icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル50巻1号

2016年01月発行

雑誌目次

特集1 理学療法50年の変遷 グラフ

理学療法の幕開け/理学療法の黎明期を支えたリハビリテーション機器

ページ範囲:P. - P.

●萌芽

 ・高木憲次氏:1918年に“術手”という専門職の確立の必要性を論じ,1956年には日本理学治療技師会の名誉会長として身分法制定の必要性を説いている.

 ・小池文英氏:1949年の調査報告で「理学療法の概念」を示す(当時,厚生省技官).

 ・関西では水野祥太郎氏,九州では内藤三郎氏,天児民和氏,服部一郎氏などを中心に,各地で先進的な取り組みが行われていた.

座談会

あのとき語られた10年後の現実とこれから

著者: 吉尾雅春 ,   林典雄 ,   小塚直樹 ,   金谷さとみ ,   高橋仁美 ,   網本和

ページ範囲:P.5 - P.15

 本誌では10年前,創刊40周年企画「理学療法の展望」のなかで,「これまでの10年,これからの10年」という巻頭座談会を掲載しました.そこで語られたあれからここまでの10年間のあゆみがどうであったのか,各領域を代表する方々に検証していただきました.それぞれの領域で病態の原因が可視化されたり,専門性の精緻化が図られたり,発展的な10年であったようですが,教育や臨床実習など,いくつかの課題も示されました.再生医療の発展など社会の大きな変化のなかで,これからの10年をどのように展望するか,各氏の見通しを伺いました.

特集2 これまでの10年とこれからの10年—理学療法の発展と課題と夢

徒手理学療法

著者: 瓜谷大輔

ページ範囲:P.17 - P.19

徒手理学療法とは何か?

 世界理学療法連盟のサブグループである,国際整形徒手理学療法士連盟(International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists:IFOMPT)は徒手理学療法を「徒手的な技術と治療的な運動を含む高度に特異的な治療アプローチを用いた,臨床推論に基づく,神経筋骨格系の状態をマネジメントするための理学療法の専門領域」と定義している.すなわち身体の各部位を揉んだり,押したり,引っ張ったりという行為のみを指して徒手理学療法と言うのではないことをあらためてご理解いただきたい.

脳卒中の理学療法—学際的アプローチの確立に向けて

著者: 佐藤房郎

ページ範囲:P.20 - P.22

今まさに変革のとき

 本邦の脳卒中理学療法の変遷は,治療技術の中核を占めてきた神経生理学的アプローチに対する効果が疑問視され,システム理論と課題指向型アプローチへと変遷してきた.また,CI療法(constraint-induced movement therapy)や促通反復療法など,エビデンスに基づく新たな治療法が提案され発展を続けている.これらの変革は,脳神経科学や脳機能計測技術に裏づけられた脳活動の解明によるところが大きい.脳は階層的かつ並列に組織された構造により運動を制御しており,特定領域が障害されてもバックアップできるシステムを有し,身体の変化や活動により皮質は再編する.これは,システム理論の背景になっている.運動療法は脳の可塑性を望ましい方向に導く媒体として不可欠であるが,運動学習成立(スキル獲得)が前提条件となる.

 もう一つの波は,「脳卒中治療ガイドライン2009」の発行により,理学療法の標準化が図られたことであろう.6年越しの改訂になる2015年版では,全般的に論文数が増え付記が解消されている.改訂ポイントでは,維持期リハビリテーション,麻痺側上肢の強制使用(CI療法),肩関節亜脱臼への三角巾や肩関節装具に関する推奨グレードが高くなり,課題反復トレーニングが推奨に挙がった.ガイドライン改訂のスパンは,脳卒中治療の進展の速さを物語っている.

脊髄損傷の理学療法

著者: 武田正則

ページ範囲:P.23 - P.25

これまでの10年

 脊髄損傷の理学療法において,これまでの10年における最大の話題は,脊髄再生や歩行再建に基づくさまざまな考え方やアプローチの変遷であると言える.従来,脊髄損傷は中枢神経障害であり,麻痺が治癒しないという概念のもと,代償的な動作の獲得に焦点が当てられていた.脊髄損傷者自身は身体的な障害を受容することが求められ,そのうえでいかに社会に復帰していくかが問われていた.

 近年,脊髄再生の話題がマスコミにも大きく取り上げられ,それと連動した装具やトレッドミルを用いた歩行再建が諸外国で多く行われるようになると,わが国でもその動きは加速していった.脊髄損傷者の反応も早くからあり,臨床においても問い合わせや従来型の治療についての異論なども年々増加していったという印象を筆者は持っている.また,脊髄損傷の発症年齢も高齢化や地域差が進んでおり,医療制度改革での入院期間短縮や医療機能の分化など以前とは違ったアプローチも必要となっている1,2).これらの話題を中心に,われわれ理学療法士に関連した事項について述べていく.

