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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル50巻6号

2016年06月発行

雑誌目次

特集 東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.543 - P.543

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の大会ビジョンには,すべての人が自己ベストを目指し」,「一人ひとりが互いを認め合い」,「そして,未来につなげよう」という3つの基本コンセプトがある.われわれ理学療法士も来たる大会に「おもてなし」をすることで共生の契機として,レガシーとして未来へ継承するという,日本人としてのかかわりによってアイデンディディを育み飛躍の機会とできるかどうか願ってもない機会である.スポーツとのかかわりをあらためて強く考えて,自らの成長への機会としてほしい.

スポーツドクターから見た理学療法士の役割と期待

著者: 奥脇透

ページ範囲:P.545 - P.550

はじめに

 2013年9月7日,Jacques Rogge前国際オリンピック委員会(International Olympic Committee:IOC)会長が発した「TOKYO(トキオ)」の声は,まだ興奮の余韻とともに記憶に残っている.2020年に第32回オリンピック競技大会と第16回パラリンピック競技大会(以下,2020年大会)が東京で開催される.この大会に多少なりとも関与できる喜びと,大会の成功を祈って,メディカルサポートを担うメンバーとしての理学療法士の役割と期待について,私なりに考えていることを述べる.

—インタビュー—選手から見た理学療法士の役割と期待

著者: 室伏広治 ,   福井勉

ページ範囲:P.551 - P.556

福井 まず,理学療法士とのかかわりについてお話しいただけますか.

室伏 国内外の競技会を転戦していた2006,7年ごろ,知り合いのヨーロッパの円盤投げの選手がPhysiotherapistを帯同させていることを知りました.彼は常にコンスタントに力を出していて,どうやらトレーニングのシステムが違うらしい.そのことが気になって尋ねたのがきっかけです.

スポーツ理学療法の国際的動向—オリンピックサポートに向けて

著者: 片寄正樹

ページ範囲:P.557 - P.562

はじめに

 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が決まり,アスリートへのサポートも多様になってきた.国際競技大会という最高峰の舞台をめざす個別固有のさまざまな身体コンディションをもつアスリートたちのサポートに,スポーツ医科学が重要な貢献をしていることが多くの事例で示されてきている.なかでも理学療法の応用は,高い競技性と達成感のあるパフォーマンスに重要な役割を担っているといえる.

 オリンピック・パラリンピック競技大会でも選手村における理学療法サービスの提供は大会組織委員会が確保すべきものとして国際オリンピック委員会(International Olympic Committee:IOC)により義務付けられており,その必要性は論をまたない.本稿では,2020年東京オリンピック競技大会(以下,2020東京大会)のホスト国として期待される大会組織委員会が運営する理学療法サービスに焦点をあてる.特に,2012年のロンドンオリンピック(以下,ロンドン大会)における選手村理学療法サービスの提供状況や,スポーツ理学療法士資格の国際動向などを参考に,2020東京大会に向けてのサービス展開に必要なプロセスを模索するとともに,レガシーまでも考慮することの重要性を解説する.

トップレベルアスリートへのリハビリテーション・コンディショニング—現状と課題

著者: 松田直樹

ページ範囲:P.563 - P.568

はじめに

 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会は「全員が自己ベスト」,「多様性と調和」,「未来への継承」という3つの基本コンセプトのもとに,開催の準備が進められている.万全の準備と運営によって,安全・安心で,すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し,自己ベストを記録できる大会を実現するために,理学療法の果たす役割は大きい.

 本稿では,競技レベルの高いアスリートに対するメディカルサポートの現状について述べ,2020年の東京大会とその後に続くアスリートへのサポートについて考えたい.

障がい者アスリートのメディカルサポート環境—現状と課題

著者: 門田正久

ページ範囲:P.569 - P.576

障がい者スポーツを取り巻く環境の変化

 障がい者スポーツは,近年競技志向の高まりにつれて参加選手のサポート体制も変革期を迎えてきている.障がい者スポーツの代表的な大会ともいえるパラリンピック競技大会においても競技力向上志向が始まり,世界では,2001年に国際オリンピック委員会(International Olympic Committee:IOC)と国際パラリンピック委員会(International Paralympic Committee:IPC)との協力関係が話し合われ,2008年北京大会からIOCからの支援体制を受けることが始まっている.これにより,IOCの規則に則ることが義務化されてきており,これによるクラス分けも厳しくなり,よりエリートスポーツの色を出し始めている.

