文献詳細
文献概要
講座 運動と分子生物学・1【新連載】
筋蛋白質代謝に対する栄養と運動の影響
著者: 下村吉治1
所属機関: 1名古屋大学大学院生命農学研究科
ページ範囲:P.443 - P.448
文献購入ページに移動はじめに
運動器である骨格筋は,ヒトの体重の約40%を占める最も大きな組織である.骨格筋の組成の多くは水分(約76%)であるが,それ以外の主要構成成分は蛋白質であり,約20%を占める.したがって,骨格筋は蛋白質(アミノ酸)の貯蔵庫の役割も果たしている.血液中には低濃度であるが一定量のアミノ酸が常に存在し,絶食などでアミノ酸を摂取できないと筋蛋白質などを分解して血液中へ供給する.おそらく,このアミノ酸は脳へ供給され,神経伝達物質などを合成するために使用されるようである.
近年の研究において,脳機能を正常に維持するためにアミノ酸が重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある.そのなかでも,特に分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA,ロイシン,イソロイシン,バリン)の機能について注目されており,脳におけるBCAA不足は自閉症の原因になることが明らかにされた1〜3).脳機能のためにも,正常な骨格筋(筋蛋白質)量を維持することは重要である.
骨格筋の主要構成成分が蛋白質であることより,筋肉を作るために食事として蛋白質またはアミノ酸を十分量摂取する必要がある.体内での蛋白質合成には20種類のアミノ酸が使用されるが,そのうちの9種類は体内で合成されない,または合成されにくいため必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)とされている(表1).必須アミノ酸のなかでもBCAAは蛋白質代謝を調節する作用があり,さらに必須アミノ酸であるにもかかわらず筋組織で分解されてエネルギー源にもなる.他の必須アミノ酸が肝臓でしか代謝されないのと対照的に,BCAAの分解は筋肉で開始されるので,BCAAが筋肉と関係の深いアミノ酸であることが推察される.本稿では,BCAAの筋肉における生理作用と代謝調節系について解説し,運動トレーニングによる筋蛋白質合成促進に有効な蛋白質・アミノ酸摂取法についても最新のシステマチックレビューを引用して解説する.
運動器である骨格筋は,ヒトの体重の約40%を占める最も大きな組織である.骨格筋の組成の多くは水分(約76%)であるが,それ以外の主要構成成分は蛋白質であり,約20%を占める.したがって,骨格筋は蛋白質(アミノ酸)の貯蔵庫の役割も果たしている.血液中には低濃度であるが一定量のアミノ酸が常に存在し,絶食などでアミノ酸を摂取できないと筋蛋白質などを分解して血液中へ供給する.おそらく,このアミノ酸は脳へ供給され,神経伝達物質などを合成するために使用されるようである.
近年の研究において,脳機能を正常に維持するためにアミノ酸が重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある.そのなかでも,特に分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA,ロイシン,イソロイシン,バリン)の機能について注目されており,脳におけるBCAA不足は自閉症の原因になることが明らかにされた1〜3).脳機能のためにも,正常な骨格筋(筋蛋白質)量を維持することは重要である.
骨格筋の主要構成成分が蛋白質であることより,筋肉を作るために食事として蛋白質またはアミノ酸を十分量摂取する必要がある.体内での蛋白質合成には20種類のアミノ酸が使用されるが,そのうちの9種類は体内で合成されない,または合成されにくいため必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)とされている(表1).必須アミノ酸のなかでもBCAAは蛋白質代謝を調節する作用があり,さらに必須アミノ酸であるにもかかわらず筋組織で分解されてエネルギー源にもなる.他の必須アミノ酸が肝臓でしか代謝されないのと対照的に,BCAAの分解は筋肉で開始されるので,BCAAが筋肉と関係の深いアミノ酸であることが推察される.本稿では,BCAAの筋肉における生理作用と代謝調節系について解説し,運動トレーニングによる筋蛋白質合成促進に有効な蛋白質・アミノ酸摂取法についても最新のシステマチックレビューを引用して解説する.
参考文献
1)Joshi MA, et al:Impaired growth and neurological abnormalities in branched-chain alpha-keto acid dehydrogenase kinase-deficient mice. Biochem J 400:153-162, 2006
2)Novarino G, et al:Mutations in BCKD-kinase lead to a potentially treatable form of autism with epilepsy. Science 338:394-397, 2012
3)Tǎrlungeanu DC, et al:Impaired amino acid transport at the blood brain barrier is a cause of autism spectrum disorder. Cell 167:1481-1494, 2016
4)Vary TC, Lynch CJ:Nutrient signaling components controlling protein synthesis in striated muscle. J Nutr 137:1835-1843, 2007
5)Wolfson RL, et al:Sestrin2 is a leucine sensor for the mTORC1 pathway. Science 351:43-48, 2016
6)下村吉治:スポーツと健康の栄養学,第3版.ナップ,2010
7)小松雅明:オートファジーの病態生理学的研究,生化学79:749-760,2007
8)Rennie MJ:Influence of exercise on protein and amino acid metabolism. Handbook of Physiology〜Section 12. Chapter 22:Protein and Amino Acid Metabolism. pp995-1035, Oxford University Press, Oxford, 1996
9)下村吉治:分岐鎖アミノ酸(BCAA)代謝の調節機構.化学と生物47:480-485,2009
10)Suryawan A, et al:A molecular model of human branched-chain amino acid metabolism. Am J Clin Nutr 68:72-81, 1998
11)Shimomura Y, et al:Branched-chain α-keto acid dehydrogenase complex in rat skeletal muscle:regulation of the activity and gene expression by nutrition and physical exercise. J Nutr 125:1762S-1765S, 1995
12)Shimomura Y, et al:Branched-chain amino acid catabolism in exercise and liver disease. J Nutr 136:250S-253S, 2006
13)Kasperek GL:Regulation of branched-chain 2-oxo acid dehydrogenase activity during exercise. Am J Physiol 256:E186-E190, 1989
14)White JP, et al:G protein-coupled receptor 56 regulates mechanical overload-induced muscle hypertrophy. Proc Natl Acad Sci U S A 111:15756-15761, 2014
15)Kimball SR:Integration of signals generated by nutrients, hormones, and exercise in skeletal muscle. Am J Clin Nutr 99:237S-242S, 2014
16)Reidy PT, Rasmussen BB:Role of ingested amino acids and protein in the promotion of resistance exercise-induced muscle protein anabolism. J Nutr 146:155-183, 2016
17)Esmarck B, et al:Timing of postexercise protein intake is important for muscle hypertrophy with resistance training in elderly humans. J Physiol 535:301-311, 2001
18)Katsanos CS, et al:A high proportion of leucine is required for optimal stimulation of the rate of muscle protein synthesis by essential amino acids in the elderly. Am J Physiol Endocrinol Metab 291:E381-E387, 2006.
掲載誌情報