汎用型対麻痺歩行補助ロボット(WPAL-G)による対麻痺者の歩行再建
著者:
加藤正樹
,
平野哲
,
田辺茂雄
,
才藤栄一
ページ範囲:P.896 - P.903
はじめに
脊髄損傷による対麻痺は,一度生じると不可逆的であり,車椅子が唯一の実用的移動手段となるが,車椅子での生活は骨粗鬆症,関節拘縮,便秘,肥満などさまざまな医学的問題を生じやすい1).また,低い視線を余儀なくされることは対麻痺者にとって大きなストレスであり2),対麻痺者の歩行に対する希望は高い3).対麻痺の歩行再建に対する期待は大きく,さまざまな骨盤帯長下肢装具による歩行再建が行われてきた.
主に欧米で用いられてきたreciprocating gait orthosis 4)やhip guidance orthosis 5)は生体の外側に股継手を有する外側系装具と呼ばれ,歩幅の確保には優れるが,歩行時のエネルギー消費が大きい,立位安定性が低いという問題に加え,骨盤の外側に大きな股継手を有することから,車椅子上での脱着が困難であった.日常生活での使用を考えると,現実的な移動手段である車椅子との併存性は非常に重要である.
そこで,筆者らは股継手を両下肢の内側に配置した内側系装具が有用であると考え,内側股継手付き両長下肢装具(Primewalk)を開発し,臨床で積極的に使用してきた6,7).図1に外側系,内側系の比較をまとめた.Primewalkは車椅子上で装着可能なだけでなく,股関節を伸展位で固定させることにより,優れた立位安定性を提供可能であった.しかし,下肢に力源がなく,膝・足関節を固定して用いるため,平行棒などの手すりがなければ起立・着座が困難であった.また,下肢を振り出すための重心移動やバランス保持を上肢に依存することから上肢の疲労が大きく,長距離移動は難しかった8).対麻痺者の実用的歩行を達成するためにはこれらの問題の解決が必要であり,筆者らはロボット技術を導入して,対麻痺者用歩行補助ロボットWPAL(Wearable Power-Assist Locomotor)の開発を進めてきた.本稿では,複数の対麻痺者が利用可能となるよう汎用性を持たせて発売されたWPAL-Gについて解説する.