 わが国においては障がい者スポーツの環境は2011年6月にスポーツ基本法が制定され,そのなかで「障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう,障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない」と基本理念が明記され,これを皮切りに毎年のように制度などが激変している.2012年には「スポーツ基本計画」が,2013年9月には「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」の開催が決まり,2014年4月からは障がい者スポーツ事業のうちスポーツ振興に関係する事項は厚生労働省から文部科学省に移管されている(表)1)

障害者スポーツへのサポート—地方からの発信

著者: 土中伸樹

ページ範囲:P.577 - P.582

地方からの発信

 鳥取県の人口は57万人全国最下位である.東京都江戸川区よりも少ない人口で,平均減少数はおよそ年間3,000人であり人口統計上195年先には消滅するとされる.そのなかで「東京オリンピック・パラリンピック?」.特に障害者にとってはパラリンピックに出場するなど夢のまた夢.練習するところもなければ指導する医療関係者・スポーツ関係者もいない.

 この現状のなか,鳥取県米子市にある医療法人養和会養和病院は山陰地区では初となる「メディカルフィットネスセンターCHAX(以下,CHAX)」を2015年8月に立ち上げた(図1).養和会は精神科を母体とする法人であるが,近年スポーツにも力を入れており,3年前より社会人軟式野球部を創設し,2015年日本プロ野球ドラフト会議において,介護員として働いていた松本直晃君が埼玉西武ライオンズより10位指名(投手)を受けプロ野球選手となった.

とびら

成長の扉を開く,断らない心

著者: 木元稔

ページ範囲:P.541 - P.541

 「頼まれた仕事はできるだけ断らないようにしたほうがいい」.ある日,尊敬する理学療法士の方からそうアドバイスをいただいた.これから依頼する仕事を断りにくくするための策略かなとも思ったのだが,素直にその教えを守ってきた.今ではこの「断らない」ということが,自らの成長の扉を開く鍵となっている.

 何かの仕事を頼まれても,失敗を恐れ断ってしまうことがあるかもしれない.しかし,自分にとってどの過程が難しいかは,実際にやってみなければわからない.「できない」と恐れていたことがすんなりでき,逆に意外なところでつまずいてしまうことは,誰しもが経験することであろう.実際に達成できたことで自信がもてるし,不得意な点も確認できる.「自分にはできない」と安易に断ってしまえば,自らの可能性を知るチャンスを逃してしまう.

甃のうへ・第37回

わが理学療法士人生…為せば成る!

著者: 田代千惠美

ページ範囲:P.586 - P.586

 「定年」という声を身近で聴く機会が多くなってきました.リハビリテーション学院時代に一緒に学んだ同期生が定年を迎え,第2の人生を歩み始めています.さて,自分の人生はどうであったのかと自問してみよう.

 「理学療法士の専門学校に進学するように」.父親に言われたのが,高校3年生の夏休みでした.高校生時代は,バレーボール部で毎日“アタック”“レシーブ”と黒く日焼けしてコートをかけずり回っていました.志だけは高くもち,大学に進学し,教育者の道をめざそうと考えていました.そんなときに,聞いたことも見たこともない分野のリハビリテーション,理学療法士…とは,なんぞや? でも,とても厳格な父親の言うことには反論できず,受験したのが,東京都立府中リハビリテーション学院でした.父の理論では将来性のある学問であり,日本に広く知れわたり,必要とされる医療分野であるとのこと.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

やる気スコア apathy rating scale:ARS

著者: 松谷綾子

ページ範囲:P.587 - P.587

 脳卒中後の患者に生じやすい精神障害の1つとして,うつ病やアパシー(apathy)がある.アパシーは,1990年にMarinによって意識障害,認知障害,感情障害によらない動機づけの減弱と定義され,意識レベルの低下,認知障害,感情的な悲嘆に起因するものではないとされている1).その後,2006年にLevyとDuboisにより,目的に向けられた随意的で意図的な行動の量的な減少と定義され,次の3型に分類されている2).① 情動感情処理障害によるアパシーは感情と行動の結びつきの変化により,行動を起こし完結させる意欲が減じるか,将来の行動の結果を評価する能力が減少して生じるものである.② 認知処理障害によるアパシーは,目的指向行動を計画し実行するのに必要ないくつかの遂行機能,例えば,企画,作業記憶,ルールをみつけセットを変換することの障害に由来する.③ 自己賦活障害によるアパシーは,自動賦活化過程の障害により自ら発想することや自発的な行動が障害されるが,外的駆動による行動は保たれるものである.アパシーの原因として,前頭前野,基底核,視床といった皮質への経由路の障害による発動性低下が考えられている.

