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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻6号

2015年06月発行

雑誌目次

特集 急性期からの理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.493 - P.493

 理学療法士は,さまざまな疾患の急性期治療にかかわっている.昨今,急性期治療には「短期間で効果的に」が求められ,続く回復期治療や在宅治療までの計画猶予は短い.理学療法士は急性期治療のただなかで,急性期以降を念頭に入れ参画することも求められる.同時に,医師の急性期医療(概念)の進歩・急性期医療の専門性の変化も自身の臨床に活かす必要がある.理学療法士は変化し続ける急性期治療に携わりながら,広い視野でそれ以降も見据えている.その発想で急性期医療を考える.

急性期理学療法の変遷とこれから

著者: 内昌之

ページ範囲:P.497 - P.504

急性期理学療法とその変遷

1.序論

 何台もの救急車が救命救急室(emergency room:ER)のエントランスに赤灯を回したまま停まり,集中治療室(intensive care unit:ICU)では幾本ものカテーテルが四肢につながりさまざまなモニターで循環動態を監視された患者の周りを,昼も夜もなく医療スタッフが慌ただしく行き来している.このような二次・三次救急病院において,多くの理学療法士が急性期の理学療法に携わっている姿は,今日では日常的な光景となった(図1,2).1980年代以降,急性期からのリハビリテーションの重要性が論じられるようになり1,2),現在では急性期理学療法は医学的治療をより効率的に達成するとともに,機能喪失を可能な限り軽減するための手段としてその有用性が広く認識されているが,かつて理学療法士はこのような場面からは随分とかけ離れた存在であった.理学療法は医学的治療がひと段落した後に,家庭や生活の場に帰るため,あるいは治療によっても後遺障害を免れなかった患者に対する後療法という認識が強かった.あらためて振り返ってみると隔世の感を禁じ得ない.

 本稿では,筆者が理学療法士として従事してきた1980年代から今日にかけてのおおよそ30年間における急性期理学療法の変遷について,医療の進歩と国際情勢の推移を踏まえて述べさせていただく.

急性期病棟におけるリハビリテーション専門職の専従配置による効果と役割

著者: 平野明日香 ,   加藤正樹

ページ範囲:P.521 - P.527

はじめに

 近年わが国は超高齢化社会に突入し,急性期病院では高齢障害者が増加し,基礎体力低下,多疾患等により障害は複雑化している.よって,急性期リハビリテーションの重要性はさらに高まると考えられ,廃用症候群の予防,ADLの維持向上を目的として入院早期から開始することが求められるが,急性期リハビリテーションではリハビリテーション科が主科ではなく副科となる場合が多く,主科からの依頼に頼るため,長期臥床による廃用症候群の併発後に開始されることがあった.また,そのため,主科とのさらなる連携が急務と考えられる.

 日本リハビリテーション医学会の急性期リハビリテーション実態調査ワーキンググループ1)の報告によると,平均リハビリテーションスタッフ数(100床あたり)は急性期病院で理学療法士2.8人,作業療法士1.3人,言語聴覚士0.8人,回復期病院で理学療法士19.9人,作業療法士13.9人,言語聴覚士5.5人,各療法士1人あたり月次リハビリテーション診療患者数は急性期病院で80.9人,回復期病院で18.0人と報告されている.この調査はリハビリテーション科専門医の在籍する日本リハビリテーション医学会「研修施設」の急性期病棟における場合であり,リハビリテーション科医師のいない急性期病院ではさらにリハビリテーション専門職は少なく,十分な急性期リハビリテーションが行われていないことが考えられる.一方,リハビリテーション専門職を病棟に配置することで入院からリハビリテーション依頼までの日数や在院日数が短縮し,リハビリテーション効率,自宅復帰率の向上がみられたとの報告2)や,病棟への専属配置により病棟医師や看護師からコミュニケーションの改善,リハビリテーション内容の理解向上,患者のADLが早期に改善したなどのアンケート結果の報告3)があり,リハビリテーション専門職を病棟に配置することでリハビリテーションの効果を高めることができると考えられる.

急性期以降を見据えた急性期理学療法のあり方

著者: 斎藤均

ページ範囲:P.529 - P.537

はじめに

 急性期は,回復期や維持期へ続く理学療法の基盤になる.積極的な治療介入として,急性期から患者の将来までの生活の質を見据え,患者中心に捉えた,シームレスな理学療法を考えなくてはならない.

