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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル50巻9号

2016年09月発行

雑誌目次

特集 重症下肢虚血と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.811 - P.811

 下肢切断の理学療法にパラダイムシフトが起きている.その対象は,外傷や腫瘍から末梢動脈疾患,糖尿病へと変化し,さらに対象の高齢化が進んでいる.糖尿病内科,循環器内科,腎臓内科,血管外科,形成外科,リハビリテーションと集学的治療は必須となり,理学療法士の役割も単なるADLの再獲得ではなく,創部悪化を防ぐ疾患管理に加えて創部免荷やセルフチェック,適切なフットウェアの装着などによる足部潰瘍管理へと拡大している.本特集では重症下肢虚血と理学療法の最前線を各分野のエキスパートにまとめていただいた.

重症下肢虚血のlimb salvageの動向

著者: 寺師浩人

ページ範囲:P.813 - P.818

はじめに

 下肢慢性創傷を有する治療において,集学的治療の必要性が提唱されて久しい.本邦における下肢慢性創傷の代表は糖尿病性足潰瘍である.糖尿病は末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)を合併しいったん潰瘍を生ずれば感染を伴いやすいことから,創傷の病態は複雑な病因の複合体を成す1).そもそも重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)が,単なる下肢血流障害のみを改善することにより治癒が叶うとすれば集学的治療は不要である.

 本邦において,糖尿病患者はPADを合併しやすく,創傷をもつ患者は透析率が世界一高い.また,諸外国に比較し,Rutherford分類6が圧倒的に多いこともよく知られている事実である.最新のデータでは,本邦においてCLIに対して末梢血行再建術を施行した患者の7割が糖尿病患者で5割が透析患者であった2)

 したがって,本邦のCLIにおける集学的治療は,糖尿病内科医,循環器内科医,腎臓内科医(透析科),放射線科医,感染症内科医,血管外科医,形成外科医,整形外科医,リハビリテーション医,理学療法士,義肢装具士,作業療法士,看護師の複合チームで行われなければならない.一人の患者にかかわるべきチームがあまりに大きいため,できればセンター化が好ましいことになる.本邦では,これらすべての科がCLIに対して前向きに取り組んでいる病院がほとんどないため,近年は地域連携で確立していこうとする動きが活発である.それぞれの地域におけるフットケアやlimb salvageにかかわる研究会の発足がそれを現している3)

重症下肢虚血による下腿切断後の義足処方とリハビリテーション

著者: 陳隆明

ページ範囲:P.819 - P.825

はじめに

 下肢切断の原因の多くが下肢末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)と糖尿病に起因したものであり,今後われわれが対峙すべきリハビリテーション対象者である切断者の大多数が高齢者である.一方では,重症下肢虚血に対する各診療科の枠を越えた集学的治療への関心の高まりと必要性や重要性の認識から,血行再建術とそれに伴う足部創傷治療が積極的に実施されるようになった.さらに,切断者の機能予後における膝関節温存の重要性が広く認識されるようになった結果,下肢大切断における下腿切断数の増加がもたらされている.

 このような好ましい傾向があるにもかかわらず,依然として下腿切断においてもリハビリテーション成功率は低いという現状が存在する.今日における義肢テクノロジーの著しい進歩の産物としてさまざまな高機能の義肢パーツが利用可能である事実と皮肉にも矛盾する結果である.ハード面だけでは必ずしもPAD起因の下肢切断者の機能改善はもたらされない証である.ソフト面である切断後の断端ケアを取り入れた切断者の包括的リハビリテーションマネジメントの戦略を見直し,確立に向けて取り組む時期にきていると考える.

重症下肢虚血の理学療法—トータルフットマネジメントの実際

著者: 榊聡子

ページ範囲:P.827 - P.832

はじめに

 末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)は心臓および冠動脈以外の大動脈(胸部,腹部),腹部内臓,四肢および末梢の動脈(頸動脈,鎖骨下動脈,腸骨動脈など)を含む,全身の動脈硬化疾患であり,多くは下肢血管に病変がある.重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)は動脈閉塞性疾患に起因する下肢の慢性の虚血性安静時疼痛,潰瘍あるいは壊疽を有する状態である1).CLIは悪化に伴い安静時疼痛の増悪や創傷により歩行能力やQOLが低下しやすいため,リハビリテーションの必要性は高い2)

 PADのなかでCLI発症は1〜3%といわれているが,1年の予後調査では,30%が切断を余儀なくされ,25%は死亡するという極めて予後不良な疾患と報告されている1).よってPADの悪化を防ぎ,リスクファクターに対して治療していくことが重要である.