 やる気スコアは,複数あるアパシーの評価法のうち,臨床で実施すべき評価法である3).本評価法は,Apathy Scale4)を岡田ら5)が日本語訳したものであり,14項目の質問に対し0〜3の4段階の回答のなかから1つを選択する.日本人に対しては,16点以上を意欲低下とする判定が提案されている5).適応できるのは,適切な回答ができる知的レベルと言語能力を有する患者であることから,高度の意欲低下,中等度の認知症,自分で適切に回答できない患者の場合は別の評価法を選択するべきである3)

理学療法関連審議会・協議会

健康日本21推進全国連絡協議会

著者: 小川克巳

ページ範囲:P.588 - P.588

 この協議会は,健康寿命の延伸,生活習慣病の予防や壮年期死亡の減少を目標として国が提示した「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」に対し,国や地方公共団体のみならず民間の関連団体が担うべき役割も大きいとの認識により,各団体が相互に連携・協議しつつ国民運動としての具現化を図るため,2001年2月に設立が呼びかけられたものである.現在,日本理学療法士協会をはじめ145にのぼる関連団体が加盟している.

 運営の基本方針は,「連絡協議・情報交換」,「健康日本21の国民的理解の醸成に資する活動」,「国民の健康づくり支援環境整備に資する活動」とされており,具体的事業については各団体独自に推進し,その内容について連絡協議・情報交換することと定められている.

入門講座 症例を担当するということ・4

ゴール達成のためにやり抜く

著者: 廣谷和香

ページ範囲:P.589 - P.594

はじめに

 多くの場合,病は突然にやってくる.これまでの日常が非日常となり,当たり前にできていたことが突如としてできなくなる.われわれ医療従事者がひと言で「生活」と称することは簡単だが,そこには患者それぞれに築いてきたものがあり,それを失うことによる喪失感は計り知れないものがある.

 リハビリテーション医療とは,治療を通じて,そうした患者自身の本来ある生活を継続して行えるよう援助していくことに大きな意義がある.しかし疾患の重症度や患者のパーソナリティ,取り巻く環境も異なるため,個別化されたゴールを一辺倒の方法で達成することは困難を極める.

 そこで本稿では,ゴール達成の要素として,① いかに情報を客観的に捉え,ゴール設定を行うこと,② 段階的な課題の達成とゴール設定の見直し,③ チームアプローチ,④ 生活を継続できる援助体制の構築,といった論理的思考と,それを支える感情的思考の重要性について述べる.

講座 行動経済学・2

行動経済学の臨床応用

著者: 高橋英彦

ページ範囲:P.595 - P.600

はじめに

 前号では,行動経済学および神経経済学について概説した.そこでも述べたように,精神科医である筆者は,臨床にも有用ではないかと考え,行動経済学に興味を抱くようになった.本号では,行動経済学の臨床応用や脳機能イメージングについて,筆者らの自験例を交えて紹介したい.

臨床実習サブノート 臨床実習のリスク 地雷を踏むな!・1【新連載】

脳血管障害(急性期〜亜急性期)

著者: 松本恵実 ,   日髙正巳 ,   惠飛須俊彦

ページ範囲:P.601 - P.606

はじめに

 近年,世界30か国の脳卒中に関するガイドラインのうち22か国で早期リハビリテーションを推奨しており1),本邦でも発症後早期から理学療法を開始することが主流となっています.そのため,臨床実習においても急性期の脳血管障害患者を担当する機会が多くなっていると思います.急性期の脳血管障害患者は多くのリスクを抱えています.田邊ら2)は,学生が臨床実習中に体験したアクシデントおよびインシデントの対象患者は脳血管障害が最も多く,全体の51.2%であったと報告しています.

