臨床実習サブノート 歩行のみかた・11
不全脊髄損傷
著者:
長谷川隆史
ページ範囲:P.165 - P.170
はじめに
近年の脊髄損傷の全体像を全国脊髄損傷データベースからみてみると,1997〜2006年度に登録された2,242例の脊髄損傷者のうち,American spinal injury association (ASIA) impairment scale(AIS)Aの完全損傷は871例であったのに対して,AIS B〜Dの不全損傷は1,371例であり,不全損傷が全体の61.2%を占めています(各AISの割合はAIS Aが38.8%,Bが8.5%,Cが16.0%,Dが36.7%).完全損傷と不全損傷の平均年齢は,それぞれ42.7歳,53.1歳で,不全損傷のほうが10歳以上高かったと報告されています1).この要因としては,若年齢層に比べて中高年齢層では「転落」や「起立歩行時の転倒」が受傷原因の多数を占めるためだと考えられています.また,受傷年齢の高齢化が進み,受傷年齢が高いとADLの獲得や屋外における実用的な歩行の獲得が困難であったとする報告もあります2).
不全損傷のなかでも四肢麻痺は1,047例であるのに対して,対麻痺は324例であり,本稿の不全脊髄損傷(不全対麻痺)は全体の14.5%と報告されています.
完全損傷のリハビリテーションの到達レベルは残存レベルごとに獲得可能な動作のおおむね上限が確立していますが,不全損傷では,病態と症状が多様であるため,到達レベルは大きく変わり,運動不全麻痺のAIS CとDでは歩行が可能となる割合が高いと報告されています3).しかし,不全対麻痺者の歩行は,一般的には健常人に比べて歩行速度が低下し4),エネルギー消費量も大きく,非効率的であり,地域社会で生活するためには実用的でないとされる報告もあります5).