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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻9号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 脳機能回復と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.777 - P.777

 近年,脳機能回復に関する神経科学を基盤とした知見が集積され,その理論的背景についても明らかになりつつある.これらの研究にもとづき,さまざまな臨床的応用が施行され,いくつかの実証的検証がなされている.本特集では,脳機能回復を指向した理学療法における多角的なアプローチを紹介していただき,その効果,適応,展望,限界等について解説していただいた.

脳機能回復理論と治療選択

著者: 原寛美 ,   三溝祐太 ,   島本祐輔

ページ範囲:P.779 - P.786

はじめに

 脳卒中リハビリテーションにおいて,脳卒中により生じた運動麻痺と歩行機能の改善は理学療法の重要な目標である.急性期・回復期を経て歩行の自立を獲得するケースは多くみられる.その過程において装具や杖などの歩行補助具の活用は極めて重要である.

 近年,さまざまな脳科学理論に基づいたアプローチや,痙縮に対するボツリヌス治療,経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)などの治療戦略も臨床場面では活用が開始されている.従来のリハビリテーションは末梢からの刺激入力を図ることで中枢の可塑的変化を期待するボトムアップの手法であった.しかしTMSによる中枢の刺激はトップダウンによる中枢制御の方法論と言える.またボツリヌス治療による中枢性効果も明らかにされてきている.

 これらを適切な時期に実施していくことで,固定概念であった“補装具を使ってでも歩ければいい”ではなく,“補装具を使用しない歩行の獲得”や,より高い歩行の最適化を目標にするなど,今までより高い水準を目標とする時期がきているのではないだろうか.

 本稿では,Swayneら1)による運動麻痺回復のためのステージ理論に依拠したリハビリテーションの介入,TMS,ボツリヌス治療などの新たな治療選択を踏まえた理学療法について述べる.

脳機能回復と促通反復療法

著者: 廣川琢也 ,   松元秀次 ,   衛藤誠二 ,   下堂薗恵 ,   川平和美

ページ範囲:P.787 - P.793

はじめに

 中枢神経損傷に対するリハビリテーションは,20世紀前半には“損傷した中枢神経の再生がないから機能障害は回復しない”との考えから,漸増抵抗運動などの伝統的運動療法によって残存能力を高め代償手段を獲得することに主眼が置かれてきたが,20世紀半ばに機能回復を目的としたBobath法やBrunnstrom法,Proprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)などの神経筋促通法が提唱された1).さらに20世紀後半には,脳科学や神経科学の発展に伴い脳の可塑性が明らかとなり,脳の可塑性を活かした科学的知見に基づく機能障害へのリハビリテーションが発展を続けている.なかでも,脳卒中後の上下肢麻痺や歩行改善を目標とした治療法としては,CI療法(Constraint- Induced Movement Therapy:CIMT)や筋電バイオフィードバック,電気刺激療法,運動イメージ,経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS),ロボット療法,部分免荷トレッドミル歩行練習など多様なリハビリテーション治療が開発され,いずれも有効性が示されている.これらの有用な治療法に共通していえることは,練習量(時間)や頻度(反復練習)を増やすことにある.さらに,質(内容)を高めるためには,患者に合わせた実際の活動場面での課題設定を遂行する課題志向型(Task-oriented)の練習が重視されている2)

 一方で,前述した従来の神経筋促通法は,神経生理学的あるいは神経発達学的アプローチによって,不足した正常の要素を促通し異常な反射機構を抑制することで麻痺回復の促進をめざして長年の研究と臨床経験を積み,現在も理学療法における臨床場面では広く用いられている.しかし,米国におけるSTEP Conference(1990 & 2005)では,その効果はほとんどないとされ,これまでのメタアナリシス3)においても,Bobath法をはじめとする従来の神経筋促通法は麻痺の回復を促通する治療法とはいえないことが示されている.さらに,本邦での脳卒中治療ガイドライン20094)では「行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効である科学的根拠はない(グレードC1)」と明記されていたが,改訂された脳卒中治療ガイドライン20155)では,推奨項目から削除されている.