 横浜市立脳卒中・神経脊椎センター(以下,当院)は,脳卒中の専門病院として,病院全体がstroke unitという形で1999年に開設された.Stroke care unit(SCU)12床,intensive care unit(ICU)6床,回復期病棟102床を有しており,救急で入院してからリハビリテーションを行い社会復帰までを一貫して担う病院完結型の形をとっている(図1).2012年度の実績では,急性期リハビリテーション実施患者のうち,入院期間が31日以上の患者が54%と半数以上を占め,そのうち25%が当院の回復期リハビリテーション病棟に転棟しており,急性期から回復期までの患者の変化を目の前で経験している.また,回復期リハビリテーション病棟を経て自宅退院をした患者は,2か月後,6か月後,1年後の外来でフォローアップを行っており,退院後の患者の変化を知ることができる環境にある.

 本稿では,脳卒中片麻痺者の“急性期以降を見据えた急性期理学療法のあり方”について,臨床での経験をもとに,回復期からみた視点も踏まえて,急性期の理学療法,生活指導,福祉用具(下肢装具)の配慮について述べる.

エディトリアル

急性期「の」理学療法と急性期「からの」理学療法

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.495 - P.496

はじめに

 急性期に理学療法を始めるのは特別なこと,という時代もあった.30年近く前,脳卒中発症直後の患者は病型を問わずベッド上安静,人工関節全置換術後の患者は数週間の完全免荷を求められていた.脳や脊髄は中枢神経であるが故に,一度損傷されたら再生不能,可塑性はないと教えられた.教育施設では廃用症候群が重要な概念として教えられ,しかしその予防は現実的には不可能な時代であった.

 時を経て現在,理学療法士はさまざまな疾患の急性期治療にかかわっている.発症直後から運動や荷重や離床が許可され,安静による待ち時間は激減し,いまや集中治療室在室中や発症後・術後早期からの理学療法開始は常識である.

医師にとっての急性期—専門科別急性期の概念と医師が重要視すること

1.脳梗塞

著者: 金塚陽一 ,   山口滋紀

ページ範囲:P.505 - P.508

はじめに

 脳梗塞は,本邦では脳血管疾患の約75%を占め1),2013年度には約7万人が死亡している.脳血管疾患は,運動障害などのため,2010年度の介護を要する疾患の第1位となっており,死亡,または介護を要する後遺症を呈するなど,生活に大きな影響を及ぼす疾患である.発症直後から1〜2週間ごろまでは不安定であり,この急性期の時期には薬物治療による症状の安定が目標となる.本稿では,急性期脳梗塞治療のために重視すべきことについて解説する.

2.食道癌術後

著者: 黒田大介

ページ範囲:P.509 - P.511

 食道癌の治療成績は,手術手技,化学療法,放射線療法,周術期管理の進歩により向上がみられているが,食道癌手術は,頸部,胸部,腹部の3領域にまたがる過大な侵襲を伴う手術であり,日本消化器外科学会のアンケート調査1)では手術死亡率3.09%と消化器外科手術のなかで最も手術死亡率の高い手術となっている(表).また,進行癌では化学療法や放射線化学療法などの術前補助療法が行われることが多く,手術手技や術後管理に影響を与えることもある.

 食道癌治療には,消化器外科医,消化器内科医,腫瘍内科医,放射線治療医,麻酔医,歯科医などに加えて,看護師,理学療法士,薬剤師など多職種によるチーム医療2)が必要であり,その施設の総合力が最も問われる治療といっても過言ではない.

3.急性心不全

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.513 - P.515

はじめに

 急性心不全は,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が急速に破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来し,それに基づく症状や徴候が急性に出現,あるいは悪化した病態と定義されている1).すなわち,病態は極めて不安定であり,早期再灌流療法が行われた急性心筋梗塞の一定した流れとは異なることに注意する.急性心不全における急性期理学療法は,まだ十分なエビデンスがないため,その安定化する過程を妨げないように,常に患者の訴えと医師,看護師からの病態・治療や精神面等に関する情報を共有して行うことが極めて重要なポイントとなる.病態把握に基づく治療が,急性から慢性へと一連の流れとして捉えて行われているように,理学療法もこの一連の流れのなかで,すでにその有用性が確立されている慢性期の心臓リハビリテーションにいかに移行していくかに注意を払って行う.そして,図に示すように,そのどの部分に問題があっても予後不良にかかわってくることを理解しておくことが重要である.

