.担任に学校を辞めたいと相談したが,とにかく次の臨床実習に行ってから決めてはどうかと言われた.その実習地で,私は人間味に溢れるA先生に出会い感銘を受け,理学療法士の道に足を踏み入れようと覚悟したのだった.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

廃用症候群

著者: 後藤亮平

ページ範囲:P.51 - P.51

 廃用症候群は,身体の活動低下に起因する身体機能および精神機能の二次的障害を総称した用語である1).西洋医学において,1940年以前は治癒するまでは安静臥床という考えが基本であったが,1940年代以降になると,早期から離床することの重要性が報告されるようになった.また,1960年代以降になり宇宙医学に関する研究成果が報告されるようになったことは,安静臥床の弊害を実証するきっかけになった.

 1964年にHirschbergにより初めて「Disuse syndrome」という用語が使われてから,国内においても「廃用症候群」という用語が広まった.

日本理学療法士学会・分科学会の紹介

日本神経理学療法学会の設立と活動

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.52 - P.52

 本学会は,中枢神経障害領域の研究部会創設早期から毎年学術集会を開催しながら分科学会化を推し進めてきたので,学術集会も2014年で11回目になる.以下,本学会が目指す方向性などについて紹介する.

入門講座 脳画像のみかた・1【新連載】

脳画像をみるための基礎知識

著者: 小柳靖裕

ページ範囲:P.53 - P.62

はじめに

 CT(computed tomography)は1970年代より,MRI(magnetic resonance imaging)は1980年代より普及し,現在では画像診断は脳損傷の診断や予後,治療方針を決定する不可欠なツールとして確立されている.フィルムの時代では理学療法士が詳細に確認する機会は少なかった脳画像であるが,電子カルテ化や病診連携における医療画像データの共有化などにより,脳画像を読影できる環境は整いつつある.

 本稿では,脳の機能解剖およびCT・MRを中心に脳画像の種類と特徴について説明し,リハビリテーション部門での利用意義について報告する.

講座 認知症Update・1【新連載】

認知症の捉え方

著者: 岩田淳

ページ範囲:P.63 - P.69

認知症とは

 現在では広く浸透している「認知症」という単語は,dementiaの訳語として造語されたものである.それには,以前よりdementiaの訳語として使用されていた「痴呆」のもつ差別的な響きを問題視した2004年4月の厚生労働大臣に対する要望書の提出を受けて,行政用語・一般用語として2005年から使用されるようになった経緯がある.

 しかしながら,一般では「認知症」という単語が正確に理解されているかというと,疑問に思うことが多いと言わざるを得ない.ICD-10にせよDSM-Ⅳにせよ,dementiaに対する正確な定義が存在し(表1),それに従って診断するわけだが,これらはきわめて文学的な基準であって,糖尿病や高血圧のように数値化された基準がないこともあり,医師のなかでも普段から認知症診療に従事していなければ「認知症」の定義を述べることができる者も少ないかもしれない.

新たな50年に向けて いま伝えたいこと・第10回

中屋久長

ページ範囲:P.71 - P.75

 私は医師をしていた2人のおじの影響で医学部を受験したのですがうまくいかず,高校卒業後,予備校に通うために上京しました.しかしいざ東京に行ってみると高度経済成長のまっただなかだったんですね.経済活動への興味が高まり,経理専門学校に1年間通い,親戚の経営していた地元の企業に就職しました.

 経理,営業,製造と8年ほど勤務したでしょうか.1967年の年末に,「高知リハビリテーション学院(以下,学院)が開校する」という新聞記事をみつけました.その数年前に,いろいろな職業を紹介する雑誌で理学療法士の存在を知り興味を持っていたこともあり,さっそく入学案内を取り寄せました.県内唯一のリハビリテーション施設であった白菊園(野崎病院)の信原克哉先生(現・信原病院)にも相談に行きました.信原先生は,神戸大学整形外科教室から出向中で,学院の教授予定者でもありました.先生からリハビリテーションや理学療法について丁寧な説明を受けるうちに心が決まり,入学試験を受けることにしたのです.

臨床実習サブノート 臨床実習における私の工夫・10

症例報告書—私ならこう書く

著者: 中山恭秀

ページ範囲:P.79 - P.86

はじめに

 東京慈恵会医科大学附属第三病院は,581床を有する急性期病院である.急性期医療を軸としながら,その特徴は結核病棟,森田療法センター(精神科病棟),そしてリハビリテーション科病棟という3つの回復期医療を挙げ,積極的な総合医療の提供を心掛けている.リハビリテーション病棟は回復期病棟ではなく,集中的にリハビリテーションの必要があると判断した症例については期間を定めず,社会復帰を視野に入れた総合的リハビリテーション医療を進めるための病棟として認知されている.

