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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻5号

2015年05月発行

雑誌目次

特集 頭頸部および肩凝りに対する理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.381 - P.381

 頭痛や頸部痛,顎関節痛,胸郭出口症候群などの頭部から上肢にかけての傷害に対する理学療法は最近のトピックスの一つである.肩凝りというわが国独特の呼び方だけでは想像しにくいが,頸部痛や頭痛との関連が高い.姿勢制御や肩の身体他部位との関連性についても臨床的には興味ある領域である.また肩凝り,頭痛,頸部痛で悩む方は医療機関内外にも多くみられる.本特集は,肩凝りに関する解剖,肩凝りの特徴から,顎関節,頸部痛,胸郭出口症候群などの症状を軽快させる方法について機能改善という面から企画した.

頸部の筋の解剖—特に神経支配との関連について

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.383 - P.392

はじめに

 頸部のリハビリテーションの重要性が近年増大してきたことを考慮して.頸部の局所解剖についてまとめてみたい.しかし頸部脊柱,髄膜,頸神経根,肩等に触れる紙幅の余裕はないので,今回は,クビという円柱の中味で最も大量を占める筋に主題を絞りたい.理学療法士がもつ個々の筋の起始・走行経過・停止・作用・支配神経名についての学識は並々ならぬものがあると感じているので,それらについてはここで繰り返さない.本稿では,筋を神経支配とひとくくりにして考えてみたい.神経のない筋は無意味だからである.

肩凝りの特徴と理学療法への留意点

著者: 篠崎哲也

ページ範囲:P.395 - P.401

はじめに

 厚生労働省がまとめている国民生活基礎調査(2013年度)のなかで性別にみた有訴者率の上位5症状によると,肩凝りは男性では腰痛に次ぎ第2位であり,女性では第1位であると報告されている1).この傾向はこれまで行われてきた毎年の調査結果でも同様であり,わが国民の多くが肩凝りを愁訴として自覚していることがうかがえる.このように,多くの国民が肩凝りを訴えているという現実にもかかわらず,これまで肩凝りに対するまとまった研究や調査はほとんど行われていない.

 2004〜2006年にかけて,日本整形外科学会が学術プロジェクトとして肩凝りに関する研究プロジェクトを施行した.このプロジェクトは,国内外でこれまで肩凝りに関して報告されてきた診断,病態,治療などに関する論文をもとに肩凝りの定義や診断,治療体系を構築することを目的としていた2).しかし,国内のみならず海外でも愁訴として決して少なくない肩凝りに関する科学的研究はこれまでほとんど行われてきていないことが判明した2,3).また,欧米おける肩凝りとわが国における肩凝りの病態には,症状に対する意識に相違があり,ある意味で肩凝りはわが国特有の呼び名であることも判明した4)

 本編では,これまでの報告や研究から現段階で考えられる肩凝りの病態や定義,これに基づく診断や治療手段などについて述べる.

頭痛・頸椎症性神経根症に対する理学療法

著者: 上田泰久

ページ範囲:P.403 - P.410

はじめに

 頸椎の退行変性疾患では,頭痛・頸部痛・上肢痛などさまざまな症状を呈する症例が多い.このような症例を注意深く観察すると,特徴的な姿勢・動作のパターンがあることに気づく.この特徴的な姿勢・動作のパターンは,頸椎の過剰な分節運動を出現(以下,頸椎の病態運動)させて,神経筋骨格系の機能障害によるさまざまな症状を引き起こすと考えられる.臨床において,頸椎の病態運動を改善することにより,神経筋骨格系の機能障害によるさまざまな症状も改善できることを経験している.

 本稿では,頸椎の病態運動の改善により神経筋骨格系の機能障害によるさまざまな症状も改善する理由について,頸椎の機能解剖の視点から紐解いていく.まず,頸椎の機能解剖と退行変性疾患である変形性頸椎症の病態を解説する.続いて,筆者が臨床で実践している頭痛および頸椎症性神経根症に対する理学療法について紹介する.

