文献詳細
文献概要
講座 高次脳機能障害・1【新連載】
Broca失語とWernicke失語—失語症の新しいみかたとアプローチ
著者: 大槻美佳1
所属機関: 1北海道大学大学院保健科学研究院
ページ範囲:P.969 - P.978
文献購入ページに移動はじめに—高次脳機能障害のみかたの変遷
近年,失語・失行・失認・記憶障害・注意障害などの「高次脳機能障害」をみる視点は大きく変化してきた.その理由は大まかには3つある.1つ目には,画像診断の進歩がある.核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)などの形態画像の進歩によって,脳損傷患者の病巣部位がリアルタイムでわかるようになった.そのため,多くの症候の責任病巣が明らかになった.また,脳血流SPECT(single photon emission CT)やPET(proton emission tomography),あるいはfMRI(functional MRI)などの機能画像の進歩も,脳機能の局在に関する多くの知見をもたらした.
2つ目には,脳血管障害の治療そのものが変化したことがある.例えば,血栓溶解療法などの治療介入によって,従来の血栓や塞栓による梗塞巣とは異なる病巣分布に遭遇する機会が増えた.あるいは,狭窄血管に対して,バイパス術や頸動脈内膜剝離術,ステント留置などの治療介入も,従来と異なった血行動態を脳に与える.これらの変化によって,非典型の病巣分布が増え,それらにも対応できる視点が必要になった.
3つ目には,関連領域(神経心理学,認知神経心理学,認知科学など)の進歩がある.関連領域の進歩は,脳機能の枠組み,考え方,評価方法に大きな変化をもたらした.これらの3つの変化によって,さまざまな新しい知見が蓄積され,その結果,高次脳機能障害をみる視点そのものが大きく変化してきた.本稿では,これらの変化のなかで,特に,失語における新しい考え方,具体的症候の概要を紹介する.
近年,失語・失行・失認・記憶障害・注意障害などの「高次脳機能障害」をみる視点は大きく変化してきた.その理由は大まかには3つある.1つ目には,画像診断の進歩がある.核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)などの形態画像の進歩によって,脳損傷患者の病巣部位がリアルタイムでわかるようになった.そのため,多くの症候の責任病巣が明らかになった.また,脳血流SPECT(single photon emission CT)やPET(proton emission tomography),あるいはfMRI(functional MRI)などの機能画像の進歩も,脳機能の局在に関する多くの知見をもたらした.
2つ目には,脳血管障害の治療そのものが変化したことがある.例えば,血栓溶解療法などの治療介入によって,従来の血栓や塞栓による梗塞巣とは異なる病巣分布に遭遇する機会が増えた.あるいは,狭窄血管に対して,バイパス術や頸動脈内膜剝離術,ステント留置などの治療介入も,従来と異なった血行動態を脳に与える.これらの変化によって,非典型の病巣分布が増え,それらにも対応できる視点が必要になった.
3つ目には,関連領域(神経心理学,認知神経心理学,認知科学など)の進歩がある.関連領域の進歩は,脳機能の枠組み,考え方,評価方法に大きな変化をもたらした.これらの3つの変化によって,さまざまな新しい知見が蓄積され,その結果,高次脳機能障害をみる視点そのものが大きく変化してきた.本稿では,これらの変化のなかで,特に,失語における新しい考え方,具体的症候の概要を紹介する.
参考文献
1)相馬芳明:失語古典分類の問題点とその再構築への試み.神心理13:162-166,1997
2)大槻美佳:言語機能の局在地図.高次脳機能研27:231-243,2007
3)大槻美佳:失語症の定義とタイプ分類.神経内科68:155-165,2008
4)Gorno-Tempini ML, et al:Classification of primary progressive aphasia and its variants. Neurology 76:1006-1014, 2011
5)大槻美佳:認知症における失語.老年精医誌22:1255-1261,2011
6)大槻美佳:進行性非流暢性失語の症候と経過.高次脳機能研35:297-303,2015
7)大槻美佳:前頭側頭葉変性症の新しい概念と類型分類.日本臨牀74:459-465,2016
8)大槻美佳:言語の神経心理学.神心理32:104-119,2016
9)Benson DF, et al:Aphasia:A clinical Perspective. Oxford University Press, New York, 1996
10)Lecours AR, et al:The“pure form”of the phonetic disintegration syndrome(pure anarthria):anatomo-clinical report of a historical case. Brain Lang 3:88-113, 1976
11)Darley F, et al:Motor speech disorders. Saundes, 1975.
12)大槻美佳:Anarthrieの症候学.神心理21:172-182,2005
13)松田 実,他:純粋語唖は中心前回症候群である:10例の神経放射線学的・症候学的分析.神心理21:183-190,2005
14)Itabashi R, et al:Damage to the left precentral gyrus is associated with apraxia of speech in acute stroke. Stroke 47:31-36, 2016
15)大槻美佳,他:言語表出のダイナミズム.神心理19:64-74,2003
16)大槻美佳,他:単語指示課題における前頭葉損傷と後方領域損傷の相違—超皮質性感覚失語の検討.脳神経50:995-1002,1998
17)大槻美佳,他:補足運動野と運動前野の喚語機能の比較—超皮質性運動失語の語列挙と視覚性呼称の検討.脳神経50:243-248,1998
18)Baddeley AD, et al:“Working Memory.”In Bower, GA(ed), Recent Advances in Learning and Motivation(Vol. 8). Academic Press. pp47-90, 1974.
19)相馬芳明:伝導失語と短期記憶(STM).失語症研12:145-152,1992.
20)高倉祐樹,他:言語性短期記憶(short-term memory:STM)について.日本高次脳機能障害学会教育・研修委員会(編):伝導失語—復唱障害,STM障害,音韻性錯語.新興医学出版社,pp97-130,2012
掲載誌情報