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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻7号

2015年07月発行

雑誌目次

特集 慢性期の理学療法—目標設定と治療・介入効果

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.589 - P.589

 理学療法士は,病態と病期の2軸を踏まえて対象者の特性を把握し,適切な理学療法を展開することが求められる.

 本特集では,慢性期の理学療法について,概念と役割,目標設定,治療・介入の効果について,その適用の実態を含めて整理することを狙いとした.

慢性期の概念と理学療法の役割

著者: 岩田篤 ,   石倉隆

ページ範囲:P.591 - P.598

はじめに

 医療の効率化を目的として,リハビリテーション医療が急性期・回復期・慢性期と役割的に細分化されて十数年が経過した.2000年に回復期リハビリテーション病棟が新設され,各病期の役割は明確に位置づけられることになったが,現在,あらためて制度設計の見直しが行われている1).その背景には,要介護状態のリスクが高まるとされる75歳以上の人口が,この先10年間で飛躍的に増加(図1,表1)する2〜4)ことに伴う財政的な問題がある.これに対し厚生労働省1)は,よりいっそうの医療の効率化を図るため,急性期を高度急性期と一般急性期に分けるなど,リハビリテーションの機能・役割をさらに細分化する新たな改革案を打ち出している.また慢性期においては,できる限り早期に,円滑に在宅生活へ結びつけ,その後も継続して安定した生活が送れるよう,在宅から徒歩30分圏内での医療・介護・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる.このように,急性期から慢性期に至るまで,それぞれの機能・役割がよりいっそう明確にされつつある.

 しかし,患者の機能回復過程は一様ではなく,その経過が長期化する場合もあることなどから5),慢性期の役割について再考すべき点があると考える.本稿では,慢性期を担当する理学療法士の立場から慢性期の概念を整理したうえで,その多様な役割について,問題点を挙げながら考察したい.

慢性期脳卒中患者に対する理学療法の目標設定と治療・介入効果

著者: 原田和宏

ページ範囲:P.599 - P.607

はじめに

 理学療法は,① 評価,② 目標のプランニング,③ 介入手法の選択と実施,④ 再評価という流れで展開され,脳卒中も同様である.① と ④ の評価では病態を示す構成概念を的確に数値化するツールを用いることが重要である.的確な数値化は信頼性,妥当性,反応性を備えたツールによって可能になる.③ の介入では,良質な研究によって有効性が明らかにされた手法を選択することに意味がある.良質な手法は無作為化割り当てと評価の盲検化が施される無作為化比較試験の効果を把握すれば確信がもてる.このように,評価と介入に関する手がかりを見つけることは難しくはない.

 一方,② の目標のプランニングではチームカンファレンスやクリニカルパスの検討を通して実践されるが,取り組みに役立つ研究は少ない.機能的な予後予測のエビデンスを活用したプランニングも行われるが,一般的とは言えず,特に慢性期では少ないであろう.

 脳卒中発症後の経過は急性期(acute phase)および回復期(post acute phase)の後,6か月以降を慢性期(chronic phase)と表現する1).慢性期に研究疑問を設ける論文では,対象の組み入れ基準を発症後1年以降にすることも多い.発症後6か月以降では運動機能やADL能力の回復がほぼ平坦となる.日本では医科診療報酬の算定期間が限定され(原則150日),回復期リハビリテーション終了後は“維持”期と表現されることも相まって,介入に対する医療専門職者の目標認識が,機能的な低下を防いで維持するという消極的なものになっている可能性がある.脳卒中発症後の長期生存者では,ADL能力は集団の平均としてみれば確かに低下していく2,3).だが,対象者個別にみればその変動パターンや増減の度合いは一人ひとりで違いがある.発症後6か月以降であっても,理学療法によって機能的な向上が得られることを支持するエビデンスは数多くある4).脳卒中患者が回復期リハビリテーションを終え在宅生活を送る際,介護負担を最小化するために,また2025年をめどとした医療提供体制の改革に向けて,慢性期の理学療法による効果を最大化する検討が必要と考える.