4.多発外傷

著者: 石原諭

ページ範囲:P.517 - P.520

はじめに

 外傷は救急医療のなかでごくありふれた,太古から存在する疾患群であるが,系統立った診療システムが確立され始めたのは比較的最近で,防ぎ得た外傷死(preventable trauma death)の撲滅を目的に1970年代後半から米国で初期診療の標準化が開始された.このうねりは20年近く遅れて本邦にも波及し,現在多くの地域において,病院前はJapan Prehospital Trauma Evaluation and Care(JPTEC),院内における初期治療はJapan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)と呼ばれる標準プログラムに則った診療が実践されている.標準診療の教育啓蒙により治療成績の向上が期待されるが,その評価項目として防ぎ得た外傷死とともに防ぎ得た外傷後遺障害(preventable trauma disability:PTDA)の問題が提起された1).土田2)によると英国では四肢の手術が必要であった多発外傷の約50%に,防ぎ得たPTDAが発生していたという.ちなみに多発外傷とは身体を,頭部・頸部・胸部・腹部・骨盤・四肢などと区分した場合に,複数の身体区分に「重度の」損傷が及んだ状態をいう.

 一方,昨年JATECの次の段階,即ち決定的治療の標準化を目的に,外傷専門医を対象とした外傷専門診療ガイドラインJapan Expert Trauma Evaluation and Care(JETEC)が発刊された(図).急性期リハビリテーションの重要性はJATECテキストにも記載されていたが,JETECテキストでは「社会復帰戦略」との題目で16ページを割いてより詳細に記述されている3)

とびら

中年期の危機

著者: 林和子

ページ範囲:P.491 - P.491

 中年のため息とご容赦いただきたい.

 約10年前,“生涯学習”をテーマにコラム原稿の依頼を頂戴した.40少し手前のころである.子供は乳児から幼児,学童となり,育児の物理的忙殺から少々解放され始めたころだった.依頼を機に生涯発達関連の書籍を何冊か読み,「人格形成は3歳,5歳までの母子関係が大事」などという文章に触れ,わが手抜き育児に既に手遅れかとうなだれる一方,ユングの「人生の正午」について読んだとき,まさに今だ! と心が躍った.「人生の正午」とは,太陽は東から昇り(午前=人生の前半)40歳前後でちょうど頭上を通過し(正午),西へと傾き沈んでいく(午後=人生の後半).正午を境に人間の影がそれまでとは逆方向に映し出される,つまり人生前半の理想や価値観が人生後半には逆転するという理論である.当時どんな影になっていくのかなどと呑気に思ったのだが,気がつけば背後から西日を受け,それまで見えていなかった自分の影を見ることになる.しかもその影は日の傾きとともにどんどん長く細くなっていく.中年=安定のはずが,何かおかしいぞという漠然とした不安.そして「中年期の危機」はほどなく訪れた.

新人理学療法士へのメッセージ

向上心と客観性を胸に

著者: 河方けい

ページ範囲:P.540 - P.541

 国家試験合格および入職おめでとうございます.

 晴れて理学療法士になった今,皆さんはどのような想いを掲げていますか.これから始まる理学療法士人生,社会人の生活は今まで以上に多くのことを感じ,悩むことも多いかと思います.そんな皆さんより少しだけ先輩の私からエールを送り,お祝いの言葉とさせていただきます.

甃のうへ・第26回

母への恩

著者: 小玉美津子

ページ範囲:P.542 - P.542

 母は,将来進みたい道もない高校生の私に「これからは資格の時代,女性も一人で生きていけるように手に職をつけなさい」と,聞いたことも見たこともない「理学療法士」という職業を紹介した.女手ひとつで幼いころから私を育ててくれた母の言葉はとても重かった.保育士をしていた母は,担当の子供のお母さんが北里大学病院で理学療法士として働いていたことから,その職業を知ったそうだ.経済的に厳しかったので,国公立の医療系学校をいくつか受験し,結果,都立リハビリテーション専門学校に入学することができた.本当に理学療法士になりたかったのかどうか自信はないが,母がとても喜んでくれたことを覚えている.そんな母が入学の年,がんで亡くなった.空虚さと悲しさ,アルバイトの日々に体も心も疲れ果てていたが,都立リハビリテーション専門学校の先生方や同期生に本当に支えてもらった.