 CLIの併存疾患として糖尿病や心血管疾患が多く,糖尿病患者は知覚障害により創傷を発見しにくく再発しやすい.またPAD患者の死亡要因として心血管関連死が最も多いため1),運動時の心疾患へのリスク管理も重要である.理学療法実施においては併存疾患におけるリスク管理や末梢血流の状況,創傷管理に留意する必要がある.しかしCLIの理学療法における報告は寡少であるため,本稿では春日部中央総合病院(以下,当院)の取り組みも含めてCLIの理学療法について各病期に分けて紹介する.

足部潰瘍の自己管理指導の実際

著者: 松本純一

ページ範囲:P.833 - P.838

はじめに

 重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)は,末梢動脈疾患の重症型であり,安静時疼痛や潰瘍・壊疽が生じる1).CLIの治療ではやむなく下肢切断を施行される場合がある1,2).しかし近年血行再建,創傷治療,再生医療の発展などにより,切断部位を最小限とし下肢を温存する“救肢”が可能となってきた.救肢できたCLI患者の在宅復帰をめざすべく,CLI患者のリハビリテーション介入の必要性が高まっている3).心臓リハビリテーションや呼吸リハビリテーション,運動器リハビリテーションを実施する際には血圧,脈拍,心電図,酸素飽和度などをモニターし,各疾患におけるリスク管理を行いながら介入を行う必要がある.一方,CLI患者では循環動態だけでなく,創傷部位のリスク管理をしながらリハビリテーション介入を行う必要がある.

 CLIは血流障害に伴い創に対する治癒能力が低く,特に糖尿病が併存している場合は再発しやすいため,再発予防のための自己管理指導は重要である.

 本稿では,CLI患者のリハビリテーションにおける創傷発生へのリスク管理と再発予防について,春日部中央総合病院(以下,当院)で実際に取り組んでいる内容を含めて解説する.

足部潰瘍に対するフットウェアの選択と効果判定の実際

著者: 宇野秋人

ページ範囲:P.839 - P.846

はじめに

 糖尿病性足病変などの末梢神経障害,末梢動脈疾患,重症下肢虚血などの末梢血管障害,軟部組織の感染,そして,これらの病因が混在して重症化し治療予後を悪くさせる.このなかで,足部潰瘍はどのタイプでも発生し,適切な治療とフットウェアを使用することにより下肢救済(limb salvage)を行うことが必要であると報告されている1)

 足部に潰瘍を形成する要因はさまざまであるが,義肢装具士には足部を外的環境から保護すること,潰瘍が発生した部位への外的要因を制限することで歩行を可能とし,切断を回避するようにフットウェアを役立てる必要がある.また,下肢切断に至った際も,疾患による特徴的な切断背景を考慮し,義足の処方,作製を行う必要がある.しかし,これらは義肢装具士の教育において不十分な点もあり,医師,理学療法士などと連携を図り,チームとしての対応が望まれる.

 フットウェアという用語は既にさまざまな分野で認知されてきており,ここでは治療用装具から再発防止,患部保護的なものまで含めて紹介する.

重症下肢虚血患者に対する日常生活指導の実際

著者: 山端志保

ページ範囲:P.847 - P.853

はじめに

 近年,末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の疾病構造は大きく変化し,バージャー病が減少する一方で,高齢化,食生活の欧米化などにより,糖尿病や慢性腎不全(維持透析)を有する患者が増え,その結果,閉塞性動脈硬化症が増加している.PADから重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)に至る症例は決して多くないといわれているが,その絶対数は年々増えており,現行の治療法に抵抗性のCLIも多く,「再発・増悪」,「切断・再切断」,「心血管死」の割合が高い.

 CLIの予後は極めて不良であり,救肢と生命予後改善のためには,禁煙,内服遵守,食事療法,運動療法などによる下肢循環を悪化させるリスクファクターの是正が欠かせない.本稿では,CLI患者に対する日常生活指導の実際について解説する.

とびら

登山

著者: 浅川育世

ページ範囲:P.809 - P.809

 昨年より趣味の一つに登山が加わりました.「そこに山があるから」は誰もが知る言葉となっていますが,私の場合は「余裕ができたから」かもしれません.