 われわれが脳卒中片麻痺の治療に用いている促通反復療法(Repetitive Facilitative Exercise:RFE)は神経筋促通法に含まれるが,治療理論は最新の脳科学を基盤としており,脳の可塑性を生かして最大限の運動機能改善を実現するための治療法である6).本稿では,促通反復療法の理論的背景と治療効果,脳機能への影響について理学療法での自験例を含め概説する.

脳機能回復とトップダウンアプローチ

著者: 万治淳史

ページ範囲:P.795 - P.802

はじめに

 脳疾患発症後の後遺症に対して,脳の神経可塑性を調整し,脳機能の回復を促進する可能性をもつ新たなトップダウンアプローチの戦略として非侵襲的脳刺激(Non-invasive Brain Stimulation:NIBS)1)が注目され,急速にその効果についての報告が増えている.NIBSには,反復経頭蓋磁気刺激(Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS)や経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)があり,その効果は多岐にわたる2).それぞれ頭皮上から刺激を行うことで脳皮質の興奮性を変化させ,治療効果を狙うものである.

 脳卒中発症後の運動麻痺に対するNIBSの治療方略は大きく分けて2つある(図1).1つ目は脳卒中罹患により活動性の低下した病巣側の皮質の活動性の促通,2つ目は非病巣側の抑制である.これは半球間抑制理論3)にもとづき,脳卒中後遺症患者では非病巣側の興奮性が増大し,脳梁を介して障害側半球皮質に対し抑制がかかることが知られており4),これに対し,非病巣側活動性を抑制し,病巣側の活動性を促そうというものである.

 rTMSにおいては高頻度(5Hz以上)磁気刺激で皮質活動性は高まり,低頻度(1Hz以下)磁気刺激で皮質の活動性を抑制することが運動誘発電位(Motor Evoked Potential:MEP)検査により証明されている.また,近年では高頻度の連発刺激(バースト波)を利用し,短時間で皮質活動性変化が効果として得られるIntermittent Theta Burst Stimulation(iTBS)やContinuous Theta Burst Stimulation(cTBS)が紹介され5),刺激効果に関する報告も多くみられる.

 tDCSについても皮質活動性の促通・抑制により,治療効果が得られる.頭皮上に陽極・陰極の電極を貼付し,1〜2 mAの直流電流を通電することで陽極直下では皮質活動性の促通,陰極直下では皮質活動性を抑制することが報告されており,この機序を利用している.本稿では脳卒中発症後の運動麻痺に対するNIBSに関する報告について概観し,自験例を含め,報告したい.

脳機能回復とConstraint-Induced Movement Therapy(CIMT)

著者: 村山尊司

ページ範囲:P.803 - P.811

はじめに

 近年,神経科学分野において,機能的MRI(functional Magnetic Resonance Imaging:fMRI)や,近赤外分光法(Near Infrared Spectoroscopy:NIRS),経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)などの神経の活動を可視化するニューロイメージング技術の発展により,脳損傷後に脳の可塑的変化や脳機能の再構築が起きることが明らかにされた.脳卒中や脳外傷などの脳損傷者の運動機能,認知機能の回復機序について多くの知見が蓄積され,リハビリテーション分野の発展に大きく貢献した.

 ニューロイメージングの発展を背景に,損傷後の神経機能回復促進を目的としたニューロリハビリテーションという概念が提唱されるようになった.電気刺激などで末梢器官から中枢神経系へ働きかけたり,麻痺肢を随意的に積極的に動かしたりすることで,脳の可塑的変化や神経ネットワークの再構築を促す治療である.