 さて,「症例報告書」はそもそも,理学療法士として責任を持って症例を担当できるようになってからの作成が望まれるものであり,さまざまな最終決定が行えない実習生(いわゆる免許を持たない学生)が作成するには制約がある1,2).また,実習生が症例報告書を作成することに時間をかけてしまい,指導者もその作成に追われてしまう可能性が高い.当院では入職から3年間で5通の症例報告書の作成を課題としており,4年目から臨床実習指導者としての能力を身につけるための卒後教育に力を入れている.

 一方,実習生には発表会の資料としてのレジメの作成を課題としているが,過去に当院で学んだ実習生が作成したレジメと,スタッフが入職3年間で作成したレポートをファイリングし,誰でも閲覧できるように学生実習室に配置している(図1).すべてを見せて模倣を推奨し,そこから最大限症例について考えてもらうことにしている.そのため本稿では,実習生に対するレジメ作成をベースとした症例報告書作成について書くこととする.

報告

股関節内転制限および外転筋力がデュシャンヌ跛行に及ぼす影響について

著者: 熊谷匡晃 ,   岸田敏嗣 ,   林典雄 ,   稲田均

ページ範囲:P.87 - P.91

要旨:[目的]本研究の目的は,股関節内転制限および外転筋力がデュシャンヌ跛行に及ぼす影響を明らかにすることである.[方法]大腿骨近位部骨折および変形性股関節症に対し手術が施行され,転院または退院時に杖なし歩行が可能となった34名を対象とした.対象を正常歩行群(N群)とデュシャンヌ跛行群(D群)の2群に分け,両群における股関節外転筋力,股関節内転角度,股関節内転角度の違いによるデュシャンヌ跛行出現率,および股関節内転角度と股関節外転筋力の関係を検討した.[結果]股関節外転筋力は,両群において有意差は認められなかった.股関節内転角度は,N群で有意に内転域が大きかった.股関節内転角度の違いによるデュシャンヌ跛行出現率は,内転域の増大とともに跛行出現率が有意に低下した.[考察]股関節内転角度の減少がデュシャンヌ跛行の出現に影響を及ぼすことが明らかとなった.デュシャンヌ跛行の原因を股関節内転制限の観点からみると,体幹を患側に傾けることは,骨盤が外方移動できない状態を体幹の側屈で相殺しているという反応と解釈した.

お知らせ

第5回JSAPT実技セミナー/日本外科代謝栄養学会第52回学術集会

ページ範囲:P.37 - P.86

第5回JSAPT実技セミナー

テーマ:犬の老いに如何にして関わるか

日 時:2015年1月18日(日)13:00〜17:00

内 容:老犬のケアとリハビリテーション(仮)

講 師:内田瑞穂先生(獣医師,みずほ動物病院院長)

会 場:国際動物専門学校1号館6階実習室(東京都世田谷区上馬4-3-2)

書評

—宮下 智(著)—「動きの質を高める スリー・ステップ・コンディショニング—最高のパフォーマンスを引き出すために」

著者: 小林寛和

ページ範囲:P.49 - P.49

 スポーツ活動に取り組む対象者へのコンディショニングは「ピークパフォーマンスの発揮に必要なすべての要因を,ある目的に向かって望ましい状況に整えること」(日体協公認アスレティックトレーナー)とされる.アスリートのみならずスポーツ愛好者も含めて,より良い状態でスポーツ活動を行うために欠くことができないものである.

 著者の宮下智先生は,さまざまな競技種目やレベルのアスリートを対象として,コンディショニングの指導,実践をされている.その豊富なご経験に基づいたコンディショニング方法として,「最高のパフォーマンスを発揮し良い成績を収めるために,心技体のバランスをとること」を目的に「スリー・ステップ・コンディショニング」を提唱している.これは三段階の内容を進めることにより,パフォーマンス向上を図っていくものである.体幹(コア)に着目し,機能改善・向上と動作への影響について詳しく解説されている.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.47 - P.47

第26回理学療法ジャーナル賞発表

ページ範囲:P.91 - P.91

文献抄録

ページ範囲:P.92 - P.93

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.96 - P.96

 ヒトが二足歩行を始めたのは,おおよそ700万年前のことです.そのときはまだ現代人とはかなり異なる様相で,徐々に今の身体構造や歩容へと変化してきました.なめらかな二足歩行はヒトの専売特許ですが,その基盤には緻密な姿勢制御があります.

 「歩けるようになりますか?」こう尋ねられた経験は皆さんお持ちと思います.しかし,歩くより立ち上がるほうが難しいのに,寝返って起き上がるほうが難しいのに……そしてそれができないと歩けないのに……なぜヒトは再び歩くことをまず望むのでしょうか.私たちは「歩く」ことを動作能力としてだけでなく,その意味をも考え,歩行練習に携わる立場にある,そう感じます.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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