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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル50巻11号

2016年11月発行

文献概要

特集 臨床に役立つ臨床推論の実際

臨床に役立つ臨床推論の実際

著者: 野村英樹1

所属機関: 1金沢大学附属病院総合診療部

ページ範囲:P.997 - P.1003

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はじめに

 リーズニング(reasoning)とは「論理的に説明すること」である.reasonが「理性」と訳されることもあるように,少なくとも従来の西洋では,理性的に考えることと論理的に考えることはほぼ同義であると認識されていた.理性によって感情を抑え,論理的に思考する能力をもつことこそが,ヒトのヒトたる所以であったのである.しかし近年,このような考え方は大きく見直されつつあり,理性は必ずしもヒトの思考において圧倒的な主役とは言えないと考えられている.

 誰かが「論理的」に考えているとき,その人はある課題に対する自分の思考に注意を払い,意識を集中している.一方,ある人の思考が「直観的」だというとき,その人はある課題に対して思いついたままの結論を採用している.ある課題を考えるにあたり自覚できるほどの感情を伴わない場合には,その「直観的」な思考は強い情動に左右されているわけではないが,意識上で展開される論理が介在しているわけではないため,やはり理性による思考ではない.直観的思考と論理的思考とが脳内のどの部位を用いて行われているのかは,おそらく課題の種類によって異なると思われるが,一般に左前頭前野で考えていることは意識に上るので,論理的思考の主座は左前頭葉と考えてよいだろう.直観的思考については,その活動が意識には表れないとされている右前頭葉で行われる可能性はあるものの,常にそこが主座であるとは言えないようだ.

 本稿では,医療における臨床判断(臨床的決断)がどのような思考過程で行われるのか,上記で紹介した論理的思考と直観的思考に照らして検討し,そのうえでなぜクリニカル・リーズニング(論理的に説明すること)が必要なのかを考えてみたい.そして可能であれば,クリニカル・リーズニングの目的に適った方法にどのようなものがあるかを紹介したいと考えている.

参考文献

1)ジェームズ・リーズン(著),塩見 弘(監訳):組織事故—起こるべくして起こる事故からの脱出.日科技連出版社,1999
2)ダニエル・カーネマン(著),村井章子(訳):ファスト&スロー—あなたの意思はどのように決まるか(上・下).早川書房,2012
3)Rosario MR, et al:Training, maturation, and genetic influences on the development of executive attention. Proc Natl Acad Sci U S A 102:14931-14936, 2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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