 ニューロリハビリテーションのなかで最も多くの知見が示されている治療法の一つが,CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy:CIMT)であろう.CIMTは,非麻痺側肢の使用を制限しながら麻痺肢に対する段階的な集中トレーニングと,日常生活場面での積極的な使用を促すことで麻痺側上肢の機能回復と神経可塑性を誘導することを目的とした治療法である.臨床的アウトカムの報告に加え,ニューロイメージング技術を用いた報告も数多くなされ,治療効果の背景が明らかにされてきている.

 本稿では,CIMTの概要とfMRIによる先行研究,さらに下肢に対するCIMTなど近年報告が増えている応用形CIMTについて概説し,今後の展望を述べたい.

脳機能回復と認知神経的アプローチ

著者: 中野英樹

ページ範囲:P.813 - P.819

 脳卒中は世界各国で共通してみられる中枢神経疾患である.World Health Organizationの報告1)によると,世界中の脳卒中発症者数は毎年約1,500万人であり,さらに脳卒中による死亡は心臓病,がんに次いで3番目に多いことがわかっている.また,2013年の国民生活基礎調査(厚生労働省)2)によると,脳卒中は要介護認定要因の第1位となっている.脳卒中発症後の運動機能障害は,在宅におけるADLならびにQOLを大きく低下させることから3),脳卒中患者の運動機能回復を促進させるための効果的なリハビリテーション方法の開発は国家的課題といえる.

 2014年のCochran systematic reviewsによると,脳卒中発症後の上肢運動機能回復に適度な効果を示すリハビリテーションはいくつか報告されているが,高い効果を示すリハビリテーションは未だ確立されていない4).脳卒中発症後の運動機能回復に高い効果を示すリハビリテーションを開発するためには,脳損傷後の運動機能回復の背景にある脳内メカニズムを理解することが必要不可欠である.そこで本稿では,脳損傷後の運動機能回復の背景にある脳内メカニズムについて概説し,その神経メカニズムならびに脳の機能的特性にもとづいた運動療法について紹介する.

とびら

毎年1万人超の理学療法士の誕生

著者: 中徹

ページ範囲:P.775 - P.775

 ここ数年,毎年1万人超の理学療法士が誕生しています.それは今後ずっと継続する見通しです.理学療法士が増えることは心強い限りですが,喜んでばかりはいられない現実も見ておかなければ明るい将来につながりません.今月はその現実についていくつか考えていきましょう.

 理学療法士は,定年退職に至る方の数がまだ数年間は少数であること,また離職率が低い職種であることから,毎年数千人の純粋増が見込める「高度成長」の職域です.理学療法士はほとんどが医療機関と福祉機関に勤務しますので,それぞれが公的医療費の売り上げを新しく生み出すことになります.毎年1万に近い数千人の理学療法士増が年間医療費の自然増の一部なのでしょう.しかしながら,この数千人分の増加が毎年積算されるとなると,公的医療費のシステムが物理的に維持されるかどうかは極めて不安です.もちろん,このシステムは行政がメインテナンスするものです.ですから,医療費の歯止めなき増加に対する公的医療費の対応は理学療法士には関係がないと言ってもいいのですが,実はそうではないことを次に考えます.

初めての学会発表

基礎研究という選択

著者: 大塚章太郎

ページ範囲:P.822 - P.824

 第50回日本理学療法学術大会が東京国際フォーラムにて開催されました.第50回という節目の学術大会で初めての学会発表を行い,発表を通して感じたことや基礎研究を選んだ理由についてご報告します.

あんてな

第50回日本理学療法士協会全国学術研修大会inいわてのご案内

著者: 及川龍彦

ページ範囲:P.825 - P.831

 第50回日本理学療法士協会全国学術研修大会は,「理学療法士が支える日本〜求められている未来への挑戦〜」(櫻田義樹大会長)をテーマに2015年10月9日(金)・10日(土)の2日間にわたって開催します.会場は岩手県盛岡市の盛岡駅周辺3会場(盛岡市民文化ホール・マリオス,いわて県民情報交流センター・アイーナ,ホテルメトロポリタン盛岡NEW WING,図1),各会場は徒歩5分圏内に位置し,盛岡の市街地を散策しながらの移動が可能です.

