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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻11号

2015年11月発行

雑誌目次

特集 地域包括ケアシステムと小児理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.975 - P.975

 「地域包括ケアシステム」とは,高齢者のシステム,介護保険の話であり,障がい者・児のお話ではないと理解されているが,編集委員会としては障がい者・児も含む概念と位置づけ「小児」に注目して今回の特集を企画した.小児における理学療法は理学療法の原点の1つであり,広域を対象とした地域リハビリテーションと市町村を対象とした地域包括ケアシステムの理念はこの理学療法を実施するうえで必要不可欠である.「小児版地域包括ケアシステム」を整理するには十分とは言えないが,その端緒となる有益な臨床実践の知識を紹介する.

小児における地域包括ケアシステムと理学療法

著者: 橋爪紀子 ,   小池純子

ページ範囲:P.977 - P.984

はじめに

 障害を持つ子供たちが地域社会でよりよく生活していくために,家族だけでなく福祉,教育などの「地域の力」による支えが充実していることは重要な条件である.特に近年の医学の進歩により気管切開や呼吸管理,経管栄養などが必要な,いわゆる在宅医療重症心身障害児が増加しており,子供とその家族を支える在宅支援サービスの重要性が高まっている.

 本特集のテーマである「地域包括ケアシステム」という名称そのものは,今後ますます増加する75歳以上の後期高齢者の生活を支援するための仕組みとしてその構築が重要視されている政策課題である.その内容は,「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるような包括的な支援・サービス提供体制の構築を目指す」ものとされている1).具体的には,24時間365日体制の生活支援,医療・介護サービスの充実と連携強化,バリアフリー住宅の整備,地域包括支援センターを中心とした支援ネットワークの構築をめざすものと位置づけられている(図1).従来の在宅ケアとの違いとして,医療機関のサービスは患者や利用者に限定せず地域全体への貢献を考える必要があること,また介護や生活へのサービスとの連動がより重要視されることなどが挙げられる.この考え方は,地域リハビリテーションの本来の概念に近いものといえる.

 障害児においても,地域包括ケアシステムに関連した支援・サービス提供を受ける機会は多いと思われるが,障害特性や教育・社会参加の場など高齢者とは異なる部分も多数あり,必要な支援・サービスやそれらを提供する機関のネットワークは小児独自のものといえよう.

 本稿では高齢者の在宅支援との相違点,障害児支援体系の歴史的経緯などを踏まえつつ,横浜市の障害児ケアシステムについて紹介する.そのうえで,これからの「小児版・地域包括ケア」と,そこでの理学療法士の役割について考えてみたい.

小児整形外科病棟における理学療法と退院支援

著者: 井上和広 ,   西部寿人 ,   福士善信 ,   藤田裕樹 ,   松山敏勝

ページ範囲:P.985 - P.991

はじめに

 近年の周産期,新生児医療の進歩により早産低出生体重児や重篤な障がいをもつ子供たちの救命率は増加しており,小児リハビリテーションの対象が多種多様化するなか,小児整形外科的治療が必要な脳性麻痺や小児整形外科疾患もいまだ少なくはない.全国の肢体不自由児施設や病院では,脳性麻痺や小児整形外科疾患に対する整形外科的手術や術前後の理学療法が施行されているが,その治療方針や内容はそれぞれの施設や地域により異なる現状にある.また退院後の支援内容や地域連携との関連性を論じているものは少ない.

 本稿では,主に脳性麻痺や小児整形外科疾患のなかでも比較的頻度の高い骨形成不全症や軟骨無形成症について,当センターにおける整形外科的治療や理学療法,またその退院支援や退院後の地域連携について,実践例を挙げ解説する.