 本稿では,脳卒中慢性期における理学療法のガイドラインと無作為化比較試験のエビデンスを紹介して,慢性期に行う理学療法の有効性はどの点にあるかを説明する.そして,理学療法の一過程である目標設定についてのエビデンスから,目標設定が果たす役割と効果を把握し,脳卒中慢性期の理学療法をさらに有効なものへと高める可能性について解説する.

慢性呼吸器・循環器疾患患者に対する目標設定と治療・介入効果—理学療法管理と急性増悪の予防・対応

著者: 田畑稔

ページ範囲:P.609 - P.620

はじめに

 呼吸器,循環器疾患を発症し急性期あるいは回復期の理学療法を行い退院した後,通所や在宅の場で慢性期の理学療法を継続することは少ないと思われる.しかし,2004年に行われた疫学調査によると,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)の治療を受けている患者数はすでに22.3万人おり,COPDの推定患者数は530万人以上に上るとされた1).また循環器疾患患者数も,2035年ごろに慢性心不全患者が130万人程度に達すると予測する報告2)があり,今後,急性期・回復期から慢性期へより早い段階で理学療法の病期が移行しつつ慢性期の包括的な疾患管理プログラムとともにADLや生活機能へ軸を据えた理学療法が展開されるものと推測する.

 呼吸器,循環器疾患に対する理学療法は,主に急性期を中心に実施されているが,今後,本邦の人口や疾患構造の変化に伴い,慢性期の呼吸器,循環器疾患患者に対する理学療法の需要が増加すると考えられる.そこで本稿では,診療ガイドラインを参考に,慢性期の疾患管理や理学療法の目標設定と治療・介入効果について概説する.本文中のエビデンスのレベルについては表1に示す.

運動器疾患患者の慢性痛に対する理学療法の目標設定と治療・介入効果

著者: 櫻井博紀 ,   牛田享宏

ページ範囲:P.621 - P.627

はじめに

 慢性痛は,国際疼痛学会により「治療に要すると期待される時間の枠組みを超えて持続する痛みあるいは,進行性の非がん性疾患に関連する痛み」と定義されている1).これには組織損傷など痛み刺激の入力による急性痛が長引いているものだけではなく,器質的な原因が治癒した後も神経系の可塑的変化などにより痛みが持続するものも含まれる.このような「慢性痛」では痛み自体が病態であり,一つの病気として考えられる2)

 そのなかでも理学療法士が診療に携わる運動器疾患に伴う慢性痛の有病率は,厚生労働省の2013年国民生活基礎調査3)において,有訴者率の1位,2位に腰痛,肩凝りが挙げられているように非常に多い.全米の調査では慢性痛患者が成人人口の9%を上回り,痛みによる医療費や生産性減少での社会的損失が650億ドルにも上ることが報告されており4),日本においても,運動器慢性痛に関する疫学的調査では有症率が15.4%に上り5),2013年度総務省統計による成人人口104,860千人に換算すると約1,600万人が罹患していることとなる.そのため,運動器慢性痛による医療費や生産性減少による社会的損失も含めて大きな問題となっている.

 運動器の痛みが慢性化する背景には,侵害刺激の持続入力や神経系・運動器系の可塑的変化といった身体的要因に加えて心理的,社会的要因が絡み合い,病態が複雑になっていることが挙げられる.そのため,薬物療法だけでは改善がみられないケースが多い.しかし,結果として患者の生活・社会的活動の低下を招いていることから,運動療法など理学療法の有効性が世界的に注目されてきている.そこで本稿では,運動器慢性痛への理学療法の現状を踏まえ,目標設定・治療の取り組みについて概説する.

慢性期理学療法の適用と効果—回復期リハビリテーションから継続した治療的な理学療法が必要な病態と環境介入

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.629 - P.637

はじめに

 現在の医学的リハビリテーションを受ける制度は,脳卒中モデル1),すなわち一次的な増悪とその後の回復と機能障害の継続に基づいて形作られている.急性期,回復期,それに引き続いた療養型あるいは在宅リハビリテーションがその形である.患者は障害の回復に合わせて医療機関を移動しながら,次第に医学的なリハビリテーションからの離脱をめざす.しかし,増悪と寛解を繰り返し徐々に重度化していく例,回復がみられず医学的な処置が長期にわたって必要な例などはこのモデルの適用が難しく,医学的リハビリテーションの提供が長期間にわたることから問題化している.リハビリテーション難民問題は記憶に新しい.