呼吸理学療法

著者: 間瀬教史

ページ範囲:P.26 - P.29

慢性期の理学療法

1.ガイドラインの普及

 長い間,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の治療は薬理学的治療が主体であったが,COPDが全身疾患であるという考え方が広まると,理学療法などの非薬物療法が重要視されるようになった.1997年に米国呼吸循環リハビリテーション協会が発表したガイドライン1)は,COPDの治療に大きなインパクトを与えた.特に,プログラムのなかで下肢の筋力トレーニングが最もエビデンスのレベルの高い有効性を持つことが示され,呼吸練習や排痰法などのプログラムに変わり,筋力トレーニングや全身持久力トレーニングなどの運動療法がプログラムの中心となった.

 さらに,2001年に発表されたGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)でも呼吸リハビリテーションの重要性が明確に指摘された.GOLDはその後も改訂が繰り返され,世界的な標準となっている.このなかで呼吸リハビリテーションは現在でも非薬物療法の重要な位置を占めている.本邦でも2003年に運動療法に関するマニュアルが発表され,2012年には第2版2)が発表されている.

心疾患の理学療法

著者: 渡辺敏

ページ範囲:P.30 - P.31

これまでの10年の心疾患理学療法

 これまでの心疾患の理学療法は,日本循環器学会での循環器疾患の運動療法や,日本心臓リハビリテーション学会での心臓リハビリテーションに包括されながら,生命予後改善をアウトカムとした臨床研究のエビデンスに支えられてきた.言わば医師主導の研究報告に理学療法士が追従する形で,運動療法や心臓リハビリテーションおよび理学療法の使い分けは明確には求められなかった.

 そのような潮流のなかで,下肢筋力という理学療法士目線での臨床研究において,心機能のみならず下肢筋力が運動耐容能と相関している事実が理学療法士から1994年に報告された(図1)1).この報告は20年以上前に出されたものだが,有酸素運動主体であった心疾患の運動療法に,無酸素運動という理学療法寄りの手法が定着するきっかけとなり,これまでの心疾患理学療法の成果物の一つである.

関節疾患の理学療法

著者: 木藤伸宏

ページ範囲:P.32 - P.34

 日本において,これまでの10年間に関節疾患に対する理学療法士への関心は高まり,さまざまな治療概念が提唱されてきた.そのこと自体は関節疾患にかかわる理学療法士の視野を広げプラスに作用したことも多いが,マイナス面として,柔道整復師,マッサージ師,トレーナー,ピラティス,ヨガ,ロルフィングを行うbody workerと理学療法士の専門性の違いをあやふやにしたのではないだろうか.上記の施術概念や技術の一部を理学療法に取り入れることについて問題はないと思っている.しかし,取り入れるにしても理学療法というフィロソフィーがなければ,われわれのアイデンティティー自体があやふやになる.この10年間はまさに理学療法というフィロソフィーを見失い闇雲に走り続けた結果,われわれのアイデンティティーが失われた時代であり,それが今も続いて深刻な問題に発展していると筆者は思っている.この結果が診療報酬に反映され,厚生労働省において理学療法士と作業療法士を一緒にした新たなリハビリテーション専門士確立に向けた議論へと発展したのではないだろうか.

 Vosら1)によると,筋骨格疾患と障害は障害調整生命年数(disability-adjusted life years:DALYs)の上位を占め,能力障害(disability)の原因として2010年は1990年より45%上昇した2).これらの疾患や障害を持つ人々に対して,われわれ理学療法士も重要な役割を任う.そのためには,われわれが誰のどのような問題に対して何を提供できるのかという専門性(profession)を明確にし,国民に広く認知される必要がある.

スポーツ理学療法

著者: 尾﨑勝博

ページ範囲:P.35 - P.37

 昨今,スポーツにかかわる理学療法士は年々増加しつつある.対象も競技スポーツのみならず,障がい者スポーツ,地域スポーツ,生涯スポーツ等と多様化し,スポーツ復帰,外傷疾病予防,パフォーマンス向上等への対応が求められている.その実践は医療機関にとどまらず,スポーツ現場にも拡がりをみせている.本稿では,スポーツ理学療法にかかわるさまざまな歴史や国の施策を振り返りながら,スポーツ理学療法のこれからについて私見を述べたい.

 わが国のスポーツ理学療法の歴史は東京オリンピックが開催された1960年代に遡る.当時は国家事業の一つとして1967年に日本体育協会スポーツ診療所が開設され,その後,公的・民間のスポーツ専門機関をはじめ,スポーツ専門診療科を有する医療機関等,さまざまな場所で理学療法士がスポーツ選手を対象とする場面が増加してきた.2000年代に入ると,文部省(当時)が国際的な競技力向上を目的にスポーツ振興基本計画を策定し,2001年には国立スポーツ科学センター(Japan Institute of Sports Sciences:JISS),2008年にはナショナルトレーニングセンター(National Training Center:NTC)が開所した.