 最初の就職は,神奈川県立ゆうかり園.ゆうかり園では約10年,超早期,通園,入園,特別訓練会等の事業で理学療法はもちろんのこと,家族支援,地域支援,チーム支援の大切さをたくさん学んだ.特に養護学校併設ということもあり,教員の影響力も大きかった.なかでも「子供にとって,理学療法士がやっていることにはどんな意味があるのか,やる必要があるのか」と尋ねられたことは衝撃的だった.私にとってゆうかり園は,理学療法士として,人としての狭い考え方を変えてもらった原点の場所である.その後,座間市役所でも療育中心に地域に密着した事業にかかわりながら,母親に寄り添うことの大切さを学んだ.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

障害支援区分

著者: 松川基宏

ページ範囲:P.543 - P.543

 2013年度から「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行された.本法への主な変更点は,認定調査項目の見直し,障害程度区分から障害支援区分への変更,障害の範囲に「難病」を追加,共同生活介護の共同生活援助への一元化,「地域移行支援」の促進,対象者拡大である.本稿では「障害支援区分」について説明する.

日本理学療法士学会・分科学会の紹介

日本小児理学療法学会

著者: 中徹

ページ範囲:P.544 - P.544

 日本小児理学療法学会は,公益社団法人日本理学療法士協会の学術局の専門領域別研究部が日本理学療法士学会として改組されたことにより,2014年5月に同学会の分科学会として誕生しました.小児分野の理学療法の学会が全国規模で組織されるのは初めてであり,画期的な出来事です.学会初年度にあたり,学会ステートメントをもとに本学会を紹介します.

ひろば

一歩一歩の積み重ね

著者: 垣内優芳

ページ範囲:P.545 - P.545

●御嶽山噴火事故

 2014年9月27日に発生した御嶽山の噴火事故は全国ニュースとなった.噴火後,毎日その被害状況が報道された.私は噴火の2週間前に木曽駒ヶ岳に登り,その頂上から独立峰である御嶽山をみたばかりであったため,このニュースは他人ごとではないように感じた.紅葉シーズンの御嶽山登山中に被害に遭われ,亡くなられた方々に心からご冥福をお祈りしたい.

オランダでCVAidをみてきました

著者: 中谷知生

ページ範囲:P.581 - P.581

●CVAidをご存じですか

 脳卒中理学療法診療ガイドライン第1版1)「姿勢と歩行に関する理学療法」において,オランダで作製された,肩から足部まで弾性ストラップでつないで制御する装具,CVAid(Cerebro Vascular AccidentとAidをあわせた造語)が紹介されています.脳卒中患者の歩行速度向上やエネルギーコスト減少効果がある2)そうです.

 私はこれまで片麻痺患者の歩行能力向上を目的にゴムバンド製の歩行補助具を作製し,その効果を発表3)してきました.海外に似たコンセプトの道具が存在するならば実際にみてみようと思い,現地に行ってきました.視察を通して患者さんの歩行能力向上への強い思いを実感したので報告します.

入門講座 臨床に活かす理学療法研究・2

臨床研究における倫理と安全確保

著者: 伊橋光二

ページ範囲:P.547 - P.556

はじめに

 理学療法士の使命は臨床研究に裏付けられた最高水準の理学療法を提供することであり,そのためには臨床研究の一層の推進が必要であると考えられる.2011年に日本理学療法士協会の多くの関係者の努力によって理学療法診療ガイドライン第1版が発行され,エビデンスに基づいて理学療法を提供する基盤がつくられた.一方,このガイドラインのエビデンスとなった日本語論文はわずかである.日本人を対象とし,日本の医療制度や文化的背景のもとで行われた臨床研究による科学的根拠が求められている.この臨床研究の主要な担い手は臨床現場の理学療法士であり,臨床の理学療法士,特に若い理学療法士が積極的に研究に取り組むことの意義は大きい.これまで研究にかかわってこなかった理学療法士諸氏においても,臨床における日々の疑問に向き合い,研究への一歩を踏み出していただくことがわが国の理学療法の水準を高めることになり,ひいては国民の健康に貢献できると考えられる.