 昨年,家族で上高地をトレッキングしようということになり,専門店に用具を買いに行ったところ,数年ぶりに悪友にばったり出会ったことがきっかけでした.その友人とは10数年前に一緒に山に出かけていましたが,お互いに子供が生まれ,家族サービスが優先となり一緒に出かけることはめっきり減っていました.その友人が山岳テントを見に来たとのこと.お互い目を合わせニヤリ,一緒に口に出した言葉が「行く?」でした.居合わせた家内は呆気にとられていました.トレッキングのための用具を買うつもりで来たのに,いつの間にか本格的な登山用具を物色していました.

あんてな

第51回日本理学療法士協会全国学術研修大会inおきなわのご案内

著者: 與儀哲弘

ページ範囲:P.856 - P.862

 第51回日本理学療法士協会全国学術研修大会(以下,本大会)は「未来へ発信! 新たな理学療法戦略を探る」(池城正浩大会長)をテーマに2016年10月7日(金)・8日(土)の2日間にわたり沖縄県宜野湾市の沖縄コンベンションセンター(図1)にて開催されます.1995年に第30回日本理学療法士協会全国学術研修大会を開催して以来,実に21年ぶりに沖縄で開催できることを,沖縄県理学療法士協会会員一同光栄に思っています.

 現在,本大会が会員の皆様やわが国の未来にとって意義のあるものとなるよう,沖縄県理学療法士協会の会員一同鋭意準備を進めています.ぜひ,全国学術研修大会の地,沖縄県宜野湾市へお越しください.

初めての学会発表

学会発表を目標とした卒業研究

著者: 志田航平

ページ範囲:P.866 - P.867

 2016年5月27〜29日,第51回日本理学療法学術大会が北海道札幌市で開催されました.今回,学会最終日の5月29日にポスター発表の機会を得ました.本稿では,学会発表までの経過や発表を終えて感じたことを報告します.

学会印象記

—第53回日本リハビリテーション医学会学術集会—リハビリテーションの時間的空間的広がりの可能性を感じた3日間

著者: 青山朋樹

ページ範囲:P.868 - P.869

 第53回日本リハビリテーション医学会学術集会は京都府立医科大学の久保俊一大会長のもと,2016年6月9〜11日の期間に国立京都国際会館およびグランドプリンスホテル京都において開催されました.梅雨の合間をぬって,時々小雨がぱらつくほかは晴れが続き,会場の内外で白熱した議論が交わされました.

 今回の学術集会では「軌轍(Kitetsu)と融和(Yuwa)」という,やや聞き慣れないテーマが大会長によって示されました.どういう意味なのだろうと思い,プログラムを開くと,「先人たちの〈軌轍〉すなわち轍から基本的な知識と技能を学び,各臨床医学分野との協調,多職種間の連携による〈融和〉を図ることで,リハビリテーション医学の学問領域が担う広い領域の整理とincubationを行い,さらなる飛躍を目指すことを目的とした」と書かれています.どのようなところにこのテーマが反映されているかを楽しみに私は学会に臨むことにしました.

甃のうへ・第40回

人生のライフイベントをプラスのキャリアに!

著者: 河合麻美

ページ範囲:P.870 - P.870

 生後8か月になる長女の保育園入園と同時に,私は育児休業を終え職場を復帰しました.復帰から2か月,慣らし保育も終え,子供と私のペースもなんとか軌道にのってきたかな…と思っていた矢先に長女が水疱瘡を発症し,さらに肺炎も併発し入院することになってしまいました.職場復帰したばかりで患者さんや職場に申し訳ないという私の思いで,水疱瘡治癒直後にもかかわらず保育園に登園させてしまったことを深く後悔しました.「このまま仕事を続けてよいのか?」.点滴で縛られている娘のベッドサイドで葛藤し,気づけば号泣していました.

 これが私の育児と仕事の両立でぶつかった初めての壁でした.その後,職場の柔軟な対応と理解,家族の協力,育児仲間などに恵まれ,そして何より「理学療法士という仕事が好き」という想いで4人の子供を育てながら23年間仕事を続けることができましたが,あのときの葛藤は今でも私の活動の原点になっています.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

疾患群別予後予測モデル(Lynn Jの軌道モデル)

著者: 平原佐斗司

ページ範囲:P.871 - P.871

 Lynnらは終末期の疾患軌道を,「がんなどのモデル」,「心肺疾患などの臓器不全モデル」,「認知症・老衰などのモデル」の3つに分類した(図).

