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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル50巻7号

2016年07月発行

雑誌目次

特集 被殻出血と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.623 - P.623

 脳卒中片麻痺という表現は必ずしも適切とは言えない.被殻出血では片麻痺以外にさまざまな病態あるいは現象がみられる.そこには構造学的な原因がある.基底核ネットワークの重要な部分である被殻が障害されるとそのシステムは壊れる.さらにその周囲にはいろいろな神経線維が走行する.血腫の大きさが問題なのではなく,その拡がる方向と程度が重要な因子となる.被殻出血にみられる病態を概説して,前方,内上方,後外方への拡がりをみせる被殻出血と小出血を取り上げて解説した.

被殻出血にみられる病態

著者: 山本幸夫 ,   尾谷寛隆 ,   上原敏志

ページ範囲:P.625 - P.631

はじめに

 『脳卒中データバンク2015』1)によると,脳出血は脳卒中全体の18.5%を占め,脳梗塞は75.9%,クモ膜下出血は5.6%を占める.脳出血の部位別での割合は,被殻29%,視床26%,皮質下19%,脳幹9%,小脳8%であり,被殻出血の占める割合が最も多い2).したがって,脳卒中リハビリテーションに携わる理学療法士であれば,被殻出血患者を担当することは少なくない.

 また,発症年代別にみると,被殻出血は50歳未満で発症する割合が高いことより2),発症年齢が比較的若い傾向があるのも特徴であり,社会復帰などを考えた際には理学療法士の果たす役割は大きい.

 本稿では,被殻出血患者の理学療法を実施するうえで踏まえておくべき被殻周囲の解剖・生理学について概説し,その後被殻出血にみられる神経症候,急性期治療および急性期理学療法の留意点について解説する.

前方に拡がる被殻出血と理学療法

著者: 増田司

ページ範囲:P.633 - P.641

はじめに

 脳機能は,その局在性のみならず伝導路や関連領域との機能的結合(functional connectivity)を形成していることが知られている.機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)や拡散テンソル(tractography)解析1),機能的近赤外線分光法(functional near-infrared spectroscopy:fNIRS)2)などのニューロイメージング法や,ウイルストレーサーをはじめとする神経回路解析法3)などの科学的手法より中枢神経系の神経解剖学の知見が進歩し,脳損傷による機能解剖学が明らかとなりつつある.さらに近年では,神経解剖学と計算論的神経科学とが融合した計算論的神経解剖学4)を用いた手法によって,脳内神経結合の包括的なマップが調べられている.その1つにコネクトーム(connectome)5)とよばれる神経回路地図がある(図1).コネクトームは主に認知機能を把握するために,すべての皮質領域および線条体,小脳などを含む皮質視床システムの構造的記述に用いられる6).コネクトームは,特定領域(ローカルエリア)における機能分別を担うとともに,さまざまな領域(グローバルエリア)との統合を担っている.このため,病変に伴ったコネクトームの変化は局所的な,単一のネットワークの影響にとどまらず,遠隔的に広範な影響を誘発すると考えられる.

 特に出血性病変では,責任血管の違いや血腫の拡がりによって多様な病態を呈する.前方に拡がる被殻出血の場合,責任血管はHeubner反回動脈や内側線条体動脈,外側レンズ核線条体動脈の一部と考えられ,損傷部位は淡蒼球や尾状核の特に頭側に及ぶ.また,血腫が内包前脚に及ぶと前視床放線や前頭橋路が損傷を受けることとなる.臨床症状としては,注意,認知機能,遂行機能などに影響がみられる7).さらに皮質脊髄路に損傷が及ぶと,上肢に優位な運動麻痺を呈する.本稿では,前方に拡がる被殻出血の関連領域を整理しながら認知機能を中心とした運動制御について触れ,理学療法の進め方について事例を通じて言及していきたい.

内上方に拡がる被殻出血と理学療法

著者: 森下一幸

ページ範囲:P.643 - P.652

はじめに

 被殻出血は脳出血の約40%を占め,高血圧性脳出血の代表的な病型とされている1).ヒトの脳は複雑でお互い強く影響し合う回路網で結ばれており,脳卒中により麻痺が生じた状態では運動を指令したり,姿勢を制御したりする回路が途中で伝わらなくなる,あるいは伝わりにくくなることが生じる.結果,環境との相互作用において自律的あるいは自動化された身体反応としての「運動」が行えなくなり,その結果として動作・行為が行えなくなる2).本稿では,被殻出血の理学療法,特に「内上方に拡がる被殻出血」について,大脳基底核,皮質網様体路など被殻出血により障害される周辺神経路の影響も考慮しつつ,臨床でのかかわりについて実例を挙げてまとめてみたい.