下肢切断の理学療法

著者: 長倉裕二 ,   長尾俊宏 ,   濱本洋典

ページ範囲:P.38 - P.40

はじめに

 切断者の理学療法はこれまで義足歩行を獲得し自立した生活ができることを1つの目標としてきたが,近年高機能な部品の開発に伴い,より高いレベルでの動作やQOLの向上が付加されるようになってきている.さらに,2020年東京パラリンピックが決定し,障害者スポーツがメディアでも取り上げられ注目されるようになってきたことで,切断者の動作獲得に対するニーズも高まっている.

 本稿では義足部品の変遷を紹介し,これからの課題と夢について述べる.

ロボットを利用した理学療法

著者: 北島昌輝

ページ範囲:P.41 - P.43

 政府は,「日本再興戦略」改訂2014において,「ロボットによる新たな産業革命」の実現に向けた取り組みを各方面で推進している.医療・介護の分野も例外ではなく,発症後早期に社会復帰できる社会をめざし,歩行をはじめとした移動支援,移乗の介助等を行うロボットの開発,臨床応用,普及拡大が進められている.

 そのようななか,佐賀大学医学部附属病院(以下,当院)では,2014年10月にロボットリハビリテーション外来を開設した.主に生活期の脳卒中後遺症片麻痺,頭部外傷後遺症,脊髄損傷,多発性硬化症などの患者を対象とし,そのうち痙性麻痺を有する者には,痙縮を抑制する効果のあるボツリヌス療法を併用しながら,ロボットを利用した理学療法を行っている.

物理療法

著者: 生野公貴

ページ範囲:P.44 - P.46

物理療法の現状

 物理療法とは現代リハビリテーション医学の体系においてphysical agentsと呼ばれており,温熱,光線,電気,外力などの物理エネルギーを治療に利用したものである1).“物理療法”は,“運動療法”,“日常生活活動指導”,“義肢装具療法”と並び理学療法の主要な治療手段の一つとされる.しかしながら,近年物理療法は臨床現場において“効果の乏しい治療法”という誤った認識や“治療機器が高価である”といった実用性の観点から,その活用が軽視されている感がある.

 43施設156名の現役理学療法士を対象とした2012年のアンケート調査では,81%が臨床で物理療法を実施しているものの,実施時間や実施理由の調査から,本来行われるべき仮説—検証といった臨床推論では物理療法が使用されていない現実が示唆されている2).また,不十分な卒前教育と卒後教育がその現況に拍車をかけており,物理療法衰退への“悪循環”が生じている.しかしながら,物理療法に関する研究数や理学療法以外の分野からの注目度はむしろ増しており,本来専門性を持っているはずの理学療法士がその貴重な武器を投げ捨ててしまっているのが実情ではないだろうか.

嚥下障害に対する理学療法

著者: 森憲一

ページ範囲:P.47 - P.49

これまでの10年

 口から栄養を摂取し排泄を行うまでの一連の活動は生きていくうえで欠かせないものであり,QOLそのものである.特に,摂食・嚥下障害が改善されたときの患者,家族,担当した療法士の喜びは格別である.

 筆者が理学療法士免許を取得した当時,摂食・嚥下障害に関する書籍は少なく未開拓の分野であった.関連職種の数も少なく,多くの病院で嚥下障害患者を担当するのは呼吸の知識と技術を有する理学療法士であった.

精神疾患の理学療法

著者: 上薗紗映

ページ範囲:P.50 - P.51

これまでの10年

1.10年前までの状況

 10年前,私が整形外科単科病院から精神科に転職すると聞いた同僚には随分驚かれ,「精神科で何をするの?」と尋ねられもした.当時は,精神科領域の理学療法はまったくと言っていいほど知られていなかったからだ.

 実際に勤務してみると,毎日驚きの連続であった.どのくらいやればどの程度良くなるか,ゴールはどこにあるのか,まったくわからないのだ.

メタボリックシンドロームと理学療法

著者: 久野陽治

ページ範囲:P.52 - P.54

メタボリックシンドロームとは

 メタボリックシンドローム(metabolic syndrome:MS)とは,内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり,動脈硬化性疾患を招きやすい病態である.2005年4月に日本内科学会をはじめとする関係8学会により日本人向けの診断基準がまとめられ,内臓脂肪の蓄積(ウエスト周囲径)に加え,高血圧,耐糖能異常,脂質代謝異常といった動脈硬化危険因子が2つ以上該当するとMSと診断される.

