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特集 理学療法における動作のアセスメント
実用歩行に必要な歩行速度の可変性に対するアセスメント
著者: 石井慎一郎1
所属機関: 1国際医療福祉大学大学院福祉支援工学分野
ページ範囲:P.217 - P.224
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歩行能力を再獲得することは,患者の社会参加や自宅での生活を支援するために重要な課題である.歩行は転倒のリスクを伴う動作課題であり,安全性を最優先に目標設定されることが多い.しかし一方で,「歩行練習の場面では50m歩けるのに,病棟での日常生活に歩行が活かされず,トイレへの移動には車椅子を使っている」,「家のなかでは歩いて生活をしているのに,屋外で歩くことが難しい」,「歩行が可能なのに,家ではほとんど歩かない」など,臨床では,このような患者を経験することが少なくない.いずれの場合も,動作能力としての歩行は可能であっても,その歩行が実用的な移動手段として用いられていないことを意味している.なぜ「動作能力としての歩行」と「実用的な歩行」との間に,このような乖離が生じるのだろう.
「実用的な歩行」には,「歩くことができる」という動作能力以外に必要とされる能力が存在する.実用的な歩行に必要とされる能力には,凸凹や傾斜のある路面でも転ばずに歩くための「安定性」や,目的地まで連続して歩くための「持久性」,さらには,歩行の停止や開始,方向転換,歩行速度やステップ長の変更など,環境や動作課題からの変更要求に従い,いかなる瞬間からでも,連続的かつ自在に歩き方を変更するための「可変性」が必要となる.これらの能力を獲得しなければ,歩行動作が自力で可能になったからと言って,生活場面で実用的な歩行が可能になるとは限らない.
このように,歩行の実用化には,クリアしなくてはならない課題がたくさんあることを理解しておく必要がある.そこで本稿では,実用的な歩行を獲得するために必要な能力について解説をする.
歩行能力を再獲得することは,患者の社会参加や自宅での生活を支援するために重要な課題である.歩行は転倒のリスクを伴う動作課題であり,安全性を最優先に目標設定されることが多い.しかし一方で,「歩行練習の場面では50m歩けるのに,病棟での日常生活に歩行が活かされず,トイレへの移動には車椅子を使っている」,「家のなかでは歩いて生活をしているのに,屋外で歩くことが難しい」,「歩行が可能なのに,家ではほとんど歩かない」など,臨床では,このような患者を経験することが少なくない.いずれの場合も,動作能力としての歩行は可能であっても,その歩行が実用的な移動手段として用いられていないことを意味している.なぜ「動作能力としての歩行」と「実用的な歩行」との間に,このような乖離が生じるのだろう.
「実用的な歩行」には,「歩くことができる」という動作能力以外に必要とされる能力が存在する.実用的な歩行に必要とされる能力には,凸凹や傾斜のある路面でも転ばずに歩くための「安定性」や,目的地まで連続して歩くための「持久性」,さらには,歩行の停止や開始,方向転換,歩行速度やステップ長の変更など,環境や動作課題からの変更要求に従い,いかなる瞬間からでも,連続的かつ自在に歩き方を変更するための「可変性」が必要となる.これらの能力を獲得しなければ,歩行動作が自力で可能になったからと言って,生活場面で実用的な歩行が可能になるとは限らない.
このように,歩行の実用化には,クリアしなくてはならない課題がたくさんあることを理解しておく必要がある.そこで本稿では,実用的な歩行を獲得するために必要な能力について解説をする.
参考文献
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