 なお,症例については本掲載に関しての説明を書面にて行い同意を得ている.

後外方に拡がる被殻出血と理学療法

著者: 乾哲也 ,   山口祐太郎 ,   吉尾雅春

ページ範囲:P.653 - P.658

はじめに

 被殻は投射線維や多種の回路などが経由し,さらに近傍にも多くの線維が通ることから被殻出血は臨床上多彩な症状を呈する.Chungら1)は,急性期のcomputed tomography(CT)とmagnetic resonance imaging(MRI)を用いて線条体出血に対して血管支配をもとに6分類し,症状の相違について述べている.さらに6分類のなかでも,外側と後外方に血腫が拡がるタイプが半数以上の約54%を占めていたと報告している.このタイプは両者ともに外側レンズ核線条体動脈の支配である.Ghettiら2)は,この動脈は直径100〜140μmと細く,かつ中大脳動脈から直角に分岐しているため,圧がかかりやすく高頻度に出血すると述べている.このため臨床上,被殻出血のなかでもよく経験するタイプである.

 脳血管疾患では脳画像を読影し,症状や予後を予測したうえで理学療法評価を行う.ここ数年でリハビリテーション機器や技術の発展により,症状が重度な症例の介助量は軽減し,在宅生活に戻る症例が多くなった.回復期リハビリテーション病棟の視点から,症状が軽度な症例は問題にならないが,高次脳機能障害や重度運動麻痺の症例が在宅や施設などで自立して歩行するか否かを見極めることは難しい.脳画像で予後を予測できれば,重症例に対して運動療法の計画を早期に計画でき,これまで歩行や介助量軽減に至らなかったケースの機能を改善することに力を尽くすことができる.しかしながら,脳画像による予後の予測に関しては定量化されていないことが多く,漠然とした予測にとどまっているのが現状である.

 そこで本稿では被殻出血でも頻発する血腫が外側または後外側に拡がる症例に着目した.当院回復期リハビリテーション病棟に入院した患者のCT画像を用いて,被殻出血のなかでも血腫が外側と後外側に拡がる患者を対象に,後方視的な研究結果を示し,画像の特徴と予後予測を症例を通じて比較し紹介したい.さらに重度被殻出血例に対して,画像所見を分析し治療した結果,見守り下で歩行し自宅退院できた症例の理学療法も紹介する.

少量の被殻出血と理学療法

著者: 遠藤正英 ,   脇坂成重 ,   横山勝則 ,   川﨑恭太郎 ,   田代耕一 ,   猪野嘉一

ページ範囲:P.659 - P.665

はじめに

 脳出血の好発部位として被殻が挙げられる.被殻の周辺には内包,淡蒼球などがあり,出血の進展の仕方によってさまざまな病態を呈する.さらに画像所見上,重度の麻痺を呈さないと思われる少量の出血においても,重度の麻痺を生じることがある.これは被殻に生じた少量の出血でも淡蒼球・内包に出血が進展し,錐体路・錐体外路症状が絡み合い重度麻痺が生じているためと考えられる.そのため理学療法を実施するにあたり臨床所見だけでなく,脳の画像所見を含めて患者の病態を正確に捉える必要がある.本稿では少量の被殻出血による病態と理学療法について症例を交えて述べる.

とびら

時代は変わり,そして廻(めぐ)る

著者: 對馬均

ページ範囲:P.621 - P.621

 1970年の春,「リハビリテーション」も「理学療法」も一般にはほとんどなじみの薄かった頃,私は創設2年目の東京都立府中リハビリテーション学院に入学した.当時の理学療法士・作業療法士養成校は,学校教育法上の「学校」には含まれない「各種学校」という位置づけであったため,卒業後,大学院への入学はもちろん,大学への編入さえも認められていなかった.キャリアアップをめざすには夜間大学や通信教育で大学に入学し直すしかなかった.

 その後,1975年の学校教育法の改正によって専修学校制度が発足したのを契機に,規制緩和の流れのなか,10年後,高等専修学校卒業者に対して大学入学資格が与えられ,20年後には専修学校専門課程修了者に対して「専門士」の称号が付与されるようになった.そして30年後,修業年限4年以上の専門課程の修了者に対して「高度専門士」の称号が付与され,大学院入学資格も認められるようになった.