 伊藤1)はMSの基盤である肥満やインスリン抵抗性の上流に生活習慣の乱れがあるとし,食生活の偏りや運動不足という駒が1つ倒れることにより,ドミノ倒しのごとく内臓肥満,脂質代謝異常などが連鎖して発症し,高血圧,耐糖能異常などが引き起こされる「メタボリックドミノ」という概念を提唱している.これは,MSを説明するうえで広く用いられる考え方となっており,厚生労働省の生活習慣病の進行のイメージにおいてもわかりやすく表現されている(図)2)

介護予防としての理学療法

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.55 - P.57

はじめに

 私が本誌の第35巻に「理学療法研究におけるパラダイム転換」として,治療学としての理学療法学から予防学としての理学療法学へのパラダイム転換を寄稿してから1)14年が経つ.EBMを錦の御旗にマネジドケアを導入しようとする行政と欧米に比較してEBMが脆弱な後ろめたさを感じている臨床医学が共鳴して,障害受容過程を慮ることなしに,医療の急性期化,病院の機能分化,慢性医療の包括化が進められることへの警鐘を込めて書いた.その解決策として提案したのが,理学療法を一次予防,二次予防へ広げることのパラダイムシフトであった.折しもEBM華やかなりし頃に,理学療法にEBMを適応すると患者が治らないことが明らかになるだけだなどと書くわけであるから,へそ曲がりの謗りはもとよりの覚悟であった.

 また,障害者に対象を限定している理学療法士及び作業療法士法も大きな妨げで,予防へのパラダイムシフトは理解できてもそれは理学療法かという根源的な問いに答えるものではなかった.それでも理学療法のなかで予防への関心は徐々に高まり,活動の実績が行政を動かし理学療法の名称使用範囲拡大の通知につながり,研究課題の増加を背景に日本予防理学療法学会が分科会として位置づけられるなど,パラダイムシフトが着実に進んできたことを感じさせる.そして50年を記念する本誌のテーマに選択されたことはさらに一般化されてきたことを示すのではないか.

在宅理学療法

著者: 小山樹

ページ範囲:P.58 - P.61

はじめに

 ここ10年の在宅理学療法の発展は介護保険とともに動いてきたと言える.介護保険法は2000年にスタートし,5年後,ちょうど10年前の2006年に大きな見直しが行われた.これにより,① 予防の重視,② 施設給付の見直し,③ 地域密着型サービスの開始が実施され,2009年の改正では不正を防ぐために規制の強化や連座制の導入がなされた.2012年には,① 複合型サービスの創設,② 定期巡回・随時対応サービスの創設,③ 介護人材確保がポイントで,2015年度は地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みが始まった.① 中重度者や認知症高齢者への対応の強化,② 活動参加に焦点を当てたリハビリテーション,③ 人材確保対策の推進,④ サービス評価の適正化と効率化がポイントとなった.

小児の理学療法

著者: 木原秀樹

ページ範囲:P.62 - P.64

小児医療・小児理学療法の変化

 小児理学療法の歴史は古く,1965年に理学療法士及び作業療法士法が制定される以前から,ポリオ(旧称:小児麻痺)を対象に介入が行われてきた.理学療法士が誕生する頃には,全国に肢体不自由施設が設置されたが,1970年代後半から,通院による理学療法を実施する医療機関(一般病院および大学病院など)が増えてきたため,施設入所による理学療法の実施は減少した.

 小児理学療法に大きな転機が訪れたのは,2005年に厚生労働省等から政策通知された「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進について」1)であった.小児医療は医師不足による体制崩壊が現実味を帯びていたなか,各都道府県において,小児科・産科の医療資源の集約化・重点化計画を策定するよう通知された.小児医療の集約化と時を近くして,新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)病床の不足が社会問題化した.2007年に厚生労働省から報告された実態調査の結果2)から,小児中核病院での地域周産期母子医療センター,高次機能病院での総合周産期母子医療センターの整備が急速に進んだ.

ウィメンズヘルスと理学療法—これまでとこれから

著者: 石井美和子

ページ範囲:P.65 - P.67

はじめに

 最近,理学療法士の間で女性の健康問題への関心が著しく高まっている.全国各地でウィメンズヘルスをメインテーマとした団体やスタディグループの発足,関連内容を扱った講習会の開催が相次ぎ,今後さらにその勢いは増す感がある.本稿では,本邦のウィメンズヘルス分野に関する理学療法の現在とそこに至るまでのこの10年前後の流れに触れるとともに,今後の発展の方向性について筆者が期待するところ,その発展のために性差を考慮した健康支援への社会の期待に応えるためにクリアすべきわれわれの課題について私見を述べる.

救命救急部門における理学療法

著者: 横山仁志

ページ範囲:P.68 - P.70

“静”から“動”へ

 これまでの10年足らずの間に飛躍的な変化を遂げた理学療法領域として,この救命救急領域,特に集中治療室(intensive care unit:ICU)における人工呼吸患者の理学療法がその一つに挙げられる.