 さて,岩手県理学療法士会は第24回日本理学療法士学会(故・清水宏一大会長)以来,実に26年ぶりの全国大会を担当します.当時の学会は“平成元年”,今回の学術研修大会は“第50回”と,当会が担当する大会は偶然にも「節目」にあたっており,これを担当できますことは非常に光栄なことと思っています.準備にあたる役員・スタッフともに当時の様子を知る者は少なく,手探り状態のなかでの準備ではありますが,心地よい緊張感のもと,鋭意準備を進めています.

甃のうへ・第29回

教えることで気づくこと

著者: 佐藤美紀

ページ範囲:P.832 - P.832

 現在,学校と病院で教育に携わっている.教育のコアは何かを自問自答しているが,未だによくわからない.試行錯誤の日々.そのなかから子育てと同じような感覚が生まれてくるのを感じる.教えることは難しいが,気づきも多い.それを少しお話ししたい.

 一つは,基礎の大切さ.教える立場になり,今まで暗黙知であったものが何なのか考えるようになった.テーマに合わせ考え,本を読み,講義の準備を繰り返していると,基礎に立ち返ることで自分のなかで悶々としていたものが不意に見えてくる瞬間がある.思い込みに気づき,それを臨床で確認することで,思いもよらない治療の展開と効果を見つけることにつながっている.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

経頭蓋磁気刺激療法

著者: 菅原憲一

ページ範囲:P.833 - P.833

●経頭蓋磁気刺激とは

 経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)は1985年にBarkerら1)によって開発された装置である.疼痛を伴わず簡便にさらに非侵襲的に大脳皮質を刺激することが可能で,中枢神経系にかかわる生理学的基礎研究から臨床における診断・評価,さらには疾患の治療へと応用されている.

日本理学療法士学会・分科学会の紹介

日本地域理学療法学会

著者: 隆島研吾

ページ範囲:P.834 - P.834

 日本理学療法士協会の方針により,職能部分と学術部分にその運営形態を分割することになり,従来の生活環境支援系理学療法研究部会が地域,予防,義肢装具各領域に3分割され,日本地域理学療法学会は幅広い領域を受け持ちながら発足することとなった.

入門講座 臨床に活かす理学療法研究・5

症例研究の実践

著者: 諸橋勇

ページ範囲:P.835 - P.843

はじめに

 近年,理学療法士が行っている研究はまだ課題はあるにしても,統計学的な手法を用いて質,量ともに以前より向上していることは誰もが認めるところである.国内外の理学療法専門誌には症例報告の投稿欄も設けられ,そしてケーススタディの特集が企画され,その重要性は認められているといえる.

 しかし,学術大会や研究論文のなかで症例報告,症例研究の割合はまだ少なく,あまり積極的に行われているとはいい難い.例えば臨床のなかで困難な症例や稀少な症例を担当すると,場合によってはそれらの症例と類似した過去の症例報告の文献を検索することがあるが,検索目的に合致した症例がみつからないことが少なくない.

 また,患者の理学療法プログラム作成時には基本的に「患者の個別性」を重視し,その患者に合った個別的プログラムを作成することが理想とされている.しかし,理学療法士が言葉で「重要視している」といっているほど,現場では個別性を考慮したアプローチが行われてきているだろうか.

 また,「患者の経過は順調です」という言葉をよく聞くが,この順調とは何と比較して,どのような根拠で判断しているのだろうか.

 本稿では,ケースレポート,そしてシングルケースデザインを中心に臨床の理学療法の現状も踏まえて,症例研究のあり方を概説し,症例研究に取り組むにあたり,はじめの一歩が踏み出せるような具体的な方法を呈示したい.