 がんの軌道の最大の特徴は,再発したがんは多くが治癒不可能であること,最期の1,2か月で急速に全般的機能が低下することである.がんは,原発巣や種類が違っても,症状や臨床経過において一定の共通性・法則性が認められ,それらは終末期になるほど顕在化する.進行したがんは侵害受容器や神経に浸潤し,比較的早期から疼痛が出現し,疼痛は増強しながら長期に持続する.そして,原発巣や転移臓器でのがんの増殖により呼吸不全,麻痺,肝不全など臓器の機能不全を起こす.最期には異常な内分泌・代謝状態である悪液質を引き起こし,だるさや食思不振,痩せなど共通した全身症状が出現する.この全身状態の変化に着目すれば,がんの予後の予測は可能であり,実際にいくつかの信頼できる予後予測指標が開発されている.

理学療法関連審議会・協議会

大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(JRAT)

著者: 大井雅美

ページ範囲:P.872 - P.872

 2011年の東日本大震災を機に「東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体」が発足し,支援派遣者は延べ約1,200名,支援対象者は約7,700名にのぼった.その後,日本義肢装具士協会,日本義肢装具学会が加わり,現在,構成団体は12団体である(表).

 大規模災害時において,救命救急から継続したリハビリテーションによる生活支援などを行い,生活不活発病などの発生を防ぐことは非常に重要であり,平時から地域における横のつながりを強め災害時に備えることが必要である.そこで,2013年には「大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(Japan Rehabilitation Assistance Team:JRAT)」と改称し,大規模災害に備えたリハビリテーション支援チームの育成・組織化・ネットワークの構築を推進する活動を展開している.

入門講座 症例を担当するということ・7

家族を活かす—社会・家庭環境の変化による家族の負担に着目して

著者: 大倉俊

ページ範囲:P.873 - P.880

はじめに

 患者が安全に,かつ安心して,いきいきと自宅での生活を継続するためには,家族の協力は不可欠であり,医療者が「家族を活かす」ための取り組みを行うことが重要である.

 近年,日本の社会および社会保障制度は人口構成の大きな変化によりさまざまな問題に直面しており,医療・介護体制においても変革の時期を迎えている.特に約700万人といわれる団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けた医療・介護機能の再編により,病院からの退院先が施設から在宅へと転換している1).そのため,家族の介護負担や不安を考慮した「家族を活かす」取り組みを行うためには,このような社会の変化や家庭環境の変化についての理解を深め,家族の介護負担軽減を考慮した在宅支援を行っていく必要があると考える.

 今回,「家族を活かす」というテーマについて,社会・家庭環境の変化による家族の負担に着目し,熊本リハビリテーション病院(以下,当院)における在宅復帰支援の取り組みを紹介する.

講座 再生医療—現在と未来・3

神経領域の再生医療の現在と未来

著者: 本望修

ページ範囲:P.881 - P.886

はじめに

 筆者らは1990年代初頭より,各種神経疾患モデル動物に対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し行ってきている.なかでも脳梗塞に対して,骨髄間葉系幹細胞に有用なドナー細胞として注目し,経静脈的に投与することで著明な治療効果が認められるという基礎研究結果を多数報告してきた.

 現在,自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく,治験薬として医師主導治験を実施し,医薬品(細胞生物製剤)として実用化することを試みている.2013年2月には治験届を提出し,医師主導治験(第3相)を開始している.数年後を目途に薬事承認を受けることをめざして現在進行中である.治験の詳細は,札幌医科大学(以下,本学)公式ホームページ上の専用ホームページに掲載してある(http://web.sapmed.ac.jp/saisei/index.php).

 脳梗塞は,今日においても根本的な治療法は見出されておらず,残存する神経機能障害の回復が極めて困難な疾患の1つである.日本全国で約30万人弱/年が新規に発症する国民病であり,その多くは死亡や重篤な後遺障害が残り,2025年には520万人の要介護者が推定されている.また,糖尿病,高血圧,脂質異常症などを呈する脳梗塞予備軍は1000万人以上にのぼり,高齢化の進む日本では,ますます増加していくことが予測される.脳梗塞による社会的負担は甚大で,年間医療費は約2兆円/年で,社会的損失は約8兆円/年と試算されている.

臨床実習サブノート 臨床実習のリスク 地雷を踏むな!・4

摂食嚥下障害

著者: 中島活弥

ページ範囲:P.888 - P.895

はじめに

 われわれは臨床で低栄養,嚥下障害の方が増加傾向にあることを実感する.しかし,低栄養や嚥下障害となると栄養士や言語聴覚士などの仕事と考える医療従事者は多い.そのためか,栄養サポートチームや摂食嚥下障害チームに理学療法士が参画している報告は少ない.しかし,摂食嚥下障害は各職種の連携によって評価,治療されるべきものである.