顎関節症に対する理学療法

著者: 遠藤優

ページ範囲:P.411 - P.417

はじめに

 顎関節症とは顎関節や咀嚼筋の疼痛,関節(雑)音,開口障害あるいは顎運動異常を主要症状とする障害の包括的診断名である.その病態は咀嚼筋痛障害,顎関節痛障害,顎関節円板障害および変形性顎関節症である1).臨床症状として,① 顎関節や咀嚼筋(咬筋,側頭筋,内側・外側翼突筋)・顎二腹筋,胸鎖乳突筋の疼痛,② 関節(雑)音,③ 開口障害ないし顎運動異常の主要徴候のうち,少なくとも1つ以上を有するものである.

 顎関節症に対する初期治療では,保存的で可逆的かつエビデンスに基づいた治療を行うことが強く推奨される.顎関節症においてエビデンスが確立されている治療法はほとんどないため,保存的で可逆的な治療法が重要になってくる.保存的療法では,薬物療法と理学療法がその中心となるため,初期治療における理学療法は大変重要である.しかし,顎関節症の治療において理学療法は第一選択と言われながら,理学療法士が卒前・卒後教育において口腔を含めた顎関節周囲の解剖に接する機会は少なく,顎関節やその周囲の疾患を理解するのは難しいのが現状である.そこで本稿では顎関節周囲の解剖について示し,顎関節症の分類,評価,さらに理学療法について解説する.

胸郭出口症候群に対する理学療法

著者: 工藤慎太郎 ,   上岡裕明 ,   颯田季央 ,   佐藤貴徳 ,   三津橋佳奈

ページ範囲:P.419 - P.425

はじめに

 胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)は,頸部から上肢にかけて疼痛やしびれ,だるさといった上肢の症状や手指の血管運動障害などを呈する絞扼性神経障害である.日常の臨床で,TOSと診断された症例に遭遇することは頻度が高いものではないかもしれない.しかし,TOSの症状を解剖学的に紐解くことで,他の診断名がついた症例における頸から肩にかけての鈍痛や手指の知覚異常がTOSと同じような原因で出現している症例がいることに気づく.われわれはこのような症例をTOS様症状として,治療にあたっている.そこで本稿では,TOSおよびTOS様症状の原因を解剖学的に説明し,その評価と運動療法を解説する.

肩凝りに対する理学療法

著者: 新井恒雄 ,   柿崎藤泰

ページ範囲:P.427 - P.434

はじめに

 ヒトが重力の環境下で,ある特定のパターンで行う動作の繰り返しや,体幹の深部筋が機能しない状態で身体各部位を過剰固定する動作を強いられると,その後も分節性が破綻する.頭部の重さはその身体質量分布1)から8.1%とされるが,不良姿勢による頸部筋への負担増大は明らかで,頸部と体幹の分節性の低下を生ずる.頸部体幹の分節性の低下および頸部筋の過緊張は視覚前庭系の情報も変化させる.つまり,空間上での自己定位を正確にさせるためには,筋緊張とアライメントが重要になる.よって肩凝りの改善には,頸部の筋だけではなく頸部の土台となる体幹機能評価が重要な項目となる.僧帽筋を中心に頭・頸部を起始とする筋は肩甲骨を経由して,胸郭を中心とした体幹に多く付着する.つまり,力学的観点だけではなく筋の走行からも胸郭を踏まえた体幹機能評価が重要となる.

とびら

「守・破・離」って知っていますか?

著者: 村永信吾

ページ範囲:P.379 - P.379

 新年度となると,多くの施設が新人の受け入れ準備であわただしくなります.私には,30年近くの臨床経験をもつ理学療法士の先輩として,職場教育の核として自分に言い聞かせている言葉があります.それは,「守破離」です.「しゅ・は・り」と読みます.これは,古来の華道,茶道,剣道,柔道などの「道」には,「守」・「破」・「離」という三つのプロセスがあり,それを師弟関係を通して究めるというものです.