 従来,ICUに入室する重症疾患や超急性期の人工呼吸管理患者は,鎮静薬の使用による深い鎮静と安静臥床の状態で,原疾患や合併症に対する治療を行うことが主流であった.そのなかで理学療法は,過負荷により原疾患の回復遅延や体力の消耗を助長するといった懸念から,極低負荷の関節トレーニングや体位療法を主とした短時間の呼吸に対する介入にとどまるか,病状が十分に安定した後やICU退室後の時期からの実施であった.しかしながら,このような過度の鎮静や安静臥床の状態では,不隠やせん妄の誘発,重症疾患や多臓器不全症候群に関連したICU-acquired weakness(ICU-AW)といわれる重篤な呼吸筋・骨格筋筋力低下,人工呼吸器関連肺炎や下側肺障害等の呼吸器合併症の併発,そして深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の発症といった予後を悪化させる医原性合併症を併発することが明確となった1,2).このような予後に影響する合併症の併発や鎮静薬・鎮痛薬の発展と普及,自発呼吸に追従しやすい人工呼吸器をはじめとする周辺機器の進歩,優れた臨床研究を主軸とした治療ガイドラインの樹立などにより,患者を眠らせ,寝かせて行う治療はここ数年で終焉を迎えた.そして,ICU入室に至った原疾患や病状を安定させながら,可能な限り早期に患者を鎮静状態から覚醒させ,積極的に身体を起こす治療・患者管理へ,“静”から“動”へと大きく変遷した.このような流れに連動し,早期からの理学療法やリハビリテーションの必要性が提唱され,世界的に着目されるようになった.

地域包括ケア

著者: 岡持利亘

ページ範囲:P.71 - P.74

 「地域包括ケアシステム」とは,「高齢者が,可能な限り,住みなれた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,医療,介護,介護予防,住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」とされている(厚生労働省).日本理学療法士協会が進める「地域包括ケア推進リーダー・介護予防推進リーダー」の人材育成は,この地域包括ケアシステムにおいて活躍できる人材づくりの一環である.本稿では,地域包括ケアシステムを取り巻くさまざまな取り組みを軸に,これまでとこれからの10年を考えてみたい.

理学療法臨床教育

著者: 小林賢

ページ範囲:P.75 - P.76

これまでの10年

 これまでの10年を振り返ると,教育分野における最も大きな変化は理学療法士養成校の急増である.これに伴い,臨床実習施設および指導者の不足が懸念され,実際に臨床経験の少ない指導者が担当している状況である.理学療法士養成人数の増加により,臨床施設における人員の量的充足は達成されてきた感がある.

 一方,チームの一員として要求される専門性を十分に発揮しているかとの点は未達であろう.臨床実習教育における到達目標のミニマムは,「ある程度の助言・指導のもとに,基本的理学療法を遂行できる」1)である.これは現状の社会情勢や臨床施設の状況を考慮したものだが,果たして独立して理学療法を遂行できるのはいつなのかとの疑問も残る.学内教育では問題基盤型学習(Problem Based Learning:PBL),客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)により基礎と臨床が近接し,臨床教育では早期患者暴露や診療参加型臨床実習が導入されたことによる効果は大きい.これからの10年は何が求められるのだろうか.

先端医療と理学療法

著者: 南角学 ,   青山朋樹 ,   黒田隆

ページ範囲:P.77 - P.79

はじめに

 京都大学医学部附属病院(以下,当院)の将来構想として,「高度急性期医療の推進と標準的医療を基盤とした高度先進医療をどのように両立していくか」が掲げられており,理学療法士にとっても先端医療にどのようにかかわっていくかが重要となっている.当院において,これまでに理学療法士が関与した先端医療には,「大腿骨頭無腐性壊死症に対する自己骨髄間葉系幹細胞を用いた臨床試験」や「特発性大腿骨頭壊死症におけるbFGF含有ゼラチンハイドロゲルによる壊死骨再生及び骨頭圧潰阻止に対する安全性に関する臨床試験」などの再生医療がある.また,数年前よりロボットスーツ(HAL®:Hybrid Assistive Limb)を導入しており,医療工学との連携を行っている.

 本稿では,先端医療に対して理学療法士としてこれまで取り組んできた内容を紹介するとともに,これからの10年で理学療法士が先端医療にどのようにかかわっていくべきかを述べたい.

臓器移植と理学療法

著者: 玉木彰

ページ範囲:P.80 - P.82

はじめに

 今から10年前を振り返ると,臓器移植という医療は本邦ではまだ特別な医療の一つと考えられていたと思われる.またその領域に理学療法士がかかわっているということも,あまり認識されていなかったのではないだろうか.筆者はまだ本邦で脳死下での臓器移植が実施されていなかった17年ほど前,米国において肺移植前後のリハビリテーションの研修を受ける機会に恵まれ,その後,京都大学において肺移植や肝臓移植を中心に,多くの臓器移植患者の理学療法に携わってきた.そこで本稿では,筆者のこれまでの経験を基に,臓器移植における理学療法の役割と今後の課題について述べたい.

