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特集 筋力低下と理学療法
筋力および筋力低下の生理学
著者: 後藤勝正123 吉岡利忠3
所属機関: 1豊橋創造大学大学院健康科学研究科生体機能学分野 2豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科 3弘前学院大学
ページ範囲:P.5 - P.14
文献購入ページに移動一般に,筋力は骨格筋の収縮力による.ただ,筋力=骨格筋の収縮力ではない.その理由は,私たちが測定する筋力は,骨格筋の収縮力により駆動されるモーメントを測定しているケースがほとんどだからである.このモーメントは,主動(作)筋と拮抗筋さらには共同筋など複数の筋の収縮力が作用した結果として発生する.
また,モーメントはアーム長も大きな要因である.本稿では,筋力およびその低下を考えるが,そのような場合には,モーメントのアーム長は考慮しなくても問題はない.なぜなら,人体内ではモーメントのアーム長は短期間では変化しないからである.したがって,仮に筋力が低下した場合,それはモーメントの発生に関与する筋力(主動作筋や共同筋の収縮力から拮抗筋の収縮力を差し引いたもの)が低下したことになる.このように,筋力=骨格筋の収縮力と単純に考えるのは危険である.
一方で,モーメントを発生させている複数の骨格筋の収縮制御機構は非常に複雑であり,それぞれを評価するのは困難である.そこで本稿では,骨格筋の収縮力を「筋力」として取り扱う.
骨格筋の収縮は,中枢神経系からの収縮信号が末梢神経の運動神経を介して,骨格筋細胞(筋線維)に伝達され,収縮蛋白による力発生により具現化される(図1).本稿では,筋力の調節とその低下について,収縮蛋白から骨格筋細胞膜の興奮と筋細胞内Ca2+濃度の制御,神経筋接合部,運動単位,中枢神経という順に概説する.一般には,中枢神経系の制御からミクロな制御機構へ説明するのであるが,本稿ではミクロな視点での説明を多くするためにあえてこの構成としている.また,各項目ともに単独で読んでも理解できるような記述を試みた.興味がある部位における筋力の調節と筋力低下の要因について個別に参照していただければ幸いである.
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