 運動療法の処方が出ても訪室すると,「睡眠中」,「いわゆる活気がない」など活動量が明らかに低下している方に遭遇する.食事摂取量はわずか,水分もとれておらず,口腔乾燥がひどい.総蛋白やアルブミンは低値を示し,握力,下腿周径などは経時的に減っていく.このような方には適切な栄養療法なしでの運動療法は困難(場合によっては禁忌)である.その栄養は経腸栄養が望ましく,経路は「口から!」が最良だと思う.ただし,経口摂取にはさまざまなリスク対策と準備が必要である.

 本稿では摂食嚥下障害を有する症例に対し,どのような思考で病態を捉えリスク管理を徹底し,理学療法に臨んでいるかを述べる.学生だけでなく有資格者の諸兄にも興味をもっていただければ幸いである.

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次号予告

ページ範囲:P.825 - P.825

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.832 - P.832

書評 —金岡恒治(編集)—「腰痛の病態別運動療法—体幹筋機能向上プログラム」

著者: 蒲田和芳

ページ範囲:P.855 - P.855

 編者である金岡先生の巻頭言には,大学病院勤務の整形外科医としての手術経験,スポーツドクターとしてのアスリートの腰痛診療,そして腰痛以外の種々のスポーツ障害との比較から,MRIなど画像診断にて検出されない腰痛の多くは,他のスポーツ障害と同様の機序で起こることが述べられている.そして,体幹筋の強化こそが,腰椎周囲の組織に過度なストレスを与えない「ニュートラルゾーン」での運動を保つために不可欠であることが強調されている.高いパフォーマンスを追求するアスリートの腰痛を治すうえで,筋機能向上を主体とした対策を講ずることは不可欠であるとともに,アスリート以外の腰痛にも当てはまる重要な概念である.すなわち,すべての腰痛診療に携わる臨床家に知っていただきたい概念である.

 本書のタイトルにある「体幹筋機能向上プログラム」とは,伝統的な腹筋,背筋トレーニングを指すのではない.それは,著者ら自身の研究成果や多数の論文から得られた「エビデンスに基づく体幹筋機能向上法」であり,腰椎へのストレスを減弱するメカニズムが集約されたものである.シットアップ運動において,腹直筋と腸腰筋はどのタイミングで活動を強めるのか,といった率直な臨床的疑問に答える数多くの研究結果が紹介されており,腰痛の治療に携わる者としてたいへん参考になる情報が多数記載されていた.

書評 —伊藤恵康(監修)/齋藤正史・岩部昌平・宮本 梓(編集)—「リハビリテーションスタッフのための整形外科手術動画集(DVD付)—一歩進んだ術後リハのために」

著者: 村木孝行

ページ範囲:P.865 - P.865

 「手術ではしっかり損傷部を修復できて,これくらい動いていたから,ちゃんと関節は動くようになるだろう」という術者である整形外科医の期待と,「術後になぜこの部位にこのような痛みが出るのか? なぜ思うように動かせないのか?」という理学療法士の疑問や不安.臨床現場で日常的に交錯する想いである.これらの想いを達成させる,または解決する糸口の1つは,間違いなく術者と理学療法士が手術とその後のリハビリテーションに対する共通理解をもつことである.

 手術の内容について詳しく学ぶことは現在の卒前教育では難しい.20年近く前になるが,筆者が臨床実習の際に最初に担当した整形外科手術症例は,変形性股関節症に対して骨切り術を行った症例であった.カルテや手術記録を見ても知らない用語ばかりであり,筋がどのように侵襲・縫着され,関節がどのように形成されたのか想像するのに苦労した.

文献抄録

ページ範囲:P.896 - P.897

第28回理学療法ジャーナル賞について

ページ範囲:P.899 - P.899

編集後記

著者: 髙橋哲也

ページ範囲:P.900 - P.900

 「靴の中の小石,足の裏の米粒(取らずにいられない,取っても食えない)」.これはわが国での博士号取得についての隠喩(メタファー)です.

 二足動物の人間にとって,足の機能を奪われることほど不自由なことはありません.靴の中の小石は気持ち悪く,また時に痛みを伴い取らずにはいられないように,小さな靴擦れや胼胝をはじめ,わずかな足の痛みであっても歩行に大きく影響します.ましてや切断となるとその不自由さは計り知れません.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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