小児の内部障害に対する理学療法と退院支援

著者: 横山美佐子

ページ範囲:P.993 - P.1000

はじめに

 内部障害をもつ子供(以下,内部障害児)の場合,四肢体幹の運動機能や能力に問題がないと思われていることが多いため,内部障害が良くなれば身体運動や活動は問題ないと認識されていることが多い.しかしながら,呼吸や循環状態が良くなれば,その後の生活は安泰するとは言いがたい症例を経験する.さらに,呼吸や循環に障害をもつ児においては,長期入院となる症例が多くなる一方で,在宅酸素療法や在宅人工呼吸管理症例が増加している.

 また,小児期における先天性心疾患の診断技術ならびに小児心臓血管外科における手術手技のめざましい進歩により,複雑な先天性心疾患を含めた95%以上の先天性心疾患患者が救命され,90%以上が成人期に達するようになった.しかし,先天性心疾患をもつ児に対する理学療法は入院時にとどまり,長期にわたり運動療法を継続実施している報告は見当たらないが,成人期には心不全を呈する症例が多いと報告されている1)

 本稿では,内部障害児の運動・活動障害について最近の知見を加えてまとめたうえで,30年前に筆者が担当した呼吸器疾患をもつ症例を提示し,北里大学病院で行っている理学療法と退院支援・調整・つなぎ方などについて反省点を加えて報告する.そして,先天性心疾患術後の運動発達について述べ,今後の課題をまとめる.

小児がん病棟における理学療法と退院支援

著者: 岡山太郎

ページ範囲:P.1001 - P.1008

はじめに

 小児がんは全悪性腫瘍からみると非常に少ない罹患数だが,毎年約2,000〜2,500人が新たに診断されている1).小児がんの診断は,それまでの児と家族の生活に多大な影響をもたらす衝撃的な出来事である.児は住み慣れた環境や家族,親しい友人から離れ治療を受けることになり,両親はわが子が小児がんになったという大きな不安を抱えながら治療を受ける児を支えるという変化に対応し,兄弟姉妹もさまざまな物理的,精神的な影響を受けることになる.

 小児がん治療を行う施設には,このように人生の有事のただなかにある児と家族に対し,多職種で包括的なケアを提供することが求められている.そのなかでも最も重要なことは過不足のない適切ながん治療を行うことであると考えるが,小児がん治療は期間が長く,療養中の生活全般にわたる諸問題,すなわち精神・心理面や社会性への配慮,勉強面,体力維持や機能障害に対するリハビリテーション,退院後の生活へのスムーズな移行などさまざまな支援が必要となる.多職種が,現状の認識と今後の方向性を共有しながら患児家族にかかわることによって,少しずつ現状を受け入れ,より良い療養生活に向けて自主的に取り組めるようになると思われる.小児がん治療を行う施設のスタッフは,各癌腫の特徴や治療に関する知識を持ち,それぞれの専門性を発揮するための経験が必要であるが,これまでは,小児がん治療が可能な約200の施設で治療を行っていたため,症例が分散してしまい,関係職種それぞれの経験が蓄積されない傾向があった2).そこで専門施設に患者を集約し,人材の育成と質の高い診療の提供が急務との判断から2013年に小児がん拠点病院が選定された(表1)3).このように,国の施策としては拠点病院に患者を集約しようとする方向であるが,実際には当院のように拠点病院ではない施設であっても,年間数十人の新患患児の診断と治療を行っており,現状では小児がん拠点病院に加え,大学病院やこども病院などその地域において診療可能な施設で診療を行っているのが現状であろう.

 日常臨床で小児がん児に対して理学療法を行う理学療法士は非常に少数であると思われる.しかし,上述のように限られた施設で治療を行うということは,患児・家族からすると自宅から離れた場所で治療を行うということであり,退院後のリハビリテーションや予後が限られた場合での在宅療養などで患児を支えることができるように,小児がん治療を行う病院と地域の理学療法士との連携は重要である.

 本稿では,小児がん治療の特徴,小児がん児に対する理学療法,退院および復学支援などについて論じてみたい.