 もし「理学療法士道」なるものが存在するならば,その道を究めるために,指導者と新米セラピストでこの三つのプロセスに基づいて取り組むことを意味しています.

新人理学療法士へのメッセージ

寄り添える理学療法士に!!

著者: 下斗米貴子

ページ範囲:P.438 - P.440

 理学療法士としての仲間入り,誠におめでとうございます.専門職への道を手に入れるためにさまざまな困難があったかと思いますが,困難が多ければ多いほど,今の喜びは格別のことと思います.しかし,国家試験に合格したことがゴールではなく,新たなスタートに立っていることを感じていただきたいと思います.

 私は理学療法士になって,気がついたらはや40年の月日が経過していますが,理学療法についてわからないことがまだたくさんあります.大学病院7年,リハビリテーション専門病院5年,専門学校教務として20年余,そして現在は介護老人保健施設に勤務しています.リハビリテーション医療の急性期〜生活期,教育分野まで経験し,とても恵まれた職場環境で過ごしてきていると,あらためて感じています.そして思うことは,理学療法士としては,リハビリテーション医療を区分けするものではなく,それぞれ連携した,一貫した理学療法が行われるべきだと感じています.

あんてな

第50回日本理学療法学術大会 理学療法の50年のあゆみと展望—ようこそ記念大会へ

著者: 網本和

ページ範囲:P.441 - P.445

Imagine

 皆様,想像できるでしょうか? 50年前のことを.

 時は1965年.日本で初めて開催された前年のオリンピックの興奮冷めやらぬ東京.まだカラーテレビよりも白黒テレビのほうが多かった時代.携帯電話はもちろんなく,インターネットはまだ形にもなっていなかったのです.ゲームといえばトランプか人生ゲーム.小学校に入学したばかりの筆者はランドセルばかりが大きな紅顔の美少年でありました(今では厚顔といわれます).

甃のうへ・第25回

めぐり合ったすべての人に感謝を

著者: 奥山夕子

ページ範囲:P.446 - P.446

 どちらかと言うと引っ込み思案で,人の前に立つよりも人の後を付いていきたいタイプである.しかし,さまざまな局面でそうはいかないことを経験する.今こうしてエッセイの依頼を受けていることもその一つである.ただ,苦手なことを含め本来の自分にはできないことを可能にしてくれたのは多くの人との出逢いにある.多くの人に支えられ今の自分があることに感謝し,今日に至るエピソードを少し書き留めてみる.

 小さいころから体を動かすことが大好きで,特に華やかなスポーツに目がなく,テレビで観る体操選手をまねては畳の上で転がっていた.中学へ入学したら部活はぜったい体操部と決めており,心待ちにして入部した体操部は存続が危ぶまれる状況であった.片田舎の学校には体操部自体が少なく,地方大会もそこそこに県大会まで行けてしまう競技者数であった.運良く最後の代として入部させてもらい,手厚い指導を受けることができた.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

地域ケア会議

著者: 河野礼治

ページ範囲:P.447 - P.447

●地域ケア会議とは

 現在,高齢者が住み慣れた地域でその人らしい尊厳のある生活が継続できるよう,市町村を中心に地域の特性に応じた地域包括ケアシステムの実現が求められています.そのなかで地域ケア会議は,高齢者本人への自立支援の充実と,それを支える社会基盤の整備を同時に推進し地域包括ケアシステムを構築していくための1つの方法と考えられています.

 具体的には,地域住民および多職種による専門的視点を交えて,高齢者の適切なサービス支援や地域で活動する介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメントを支援するとともに,個別ケースの課題分析などを通じて地域課題を発見し,地域に必要な資源開発や地域づくり,さらには介護保険事業計画への反映などの政策形成につなげることをめざすものです.

