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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル50巻11号

2016年11月発行

雑誌目次

特集 臨床に役立つ臨床推論の実際

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.995 - P.995

 “臨床に役立つ”臨床推論というタイトルが示すように,理学療法における日常の臨床で常に実践している臨床推論の骨格についてあらためて整理することとした.

 直感の特性と論理的思考に基づく臨床推論の枠組み,救急ならびに地域医療という現場におけるダイナミックな臨床推論の実際,暮らしている人を対象とするケアの視点を重視した臨床推論について解説していただき,理学療法の臨床推論に重要な論理的思考の明示化と奥深さを考える機会とした.

臨床に役立つ臨床推論の実際

著者: 野村英樹

ページ範囲:P.997 - P.1003

はじめに

 リーズニング(reasoning)とは「論理的に説明すること」である.reasonが「理性」と訳されることもあるように,少なくとも従来の西洋では,理性的に考えることと論理的に考えることはほぼ同義であると認識されていた.理性によって感情を抑え,論理的に思考する能力をもつことこそが,ヒトのヒトたる所以であったのである.しかし近年,このような考え方は大きく見直されつつあり,理性は必ずしもヒトの思考において圧倒的な主役とは言えないと考えられている.

 誰かが「論理的」に考えているとき,その人はある課題に対する自分の思考に注意を払い,意識を集中している.一方,ある人の思考が「直観的」だというとき,その人はある課題に対して思いついたままの結論を採用している.ある課題を考えるにあたり自覚できるほどの感情を伴わない場合には,その「直観的」な思考は強い情動に左右されているわけではないが,意識上で展開される論理が介在しているわけではないため,やはり理性による思考ではない.直観的思考と論理的思考とが脳内のどの部位を用いて行われているのかは,おそらく課題の種類によって異なると思われるが,一般に左前頭前野で考えていることは意識に上るので,論理的思考の主座は左前頭葉と考えてよいだろう.直観的思考については,その活動が意識には表れないとされている右前頭葉で行われる可能性はあるものの,常にそこが主座であるとは言えないようだ.

 本稿では,医療における臨床判断(臨床的決断)がどのような思考過程で行われるのか,上記で紹介した論理的思考と直観的思考に照らして検討し,そのうえでなぜクリニカル・リーズニング(論理的に説明すること)が必要なのかを考えてみたい.そして可能であれば,クリニカル・リーズニングの目的に適った方法にどのようなものがあるかを紹介したいと考えている.

救急・災害医療における臨床推論の実際

著者: 小早川義貴 ,   小井土雄一

ページ範囲:P.1005 - P.1012

救急医療と臨床推論

 救急・災害医療における臨床推論の流れを考える前に,一般医療における臨床推論の流れを押さえておきたい.本稿での臨床推論の過程は『考える技術—臨床的思考を分析する』1)に記載されている「診断推論のプロセス」を用いる.同書では診断推論をclinical reasoningとして紹介しているので,ここでは診断推論=臨床推論と考える.同書では,診断推論のプロセスは以下の過程からなるとされている(図)1)

ステップ1:データ収集

ステップ2:問題点の正確な把握と記載

ステップ3:鑑別診断を詳細かつ綿密に構成

ステップ4:鑑別診断の優先順位づけ

ステップ5:立案した仮説の検証

ステップ6:鑑別診断の再検証と再度の優先順位づけ

ステップ7:新たに立案した仮説の検証

地域在宅医療における臨床推論の実際

著者: 齋木実

ページ範囲:P.1013 - P.1018

はじめに

 内閣府の資料によると,いわゆる団塊の世代とよばれる,第一次ベビーブームの期間といわれる1947〜1949年に生まれた世代が75歳以上になるとされるのが2025年であり,65歳以上の高齢者人口は,約3,500万人(人口比約30%)に達すると推計されている.一億総活躍社会といわれるように,高齢者の健康寿命が延びて医療・介護を必要としないのが理想ではあるが,実際には65歳以上の高齢者のうち,2025年には「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者が約470万人(12.8%)に増加していくことが試算されており,介護を必要とする高齢者は確実に増加することが予測される1)

 介護の将来像として国が掲げているのが,「地域包括ケアシステム」である.住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの実現により,重度な要介護状態となっても,住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるようになる.認知症は超高齢社会の大きな不安要因であり,今後認知症高齢者のさらなる増加が見込まれることから,認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも,地域包括ケアシステムの構築が重要である.人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部,75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部など,高齢化の進展状況には大きな地域差が生じている.地域包括ケアシステムは,保険者である市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じてつくり上げていくことが必要といわれている.