 一方,医学系研究は人の健康をその課題としているがゆえに,新しい診断法や治療法の効果と安全性は人を対象とした研究を経て確認しなければならない.そこには未知の有害事象が潜んでいる可能性があり,また,標準的な治療で得ることができる効果を得られない可能性など,研究対象者に種々の不利益を生じさせる可能性がある.また,2014年はSTAP(stimulus-triggered acquisition of pluripotency cells)細胞論文の論文不正疑惑から,最終的には論文の撤回と研究不正の認定に至ったことは記憶に新しい.また,降圧薬(バルサルタン)研究に関する利益相反を含むさまざまな研究不正行為が明らかになり,医学系研究に対する社会からの大きな不信を招いた.このほかにも,最近マスコミに取り上げられた問題としては,患者からインフォームド・コンセントを得ずに研究対象としたり,手術中に研究サンプルを採取したりした事案があり,さらに,動物実験での安全性確認を経ずに幹細胞移植の臨床試験を行った疑惑など,研究倫理の問題事例は枚挙にいとまがない状況である.

 したがって,臨床研究の推進には研究倫理と安全確保への真摯な取り組みが不可欠である.今日,人を対象とした医学系研究を行うには,所属研究機関の長への研究計画書の提出,倫理審査委員会の承認,インフォームド・コンセント,利益相反の管理,介入研究の場合は事前登録と公表など,さまざまな手順と手続きが必要であり,理学療法士としてもこれらに従って臨床研究を進める必要がある.

講座 ボツリヌス療法・2

ボツリヌス治療—脳性麻痺

著者: 藤田良

ページ範囲:P.557 - P.563

ボツリヌス治療とは

 脳性麻痺患者では,脳の障害により筋肉の緊張が高まった状態になります.これを「痙縮」といいます.この状態をそのままにしておくと,関節の可動域制限や変形が起こり,最初は可逆性だったものが,進行すると固定した変形になってしまいます.このようなことが起こらないようにするために開発された治療法がボツリヌス療法です(図1).

 ボツリヌス治療で使われるボツリヌス毒素を作り出すボツリヌス菌は,土のなかの常在菌で,食中毒の原因菌として知られています.この菌が作り出す毒素が,局所性に筋緊張を来す疾患の治療薬として使われているのです.1989年に米国ではじめて医薬品として承認され,日本では,2001年痙性斜頸への適応が承認され,脳性麻痺患者への投与が始まりました.2009年2月に2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足への適応が承認され,2010年10月には上肢痙縮,下肢痙縮への適応が承認され,ボツリヌス治療の対象となる患者数が増加し,今では脳性麻痺の痙縮の治療の第一選択薬となっています.

臨床実習サブノート 臨床実習で患者さんに向き合う準備・2

脳外傷

著者: 中島龍星 ,   井手伸二

ページ範囲:P.566 - P.572

はじめに

 脳外傷は名前のとおり,何らかの事故により外部の衝撃から直接的あるいは二次的に脳にダメージを受けたものを表す1,2).したがって,主治医(通常は脳神経外科医またはリハビリテーション科医)から脳外傷の診断のもと理学療法が処方された場合には,対象患者は脳機能に何らかの障害を生じている可能性が高いこと,つまり意識障害や運動麻痺,感覚障害,高次脳機能障害などが存在し,基本的動作やADLなどに関する能力障害を生じていることが想定される.脳外傷が脳梗塞や脳出血などの脳卒中と病態上特に異なることは,局所的脳損傷による症状・障害に加えて,脳の広範な損傷による多様な高次脳機能障害が存在していることであり,障害の構造がより複雑化することを想定する必要がある.

 では,学生が臨床実習において脳外傷患者とよりしっかりと向き合っていくために,「前もって準備しておくこと」,「心掛けておくこと」は一体何であろうか.これまでの筆者の臨床経験を振り返りながら,学生に大切にしてもらいたいことを以下に紹介したい.

