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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル52巻7号

2018年07月発行

文献概要

特集 疼痛管理

疼痛管理の概要と最前線

著者: 髙橋直人123 矢吹省司123

所属機関: 1福島県立医科大学医学部疼痛医学講座 2福島県立医科大学医学部整形外科学講座 3星総合病院慢性疼痛センター

ページ範囲:P.599 - P.608

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はじめに

 国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)1)では,疼痛は「不快な感覚であり,実際の組織の損傷または潜在的な組織の損傷と関連した,またはそのような損傷によって特徴づけられる情緒的な体験」と定義されている.すなわち,疼痛は身体に警告を与え大きな損傷から身体を守ろうとする一過性の体験であるが,一般的な生体内の器質的な反応よりも長く持続し,心理的・情緒的な苦痛を引き起こすことがある.疼痛には多面性があり,1つは「痛い」という感覚的側面,すなわち身体における痛みの部位,強度,持続性などを識別した痛み感覚の面,もう1つは過去に経験した痛みの記憶,注意,予測などに関連して身体にとっての痛みの意義を分析する認知の面,そしてそれを不快に感じる情動や感情の面である.

 疼痛は,持続時間に関連し分類される.ある期間内に治癒するような疼痛は,「急性痛」に分類される.一方で,治癒すると予想される期間を超えて長期間持続する疼痛や,疾患の進行に伴う疼痛,または長期間改善しない身体的障害に関連する疼痛は「慢性痛」に分類される.運動器慢性痛(筋・骨格系の痛み)のメカニズムを理解するには,運動器の器質的異常(生物学的因子)とともに,年齢や環境および社会的立場まで考慮したストレス環境(心理社会的因子)を含まなければならないとする概念的なモデルとして,「生物心理社会モデル」を理解しなければならない2,3)(図1).

 薬物療法や手術療法だけではとりきれない運動器慢性痛に対しては,運動療法や心理社会的アプローチが重要であると考えられている.運動器慢性痛患者に対する心理社会的アプローチの1つに,積極的な問題解決法を取り入れた認知行動療法によるアプローチがある.認知行動療法的介入は,運動器慢性痛を改善するのに効果的であることが証明されており4),疼痛管理と機能回復において重要な集学的リハビリテーション・モデルのなかで考える必要がある5).本稿では,運動器慢性痛を有する患者の特性や運動器慢性痛に対する整形外科的な治療(薬物療法,ブロック療法および運動療法)や認知行動療法,および理学療法を含めた多職種連携による集学的アプローチによる疼痛管理について解説する.

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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