icon fsr

文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル49巻9号

2015年09月発行

文献概要

特集 脳機能回復と理学療法

脳機能回復と促通反復療法

著者: 廣川琢也1 松元秀次2 衛藤誠二2 下堂薗恵2 川平和美2

所属機関: 1鹿児島大学医学部・歯学部附属病院臨床技術部 2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科運動機能修復学講座リハビリテーション医学

ページ範囲:P.787 - P.793

文献購入ページに移動
はじめに

 中枢神経損傷に対するリハビリテーションは,20世紀前半には“損傷した中枢神経の再生がないから機能障害は回復しない”との考えから,漸増抵抗運動などの伝統的運動療法によって残存能力を高め代償手段を獲得することに主眼が置かれてきたが,20世紀半ばに機能回復を目的としたBobath法やBrunnstrom法,Proprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)などの神経筋促通法が提唱された1).さらに20世紀後半には,脳科学や神経科学の発展に伴い脳の可塑性が明らかとなり,脳の可塑性を活かした科学的知見に基づく機能障害へのリハビリテーションが発展を続けている.なかでも,脳卒中後の上下肢麻痺や歩行改善を目標とした治療法としては,CI療法(Constraint- Induced Movement Therapy:CIMT)や筋電バイオフィードバック,電気刺激療法,運動イメージ,経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS),ロボット療法,部分免荷トレッドミル歩行練習など多様なリハビリテーション治療が開発され,いずれも有効性が示されている.これらの有用な治療法に共通していえることは,練習量(時間)や頻度(反復練習)を増やすことにある.さらに,質(内容)を高めるためには,患者に合わせた実際の活動場面での課題設定を遂行する課題志向型(Task-oriented)の練習が重視されている2)

 一方で,前述した従来の神経筋促通法は,神経生理学的あるいは神経発達学的アプローチによって,不足した正常の要素を促通し異常な反射機構を抑制することで麻痺回復の促進をめざして長年の研究と臨床経験を積み,現在も理学療法における臨床場面では広く用いられている.しかし,米国におけるSTEP Conference(1990 & 2005)では,その効果はほとんどないとされ,これまでのメタアナリシス3)においても,Bobath法をはじめとする従来の神経筋促通法は麻痺の回復を促通する治療法とはいえないことが示されている.さらに,本邦での脳卒中治療ガイドライン20094)では「行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効である科学的根拠はない(グレードC1)」と明記されていたが,改訂された脳卒中治療ガイドライン20155)では,推奨項目から削除されている.

 われわれが脳卒中片麻痺の治療に用いている促通反復療法(Repetitive Facilitative Exercise:RFE)は神経筋促通法に含まれるが,治療理論は最新の脳科学を基盤としており,脳の可塑性を生かして最大限の運動機能改善を実現するための治療法である6).本稿では,促通反復療法の理論的背景と治療効果,脳機能への影響について理学療法での自験例を含め概説する.

参考文献

1)半田健壽:脳卒中における理学療法の変遷と今後の課題.理学療法27:1379-1385,2010
2)潮見泰藏:脳損傷後の機能回復と運動学習.理学療法科学21:87-91,2006
3)Langhorne P, et al:Motor recovery after stroke:a systematic review. Lancet Neurol 8:741-754, 2009
4)篠原幸人,他(編):脳卒中治療ガイドライン2009.協和企画,pp 296-299,2009
5)小川 彰,他(編):脳卒中治療ガイドライン2015.協和企画,pp 286-294,2015
6)川平和美:片麻痺回復のための運動療法[DVD付]—促通反復療法「川平法」の理論と実際,第2版.医学書院,pp160-170,2010
7)下堂薗恵:促通反復療法.総合リハ41:323-327,2013
8)川平和美,他:リハビリテーション・アプローチ—ファシリテーション・テクニック.総合リハ35:1199-1204,2007
9)Shimodozono M, et al:Benefits of a repetitive facilitative exercise program for the upper paretic extremity after subacute stroke:A randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair 27:296-305, 2013
10)鎌田克也,他:脳卒中片麻痺上肢に対する作業療法と促通反復療法併用の効果.作業療法23:18-25,2004
11)野間知一,他:慢性期の脳卒中片麻痺上肢への促通反復療法の効果.総合リハ36:695-699,2008
12)Kawahira K, et al:Effects of intensive repetition of a new facilitation technique on motor functional recovery of the hemiplegic upper limb and hand. Brain Inj 24:1202-1213, 2010
13)三谷俊史,他:回復期脳卒中片麻痺に対する促通反復療法の効果.総合リハ38:165-170,2010
14)木佐俊郎,他:回復期脳卒中片麻痺患者のリハビリテーションに促通反復療法を取り入れた場合の片麻痺と日常生活活動への効果—無作為化比較対照試験による検討.Jpn J Rehabil Med 48:709-716,2011
15)Kawahira K, et al:Addition of intensive repetition of facilitation exercise to multidisciplinary rehabilitation promotes motor functional recovery of the hemiplegic lower limb. J Rehabil Med 36:159-164, 2004
16)廣川琢也,他:脳卒中片麻痺患者に対する体幹への促通反復療法の効果—ランダム化比較試験による検討.理学療法学40:457-464,2013
17)衛藤誠二,他:TMSを用いての脳の可塑性の評価.臨床神経生理30:402-409,2002
18)衛藤誠二:経頭蓋磁気刺激の臨床応用.日温気物医誌76:293-296,2013
19)Shimodozono M, et al:Repetitive facilitative exercise under continuous electrical stimulation for severe arm impairment after sub-acute stroke:a randomized controlled pilot study. Brain Inj 28:203-210, 2014
20)Noma T, et al:Novel neuromuscular electrical stimulation system for the upper limbs in chronic stroke patients:a feasibility study. Am J Phys Med Rehabil 93:503-510, 2014
21)Miyara K, et al:Feasibility of using whole body vibration as a means for controlling spasticity in post-stroke patients:a pilot study. Complement Ther Clin Pract 20:70-73, 2014
22)宮良広大,他:脳卒中片麻痺下肢への全身振動刺激(Whole body vibration)による痙縮抑制効果—誘発電位F波を用いた検討.理学療法学42:90-97,2015
23)上間智博,他:脳卒中片麻痺患者への3種の麻痺側荷重指導が歩行に及ぼす影響について.義装会誌27:105-111,2011
24)村山真紀,他:片麻痺患者への歩行促通法の効果について.臨床リハ16:1203-1206,2007
25)社団法人日本理学療法士協会:理学療法診療ガイドライン,第1版.pp415-421,2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?