通所系小児理学療法と社会参加支援

著者: 高橋一史

ページ範囲:P.1009 - P.1013

はじめに

 医療の進歩に伴って多くの幼い生命が救われる一方で,人工呼吸器,気管切開,経管栄養などの医療的ケアが必要な子供たちは増えてきている1).新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)や小児集中治療室(pediatric intensive care unit:PICU),後方支援病床は満床となり,医療的ケアを必要する多くの障がい児が在宅生活へ移行している.しかし,在宅生活に移行しても育児不安,虐待,療育施設やレスパイト施設の不足,資源はあっても制度が使えない地域,在宅往診の不足など障がい児が在宅生活を送るうえでの問題は多い2).そうしたなかで,通所・通院小児理学療法に携わる理学療法士は地域療育関係者と密に連携・協働を図りながら在宅生活を送る子供たちを支えなければならない.

訪問系小児理学療法と社会参加支援—18歳を過ぎてからの動向—スマイル訪問看護ステーション利用者から

著者: 直井寿徳

ページ範囲:P.1015 - P.1020

はじめに

 近年,小児を対象とする訪問看護,訪問リハビリテーションは飛躍的に増えてきた.そんななか,スマイル訪問看護ステーション(以下,当ステーション)は2000年12月に小児を中心にサポートしようと開設された.開設当初の利用者は1名だったが,現在では200名以上が利用している.本稿では,利用者への直接のアプローチだけでなく,在宅支援でどのように「その子とその家族」を支援するか,その考え方を症例を通して紹介する.

とびら

先人の教えに想う

著者: 高橋明美

ページ範囲:P.973 - P.973

 私は,理学療法士になって27年目を迎えた.臨床と教育をほぼ同じ年数経験し,昨年度より現在の大学で,自身2度目の教育の現場に足を踏み入れたところである.入職してからも,日々「教育の難しさ」を痛感してきた.これは臨床の場で学生指導をしているときにも気づいていたことではあるが,私の意図するところがどうも理解されていないようだと感じることがあった.教育の現場に移って学生に講義をしていても,やはり同様の感覚を覚えることが多かった.つい最近も,学生に講義をしているなかで“いざり”という言葉を使ったところ,学生から「いざりって何ですか」と問われたことがあった.現在では,一般には差別用語とみなされているということも一因かもしれないが,今の学生たちが,私たちが日常使ってきた言葉を使わなくなっていることに,ある意味衝撃を受けた.

 さて1990年以降,理学療法士を養成する学校は,短期大学は減少したが,3年制および4年制専門学校,4年制大学は急増した.理学療法士協会が公表している学校数は,2014年度で253校,学生総定員数は1万3,000人を超える.理学療法士の会員数は9万5,000名を超え,休会者等を含めると10万人を超える職能団体となった.

甃のうへ・第31回

共に感じ,進む

著者: 中山裕子

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 数年前,Hさんという患者さんが入院してこられました.腰部脊柱管狭窄症の急性増悪で数日のうちに両下肢麻痺が急激に進行し,入院時には移乗や座位保持も困難な状況になっておられました.Hさんは50歳台後半の男性で,重篤な症状にもかかわらず,明るくおどけたような表情が印象的な,いわゆる「おやじ」さんで,周囲を気遣い深刻な面を敢えて見せない方でした.手術後,積極的理学療法が開始され,後輩の理学療法士が担当し,私も代理で時々かかわらせていただいていました.術後も重度の下肢麻痺と腰痛があり,ご本人にとって大変な時期が続いていました.