新人理学療法士へのメッセージ

新しい人生のときをどう過ごすか

著者: 知脇希

ページ範囲:P.668 - P.670

 新しく理学療法士になった皆さんに,国家試験合格のお祝いを申し上げます.学生として過ごしてきた皆さんも,社会人としての生活をはじめ,責任を担う立場にいることでしょう.そして,学生とは異なる自由もあるのではないでしょうか.新しい時間をどのように過ごすか,新人理学療法士の皆さんが考える機会となるよう,メッセージを送ります.

甃のうへ・第38回

出会いを大切に

著者: 神田千絵

ページ範囲:P.671 - P.671

 私が理学療法士になって20年が経ちます.1年目の私は,周りへの配慮が欠けていたダメな自分でした.そんな自分が少しずつ成長し,私が私を乗り越えていけたのは多くの貴重な出会いのおかげです.

 最初の出会いは理学療法士になったときの職場の先輩たちでした.先輩たちは得意分野がさまざまで,患者さんをめぐるどんな困難も解決に導いてくれました.目標とする憧れの理学療法士に囲まれて仕事ができる幸運な出会いでした.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

アルコール依存症

著者: 上薗紗映

ページ範囲:P.673 - P.673

 依存症は,「有害な作用があるにもかかわらず使用を継続し,離脱症状,あるいは耐性などの症状を含む症候群」1)のことを指し,身体依存と精神依存がある.アルコール依存症になると,アルコールを摂取したいという強い欲求と衝動があり,自制が困難となる.大酒家=アルコール依存症というわけではないことには注意が必要である.また,アルコールの量と依存症は必ずしも一致するものではない.国際疾病分類(International Classification of Diseases)第10版(ICD-10)では,アルコールだけでなく,大麻や覚せい剤,現在問題となっている危険ドラッグなどの精神作用物質すべての依存をまとめて1つの依存症候群として診断されている.

 また,精神症状としては7つの亜型に分類され,アルコール依存症では,妄想性のもの,幻覚性のもの,うつ病性症状のもの,躁病性症状のものがしばしば認められる2).治療としては,断酒や薬物療法,精神療法,作業療法などが併用されることが多く,医師,看護師,臨床心理士,精神保健福祉士など多くの職種がかかわりながら入院から外来治療につなげていく.また,患者が地域に帰る場合,復職する場合はその企業の産業医と連携し,復職しない場合は断酒会やアルコホーリクス・アノニマス(alcoholics anonymous:AA)などの自助グループにつないで治療継続を援助できるようにアプローチをしていく.筆者が勤務する平川病院では,このほか内科的問題には内科医による治療,身体リハビリテーション,管理栄養士による栄養指導,依存症患者をもつ患者家族への家族会の取り組みなど,多くのプログラムをおよそ3か月周期にて実施し,当院のアルコールデイケアや他院のアルコールデイケア,自助グループなどに継ぐなどの連携をとっている.

理学療法関連審議会・協議会

全国福祉用具相談・研修機関協議会

著者: 寺光鉄雄

ページ範囲:P.674 - P.674

 全国福祉用具相談・研修機関協議会(以下,協議会)は,「福祉用具・介護ロボット・補聴器などや住環境整備に関する展示・相談機関や研修機関において,連絡協議を行うことにより,地域における適切な介護技術の普及並びに福祉用具・住環境整備の活用によって,高齢者や心身障害者並びに家族や介護従事者の生活支援や介護負担軽減を図ることに寄与する」ことを目的に,2014年10月30日に発足した.会員は,正会員30団体,準会員10企業,個人会員3名で構成されている.

 役員は,代表を中村健治氏(社会福祉法人北海道社会福祉協議会部長),副代表を記虎孝年氏(公益社団法人関西シルバーサービス協会理事長),押川なおみ氏(社会福祉法人富山県社会福祉協議会富山県介護実習普及センター所長),監事を田中康之氏(社会福祉法人千葉県身体障害者福祉事業団千葉県千葉リハビリテーションセンター地域支援室長,一般社団法人千葉県理学療法士会会長)にお願いしている.事務局は,筆者が担当している.