産業保健と理学療法

著者: 野村卓生

ページ範囲:P.83 - P.85

これまでの10年

 20世紀の日本では,働く人(勤労者)の労働災害,職業病,作業関連疾患の予防と健康増進(以下,産業保健)を専門として研鑽している理学療法士の数は極めて少なかった.本誌32巻10号(1998年)において奈良1)が「産業理学療法」の名称を提唱,産業保健分野における理学療法の発展と専門性の向上をめざし,産業理学療法の特集が組まれた.特集では,宇土ら2)によりわが国における産業保健の進歩,木村3)により勤労者を対象とした健康管理セミナーへの理学療法士のかかわりの実際,梅崎ら4)により企業における腰痛発生因子とその現状,Tucker Carole A. ら5)により労働環境における米国の理学療法が事例とともに紹介された.本誌40巻13号(2006年)では,藤村ら6)が産業保健分野における理学療法士の発展と課題に言及し,産業理学療法のますますの発展を訴えている.本誌47巻(2013年)では3号連続となる講座が企画され,産業保健分野で特に問題となっている腰痛問題とその対策7),2008年から開始された世界にも類をみない特定健康診査・特定保健指導の実際8)および産業保健分野における理学療法士のかかわり9)が紹介された.

 日本理学療法士協会では,2010年に認定理学療法士制度を制定した10,11).23の認定理学療法士のうち,「認定理学療法士(健康増進・参加)」の第1回認定必須研修会(2010年11月)では,4コマ中の1コマにテーマ「産業理学療法の実際」が取り入れられ,産業保健分野における理学療法,理学療法士の役割について教授されるようになった.さらに,日本理学療法士協会は2013年6月に日本理学療法士学会ならびにその下部機関となる12の分科学会と5つの部門を設立し,2015年7月には新たに5つの部門を増設した12).産業保健あるいは産業衛生概念における就労者の職業に関連する健康増進と労働災害,職業病などの予防を目的とする学術的・実践的領域を補完するために「産業理学療法部門」が設立され13),2015年7月1日の延べ登録人数は2,265名となっている.

緩和ケアと理学療法

著者: 増田芳之

ページ範囲:P.86 - P.88

本邦における緩和ケアとがんのリハビリテーションの歴史

 本邦の緩和ケアは,1972年に淀川キリスト教病院で,終末期のがん患者に対して緩和ケアチームとして取り組んだことが始まりとされる.1977年に「日本死の臨床研究会」が立ち上がり,医師,看護師,関連職種が集まって終末期における臨床上の問題点を討議された.1981年に静岡県浜松市の聖隷三方原病院にホスピスが開設され,がん手術を受けた人がリンパ浮腫や排尿障害など治療の後遺症で日常生活が制限されていることに目が向けられ,患者本位のがん医療の考え方が検討されるようになった.1990年に厚生省(当時)により「緩和ケア病棟入院料」が新設され,1994年に病棟承認が厚生省から各都道府県に移行され,このころから緩和病棟数は増加していった.2006年度にはがん対策基本法が施行され,2012年にがん対策推進基本計画の一つとして「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が明記された.

 がんのリハビリテーションとしての歴史はまだ浅く,2002年に静岡県立静岡がんセンターが緩和ケア病棟と同時に新設され,同時に,リハビリテーション科医師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士を配備して,がん専門病院におけるリハビリテーション科が初めて標榜された.法的な整備としては,2010年度より「がん患者リハビリテーション料」が新設され,要綱として医師,看護師,リハビリテーション専門職のチーム参加とする「がんのリハビリテーション研修会」の受講が課せられ,がんのリハビリテーションに対応できるセラピストが急速に増えてきている1,2)

病期別理学療法の歴史—急性期理学療法

著者: 横田一彦

ページ範囲:P.89 - P.92

はじめに

 医学・医療とその関連領域の発展と進歩とともに,理学療法士の対象とする疾患,障害も変化してきている.急性期医療においては,低侵襲手術の発展,臓器移植の安全性向上,再生医療の発展などがあり,10年先がどのような状況になるか想像するのは困難であるが,本稿では急性期理学療法について,ひとつの指標として診療報酬を取り上げ,その変遷と今後への期待を述べてみたい.

病期別理学療法の歴史—回復期理学療法

著者: 小泉幸毅

ページ範囲:P.93 - P.96

回復期リハビリテーション病棟誕生物語り1)

 回復期理学療法は,回復期リハビリテーション病棟が制度化されて以降は,もっぱら回復期リハビリテーション病棟の一機能として位置づけられる.そこで,まずは回復期リハビリテーション病棟誕生の経緯にふれておきたい.

 1995年に日本リハビリテーション病院・施設協会の「リハビリテーション医療のあり方〜その1」のなかで,回復期のリハビリテーションを目的とした新たなリハビリテーションケアユニット構想が提案された.それには,療養環境の改善,チームアプローチの充実,病床数,スタッフの専従配置などが示されており,回復期リハビリテーション病棟の原形といえよう.

病期別理学療法の歴史—生活期理学療法

著者: 野尻晋一

ページ範囲:P.97 - P.99

予防重視型システムに始まった激動の10年

 これまでの10年とこれからの10年について,生活期リハビリテーションの立場から所感を述べる.筆者が介護老人保健施設を中心に生活期に携わってきた関係から,高齢者の話題に偏っていることをお許しいただきたい.