 地域包括ケア体制の整備には,「在宅医療の充実」と「在宅介護の充実」が必要であり,施設と地域,医療と介護の相互連携の深化が不可欠である.したがって,これからますます在宅サービスの需要が高まるが,地域格差も踏まえたその地域の社会資源を「知ること」がまず大切である.

 筆者は埼玉県西部を中心に活動する在宅緩和ケア医である.緩和ケアとはがんのみならず生命を脅かす病気が原因となって起こる症状を緩和する医療である.疼痛や不眠,食思不振,呼吸困難など,さまざまな身体の症状をコントロールすることが基本であるが,精神面での苦痛や,社会生活などの問題も解決を図るのが緩和ケアに求められる「全人的ケア」である.患者さんのみならず,特に在宅ではご家族のQOLをも高めることが必要である.入院ではどうしても施設の「枠」で縛られてしまうため,真の緩和ケアはできず,究極の緩和ケアは,「在宅」でのみ実現可能だと実感している.基本的に外来診療の枠はもたず,24時間365日いつでも患者の変化に対応できるよう,訪問診療を専任している.前勤務先の鶴ヶ島在宅医療診療所では,19床の有床診療所であったため,在宅が困難となった場合はレスパイト入院という形で入院施設を利用した在宅療養支援も行っており,5年間で180例の在宅看取りを経験した.

 在宅医療の現場は,訪問理学療法士や訪問看護師,介護支援専門員(ケアマネジャー)など,多職種との連携なしでは成り立たない.患者の生活や人生に想いを馳せるのはもちろんのこと,多職種が「顔の見える関係」かつ「同じ目線」でお互いを思いやって連携することが,結果として患者本位の医療・介護へとつながっていく.その多職種の視点を総合して患者の生活を支えることが,科学だけで説明できない地域在宅医療の臨床推論の特徴といえよう.

看護における臨床推論・アセスメントの進め方—「生きている」「生きていく」

著者: 山内豊明

ページ範囲:P.1019 - P.1025

臨床推論・アセスメントの進め方の根幹

 看護ケアとは何をすることなのであろうか.2つの「生」という字にかかわりがあろう.それは「生活を支え」,その生活を営んでいる生命体の「生命を守る」ということである.つまり,その人の「意思をもって生きていこうとする」ことを支援することと,その前提である「生き物としての生きている」という状態を安定確保するということが,看護ケアの根本にあるミッションである.

 最も大事なことは,何をアセスメントしたいのか,目的は何かということである.目的が決まれば自ずと「そのためにはこのような情報が要る」,「ここまでは要る」,あるいは「このような情報は要らない」と決まる.とにかく上から下まですべての情報を集めたらあとは何とかなるというものではなく,常に目的を意識すべきである.

とびら

あの人のように

著者: 瀬崎学

ページ範囲:P.993 - P.993

 当時学生だった私は臨床実習最後,三期目の国立大学病院に向かうため,冴えない表情で地下鉄丸ノ内線に乗る.一期目・二期目と思うような実習を行うことができず,実習指導者や担当症例の方々にも迷惑をかけ,理学療法士になるため向学する最終学年の11月にしてはあまりにも後ろ向きの気分であった.

 しかし,三期目の実習地で前進する契機は与えられた.実習地で私に求められたことは,とにかく「考える」ことであった.実習期間中,1〜2時間は見学などを行わなくてよい自由な時間を与えられ,その間「なぜそうなるのか? 仮説はそれでよいのか?」といったように思考しながら,日々実際の臨床場面で感じとった疑問を追究していった.当時はまだインターネットもない時代だが,広大な大学図書館に入ることも許され,時間がかかりつつも自らの手で文献を探し出し新たな知識を習得していく,という知的興奮に触れる端緒も得た.