講座 リハビリテーションにおけるロボットのいま・2

歩行練習ロボット

著者: 平野哲 ,   才藤栄一 ,   加藤正樹 ,   山田純也 ,   井元大介

ページ範囲:P.845 - P.852

はじめに

 リハビリテーション医療におけるロボットの活用は以前より注目されていたが,研究・開発が進み,臨床現場へも盛んに導入されるようになってきた.

 リハビリテーションロボットは目的によって,表1に示す4種類に分類できる.

 歩行に関するロボットは,自立支援と練習支援のどちらかに属するものが多い.自立支援ロボットに該当するものとして,例えば,筆者らが開発しているWearable Power-Assist Locomotor®(WPAL®1-5)が挙げられる.完全対麻痺者の歩行再建を目指したロボットであり,両下肢の間に配置した内側股継手付き両長下肢装具に,両側の股関節・膝関節・足関節を制御するモータが取り付けられている.各モータが健常者に類似した歩行パターンを再現し,これに合わせて重心移動することで,完全対麻痺者であっても歩行器平地歩行を獲得可能である.WPAL®での歩行が自立するまでには,WPAL®を用いた歩行練習が必要であり,筆者らは専用の練習プログラムに則った歩行練習を行っている.しかし,WPAL®は,あくまでもロボットを用いての歩行再建を目的としたものであり,麻痺の改善や,WPAL®なしでの歩行獲得を目指したものではないため,練習支援ではなく,自立支援に分類される.本稿で扱う「歩行練習ロボット」は,「ロボットなしでの歩行能力向上を目指すロボット」であると定義し,練習支援ロボットについてのみ扱うこととする.

臨床実習サブノート 臨床実習で患者さんに向き合う準備・5

変形性膝関節症

著者: 上西啓裕

ページ範囲:P.853 - P.859

はじめに

 変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee:膝OA)は加齢に伴う膝関節の慢性変性疾患であり,関節軟骨の磨耗変性を主体として骨変化(骨棘形成,軟骨下骨の骨硬化,陥没変形)や軟部組織変化(滑膜炎,関節包拘縮,靱帯や半月板の変性,断裂)等種々の変化を生じる疾患です.運動器疾患のなかでも膝OAは学生にとって臨床実習において比較的担当する機会が多い症例であると思われます.本稿では臨床実習において膝OA患者を担当する際に,準備しておく,心がけておくことを中心に患者を受け持つ際の理学療法士の基本的な考え方や行動について整理し,解説したいと思います.

学会印象記

—第50回日本理学療法学術大会—新たなる可能性への挑戦

著者: 櫻田義樹

ページ範囲:P.862 - P.864

はじめに

 今年は,日本に理学療法士が誕生して50年という節目の年にあたります.この記念すべき年に,内山靖大会長のもと,6月5日から7日までの3日間,東京国際フォーラムを会場に第50回日本理学療法学術大会が開催されました.総参加者数は6月12日の暫定報告により1万602人と,予想どおりの盛大な学術大会となりました.また6日には,日本理学療法士協会設立50周年記念式典・祝賀会がホテルオークラ東京で催され,理学療法士だけでなく多くの関係者にも注目された学術大会であったと思います.

 大会テーマは「理学療法50年のあゆみと展望〜新たなる可能性への挑戦〜」と題され,参加型ディスカッションやヤングインパクトプレゼンテーションなどの新企画も取り入れられ,各会場では積極的な討議がなされていました.本稿では,企画内容や会場の雰囲気などさまざまな視点から,印象的であったことについて報告します.

—第52回日本リハビリテーション医学会学術集会—多様な専門性をつなぐ,学際的なリハビリテーション医学の役割を感じた学会

著者: 小林量作

ページ範囲:P.865 - P.867

 2015年5月28日(木)から30日(土)までの3日間,新潟市の朱鷺メッセにおいて第52回日本リハビリテーション医学会学術集会が,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室教授の里宇明元先生の会長の下で開催された.メインテーマの「今を紡ぎ,未来につなぐ」は,「リハビリテーション医学・医療にかかわる者一人ひとりが,それぞれの置かれている環境や立場のなかで,今できること,なすべきことを丁寧に紡ぎながら,学術集会という集いの場に成果を持ち寄り,それぞれの糸を1本の太い糸に束ね,力強く未来につなげていきたい」という願いをこめたものである.内容は特別講演8,教育講演14,シンポジウム8,パネルディスカッション3などのプログラムが総数で60余り,一般演題795題,ポスター演題261題,参加者3,300人余りと盛会のうちに終了した.

