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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル52巻1号

2018年01月発行

文献概要

臨床実習サブノート 歩行のみかた・10

不全頸髄損傷

著者: 羽田晋也1

所属機関: 1JCHO星ヶ丘医療センターリハビリテーション部

ページ範囲:P.66 - P.70

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はじめに

 脊髄損傷の原因は,内因性(変性疾患や腫瘍,脊椎疾患など)のものと,外因性(交通事故や転落,転倒,スポーツなど)のものに大別されます.完全麻痺は,神経学的損傷高位以下の運動・知覚が完全に麻痺している状態です.一方,不全麻痺は,仙髄機能が温存されている状態であり,母趾屈曲が可能(S1),肛門周囲の知覚残存(S2・3・4),肛門括約筋の収縮(S2・3・4)のうち1つでも認められている状態です.

 脊髄が損傷されることにより起こる随伴症状は,損傷部以下の運動麻痺や知覚麻痺,膀胱直腸障害に加え,頸髄損傷では呼吸障害,第5胸髄以上の脊髄損傷では血管運動神経障害(起立性低血圧)・体温調節障害(発汗障害)・自律神経過緊張反射に代表される自律神経障害などが挙げられます.すなわち,頸髄損傷は,単一の疾患ではなく,運動・知覚麻痺を主体としながらもさまざまな随伴症状が混在する複合的な疾患として捉えるべきです.合併症としては,拘縮,褥瘡,肺塞栓症や深部静脈血栓症,異所性骨化や骨萎縮などが挙げられ,理学療法を円滑に進めていくうえでこれらの予防は重要です.特に頸髄損傷の拘縮肢位では,C5レベルの肩甲骨挙上・肩関節外転・肘関節屈曲・前腕回外位,C6レベルの肩関節外転外旋・肘関節屈曲・前腕回外・手関節背屈・手指屈曲位が代表的なものとして挙げられ,これらはADLの獲得を著しく阻害するものです.

 不全頸髄損傷の歩行をみるうえでは,① 受傷からの経過,② 麻痺の重症度,③ 頸髄横断面における傷害領域の評価が重要です.歩行場面では,これらの情報に加え,全身のアライメントの変化を歩行周期に分けて観察し,歩行能力(歩行様式,自立度,速度など)との関連性を導き出します.最終的には,既に多くの報告がなされている正常歩行の周期分類における関節運動(骨盤・股関節・膝関節・足関節)と筋活動,重心の推移,骨盤帯と肩甲帯の回旋角度の関係,歩行速度と歩幅・歩行率の関係などを統合して分析することが必要でしょう.

参考文献

1)新宮彦助:日本における脊髄損傷疫学調査 第3報(1990-1992).日パラプレジア医会誌8:26-27,1995
2)坂井宏旭,他:高齢者の脊髄損傷—疫学調査,脊髄損傷データベース解析および脊髄損傷医療の課題.MB Med Rehabil 181:9-18,2015
3)坂井宏旭,他:(Part 2)脊髄損傷の臨床 疫学調査—福岡県における脊髄損傷の疫学調査.Bone Joint Nerve 1:475-480,2011
4)須堯敦史,他:外傷性頸髄損傷受傷後急性期における運動機能の経時的変化.日職災医会誌57:50-54,2009
5)植田尊善:頸髄損傷の医学的治療の最新動向—総合せき損センター自験例を中心に.理学療法21:1026-1034,2004
6)福田文雄,他:改良Frankel分類による頸髄損傷の予後予測.リハ医38:29-33,2001
7)藤原桂樹,他:非骨傷性頸髄損傷.越智隆弘,他(編):NEW MOOK整形外科—脊椎・脊髄損傷.pp169-180,金原出版,1998
8)半田 肇:神経局在診断,第3版—その解剖,生理,臨床.p47,文光堂,1991
9)岩崎 洋(編):脊髄損傷マニュアル,第2版.pp11-15,198-203,文光堂,2014
10)羽田晋也:入門講座 症例を担当するということ—生きた情報収集.PTジャーナル50:511-517,2016

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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