 一方,2012年度診療報酬改定以降,こうした非定型の障害モデルの受け皿となってきた標準的算定日数を超えた医療的リハビリテーションの必要性について,十分な評価と介護保険への移行への検討を求めるなど,医学的リハビリテーションの適用の日数制限を厳格化する方向で議論されている.こうした改定は漫然としたリハビリテーション治療を戒めるものであり,国のリハビリテーション諸団体へのヒアリングでも否定的に捉えられてはいない.しかし,リハビリテーション難民問題として社会問題化したことからもわかるように,このような標準的算定日数の厳格化は,国民にとってリハビリテーション治療への不安につながる重要な問題と考えられる2)

 国民の不安を解消するためには,どのような障害像を持つ者が標準的算定日数を超えて医学的リハビリテーションが必要なのか,そして,その障害像はどれくらいの頻度で生じるのかをできる限り明らかにし,医療資源の分配の議論のなかで非定型の障害モデルの患者に対する,社会的な不安の払拭とのバランスをとっていく必要があると考えられる.

 そこで,日本理学療法士協会では2012年度厚生労働省老人保健健康増進等国庫補助金事業として「長期的な医療介入が必要なリハビリテーション患者・利用者に対するリハビリテーションのあり方に関する調査研究事業」を実施した.この調査ではリハビリテーションサービスを提供している医療機関に対し,標準的算定日数を超えてリハビリテーションサービスの提供を行っているものを調査し,その類型化を行うことを目的とした.また,こうした病態に対する環境介入について考察した.

とびら

四十にして惑わず?

著者: 小塚佳寿子

ページ範囲:P.587 - P.587

 昨年私は40歳の誕生日を迎えた.知人より「不惑の世界にようこそ」とのメッセージが届き,思わず考え込んでしまった.最近の自分は惑ってばかりではないか.

 「不惑」とは,言うまでもなく孔子の『論語』に出てくる言葉である.「十五のとき学問で生きていくことを決心し,三十で自立.四十のときに心の迷いがなくなった.五十に天命をさとり,六十のときに何を聞いても素直に受け入れることができるようになり,七十で自分がしたいと思う言動をしても人の道を踏み外すことがなくなった」と学生時代に教わった.当時は何気なくこの言葉を聞き,「年をとってこうなったらすごいなあ」と思ったが,その後思い出す機会などなかった.今,その不惑と呼ばれる四十を迎えている.

学会印象記

—World Confederation for Physical Therapy Congress 2015—WCPT 2015に参加して

著者: 曽田武史

ページ範囲:P.640 - P.642

学会の概要

 2015年5月1〜4日に,シンガポール国際会議場展示センター(Singapore International Convention & Exhibition Centre)を会場に,今年で17回目を迎える世界理学療法学術大会(World Confederation for Physical Therapy Congress:WCPT)2015が開催された.大会ホームページによると,WCPT2015には世界114か国から約3,500名の参加があり,そのうちの3分の2はWCPT初参加者で,4分の1は前回大会のアムステルダム(オランダ)の参加経験者であった.職務の内訳は,臨床家が約40%,教育者が22%,研究者が15%で,約8%はpre-qualifying(無資格者),またはpost-qualifying(有資格者)であったとしている(おそらく,この8%のなかに学生,大学院生,または勤務していない有資格者などが含まれる).日本人の参加者は434名と最多であり,開催国であるシンガポール(393名)を上回っていた.続いて,オーストラリア(332名),英国(209名),米国(207名),スウェーデン(129名),台湾(122名),マレーシア(102名)であった.WCPTは1953年にロンドンで第1回大会が開催され,以降4年ごとに開かれている.実は,筆者が理学療法士になる前の1999年に横浜で開催されていて,これがアジア初の開催になっている.次回のWCPTから2年ごとに変更され,開催地はケープタウン(南アフリカ共和国)に決定している.