 移乗が介助で可能になってきたある日,さらに動作を安定化させて,トイレでの排泄をと説く私に,Hさんは「オレは小のほうは座っては嫌なんだ,女になったみたいで」とこれまでの意欲的な様子とは一転,苦々しい表情で訴えてこられました.私は,「じゃあ,立って用が足せるようにしましょう」と,その場を取り繕うように言い切ってしまいました.運動麻痺の回復を考えるとずいぶん先の目標になるであろうことは後から考え直しましたが,後輩である担当にもそのやり取りのことを伝え,その後理学療法を進めていきました.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

足底感覚

著者: 大杉紘徳

ページ範囲:P.1023 - P.1023

 足底感覚とは,足底から入力される感覚情報の総称である.直立姿勢をとり,二足歩行を行うヒトにとって,足底部は唯一床面と接する部位である.そのため,足底には感覚情報を集積する機械受容器(メカノレセプター)が多数存在している.メカノレセプターは,常に変化し続ける身体重心の動揺と床面との関係につき,床反力として求心性情報を提供する.足底感覚が障害されることにより,この求心性の情報入力が阻害され,静的・動的なバランスが障害される.

日本理学療法士学会・分科学会の紹介

日本予防理学療法学会

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.1024 - P.1024

●はじめに

 社会が豊かになるに従い疾病が克服され,平均寿命は日本は男女とも80歳を超えるまでに長寿命化した.このような社会においては,もはや寿命の延長では満足できずに,健康寿命の延伸を求めるようになってきている.世界保健機関(World Health Organization:WHO)は健康を「病気でないとか,弱っていないということではなく,身体的にも,精神的にも,そして社会的にもすべてが満たされた状態にあること」としているが,社会は単に疾病や障害がないということではなく,どんな状態でも「参加」できることを求めているのではないかと考えるに至る.これを満足させるための予防はますます重要になる.

 したがって理学療法学は,これまで蓄積・実践してきた障害学を一般化し,疾病や障害の発症予防,ヘルスプロモーションへと幅を広げていかなければいけない.折りしも,厚生労働省医政局は「理学療法士が,介護予防事業などにおいて,身体に障害のない者に対して,転倒防止の指導などの診療の補助に該当しない範囲の業務を行うことがあるが,このように理学療法以外の業務を行うときであっても,『理学療法士』という名称を使用することは何ら問題がないこと.また,このような診療の補助に該当しない範囲の業務を行うときは,医師の指示は不要であること」と全国に通知するなど,理学療法の領域拡大を支援している.

入門講座 重複疾患症例のみかた・1【新連載】

病歴の読み取り方と整理

著者: 森下元賀 ,   小林まり子

ページ範囲:P.1025 - P.1033

はじめに

 理学療法における評価や治療プログラムの立案は,文献や養成校での教育においても,まずは疾患名を中心とした内容であることが多い.理学療法士は脳血管障害,骨関節障害,呼吸器障害,循環器障害などの疾患名から評価内容をあらかじめ準備し,治療プログラムの立案に結びつけていくことがほとんどである.しかし,高齢の対象者であれば疾患名がついているかどうかにかかわらず多くの身体の不調を抱え,複数の医学的介入が行われていることが多い.理学療法士は介入の内容を考えるうえで,主病名となっている疾患ありきの評価,治療の準備ではなく,カルテ情報から対象者の全身の問題を注意深く観察することが大切である.なぜならそれは,現在の身体状態に至っている原因,理学療法を実施するうえでの注意点,必要な評価内容,機能的予後の予測に欠かせないことだからである.例えば,「今回の入院は脳梗塞であるが,心不全,高血圧の既往があり,循環器に対する理学療法も同時に考える必要がある」など,主病名以外へのアプローチが必要になる場合も少なくない.

 本稿では,カルテ情報の解釈と理学療法評価の準備方法を示す.なお,薬物療法や疾患の病態の詳細は専門の成書や学術情報誌を参照いただきたい.

講座 超音波エコーを用いた非侵襲的理学療法評価法・1【新連載】

超音波エコーを用いた内部機能の理解と理学療法への応用

著者: 高橋哲也 ,   日下さと美 ,   楠本泰士 ,   河方けい

ページ範囲:P.1035 - P.1044

講座企画にあたって

 近年,超音波エコーは非侵襲的に身体内部の状態を把握することが可能なため理学療法分野でも使用の可能性が検討され,一部で臨床応用されはじめている.しかし,超音波エコーを医療現場で理学療法士が使用する場合には注意が必要である.医療現場では,どのような生体モニターや評価機器であっても,患者の身体に適用する以上,医師の管理下で医師の指示に従って行うことが求められる.