 今回のように学会開催場が地方都市で行われたことは,大都市における高額な会場費などを含めた運営費の高騰も1つの理由として考慮したものと推測される.アクセスが良く,1か所の会場で開催できる地方都市が開催地候補になるという方向性を示すものとも考えられる.ひと昔前と異なり,通信技術の高度化は,学会長所属地域から相当に離れた遠隔地域であっても十分に開催可能になっている.筆者にとって朱鷺メッセは行き慣れた会場であり,どの学会でも最初に経験する会場マップの理解に苦労することもなく,非常に安心して会場移動ができた.

—World Confederation for Physical Therapy Congress 2015—さまざまな経験をすることができた学会発表

著者: 宮澤大志

ページ範囲:P.868 - P.869

はじめに

 2015年5月1〜4日にシンガポールで開催された,World Confederation for Physical Therapy Congress 2015に参加しました.私は理学療法士になって2年目で,国内の学会参加の経験もほとんどありません.そんな未熟な私ですが,今回初めて国際学会に参加して感じたことを率直に書かせていただきます.

症例報告

慢性期脳卒中患者に対する知覚連動インサートの効果—シングルケーススタディによる検証

著者: 大塚公規

ページ範囲:P.870 - P.873

要旨:慢性期脳卒中患者を対象に知覚連動インサートを用い,歩行能力に改善が得られるかを検討した.発症から48か月経過した脳卒中患者1名を対象とした.知覚連動インサートを作成し,未使用時と使用時をそれぞれ5週間ずつ設け,10m最大歩行速度,歩幅の変化についてシングルケーススタディ(ABAB法)を用いて検証した.また歩行をビデオ撮影し,視覚的に歩容の変化を評価した.未使用時と比較して使用時に歩容の変化を認め,最大歩行速度,歩幅に有意な改善を認めた.知覚連動インサートは慢性期脳卒中患者の歩行能力を改善させる可能性が示された.

次号予告

ページ範囲:P.819 - P.819

書評 —森岡 周(著)—「発達を学ぶ—人間発達学レクチャー」

著者: 浅野大喜

ページ範囲:P.821 - P.821

 “発達”は,子供の成長にとって必要なだけでなく,リハビリテーションの臨床,大学や専門学校の教育現場などにおいて,すべてに共通し,セラピストが理解しておかなければならない概念である.その理由は,“人間は生涯発達していく存在”だからである.そのため,対象者について共感,理解し,適切な対応を考える際に“発達”の理解は欠かせない.そして,セラピスト自身もまた発達していく存在であることを忘れてはならない.

 本書は,人間発達学の教科書であり,人間が生まれてから成人になり,老年期へと生涯にわたって発達していくプロセスと,それを観察する際の思考法についての参考書である.本書の前半では,「姿勢と運動」,「認知と知性」,「情動と社会性」という3つの領域に分けて,それぞれの発達の様相について端的に説明されている.その内容は,発達の運動学的側面,認知神経科学的側面,さらに基本的な発達理論の解説から心の理論などの高次機能に至るまで,幅広くわかりやすい表現で記述されている.ここには,発達という現象を総体的に理解するという視点を初学者に提供しようとする著者の意図を読み取ることができる.また,図表やイラストも豊富に使用され,重要な概念については随所に“column”として解説されており,初学者にとって理解しやすいよう配慮されている.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.843 - P.843

書評 —野村卓生(著)—「糖尿病治療における理学療法—戦略と実践」

著者: 市橋則明

ページ範囲:P.861 - P.861

 糖尿病の理学療法と聞くと,私が理学療法士になった1年目に,ドクターから糖尿病の運動療法をできないかと言われ,困ったことを思い出す.当時は一人職場で相談する先輩もおらず,糖尿病に関する理学療法の書籍もなく,摂取カロリーと運動によるカロリーを計算し,運動量を決めることぐらいしかできなかった記憶がある.当時から糖尿病の運動療法の必要性は言われていたが,まだ糖尿病に対する理学療法士の関心は低かった.