 本大会では,前回大会にはないさまざまな取り組みがなされていた.新たなシステムの導入として,① Appleストアから学会専用アプリ「WCPT 2015」(図1)がダウンロードでき,学会参加中のスケジュール管理がスマートフォンで可能,② 大会会場ではWCPT2015の無料WiFiが設定されており,ネットサービスが使用可能,③ 大会参加事前登録をした参加者に,参加受付と名札を受け取るためのバーコードが事前にメールで送付され,受付時間の円滑化が図られた,④ 熱中症対策なのか,すぐ水分摂取できるようにウォータージャグや塩飴のようなものが置かれていた(参加した前回学会のオランダでは会場内にリンゴが置いてあった).これまでのWCPTでは抄録がCD-ROMで配布され,聴講したい発表などはプリントアウトしなければならず面倒であったが,学会専用アプリはアプリ上で抄録閲覧が可能であり,とても便利であった.また,前回大会では受付時にかなり混雑していたが,本大会は比較的混雑なくスムーズであったように思われた.今回導入された事前参加登録者へのバーコード添付メール配信の効果もあるかもしれないが,前回大会では約5,000名もの参加があり,参加人数の減少も影響していると思われる.参加人数減少の要因には,事前登録でも10万円を超える参加費を支払う必要があり,シンガポールへの旅費も含めると参加にかなり高額な費用がかかること,オランダでの前回学会では陸続きであるEU各国からの参加が多かったことなどが考えられる.

甃のうへ・第27回

美しいか,美しくないか

著者: 吉井智晴

ページ範囲:P.644 - P.644

 日々の生活は「迷い」だらけです.プライベートも仕事もこれでよいのか,と悩みは尽きません.論語では「四十にして惑わず」(人生の方向が定まって迷わなくなる年)と言いますが,まだその境地には達していません.しかし,年を重ねながら生きやすくなっているように感じています.20代,病院に勤務していたころの話.最寄り駅からバスに乗る際,席には限りがあるので改札を出たらダッシュし,バス停に走らないと座れません.われ先にと殺気だった雰囲気がとても嫌で,私は走らないことにしていたのですが,当然いつも座れず後悔してばかり.このような他愛もないことに朝から神経を擦り減らしていました.自分で選択したはずの結果なのに人を羨み,フツフツしていました.今,またその状況に置かれたら,同じように走りませんが,「私は私だからいいんだ」と選択に後悔しなくなったと思います.

 迷ったら,私はその行動が「美しいか,美しくないか」「心地よいかどうか」で考えます.仕事,友人関係,食べるもの,着るもの,今行っていることを続けるか,やめるか……小さなことから大きなことまで「美しいほう」「心地よいほう」を選ぶ.例えば,自分の仕事を進めるには有利だが,それをしたら他人が困ることが想定される仕事をすることは「美しくないから=やらない」.義理で人に会わなければならないが,気持ちは行きたくない場合には「心地よいほう=行かない」.できる限り自分の心が望むほうを選択するよう心掛けています.迷っているときには,これをしたら他人はどう見るか,常識的にどちらが正しいか,どちらが得か損か,どちらが楽か大変か,など目先のことにとらわれてしまうから判断がブレることが多くなるようです.一般的に見たら「火中の栗を拾う」ような不利なことであったとしても,自分基準で考えた選択であれば,その後は後悔しないで(あっても少なく)いられます.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

感覚運動連関

著者: 寺田茂

ページ範囲:P.645 - P.645

 「感覚運動連関」とは,「連関」という言葉の意味を手掛かりとすると,感覚機能と運動機能とは互いにかかわりつながりをもっていること,および感覚と運動は多くの経験やその記憶によってさまざまに影響し合い,修飾されて巧緻な操作や動作の習熟,運動学習に寄与することと解釈される.