日本理学療法士学会・分科学会の紹介

日本支援工学理学療法学会

著者: 大峯三郎

ページ範囲:P.448 - P.448

●設立までの経緯

 日本理学療法士協会は現在の学術大会を分科学会へ移行させて,その役割を各専門領域研究部会が担うとの方針を打ち出し,これらにしたがって各専門研究部会内で対象領域の見直しが行われた.生活環境支援理学療法研究部会は専門とする対象領域を最終的に地域,予防,義肢装具などの3領域に大別し,これらを冠とする分科学会を設立することになった.日本支援工学理学療法学会は,義肢装具,車椅子,福祉用具やシステム工学に基づくロボティクス技術を駆使して,臨床から生活場面に至るまでの支援体制を基軸とするが,当学会の活動における開発,評価や技術革新に伴う臨床効果の科学的検証には工学系とのコラボレーションが不可欠であることから,その名称に「工学」を含めた.

入門講座 臨床に活かす理学療法研究・1【新連載】

研究活動を支援する職場とテーマの発見

著者: 森尾裕志 ,   渡辺敏 ,   平木幸治 ,   横山仁志

ページ範囲:P.449 - P.454

はじめに

 近年,日本理学療法学術大会への演題応募は2,000題を超えているが,理学療法士の全体の数が10万人であることを考えると,その割合は2%に過ぎず,地方会あるいは他学会への発表を考慮しても十分とは言えない.多くの臨床現場では日々の業務に忙殺され,その重要性は認識しつつも「研究」活動にまで至らないのが現状であると考えている.本稿では,当院の研修システムを例に挙げ,臨床研究を行ううえでの体制について考えてみたい.

講座 ボツリヌス療法・1【新連載】

ボツリヌス治療—脳血管障害

著者: 菊地尚久

ページ範囲:P.455 - P.461

はじめに

 脳血管障害,脳性麻痺,脊髄損傷などの中枢神経疾患には,痙縮が随伴することが多い.痙縮は上位運動ニューロン症候群による陽性徴候の一つであり,腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射の速度依存性増加を特徴としている1).痙縮により,クローヌスや筋のスパズム,姿勢異常,病的共同運動,筋の同時収縮,筋の過剰な筋活動が出現し,さらに筋の短縮,関節可動域制限を生じ,これに伴い疼痛,歩行障害,ADL障害,QOL障害の原因となる.

 痙縮に対する治療としては,筋弛緩薬などの薬物療法,物理療法,装具療法,フェノールを用いた神経ブロック,腱延長などの整形外科的治療などが従来用いられてきたが,ボツリヌス治療も近年保険適用に伴い,用いられるようになってきた.ボツリヌス治療は神経筋接合部でのアセチルコリン放出を抑制するボツリヌス毒素を筋に直接投与する治療法であり,従来用いられてきた治療法と比較して,直接的な痙縮抑制効果があることから,有効な治療法の一つであるといえる.

 ここではボツリヌス治療の概説,脳血管障害に対するボツリヌス治療の評価,適応と効果,ボツリヌス治療後の装具療法,理学療法について概説する.

臨床実習サブノート 臨床実習で患者さんに向き合う準備・1【新連載】

脳卒中

著者: 河江敏広

ページ範囲:P.463 - P.471

はじめに

 脳卒中はわが国においても罹患数が多い疾患であることや,脳卒中においてはリハビリテーションが治療の中心を担うという社会的認知も高いことから,臨床実習において対象となることが多い疾患だと思います.脳卒中においては理学療法の発展や各種ガイドラインの充実により,学生の知識も高まっていると感じます.しかしながら,十分な知識をもっていてもいざ担当症例の前に立つと「固まってしまう」学生は多く見受けられます.そこで,本稿では臨床実習において学生に知っておいてほしい項目を整理・解説します.