 今から10年前は,介護保険創設から5年が経過し,最初の大きな制度見直しの年であった.要介護認定者のなかでも軽度者の大幅な増加に対し,国は「予防重視型システム」への転換を図り,2006年には新介護予防システムが開始された.要支援者は2つに区分され,また非該当の高齢者に対しても要介護状態に陥りやすい高齢者として特定し,地域支援事業のなかでその対策が打たれた.また新予防給付と地域支援事業を推進し,地域における総合相談・支援,介護予防マネジメント等を担う機関として,地域包括支援センターが創設された.「介護予防とリハビリテーション」の重要性が謳われたにもかかわらず,理学療法士が必置の職種とならなかったのは非常に残念であった.この年はさらに新たなサービス体系として地域密着型サービスなども創設されている.

障害者関連法律

著者: 藤岡毅

ページ範囲:P.100 - P.102

目を見張る近年の障害者制度改革

1.過去10年の障害者制度の変遷

 この約10年間で障害者制度には次のように見るべき改革があった(表).

理学療法部門のマネジメント

著者: 斉藤秀之

ページ範囲:P.103 - P.105

はじめに

 理学療法部門のマネジメントについて,これまでの10年とこれからの10年を述べる機会を得た.過去10年を振り返り,現在このようになり,ここまでできるようになった,という事柄を挙げるとともに,今後こうなるのではないか,こうなればいいな,という理学療法の発展と課題と夢を述べる.

特集3 理学療法の50年に寄せて

理学療法ジャーナルと私

著者: 泉唯史 ,   前田哲男 ,   鈴木俊明 ,   山田道廣 ,   対馬栄輝 ,   山﨑裕司 ,   松波智郁 ,   山田英司 ,   川島敏生 ,   森岡周 ,   西村由香

ページ範囲:P.109 - P.121

「教育機関」の真の顧客を見据える(泉 唯史)/PTジャーナルの貢献(前田哲男)/研究を続けるために「理学療法ジャーナル」は必要であった(鈴木俊明)/「理学療法ジャーナル」誌とともに(山田道廣)/「理学療法ジャーナル」への期待(対馬栄輝)/「理学療法ジャーナル」という強化刺激(山﨑裕司)/感性を大切に! 手応えを検証しよう!(松波智郁)/情報を発信し,他者から批判を受ける重要性(山田英司)/「理学療法ジャーナル」,思い出と期待(川島敏生)/私の人生に彩りを与えてくれた「理学療法ジャーナル」(森岡 周)/感謝と期待(西村由香)

理学療法ジャーナルへの期待

著者: 二木淑子 ,   古川宏 ,   深浦順一 ,   種村純 ,   安藤徳彦 ,   上田敏 ,   奈良勲

ページ範囲:P.125 - P.132

50年の節目に,さらなる発展を願って(二木淑子)/理学療法ジャーナルへの期待—作業療法士から(古川 宏)/創刊50周年を祝して(深浦順一)/理学療法ジャーナルとわが国のリハビリテーションの展開(種村 純)/本誌と読者の皆様への期待(安藤徳彦)/「理学療法と作業療法」発刊とその時代的背景(上田 敏)/現在の流れを読み未来に備えること(奈良 勲)

とびら

今こそ原点に戻って「地域リハビリテーションの課題」を考えよう!

著者: 福屋靖子

ページ範囲:P.1 - P.1

 本誌は船出してから50年,日本理学療法士協会も50周年を迎え,内外の荒波にもまれながらも10万人近い会員数となり大海原に漕ぎ着くまでになった.理学療法士(以下,PT)は,今こそ協会定款の原点に戻り「国民の健康と福祉の増進並びに障害と疾病の予防に資する事業」を実践し協会の責務を果たす好機といえよう.

 施設中心から地域リハビリテーション(以下,リハ)への転換が叫ばれて久しい(世界保健機関,アルマ・アタ宣言,1978).老人保健法(1983)における機能訓練事業,訪問指導事業によりPTは地域での活躍の場が拡大され,国策としてもPT養成数の増員対策が図られ,かつ,地域での介護予防事業等でのPTの名称使用が可能となった(2013).しかしながら,介護保険制度発足(2000)によりPTの地域活動の場は消失した,と言っても過言ではない.ちなみにPTの行政関連施設への就業比率で地域活動を推測すると,常勤・非常勤合わせて1995年は21.4%だったのが,介護保険により半減し,2008年には4.1%に減少している.

資料

2016年リハビリテーション領域関連学会

ページ範囲:P.133 - P.133

--------------------

次号予告

ページ範囲:P.19 - P.19

第27回理学療法ジャーナル賞発表

ページ範囲:P.22 - P.22

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.25 - P.25

書評 —Robert Schleip,他(著)/竹井 仁(監訳)—「人体の張力ネットワーク 膜・筋膜—最新知見と治療アプローチ」

著者: 黒澤和生

ページ範囲:P.107 - P.107

 このたび,竹井仁先生監訳『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜—最新知見と治療アプローチ』(Fascia:the tensional network of the human body)が医歯薬出版から出版された.筋骨関節系の疼痛と変調を扱う治療家にとってfascia(以下,筋膜)ほど謎多き組織はないであろう.