入門講座 症例を担当するということ・5

代行者・他職種との連携

著者: 加辺憲人

ページ範囲:P.675 - P.684

はじめに

 卒業試験,採用試験,国家試験のすべてに合格し,職場の専門職の一員として歩みだした新人理学療法士にとって,人のためになれているという楽しさや達成感を感じている反面,社会人としての大変さや厳しさも感じていることと思う.

 特に,ともに働いている仕事の仲間との連携に関しては,うまくいけば喜びを分かち合えるが,軋轢が生じるとストレスにもなる.

 理学療法士の仲間である先輩・同期や他の専門職種とチームを組み,連携するうえで工夫すべきことはあるだろうか.

講座 再生医療—現在と未来・1【新連載】

運動器領域の再生医療の現在と未来

著者: 齋藤琢

ページ範囲:P.685 - P.690

はじめに

 近年の分子生物学の隆盛によって生物の発生・分化の理解が深まり,さまざまな疾患の病態が理解されるようになりつつある.疾患の病態研究をしている多くの人は,そこで培われた技術を直接治療に応用できないかと考えることであろう.旧来の化合物のみならず,生体のタンパクや抗体,核酸を用いて失われた身体機能を再生させようとする創薬研究,そして細胞を体外で操作し,目的の細胞や組織を作出して治療に応用しようとする(狭義の)再生医療研究が世界中で行われ,その競争は年々熾烈になっている.日本では文部科学省の委託事業「再生医療の実現化プロジェクト(第一期:2003〜2007年)」などで戦略的研究が実施されてきたが,2007年のヒトiPS細胞(induced pluripotent stem cell)樹立法の開発を受けて,主にiPS細胞をソースとした研究が「再生医療の実現化プロジェクト(第二期:2008〜2012年)」で展開され,現在も「再生医療実現拠点ネットワークプログラム(2013年〜)」を中心にiPS細胞の臨床応用をめざした研究が各領域で続いている.2014年には理化学研究所・先端医療センター病院での臨床試験にて,滲出型加齢黄斑変性症患者にiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞が移植され,iPS細胞の人体初の移植としてさらなる注目を集めている.

 運動器領域では,上記のような細胞を用いた再生医療が考案されるよりはるか以前から,人工材料を用いて身体機能を代替する工夫がされてきた.整形外科では末期の変形性関節症などに対して人工関節置換術を盛んに行っており,症例数の多い膝関節や股関節では特に安定した成績が得られている.その研究の源流は100年以上前にさかのぼり,現在の主流デザインの原型も1970年代には登場していた.インプラントの破損,緩み,摺動面の磨耗など多くの問題があったが,形状や素材,手術手技の改良などによって現在も長期成績の改善が続いている.

 骨折治療や脊椎固定術では腸骨などから採取した自家骨を移植することも多いが,外傷や腫瘍などで生じる大きな骨欠損に対しては自家骨だけでは対応できない場合もあり,同種骨移植などが行われる.同種骨移植の始まりも古く,19世紀末にさかのぼる.海外では遺体由来の人工骨が広く用いられており,国内でも同種骨を運用する骨バンクがあるが,遺体由来の同種骨はまだ広くは普及しておらず,大腿骨頸部骨折の人工骨頭置換術などで発生する大腿骨頭・頸部などを,長期冷凍保存,温熱処理などを経て各施設で使用するのが一般的である.またハイドロキシアパタイト,βリン酸三カルシウムを材料とする人工骨も開発され,1980年代に実用化されている.同種骨も人工骨も,細胞ではなく骨の構造物を移植するものである.これらは骨の支持機能を一時的に補いつつ,骨芽細胞など骨の構成細胞に足場を提供し,長期経過のなかで自己組織化することを期待する治療法であり,細胞の増殖,遊走が旺盛な骨組織ならではの方法である.

 このように,失われた身体機能を再生させるものを広義の再生医療とするなら,運動器領域は古くから再生医療のパイオニアであったといえる.

臨床実習サブノート 臨床実習のリスク 地雷を踏むな!・2

脳血管障害(回復期〜維持期)

著者: 中村学

ページ範囲:P.692 - P.698

はじめに

 脳血管疾患は日本人の要介護状態に陥る原因疾患の第1位であり,発症直後から身体機能・日常生活活動の著しい低下が起こるため,早期からリハビリテーションを実施し,それらの改善を図らなければならない.回復期リハビリテーション病棟において,脳血管疾患は担当することの多い疾患の一つであり,実習生に症例として担当してもらう機会も多い.実習生は脳血管障害患者の評価に難渋し,統合と解釈や治療プログラム作成でつまずくことが多いため,本稿では主に回復期の脳血管障害患者について,顕在的,潜在的リスクと対応法,地雷を踏まないためのコツについて述べる.