学会印象記

—第51回日本理学療法学術大会—理学療法が分科してゆくための基盤

著者: 永瀬外希子 ,   中野渡達哉

ページ範囲:P.1026 - P.1027

はじめに

 爽やかな風が心地よい五月晴れのなか,5月27〜29日の3日間,北海道札幌市において,第51回日本理学療法学術大会が開催されました.日本理学療法士学会と12の分科学会および関連5部門が,初めて同一会期,同一会場で開催する連合大会であり,理学療法の新たな歴史を刻んだ大会でもありました.

 本大会テーマは「理学療法学のアイデンティティ—基盤と分科」と題し,大会企画,協会企画,分科学会・部門企画,研究発表などのプログラムにより構成されていました.本稿では,企画ごとに内容や印象について報告します.

甃のうへ・第42回

変わる

著者: 原由紀子

ページ範囲:P.1028 - P.1028

 医療職とは,修得された知的職業であり,使命感をもち,感性が豊かでいとおしむ心のある人間性を養うことと,恩師に教わって以来,理学療法士として33年になります.養成校で教育にかかわってからは15年目に入り,公私ともにさまざまな経験をしてきたなかで常に思うことがあります.

 変わること 変えること 変わらなくてはいけないこと 変わらないこと 変えないこと 変えてはいけないこと

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

Trail Making Test

著者: 網本和

ページ範囲:P.1029 - P.1029

 注意障害は臨床的に頻繁に認められる症状であり,方向性注意障害と全般性注意障害に分けられる.全般性注意機能の構成要素としてSohlbergら1)は注意の焦点化,持続性注意,選択性注意,転換性注意,分配性注意を提唱しており,患者のもつ注意機能障害がどの要素なのかを考察して対応すべきとしている.

 このような注意機能の簡易な評価として,トレイル・メイキング・テスト(Trail Making Test:TMT)が知られている.なお,trailは追跡するという意味である.鹿島ら2)によれば,Army Individual Test(1944)に含まれていたもので,パートA(TMT-A)とパートB(TMT-B)の2種類から構成される視覚運動性探索課題であり,臨床的に広く使用されている.

理学療法関連審議会・協議会

医道審議会(理学療法士作業療法士倫理部会)

著者: 橋元隆

ページ範囲:P.1031 - P.1031

 医道審議会は,厚生労働省設置法第六条第一項に基づき設置されたもので,医道審議会令の第五条には分科会を置くことが定められている.分科会には医道,医師,歯科医師,保健師助産師看護師,理学療法士作業療法士,あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師および柔道整復師,薬剤師,死体解剖資格審査の8分科会がある.それぞれの法に定められた規定により審議会の権限に属した事項を処理する.理学療法士作業療法士であれば,「理学療法士及び作業療法士法」に拠ることになる.これに基づき理学療法士作業療法士分科会には,国家試験に関する部会と,行政処分に関する部会(倫理部会)がある.また,国家試験出題基準作成部会もある.

入門講座 症例を担当するということ・9

トラブル回避と解決

著者: 桝田康彦

ページ範囲:P.1033 - P.1040

はじめに

 入門講座「症例を担当するということ」のテーマの1つに,「トラブル回避と解決」が選ばれたことは,理学療法を取り巻く場面でトラブルの発生件数が増しているからでしょうか.私の個人的経験から考えると,30年前と比較して数倍以上に増えているという印象があります.

 1990年代の市場原理主義の台頭,年金や医療費などの諸制度の切り崩しなどに始まり,現在は,景気低迷により個人の自己防衛の意識が高まっています.医療費の抑制策が患者さんの自己負担額の増加をまねき,支払うお金が増えたことにより,患者さんは医療にも費用対効果を求めるようになりました.また,「厚生白書(平成7年度版)」で医療のサービスが取り上げられたことにより,医療はサービス業であると一般に認識されるようになってきています.医療の現場でも顧客満足度の向上が叫ばれ,各医療施設でも接遇研修を行うようになりました.このようななかで,医療従事者と患者さんとの関係も少しずつ変化し,患者さんが医療に対する不安や不満を表す機会や環境は整ってきています.反面,患者さんとのトラブルやクレームを回避したり解決したりする教育を受けた理学療法士は数少ないと思います.

 本稿では,自身が経験したケースを提示し,そのトラブルに関係する因子を紹介することで,みなさんにトラブルに対する回避の心構えや解決のヒントを考えていただく機会になれば幸いです.