 本稿では,臨床実習で必要なリスクに関する知識と,地雷を踏まない方法について説明します.まず,疾病に関する医学的リスクを理解してもらったうえで,実際の臨床実習の手順に沿って解説を加えます.

症例報告

対麻痺患者に対する体重部分免荷トレッドミル歩行トレーニングの導入効果—バクロフェン髄腔内投与療法により痙縮が軽減し歩行能力が低下した1例

著者: 矢野雄大 ,   石倉龍太 ,   久原聡志 ,   明日徹 ,   舌間秀雄 ,   松嶋康之 ,   佐伯覚

ページ範囲:P.607 - P.612

要旨 今回,脳炎による重度の痙性対麻痺を有する患者に対してバクロフェン髄腔内投与療法(intrathecal baclofen therapy:ITB療法)を施行された症例を経験した.ITB療法直後は痙縮軽減により歩行能力が低下したが,理学療法プログラムに歩行練習量を安全に多く確保できる体重部分免荷トレッドミル歩行トレーニング(body weight supported treadmill training:BWSTT)を導入することで,ITB療法前よりも歩行能力の改善を認めた.ITB療法後のBWSTT導入は歩行能力を改善する有効な手段の1つとなる可能性が示唆された.

プラクティカル・メモ

起立・歩行練習用組立式股装具の考案

著者: 島袋公史 ,   平山史朗 ,   髙田稔 ,   渡邉英夫 ,   加治屋司 ,   今村健二 ,   光野七七 ,   市川裕貴 ,   藤﨑拡憲 ,   青木三利子 ,   浅見豊子

ページ範囲:P.613 - P.615

はじめに

 脳卒中治療ガイドラインでは,脳卒中患者に対して装具を用いた早期の起立・歩行練習を行うことが推奨されている1).しかし,発症早期で体幹部・股関節の安定性が失われている症例では,長下肢装具を用いても起立・歩行が困難である.今回,早期の起立・歩行練習を股装具と短下肢装具(ankle-foot orthosis:AFO)で実施可能な,組立式股装具を考案したので紹介する.

次号予告

ページ範囲:P.562 - P.562

書評 —上杉雅之(監修),西守 隆(編著) 医歯薬出版—「動作のメカニズムがよくわかる 実践! 動作分析」

著者: 内山靖

ページ範囲:P.585 - P.585

 「臨床に役立つよい本ができた」

 「多くの人に,タイトルに先入観をもたず,まずは中身をパラパラとでも見てほしい」

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.615 - P.615

文献抄録

ページ範囲:P.616 - P.617

第28回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.619 - P.619

編集後記

著者: 福井勉

ページ範囲:P.620 - P.620

 近づいてきた東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて,理学療法士として何ができるのか,どのようなことをすれば大会とかかわれるかに興味を有する方は多いと思う.大会運営に関する事項については豊富な経験をお持ちの第一線の先生方から実情について聞く一方で,地方からの発信についても視点を広げてみたいと考えた.

 奥脇先生からは2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピック競技大会にむけてスポーツ現場で重要と考えるスタッフの中での理学療法士の役割について,さらに理学療法士が大会関係者として活躍することを期待する旨の提示をいただいた.室伏先生からは,アスリートとしての視点から理学療法士への期待を生で聞かせていただき,技術力の高さをどのように運用する力とするかについて望む言葉に重みを感じた.片寄先生はオリンピックにおける理学療法サービス,ロンドンオリンピック時の理学療法と大会で活躍するための基準まで述べられている.スポーツ理学療法士のcompetencyと質保証について,国際基準から具体例が述べられ,多くの理学療法士の参考になると考えられる.松田先生からは東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けての国立スポーツ医科学センターの体制,国際総合競技大会でのアスリートサポート,オリンピックにおける村外サポートの役割と問題点を述べていただいた.門田先生には,障がい者アスリートのメディカルサポートについての近年の環境変化,パラリンピック競技へのサポート,障がい特性を有するアスリートへのサポートの特徴と現況について詳細に記載していただき,理学療法士の参画の必要性を説いていただいた.土中先生からは,鳥取という地方のメディカルフィットネスセンターからの理学療法士の存在意義を述べていただいた.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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