 また,理学療法士が心電図を装着したり,超音波エコーを当てたりすることは可能であるが,診断は不可というのが基本である.例えば,銭湯や薬局などに据え付けてある血圧計で,患者が自身で測定することは問題ないが,医師以外の誰かが「高血圧」と「診断」すると医師法違反になることと同様に,医療機関で超音波エコーを当て「診断」を患者に伝えた時点で,医師法違反になると考えられる.したがって,理学療法士が医療現場で超音波エコーを使用する場合は,その使用や結果の伝達については,細心の注意が必要となる.

 一方,医師や臨床検査技師が行った超音波エコーの結果を,理学療法士が正しく理解することは非常に有用で,超音波エコーの結果をどのように理学療法に活かしていくか,また,理学療法への応用をどのように浸透させ,拡大していくかは今後の課題でもある.(本誌編集委員会)

学会印象記

—全国地域リハビリテーション合同研修大会in茨城 2015—「人生の応援団」の一員として

著者: 岡持雄大

ページ範囲:P.1045 - P.1045

 初めて全国地域リハビリテーション合同研修大会に参加する機会を得て,私は胸を躍らせながら北九州市からつくば国際会議場に向かいました.今年度の本大会(2015年7月19・20日)は,佐藤弘行先生(茨城県リハビリテーション専門職協会会長)が大会長を務められ,テーマを「原点回帰—地域リハビリテーションの未来を見据えて」として多数の講演やシンポジウムが企画され,全国各地から約300名が参加しました.

臨床実習サブノート 臨床実習で患者さんに向き合う準備・7

切断

著者: 長倉裕二 ,   高橋裕也

ページ範囲:P.1047 - P.1054

はじめに

 臨床実習で下肢切断を担当することは症例の割合から考えても比較的少ないと考えられるが,年に数人の切断者を稀に実習生が担当することがある.担当する頻度が少ないためか,学生はもちろん臨床に従事している理学療法士も介入に躊躇してしまうことは多くなっているようである.本稿では,実習生に対する助言はもちろん臨床でめったに担当することがない理学療法士向けに介入のポイントとなるところを解説する.

短報

母音発声と腹横筋活動との関連性

著者: 布施陽子 ,   矢崎高明 ,   福井勉

ページ範囲:P.1055 - P.1057

要旨:腹横筋エクササイズはさまざまなものがあるが,腹横筋は深層筋のため遂行困難なものが多く,被験者の感覚に委ねられている.発声は呼気圧(口腔内圧)とともに腹腔内圧の調整が必要であり,腹横筋は腹腔内圧上昇に最も関与しているといわれている.本研究では,発声と腹横筋はどのような関連をもつか,またどのような発声が腹横筋機能に作用するのか検討した.健常成人16名を対象とし,安静呼気終末とデジタル騒音計により75〜80dBの音量で母音a,i,u,e,oを発声した際の腹横筋厚を超音波診断装置にて計測した.結果はu,o発声時の腹横筋厚は,安静呼気終末,a,i,e発声時の腹横筋厚より大きく,u発声時の腹横筋厚と,o発声時の腹横筋厚の違いは認められなかった.本研究結果から,口輪筋を使用する円唇母音の使用が腹横筋を効率的にエクササイズできる可能性を示唆した.

ひろば

これからの地域社会から求められる理学療法士像を考える

著者: 大原佳孝 ,   池田耕二

ページ範囲:P.1058 - P.1058

 わが国は超高齢社会を迎え,医療,介護情勢は変化し,生き方や価値観も多様化してきた.こうした背景をもとに,住まい,医療,介護,予防,生活支援を一体に提供する地域包括ケアシステムの構築が進むようになり,医療の役割は地域で大きくなった.それに伴い理学療法士に求められることも少しずつ変化してきた.例えば近年は,中枢,運動器,呼吸器,循環器疾患などに対する理学療法エビデンスが構築され,専門理学療法として発展している.そして日本理学療法士協会はそれらを支援する形で認定,専門理学療法制度を制定した.この流れは医療の高度化や患者のニーズの高まりなどを考慮すれば当然のことであり,これからの理学療法にはよりいっそう,専門的知識や技術が求められるといえる.