 竹井先生は,15年ほど前から日本徒手理学療法学会主催の筋膜リリース講習会を開催している.筋膜リリースには,① Osteopathyから始まった筋膜リリース,② 理学療法士のJohn F. Barnesが発展させた新たな筋膜リリース,③ Luigi Steccoが提唱する筋膜マニピュレーションの流れがある.竹井仁先生は,1995年Myofascial ReleaseⅠ・Ⅱ(John F. Barnesのコース),The Upledger institute(Osteopathy)のCranioSacral TherapyⅠ,Strain and CounterstrainⅠ・ⅡやMuscle Energyコースから始まり,2012〜2015年にかけて,Luigi Steccoの講習会(Fascial Manipulation LevelⅠ,Fascial Manipulation LevelⅡ・Ⅲ)も修了されており,日本における筋膜治療の第一人者である.

書評 —浅井友詞・中山明峰(編集)—「前庭リハビリテーション—めまい・平衡障害に対するアプローチ」

著者: 木村貞治

ページ範囲:P.123 - P.123

 めまいやふらつきは,人にとって極めて不快な症状であり,日常生活活動やQOLの低下を招く原因となる.日本めまい平衡医学会において,めまいは,安静にしているときあるいは運動中に,自分自身の体と周囲の空間との相互関係・位置関係が乱れていると感じ,不快感を伴ったときに生じる症状と定義されている.めまいは,前庭機能障害などさまざまな原因によって惹起され,周囲や天井がぐるぐる回る回転性めまいと,体がふらつく,真っ直ぐ歩けない,などの浮動性めまいがあるとされている.厚生労働省の調査では,わが国におけるめまいの有訴者数は,約280万人に上ると報告されている.

 このように多くの方が罹患されている前庭機能障害に対するリハビリテーションについて,海外では,1940年代にすでに報告がなされ,北米などでは多くの施設において,前庭リハビリテーションの専門の医師と理学療法士の連携による取り組みが行われていると報告されている.他方,わが国の理学療法は,これまで50年の歳月を刻んできたが,前庭機能障害のリハビリテーションの一環としての理学療法の取り組みは,まだ十分には普及していないのが実情であろう.このような状況に鑑み,めまいやふらつきなどの症状を呈する前庭機能障害患者に対するリハビリテーションの実践を普及させていくためには,制度面の整備と併せて,前庭系の構造と機能,前庭系の障害の原因・診断・理学療法評価・理学療法アプローチの実際などについての正確で系統的な理解を深めていくことが重要な鍵になると思われる.

書評 —島田裕之(編集)—「運動による脳の制御—認知症予防のための運動」

著者: 浦上克哉

ページ範囲:P.135 - P.135

 今,認知症予防は国民の最も大きな関心事である.認知症予防については,近年いろいろな予防方法がテレビや新聞などを賑わせている.しかし,その多くは科学的根拠が乏しく信頼性が低いことが大きな課題である.認知症予防の方法として運動が良いことは,以前から言われており研究も多くなされてきたが,十分な根拠を示すデータと言えるものは残念ながらなかった.

 その運動の有効性について二重盲検比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)という科学的根拠を持つ方法を使って,その有効性を初めて示したのが国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター予防老年学研究部部長の島田裕之先生である.島田先生が良い運動として推奨しているのがコグニサイズ(cognicise)と呼ばれる方法である.コグニサイズというのは頭を使うこと(認知課題:cognitive task)と運動すること(運動課題:exercise)を同時に行うものである.具体例を挙げると,「しりとりをしながら運動する」というようなものである.実際に行われたコグニサイズの介入研究のデータも紹介してあり,かつ実施時のポイントも明記してあり,文字どおりかゆいところに手が届くようなとても参考になる内容である.

文献抄録

ページ範囲:P.136 - P.137

第28回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.139 - P.139

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.140 - P.140

 1967年,昭和42年7月1日に創刊されて50年.ひとつの歴史が積み重ねられてきました.

 創刊号が出た当時,私は中学3年生で,グランドで毎日白球を追いかけていました.自分の人生のなかで最も意味のあることばを得たのもそのころでした.野球の試合で負けたとき,「1対0は1点差ではない.無限の差がある.ゼロはどこまで重ねてもゼロでしかない.」と監督から喝を入れられました.必死にホームに帰ろうとする努力や工夫を求められたのです.0を1にすること,「要は具現化すること」の重要性を教えていただいたのが理学療法ジャーナルの前身「理学療法と作業療法」が創刊されたころだったのです.そのころ,私の進路の候補として理学療法士は影も形もありませんでした.存在さえ知らなかったのです.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?