 ヒトは生活活動を遂行する場合に,その時々の環境に応じて最適な行為を選択し,それを行動に移すためにさまざまな関節の動きを巧みに組み合わせ,合目的運動を実現させる.例えば,川の対岸に飛び石を使って渡る際に,ヒトは石の間隔や高さがそれぞれ異なっていても落下することなく移動することができる.この場合,飛び石の位置や高さを目で確認し,足底部から感覚情報を頼りに石の形状を考慮しながら,自らの脚の空間位置を認識し動きを調整している.一方,深部感覚障害を有する患者が,筋力の低下が存在しないにもかかわらず視覚の補助がなければ四肢の使用が困難になることはよく経験される.運動の実行中枢は第一次運動野であるが,運動を意図したとおりに正確に行うためには認知,知覚,感覚などの情報を脳が処理することが不可欠であり,感覚情報は運動遂行に非常に重要となる.

日本理学療法士学会・分科学会の紹介

日本心血管理学療法学会

著者: 渡辺敏

ページ範囲:P.646 - P.646

●設立の趣旨

 平成26(2014)年版厚生労働白書1)によると,わが国は平均寿命国際比較において世界有数の長寿国である.しかし,近年話題に上る「平均寿命と健康寿命の差」は,平均寿命の延伸に伴い拡大傾向にある.平均寿命と健康寿命の差は男性で9.13年,女性で12.68年であり,QOLの維持向上,医療費や介護給付費の抑制などいくつかの課題が報告されている.一方で,わが国のリスク要因別の関連死亡者数(2007年)では喫煙,高血圧,運動不足など,個人の生活習慣と関係するものが上位を占めている.運動器疾患や神経疾患を合併した重複障害を呈していても,生活習慣と関係するリスクを軽減する必要性があると考えられる.

 このような時代背景を受け,本学会は,心血管疾患や関連疾患に起因するさまざまな病態や,ADL障害に対する理学療法の普及と質の向上を目指し設立された.また,急性期・回復期・維持期の各病期における治療介入・予防介入を目的とした心血管理学療法の新たな方法の開発や調査,臨床研究を推進する.そのため,学術集会を中心とした研究事業,市民公開講座,情報交換機会提供を行うとともに,研究助成,社会貢献,国際貢献などの人材育成を通して,心血管理学療法の発展に向けた諸活動を執行する.

入門講座 臨床に活かす理学療法研究・3

サンプルサイズから考える「統計」の基本

著者: 下井俊典

ページ範囲:P.647 - P.653

はじめに

 私事で恐縮なのですが,学生や大学院生,臨床家から研究に関して「どのくらいデータ数を集めればいいですか?」というご質問をいただく機会が少なくありません.実はこの質問,回答者泣かせの難問なのです.というのも,一概に「○個くらいデータを集めればいいよ」といえないところがあったり,データ数のことを考える前に検討しておかなければならないことがいろいろあるからです.でも逆に,なぜそう簡単にいい切れないのか,何をどうすればいいのか,について考えると,いわゆる「統計」のこと,さらには研究デザインまで理解することができるのです.

 ですので,本稿ではこの「データ数をどのくらいにすればいいか」「サンプルサイズ※1をどの程度に設定するのか」という視点から「統計」と研究について考えていきたいと思います.

講座 ボツリヌス療法・3

バクロフェン髄腔内投与療法—脊髄疾患

著者: 根本明宜

ページ範囲:P.655 - P.663

はじめに

 本稿では,A型ボツリヌス毒素(botulinum toxin type A:BoNTA)と同じ時期に効果的な痙縮治療手段として登場したバクロフェン髄腔内投与(intrathecal baclofen:ITB)療法を取り上げる.ITB療法は1984年にPennら1)が報告した痙縮治療で,水溶性で脳血管関門を通過しにくい中枢性筋弛緩薬であるバクロフェンを作用部位の脊髄に投与するため,植込み型のポンプを用いた手術的治療を加えた薬物療法である.