 しかしながら,患者層の高齢化が進む地域病院の現実をみてみると,その実態は運動器疾患患者でも内部障害の有病率は高く,内部障害患者においても身体の虚弱化という形で筋量が減少し運動器障害を抱えているものが多い.つまり,患者の障害構造は,高齢化による疾病の重症化だけでなく,疾病の多在化,虚弱などによって複雑化している.こうなると各問題を個別に専門的に考えるだけでは解消することはできない.そのためには,全身の内部環境をも積極的に評価し,栄養状態などにも目を配り,運動器,内部障害を関連づけて解釈し,また個々の地域事情にも配慮した総合的かつ包括的な理学療法が必要となる.具体的には,従来の整形外科疾患術後の理学療法では,関節可動域制限,筋力低下,持久性低下などの機能障害,歩行動作能力などの能力障害が主な障害であり治療対象であったが,これからは呼吸・循環機能をはじめ,栄養状態や代謝率,エネルギー消費量や運動耐容能まで考慮した理学療法が必要となろう.また脳卒中患者の運動療法においては,従来から運動機能再学習や運動耐容能低下に対する有酸素運動などが推奨されてきたが,脳卒中を血管障害として捉えると,これからは心血管や末梢血管,さらには全身の血行動態をも視野に入れた運動療法が必要になると考えられる.

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次号予告

ページ範囲:P.1000 - P.1000

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1020 - P.1020

書評 —内山 靖(総編集)/網本 和・臼田 滋・高橋哲也・淵岡 聡・間瀬教史(編)—「今日の理学療法指針」

著者: 居村茂幸

ページ範囲:P.1046 - P.1046

 わが国に理学療法士が誕生して,今年で50年の節目を迎えた.理学療法士養成教育については,その誕生2年前より始まっていたが,当時は専門分野の日本語教育書が皆無で,教師として世界理学療法連盟から派遣された外人教師が持ち込んだ英語のプリントのみであった.ただ記憶をたどると,この理学療法士誕生に前後して,必読書として理学療法・臨床医学・基礎医学編からなる3冊の『理学療法・作業療法教本』(天児民和編,医歯薬出版)が出版されている.この3冊を完全マスターしておけば国家試験も万全という,いわば,当時の理学療法士にとって最低限理解しなければならない知識と技術を網羅したスタンダード版であったと言える.

 現在,理学療法士の総数は約13万人に達し,かつ対応している分野も当初とは比較できないほど領域広く,また深くもなっている.これに伴い,各領域に精通した理学療法士によって,優れた学術書も数多く発刊されているが,ある分野ではあまりに多く,また興味が深すぎ,加えて医学書の体裁,つまり治療医学の切り口で執筆されていることも多く,われわれが主として扱う障害を中心とした医学について,病態から始まればよい理学療法のあり方が希薄になっている感もあって,理学療法臨床場面での実践書としてはいささか歯がゆい感が強かった.

書評 —鈴木隆雄(監修)/島田裕之(編)—「基礎からわかる軽度認知障害(MCI)—効果的な認知症予防を目指して」

著者: 小野玲

ページ範囲:P.1059 - P.1059

 本邦において,65歳以上の高齢者は全人口の約25%であり,高齢化率は世界一である.なかでも,75歳以上の後期高齢者が増加し,2030年に後期高齢者は5人に1人,2055年には4人に1人と推計されている.後期高齢者が増加する超高齢社会において解決をしなければいけない疾病の一つが認知症である.認知症は年代別にみると75歳未満は10%弱であるが,加齢とともにその有病率は増加し,85歳以上では40%を超えると推計されている.近年の核家族化による家族構成の変化は,認知症患者を支える側の高齢化とも相まって,認知症は本人のみならず介護者の生活に大きな影響を及ぼしている.