報告

歩行可能な脳性麻痺患者における選択的股関節筋解離術後の股関節内外転筋力の変化—小児と成人における術後筋力変化の違い

著者: 楠本泰士 ,   高木健志 ,   新田收 ,   松田雅弘 ,   西野展正 ,   松尾沙弥香 ,   若林千聖 ,   津久井洋平 ,   干野遥

ページ範囲:P.474 - P.479

要旨:〔目的〕小児と成人の脳性麻痺患者における股関節筋解離術の術前・術後4週・術後8週の股関節内外転筋力を比較し,年齢による術後経過の違いを明らかにすることを目的とした.〔対象と方法〕股関節筋解離術を施行した歩行可能な脳性麻痺患者17名を対象とし,術前・術後4週・術後8週時の股関節内転・外転筋力を測定した.筋力を従属変数とした反復測定二元配置分散分析および多重比較検定にて検討した.〔結果〕内転筋力は術後経過に主効果を認め,小児群では全期間で有意差はなかった.成人群では術前と比べ術後4週で低下し,術後8週で術前と同等の値に回復した.外転筋力は術後経過に主効果を認め,術後経過と被験者間との間に交互作用が確認された.外転筋力は小児群で術前と比べ術後8週で上昇した.成人群では術前と比べ術後4週で低下し,術後8週で術前と同等の値に回復した.〔考察〕術後理学療法では,対象の年齢によって股関節外転筋力の変化には差がある可能性があることを念頭に置いて,理学療法プログラムを立案する必要がある.

新たな50年に向けて いま伝えたいこと・第12回

鈴木 一

ページ範囲:P.481 - P.485

 私は,山形県立山形盲学校の出身です.大工見習い修行をしていた18歳のとき,温泉旅館の解体作業中に両目を負傷し,視力の回復が得られず視覚障害者になったのです.そんななか,私の事故のことを耳にした中学時代の恩師が訪ねてきて,盲学校で学ぶことを勧められました.それがきっかけとなり,1956年に山形県立山形盲学校に入学.点字で解剖・生理・病理学を学び,按摩・マッサージ師,鍼師,灸師の資格を取得しました.26歳のときです.卒業後は東北大学医学部附属病院鳴子分院に物療手として就職しました.

お知らせ

第22回日本赤十字リハビリテーション協会研修会/山の辺病院タッチング基礎講習会/全国地域リハビリテーション合同研修大会in茨城2015/『肩こり腰痛の評価と治療』臨床基礎講習会/第13回日本臨床医療福祉学会/平成27年度静岡呼吸リハビリテーション研修会

ページ範囲:P.434 - P.480

第22回日本赤十字リハビリテーション協会研修会

日 時:2015年7月4日(土) 9:30〜17:00

テーマ:赤十字認知症セミナー—行動・心理症状の対応と包括的リハビリテーション

主 催:日本赤十字リハビリテーション協会

講 師:遠藤英俊(国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長),小川敬之(九州保健福祉大学),白石 浩(今津赤十字病院),山根由起子(京都府立医科大学)

会 場:名古屋第二赤十字病院(愛知県名古屋市昭和区妙見町2番地9)

書評

—奈良 勲(編集主幹)/木林 勉・河野光伸・大西秀明・影近謙治(編集)—「実学としてのリハビリテーション概観—理学療法士・作業療法士のために」

著者: 岡西哲夫

ページ範囲:P.437 - P.437

 「リハビリテーション概論」とはどのような科目なのかを考える前提として,概論の意味をはっきりとすることが必要となる.なぜなら概論という言葉には二つの意味があるからである.一つは一般的概括的な知識を与えるものとしての概論であり,いま一つ別の意味は,「哲学」という意味があるという.澤瀉久敬(医学概論の創始者)は,医学概論は,医学の哲学(学問)として体系づけられるべきだと説いている.そうだとすれば,リハビリテーション概論も学問として,リハビリテーションとは何かを問い,チーム医療を基本とする各専門職の役割や,近未来における課題と展望について体系づけられた書籍を必要とするであろう.しかし,そのような書籍はこれまで見当たらなかった.おそらく,そのような書籍を出版するには,チーム医療に基づく職種間連携を必須とするからであろう.