講座 高次脳機能障害・2

半側空間無視

著者: 渡辺学

ページ範囲:P.1041 - P.1047

はじめに

 半側空間無視は脳卒中患者にしばしばみられる高次脳機能障害の1つであり,運動機能の回復や日常生活の自立獲得を大きく損なわせる.したがって,理学療法を進めるうえで半側空間無視の改善は重要な目標となるが,残念ながら現在のところ確立された治療法が存在しない.また,半側空間無視は急性期の右大脳半球損傷に高い頻度で合併するものの,回復過程で自然治癒するものも多く,理学療法の治療対象から外されるケースも多い.慢性期に至っても症状が残存する場合には,直接的な改善をめざす治療よりも環境調整や人的資源による代償的なアプローチが選択されることがほとんどである.しかし,半側空間無視が運動機能の回復に悪影響を与えることを考えれば,できるだけ発症早期で運動麻痺の回復が期待できる時期から直接介入を行い,改善することが望ましい.

 本稿では,現在提唱されている半側空間無視の発現メカニズム,比較的有効な治療法とされているプリズム順応の効果メカニズム,半側空間無視のサブタイプを紹介し,理学療法による効果的な直接介入の手段を検討する.

*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年10月15日)。

臨床実習サブノート 臨床実習のリスク 地雷を踏むな!・6

呼吸不全

著者: 渡邉陽介

ページ範囲:P.1049 - P.1054

はじめに

 臨床実習において学生が担当する疾患は脳血管疾患・運動器疾患がその多くを占める.一方で,本稿のテーマである呼吸不全を主病態とした症例がケースとなることは稀ではなかろうか.しかしながら,近年では高齢化に伴いさまざまな重複障害を有する患者が増加傾向にあり,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)を中心とした慢性呼吸器疾患を合併している症例も多く存在する.そのため,そのリスク管理に関する知識は重要な情報となる.加えて,集中治療室(intensive care unit:ICU)からの早期リハビリテーションが急性期理学療法における近年のトピックスであり,今後急性呼吸不全に関する知識の重要性が高まることが考えられる.

 本稿では,慢性呼吸不全・急性呼吸不全の患者さんを担当する際の臨床実習における顕在的,潜在的リスクとその対応法,地雷を踏まないためのコツについて述べる.

症例報告

記憶・言語を伴う道具操作経験により麻痺側上肢の機能向上を認めた慢性期脳卒中患者の1症例

著者: 村部義哉 ,   本田慎一郎 ,   日下部洋平 ,   玉木義規

ページ範囲:P.1057 - P.1062

要旨 上肢の運動制御には視覚誘導性の到達運動だけではなく,言語や記憶などの認知機能による記憶誘導性の把握操作運動との協調が必要である.それらの協調性の再獲得を意図した介入により改善が得られた1症例を報告する.[症例]左視床出血発症後8か月が経過し,右片麻痺を呈した70代女性.[介入]A期間(0〜2か月)での視覚誘導性・到達運動を中心とした介入では改善が得られなかった.B期間(2〜4か月)での視覚誘導性・記憶誘導性の運動制御と,到達・把握操作運動の協調を目的に,記憶や言語を伴う道具操作練習により改善を認めた.下肢を中心とした介入に切り替えたC期間(4〜6か月)の最終評価時にも治療効果は維持されていた.[結語]各運動制御系や運動の協調的な活用が片麻痺上肢の改善にかかわることが示された.

透析療法中に下肢痛や筋痙攣を認めた症例の運動療法経験

著者: 垣内優芳 ,   森明子

ページ範囲:P.1063 - P.1067

要旨 今回われわれは,透析療法後半に下肢痛や筋痙攣を認める症例の運動療法を経験した.[症例]症例は糖尿病性腎症で血液透析導入となった60歳台の男性である.初期評価時,骨格筋量を反映する%クレアチニン産生速度は91%で,透析療法中は下肢痛や筋痙攣により臥床傾向で,運動療法に対して消極的であった.[介入]運動療法は,週2〜3回,1回20分を透析療法中(開始2時間以内)に1年間継続した.内容は下肢関節可動域運動,ストレッチ,筋力強化運動とした.筋の収縮様式は等尺性や遠心性収縮を避けた.また,生活指導の実施やドライウエイトは適宜修正された.[結果]運動療法開始1年後,下肢痛や筋痙攣は消失した.%クレアチニン産生速度は98%であった.[考察]筋痙攣の改善は,骨格筋量の改善がみられ,体内の総水分量が増加した結果,除水に伴う脱水症状が緩和したためであると考える.また飲水管理の改善や,ドライウエイトが患者にとって適正値に近づいたことも要因の1つと考えられた.