症例報告

機械的咳介助(MI-E)を用いた呼吸理学療法により肺胸郭コンプライアンスが維持できた侵襲的陽圧換気療法—筋萎縮性側索硬化症の1例

著者: 加藤友記 ,   丸山昭彦 ,   荒巻晴道 ,   齋藤正雄 ,   石井恵子 ,   大熊彩

ページ範囲:P.700 - P.703

要旨 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)で侵襲的陽圧換気療法(tracheostomy positive pressure ventilation:TPPV)を実施している患者に機械的咳介助(mechanical insufflation-exsufflation:MI-E)を用いた呼吸理学療法を実施したところ,肺胸郭コンプライアンスに変化を認めた.症例は60歳台女性のALS患者である.TPPV開始から6か月後に肺炎を発症したため,12週間にわたりMI-Eで排痰を促すとともに肺胸郭コンプライアンス変化を記録した.

 呼吸理学療法の効果として,MI-E施行後に1回呼気量(tidal volume expiratory:Vte)と静肺コンプライアンス(static lung compliance:Cst)が有意に増加した(p<0.01).また,1回呼気量においては,前半6週(1〜6週)に比べ,後半(7〜12週)に有意に増加した(p<0.05).胸郭拡張差(difference of chest expansion:Dce)に変化はなかった.

 12週間を通じてVteとCstに変化を認めたことから,MI-Eは排痰効果のみならず,肺胸郭コンプライアンスを維持・改善させる可能性が示唆された.本例では,MI-Eを用いた呼吸理学療法によって気道クリアランス確保と肺胸郭コンプライアンスが維持・改善し,肺炎や無気肺など肺合併症の発症リスクが減少したと推察する.今後,症例を重ねて検討していく必要がある.

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.665 - P.665

文献抄録

ページ範囲:P.704 - P.705

第28回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.707 - P.707

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.708 - P.708

 5月27日から29日の3日間,第51回日本理学療法学術大会が札幌で開催されました.約5,000名の参加があったそうです.今回は日本理学療法士協会に属する12の分科学会の連合学会という位置づけの学会でもありました.私は神経領域を中心に参加しましたので,他の領域の状況を知ることはできませんでしたが,神経領域の報告や討論の様子をみて,学会の変化を感じました.中心となる人たちがこれまでと入れ替わり,5,6年前と比べて質的にかなり向上していると思いました.理学療法学が科学として発展していく可能性を予感させてくれた学会でした.一方で,人間を対象としたリハビリテーション医療という側面が薄くなり,治療医学的な志向性が強くなって,神経生理学的アプローチが盛んであった頃に陥った,人間本来の活動を犠牲にした世界の再来を危惧する一面もありました.専門化していくことの重要性はありますが,理学療法士の請け負う領域は全人間的なものであり,臨床や生活の場で木だけを見て森や山を見ないような理学療法士の育成は避けたいところです.

 さて,そう言いながら,本号の特集は「被殻出血と理学療法」という,半ばピンポイントに焦点を当てたようなタイトルになっています.過去の特集や研究報告では「脳卒中片麻痺に対する…」というような表現がほとんどです.脳は局所的にもシステム的にもさまざまな働きをします.脳卒中によってそのシステムが壊れるわけですから,ザックリと「脳卒中片麻痺」と表現するのは明らかに好ましいものではありません.脳の構造学的なことや機能的なことはかなり解明されていますから,起こっている現象を脳を対象として説明できるようになってきました.病態の原因となる脳の損傷がわかると戦略も見えてきます.やみくもに戦わず,効率的・効果的な策を練ることができるかもしれません.これを戦略といいます.被殻出血は脳出血のなかで約40%を占めますが,その病態は多岐にわたります.そうなる理由があるからです.それを明らかにすることによって,理学療法評価やかかわり方を一考していただこうという目的で企画したものです.熟読していただくと,ヒトだけではなく,人間をみていくことにもつながる内容であると理解していただけるでしょう.それぞれの執筆者には過去に十分な情報がないなかで果敢に挑戦していただきました.この特集が脳の中を丁寧にみながら理学療法を行っていく世界への入口になることを期待しています.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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