 本邦では2006年より健康保険適用となったが,承認後10年でようやく植込み数が1,000を超えた.少し遅れて成人四肢痙縮の適応となったBoNTAと症例数では大きく離されている.しかし,当初は脳神経外科と整形外科に限られていたトライアルがリハビリテーション科,神経内科,小児神経科などでも実施できるようになり,カテーテルの改良で有害事象が減少し2),実施施設も増え,日本中どこでもITB療法を受けられるようになっている3)

 本稿では痙縮に対するITBの作用をBoNTAなどのほかの治療と比較,差異を確認し,ITB療法について解説し,具体的な疾患での適応,治療後のリハビリテーションといった観点で概説する.添付文書上の適応としては下肢の痙縮とされ,本邦でも脊髄由来の痙縮への治療が多いので脊髄疾患としたが,脳由来の痙縮についても無視できないので触れることとする.

臨床実習サブノート 臨床実習で患者さんに向き合う準備・3

大腿骨頸部骨折

著者: 野上慎二

ページ範囲:P.667 - P.673

はじめに

 学生の臨床実習において大腿骨頸部骨折の症例が取り扱われることは少なくない.高齢者に起こる骨折として頻度が高く,多くの症例をみられることから学生が担当する症例となりやすいと考えられるが,年齢,性別,受傷度合い,合併症など治療の方法や経過も大きく異なる.そのため,障害を一様に捉えることは避けたい.

 本稿では,臨床実習で大腿骨頸部骨折を受傷された方を担当した場合,何を行っていけばいいのかを述べたい.臨床実習において少しでもお役に立てれば幸いである.

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次号予告

ページ範囲:P.620 - P.620

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.637 - P.637

書評 「なぜ」から導く循環器疾患のリハビリテーション—急性期から在宅まで

著者: 神津玲

ページ範囲:P.639 - P.639

 今までにない魅力的なタイトルであり,異彩を放っている.書籍の外観はシンプルで,ちょうど良い分量.内容はきわめて実践的で良質,エッセンスが無駄なく凝縮されている.

 評者が本書を手にして最初に抱いた印象である.

書評 人工関節のリハビリテーション—術前・周術期・術後のガイドブック

著者: 加藤浩

ページ範囲:P.665 - P.665

 関節軟骨や関節構成体の退行変性によって起こる変形性関節症は,国内では関節リウマチの約10倍の700万人から1,000万人の患者がいると推定されている.特に変形性膝関節症においては,毎年90万人が新たに発病しているとの報告もあり,変形性股関節症・変形性膝関節症の患者の治療に携わる理学療法士は少なくないであろう.手術療法としては関節温存手術と人工関節置換術の2つがあるが,ご存じのとおり日本の急性期病院においては,在院日数の短縮が加速化しており,今後,人工関節置換術の治療選択はますます重要視されるであろう.

 そのような社会情勢のなか,苑田会人工関節センター病院では,なんと1,000件以上/年(2014年実績)の手術件数の実績があり,優れた術後成績を残している.この数値は約100件/月のペースで手術を行っていることを意味しており,人工関節置換術に関しては日本屈指の病院の一つと言えよう.今,その病院の医師,理学療法士,看護師が中心となり,これまでの経験とノウハウ(技術・知識)をそれぞれの専門的立場から,リハビリテーションの視点で整理しまとめ上げられたのがこの書籍である.

文献抄録

ページ範囲:P.676 - P.677

第27回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.679 - P.679

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.680 - P.680

 第49巻7号をお届けします.

 この6月には,1966年にわが国に理学療法士が誕生して50年目を迎え,日本理学療法士協会で式典・祝賀会が行われました.あわせて,第50回日本理学療法学術大会では,「理学療法50年のあゆみと展望—新たなる可能性への挑戦」のテーマの下10,000人以上の参加者を得て,2,000ほどの応募演題と100近いシンポジウム・教育講演などが企画されました。とくに,参加型ディスカッションにおいては,病期,病態ごとのテーマで症例研究報告に基づく熱心な討議が行われ,科学の進歩と臨床での感性とアーツがバランスよく成熟している様を実感することができました.このなかで,現代医療では健康寿命の延伸を目標とした予防と参加が重要な概念で,慢性期の理学療法の位置づけを再認識する必要があります.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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