 現在,認知症の約半数はアルツハイマー型認知症である.残念ながら現時点でアルツハイマー型認知症の根本治療がないのが現状であり,アルツハイマー型認知症をいかに予防するのかが鍵となる.

書評 —樋口貴広・建内宏重(著)—「姿勢と歩行—協調からひも解く」

著者: 木藤伸宏

ページ範囲:P.1061 - P.1061

 姿勢制御と歩行に関する書物は多く出版されている.姿勢制御に関してはShumway-cookとWoollacottによるmotor control,歩行のバイオメカニクスに関してはInmannによるHuman walking,そしてPerryによるGait analysisなどはわれわれにとってバイブルである.さらに,日本の歩行解析の第一人者である江原義弘氏,山本澄子氏がわかりやすく歩行を解説した本も日本の多くの理学療法士,リハビリテーション関係者,バイオメカニクス研究者の座右の書となっている.上記の本によって,歩行のメカニクスが理解しやすくなり,理学療法の臨床現場においても役に立つ知識として活用されている.しかしながら,姿勢制御や歩行に関してパラダイムシフトを起こすほどのインパクトを与えるほどの本であるにもかかわらず,臨床現場は大きく変化していない.

 前述したバイブルによって,姿勢制御に関する正常なメカニクス,異常なメカニクスについての整理はかなり発展してきた.しかし,メカニクスだけに注目すると,最終出力として観察される運動学・運動力学的パラメータをそのまま最終目的とした説明になってしまい,それ自体の変化に焦点をあてた治療を展開しがちになる.そのような治療介入は,一時的には結果が出ても,なかなか思うような改善は得られないことが多いことを経験している.本書は私のなかにある疑問を解くためのヒントを与えてくれた.単に立位保持や歩行を実現すればよいのであれば,それぞれの体節・肢節の位置や運動には無数の可能性があるが,観察された立位姿勢と歩行は何らかの基準に基づいて選ばれたものである.健康な状態であれ,異常な状態であれ,感覚運動システムは姿勢制御と歩行制御の目標を達成するために,課題を達成するための解決策を探し出す.それは,環境,課題,個体の制約に適応することによってさまざまな方法で自己組織化を行う.感覚運動システムは制約が増加すると不安定となるが,不安定ななかでも課題を達成するために感覚情報の探索とそれに基づき制御戦略を新たにつくり出す.つまり,治療介入によって姿勢や歩行を変化させるためには,最終出力として観察されるメカニクスのみの変化に焦点をあてた治療法では限界があり,何を目的に,どのような制約の下で,どのような制御を行おうとしているか理解し,制御そのものを変化させるために,個体の制約に応じて環境と課題を適切に設定する治療介入が不可欠である.

文献抄録

ページ範囲:P.1062 - P.1063

第27回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.1065 - P.1065

編集後記

著者: 斉藤秀之

ページ範囲:P.1066 - P.1066

 記念すべき50回目の日本理学療法学術大会ならびに日本理学療法士協会全国学術研修大会も終了し,今年度の下半期に突入し,師走の足音が近づいていますが,世の中の急速な変化や自然の驚異にさらされ,われわれ理学療法士界も守るべきもの,創造すべきもの,と大胆な思考転換と実行力が試されている気がしています.

 さて,2025年をめどにした地域包括ケアシステムの構築に向けて,理学療法士は協会を挙げて取り組んでいるところです.医療と介護の連携の話と言われがちですが,保健と福祉もその連携には含まれ,さらには地域力との融合がその真髄と考えます.その代表格である小児における理学療法は,当然地域包括ケアシステムのなかで取り上げられるべき領域であることをお示しする機会が必要だと思っていました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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