 30年後の現在,日本糖尿病理学療法学会の登録人数(2015年4月1日現在)は3,015人であり,多くの運動器疾患にかかわる日本運動器理学療法学会が6,410人であることを考えると非常に多くの理学療法士が糖尿病の理学療法に関心を持っていることがわかる.理学療法士が担当する患者のなかには合併症として糖尿病を有する者が非常に多い.また,近年糖尿病教室なども盛んに行われるようになっており,チーム医療のなかで理学療法士の参加は必要となっている.一方で,糖尿病の理学療法の教育に関しては,内部疾患の一つとしてリスク管理などの観点で学ぶ機会はあるものの,教科書の一つの章にまとめられていることがほとんどである.

文献抄録

ページ範囲:P.874 - P.875

第27回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.877 - P.877

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.878 - P.878

 かつて筆者が新人だったころ,片麻痺の方からよく尋ねられたことは「この手は動くようになりますか?」「また散歩に行けるようになりますか?」という機能回復の予後に関するものでした.そのころ(30数年以上前,1980年代)の常識は,脳機能そのものは回復せず,代償的な過程によってADLの向上が獲得されるというものでした.現在の脳機能回復の理論的発展と実践への展開を,そのころ誰が予想できたでしょうか.

 さて,今特集は「脳機能回復と理学療法」です.かつての常識が打ち破られ,新たな可能性,パラダイムシフトを読者は味わうことができるでしょう.この領域の臨床的研究の第一人者である原先生には「脳機能回復理論と治療選択」において,「固定概念であった“装具を使ってでも歩ければいい”ではなく,“補装具を使用しない歩行の獲得”を目標にするなど ,今までより高い水準を目標とする時期がきているのではないか」という重要な提案をいただきました.廣川先生には「脳機能回復と促通反復療法」について,その理論的背景と実践結果についてご紹介していただき,「患者が意図した運動を反復して誤りなし学習を強化する点,運動量だけでなく運動の質を重視する点」が肝要であることを解説していただきました.万治先生には「脳機能回復とトップダウンアプローチ」として,経頭蓋磁気刺激(rTMSあるいはcTBS)およびtDCSの理論的背景と適応,症例での運動学的効果の検証,展望,限界について解説していただき,特に回復期片麻痺上肢機能の改善についての運動療法との併用を考慮した自験例を紹介していただきました.村山先生にはCIMTについての適応と効果に関する先行研究の概観と理学療法場面での適用についての留意点を述べていただき,最近の方法として「拘束への抵抗感やストレスの軽減を目的として,麻痺側への意識化が図られていれば必ずしも拘束は必要でないというmodified CMIT」についても言及していただきました.中野先生には「脳機能回復と認知神経的アプローチ」に関して,脳内の運動ネットワークの変化,半球間抑制の不均衡など重要な理論を平易に解説していただき,運動機能回復のための手続きとして体性感覚フィードバック,運動先行型活動,運動発現のための皮質脊髄経由の神経活動の重要性について指摘されました.いずれも先端的な研究成果をもとに述べられていてこの領域の必読論文といえるでしょう.このほか,本号では諸橋先生の入門講座「臨床に活かす理学療法研究法」において「症例報告」が解説され,物語的に「研究を進める理学療法士A君の事例」が提示されています.これが大変興味深く「あるある」とうなずく読者も多いと思います.紙幅の都合ですべての記事についてご紹介できないのが残念です.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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