報告

慢性の非特異的腰痛患者に対するMcKenzie法にストレッチングを加えた運動療法とMcKenzie法単独療法との比較—単盲検準ランダム化比較試験

著者: 山口正貴 ,   高見沢圭一 ,   原慶宏 ,   後藤美和 ,   緒方直史 ,   芳賀信彦 ,   小林里美

ページ範囲:P.573 - P.580

要旨:6か月以上持続している非特異的腰痛患者に対するMcKenzie法に4種のストレッチングを加えた群23名とMcKenzie法単独の群24名との効果比較を,二元配置分散分析で検証した.対象はMcKenzie法の運動指標であるdirectional preference(D/P)を認めた症例とした.週1回,計4回の介入と4週間のセルフエクササイズにより,2群とも介入前後でVisual Analogue Scale(VAS),関節可動域(Range of Motion:ROM),MOS Short-Form 36-Item Health Survey(SF-36),日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire:JOABPEQ),日本語版Oswestry Disability Index(ODI)の全項目で有意な改善を認め,疼痛,身体機能,精神機能すべてに有効性を認めた.ROM,SF-36の身体の日常役割機能(role physical:RP),ODIの項目では,McKenzie法に4種のストレッチングを加えた群がMcKenzie法単独の群よりも改善傾向を示し,身体機能の改善により効果的であった.セルフエクササイズの量と治療効果との相関分析では,2群とも相関を認めなかった.腰痛治療の有効性はエクササイズの量や頻度ではなく種類に依存していた.脱落者は0名で,すべての評価項目で改善を認めたことから,D/Pを認めた症例は心理社会的要因を除外できる可能性が示唆された.

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次号予告

ページ範囲:P.496 - P.496

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.511 - P.511

書評 精神科・身体合併症のリハビリテーション—総合的な治療計画から実践まで

著者: 半田一登

ページ範囲:P.539 - P.539

 この書を読んで,思い出したことがある.今から5,6年前に,日本精神科病院協会の大幹部から呼ばれて「精神科領域での身体合併症に対して理学療法士が積極的にかかわる必要がある」との指摘を受けたことである.そのころは,精神科領域への理学療法士のかかわりは全国的にも皆無に近く,その大幹部の言葉に圧倒されるのみであった.以降,精神科領域に関する理学療法については,大きな関心をもって論文等を読むようになった.単に身体合併症に対する運動療法の効果ではなく,国外では精神科領域での運動療法の効果が示された文献が目立ってきている.

 そのような背景を持ちながらこの書を読ませていただいた.そのなかで,第1章の「精神疾患治療と身体的リハビリテーションのコラボレーションをめざして」は,精神疾患領域での経験が乏しい理学療法士にとっては非常に示唆的である.また,第2章の「精神科における身体合併症のリハビリテーション」では,他科との関係が克明に記され実用性が高い.特にリハビリテーション科に関する記述は必読である.また理学療法の項では,この領域での理学療法の重要性と課題が克明に記されている.第3章では精神症状が克明にされており,この領域の知識が乏しい理学療法士にとっては学習するうえでの基本的知識である.

書評 PT・OTのための測定評価DVD Series 7—片麻痺機能検査・協調性検査

著者: 望月久

ページ範囲:P.565 - P.565

 理学療法士(以下,PT)や作業療法士(以下,OT)が実施する神経疾患に対する検査法の多くは神経内科学的検査に基づいているものが多い.神経内科学的検査では,定まった方法を用いて患者に刺激や指示を与え,それに対する患者の反応や動作を評定する.定量的な評定が難しく,異常の有無や異常の程度(軽度・中等度・重度など)によって評定することが多い.そのため,神経内科的検査には経験が必要とされる.

 PT・OTの教育場面でこれらの神経内科的検査を学生に指導する際の難しさがここにある.測定評価の修得には,まず定まった検査方法を理解し実施できる段階があり,次に検査の結果を評定する段階がある.学生は患者を見たことがなく,教師からの説明やテキストの図や写真から,患者の症状,検査時の患者の反応や動作を想像するほかない.これを補うために動画の教材が使用される.PT・OTのための評価測定シリーズは,PT・OTの学生が必須とする検査について,基本的な検査方法や検査に際しての注意点が簡潔な説明と図および動画で示されており,PT・OT養成校の教員や学生の間で好評を博してきた.

文献抄録

ページ範囲:P.582 - P.583

第27回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.585 - P.585

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.586 - P.586

 今年も半分が過ぎようとしています.カレンダーを眺めながら,月日の経つのは本当に早いなあと感じています.

 今月の特集は,「急性期からの理学療法」です.現在,個々の病院や施設は,病期別・機能別に役割と診療報酬体系が定められています.一方,患者さんの病態としての「急性期・回復期・生活期」と,それに対応する理学療法・リハビリテーション・医療は,「今日から回復期」などという期間で区切られる質のものではありません.急性期病態に対し理学療法を開始する時期から自宅環境情報を得て,福祉用具や在宅サービスの手配を考える,そのようなことは臨床では日常的です.リハビリテーション専門職としての理学療法士の頭の中は「急性期から」の表現が合致する,そう考え,テーマとしました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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