疼痛管理のための物理療法
著者:
川村博文
,
西上智彦
,
辻下守弘
,
伊藤健一
,
大矢暢久
,
髙木峰子
ページ範囲:P.629 - P.636
はじめに
物理療法は,理学療法白書19851)にて,「物理的なエネルギー(熱,水,光,電気,徒手)を外部から人体に応用し,疼痛の緩解,循環の改善,リラクセーションの目的で使用する治療法をいい,温熱療法,水治療法,光線療法,電気治療,マッサージに分類される.運動療法が患者自身の動きを主とするのに対して,物理療法の特徴は他動的な治療法である.理学療法の目的である基本的動作能力の回復という点から多くは運動療法との組合せで施行される」と述べられている(図1).
前文における目的では,疼痛の緩解,循環の改善,リラクセーションとあるが,現在の本邦においては,神経筋機能制御,褥瘡・創傷ケアが加わってきているのが実情である.後半の文面で理学療法の目的である基本的動作能力の回復という点から多くは運動療法との組み合わせで施行される.温熱療法と運動療法の複合2,3),近年では,本邦での最新の物理療法と運動療法の複合治療には,寒冷療法と運動療法の複合4),電気刺激療法と運動療法の複合5〜12),直線偏光近赤外線療法と運動療法の複合13),振動刺激痙縮抑制療法と運動療法の複合14),超音波療法と運動療法の複合15),ウイメンズヘルスに対応する筋電図バイオフィードバックと運動療法の複合16)などの報告があり,今後の発展が期待されている17).また,日本褥瘡学会のガイドラインにも取り上げられる褥瘡・創傷ケアにかかわる物理療法などが実施されてきた18,19).
疼痛管理にかかわる物理療法には,運動器症候群にかかわる侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛や心因性疼痛,がん性疼痛に対する温熱療法であるホットパック治療,パラフィン治療,寒冷療法であるアイスパック治療,水治療法である渦流浴療法,光線療法である低出力レーザー光線療法,超音波療法,経皮的電気神経刺激などがある(表1).
これらの適用を判断するためには,集積された基礎および臨床的な根拠に基づく理学療法(evidence-based physical therapy:EBPT)および総合的な経験則を駆使する必要があり,この点は重要である.
一方で,日本物理療法学会による物理療法の現状調査20)では,物理療法の活用上の課題として,物理療法の効果に関するデータ不足により効果判定が不確実であること,包括的診療請求方式に基づく診療報酬に加算されないこと,機器が高額で購入困難であること,操作が煩雑であることが指摘されるなど,臨床現場で活用するうえでの障壁が示されている.このような現状のもとで物理療法は,現実離れし,伝説化・埋没化傾向の危機に瀕している現状である.物理療法を再興していくためには,物理療法の治療効果立証のみならず,物理療法の保険診療点数加算を基盤とした,世界の先進国では常識化している開業に基づく物理療法と運動療法の複合治療に関する効果的な物理療法機器の臨床現場での活用の容認が不可欠である.
本稿では,疼痛管理のための物理療法に関して,物理療法にかかわる疼痛について運動器症候群,がんを含めた広い病態に対して,症状の軽減,慢性痛の対応,緩和を目的とした疼痛管理のための物理療法の適用に関して基礎および臨床のエビデンスなどを踏まえて解説を行うこととする.