 このたび,このような困難を乗り越えて,時代の要請に応えるように,『実学としてのリハビリテーション概観』が発刊された.本書の最大の特徴は,それぞれの専門職が各分野の歴史と概要,役割と対象者,業務などについて記述・解説することによって,領域は重なっても果たしている役割は異なるという,医師,影近氏が,最も新しいモデルと紹介する「職種協業モデル(transdisciplinary model)」が,まさに一冊の書籍の中で実現されていることである.それは丁度,オーケストラが美しく統一されて演奏しているように心に響いてくる.

—廣瀬秀行,清宮清美(編著)—「障害者のシーティング」

著者: 杉元雅晴

ページ範囲:P.473 - P.473

 編集者であり著者の廣瀬秀行先生は,東京理科大学,日本大学大学院理工系で学んだあと,理学療法士の免許を取得した経歴をおもちである.その後も,芝浦工業大学で博士号を取得されている.国立障害者リハビリテーションセンター研究所に27年間在籍し,車椅子に関する研究をしてきて,その集大成として『障害者のシーティング』を編集された.まさに,工学的視点から人体の姿勢や動作を診てきて,車椅子と体表との接触面に起こる病態像に関して注意深く検討されてきた.また,理学療法士として最初に日本褥瘡学会に入会され,国立障害者リハビリテーションセンター研究所を定年退職されるまで,日本褥瘡学会の理事として活躍されてきた.物静かであるが,秘めたる情熱をもった研究者である.先生には私が勤めていた県立リハビリテーション病院で,「褥瘡をつくらない車椅子での乗車姿勢」について15年前に講演をしていただいた.そのときから,私には褥瘡が身近な疾病となった.

 本書を読ませていただいてまず感じたことは,車椅子が処方され,適合した車椅子を障がい者に提供されるまでの製作過程に必要な知識を網羅した手引き書であり,各項目は専門家が執筆し,大変充実した内容であるということである.

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次号予告

ページ範囲:P.440 - P.440

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.479 - P.479

文献抄録

ページ範囲:P.486 - P.487

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.490 - P.490

 春になり,新人の理学療法士も仕事に徐々に慣れてきたころではないでしょうか.この間,新たな職場でのさまざまな気遣いが肩凝りを産んでいるかもしれません.自分を職場でどのように表現することがよいのか,悩むこともあったかもしれません,数多くの新たな出会いも最初は緊張を伴うものですよね.カルテの記載などのデスクワークも肩凝りを助長している可能性も大いにあると思います.読者の皆さんに限らず,多くの新人社会人の方も同様の経験をされているかもしれません.本特集をお読みになり,ご自身も新しい職場へのソフトランディングを果たし,エネルギーを重要な方向へ向けてください.また担当症例の方の臨床所見をとる際にも参考にしてください.

 頭頸部,顎関節,胸郭出口症候群など頭から上肢にかかわる傷害は現代の大きな問題と言えます.しかしながら肩凝りは明確な定義を記載されていないこと,多くの原因が考えられることを篠崎先生が指摘してくださっています.特に興味深いのは筋硬結が肩凝りの原因なのか,症状なのかという点に依然としてエビデンスが得られていないとの指摘です.そうなると,われわれの治療対象はどこなのか,不明になってきます.その疑問を少しでも解消するために,頭頸部の理学療法にかかわる重要な解剖学的事項について佐藤先生に詳細に述べていただきました.また,上田先生には頭痛,頸椎症性神経根症について新たな運動学的知見から理学療法を展開していただきました.歯科医としてだけではなく,理学療法士でもある遠藤先生には顎関節症についての治療や予防に関する知見を述べていただきました.工藤先生には胸郭出口症候群を解剖学的に考察し,絞扼の改善を理論立てて説明していただき,さらに新井先生には胸郭運動システムを再構築する点から肩凝りに対する対応方法をご教示いただきました.このような指摘一つひとつから,上肢と頸部あるいは上肢と体幹の関係についても理学療法の視点を広げてくれるヒントになると思われます.視野を広げて自らの理学療法を見直すべきことにお役に立てば,企画者冥利に尽きるところです.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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