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次号予告

ページ範囲:P.1012 - P.1012

書評 —川村 孝●著—「臨床研究の教科書—研究デザインとデータ処理のポイント」

著者: 尾崎紀夫

ページ範囲:P.1030 - P.1030

 評者が初めて医学部生向けに臨床研究について講義した際,参考にしたのは学生時代に受けた講義であった.一方,大学院教育はまったく受けていなかったが,ありがたいことにNIH(National Institutes of Health)で臨床研究に参加して,臨床研究に必要な事項を学ぶことができた.(研究デザインをしたうえで)研究倫理委員会への申請,研究参加した患者を含む一般へのアウトリーチ活動,そして統計学の重要性といった事柄である.

 当方の大学院生には,〈患者・家族のニーズを踏まえ,日々の臨床疑問の解決と病因・病態を解明し,病因・病態に即した診断・治療・予防法の開発をめざすことが基本方針〉であり,〈臨床研究のしっかりしたお作法,すなわち研究デザインやデータ解析などを身につけることが重要〉と説明し,参考図書を紹介してきた.ところが,研究デザインやデータ解析に関する図書は臨床的観点が乏しい,あるいは数式が多すぎて取っ付きの悪いものになりがちである.さりとて,あまりに簡略化したものは食い足りず,よい臨床研究の教科書はないものかと,探し続けていた.

書評 —トーマス・W・マイヤース(Thomas W. Myers)●著/板場英行,石井慎一郎●訳—「アナトミー・トレイン[Web動画付] 第3版—徒手運動療法のための筋筋膜経線」

著者: 木藤伸宏

ページ範囲:P.1055 - P.1055

 大学院時代に医学部の人体解剖学実習に参加し,献体を解剖する機会を得た.学生時代にも参加したが,その時は明確な目的意識もなく,教員に言われるままに取り組むしかなかった記憶がある.大学院生のときは社会人学生であり,日々悩みながら臨床を行っており,人体の筋や関節周囲の構造をしっかり観察したいという目的で取り組んだ.その当時の大学の解剖実習は,昼から夜20時まで休みなく行う実習が4か月続くものであり,学部生はかなり疲弊していた.私は目的が明確であったために,時間も忘れて夢中に取り組んだ.皮膚剥ぎから行い,自分が観察したい部位にたどり着くまでには,丁寧な作業とかなりの時間を要した.しかしその過程において,決して解剖学書や解剖模型では見ることができない,皮膚の下に存在する結合組織の多さ,その巧みな構造を自分の目で見て,自分の手で触れることができた.本書6ページの「図6 筋筋膜の拡大写真」は,まさしく私が解剖実習中に観察したものである.筋よりも,それを取り巻く結合組織である筋膜が極めて重要な役割をしているという印象を受けたのを思い出す.

 ずいぶん前になるが,石井美和子氏(Physiolink代表)と福井勉氏(文京学院大大学院教授)より,『アナトミー・トレイン』の原書第1版を紹介された.トーマス・マイヤース氏による,人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立てた斬新な考えに興味を持ちながらも,その解剖学・組織学的裏付けにやや疑問を抱いた.また,筋筋膜経線に焦点が当てられていたため,理学療法にどのように応用すればよいのか,特に評価にどう応用していくかについて,わからないままであった.つまり,「筋筋膜経線」を理解するための自分の準備が,臨床的にも学術的にも不十分な状態であった.日本で開催されるトーマス・マイヤース氏の研修会にも誘われたが,あまり参加する気持ちになれず,参加しなかった.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.1067 - P.1067

文献抄録

ページ範囲:P.1068 - P.1069

第28回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.1071 - P.1071

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1072 - P.1072

 第50巻11号をお届けします.

 本特集のタイトルは,“臨床に役立つ臨床推論”という日本語としてはある種の危うさをもったものに落ち着きました.初学者のレポートであれば,“鉄橋の橋”と同様の指摘を受けるかもしれません.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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