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雑誌目次

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理学療法ジャーナル52巻8号

2018年08月発行

雑誌目次

特集 ジェネラリストとスペシャリスト

EOI(essences of the issue) フリーアクセス

ページ範囲:P.695 - P.695

 現在,理学療法の臨床は,臓器・疾患別に細分化・専門化されている.就労する組織と領域も病期別医療・福祉領域そして教育まで範囲は広がり,求められる業務も細分化されている.臨床各領域の理学療法スペシャリストとは,一般に個々の病態や病期・治療技術の専門家を指すことが多いが,対象者個々のリハビリテートを援助し,その生活やQOLまで頭をめぐらす専門職である限り,理学療法士にはジェネラルな思考も求められる.理学療法士をジェネラリスト・スペシャリストとして定義づけるのでなく,さまざまな視点で論じ,働き方や教育の方向性を考える.

専門職としてのジェネラリストとスペシャリスト

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.697 - P.702

 専門職とスペシャリストは同義語なのか.ジェネラリストとスペシャリストの区分,線引きは可能なのか.両者を適切に捉えるにはどうすればよいか.医師の立場から提言してほしい.

 これが今回いただいたお題である.難しい.いや,実は簡単だ.やれやれ,何を混乱しているんだ,この書き手は? 読者の嘆息が聞こえてきそうである.

理学療法におけるジェネラリスト・スペシャリスト

1.理学療法の専門性確立とその育成

著者: 佐藤房郎

ページ範囲:P.703 - P.709

はじめに

 筆者が34年前に理学療法士として仕事に就いた頃は,全国の理学療法士数がやっと1,300人を超えた状況で,リハビリテーション部門を有する医療施設も限られていた.当然,社会的認知度は低く,会合で予約した店の歓迎ボードには「リハビリステーション御一行様」や「PTA様」と書かれ失笑した思い出がある.医学部においてもリハビリテーションの講座を有する大学は少なかったことから,積極的にリハビリテーションを導入する医師も多くはなく,重度な合併症をつくってから処方される印象があった.

 一方,数少ない理学療法士にはジェネラリストとしてあらゆる疾患に対応することが求められていたが,特定の領域に秀でた先輩の後ろ姿を追いかけ,いつしか得意とする領域を確立しようと取り組んでいたように思う.あらためてジェネラリスト・スペシャリストについて問われると,双方を追い求めてきた感がある.本稿では,スペシャリストを理学療法の専門分化と捉え,医療制度の変遷と日本理学療法士協会の取り組みを踏まえ,現行の医療システムに答えるべく理学療法の専門性確立とその育成について概観してみたい.

2.手で感じ取り,頭で解釈し,心を読み解き,そしてアクション

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.711 - P.715

はじめに

 私自身は幅広く理学療法にかかわってきたので,基本的にはジェネラリストだと思っていますし,理学療法士の多くはジェネラリストだと考えています.ジェネラリストとは,決められた時間内に漫然と働く理学療法士を指すのではなく,理学療法マインドや技術など,何か光るものをもっている人であり,また日々の臨床において常に振り返りを行いながら学会などでの情報収集を怠らない人であると考えます.そうした人はスペシャリストへと進化していくと思います.また,スペシャリストとして物事を追究しようとする人は,自然と素晴らしいジェネラリストになっていく可能性が高く,したがって私は,スペシャリストはジェネラリストでもあると考えています.

 日本理学療法士協会の「理学療法士業務指針」には,「理学療法士は,身体に障害のある者,また,障害の発生が予測される者に対し,その基本的動作能力の回復や心身の機能の維持・向上を図るため,治療体操その他の運動を行わせ,電気刺激,光線,徒手的操作(マッサージ他),温熱水治その他の物理的手段を加えることを業務とし,もって保健・医療・福祉の普及および向上に寄与することを目的とする」とあります.対象者の身体だけでなく,生活から地域,社会制度にまで目を配らなければ,この業務指針にある目的とは合致しません.これをめざすには,スペシャリストはおのずとジェネラリストとして展開していかなければならないし,それを患者・家族は望んでいると思っています.

理学療法のスペシャリストとして

1.徒手理学療法のスペシャリストを養成する

著者: 山内正雄

ページ範囲:P.717 - P.719

はじめに

 世界理学療法士連盟(World Confederation of Physical Therapy:WCPT)の下部組織である世界徒手理学療法士連盟(International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists:IFOMPT)1)は,徒手理学療法士(Orthopaedic manipulative physical therapist:OMPT)を神経筋骨格系疾患の患者を治療するための理学療法の専門領域として,クリニカルリーズニングに基づき,徒手的技術や治療手技を用いた高度で特殊な治療であると定義している.そして,理学療法士として登録後もしくは大学の理学療法専攻過程を卒業後に,スポーツ分野も含む整形外科領域において,IFOMPTが規定しているOMPTの厳しく専門的な教育プログラムを終了した理学療法士だけをOMPTとして認めている.

 この専門的な教育プログラムの内容は,IFOMPTの教育基準文書に掲載されていて,定期的にアップデートが行われている.この教育プログラムは,WCPTにも認められているため,このプログラムを終了することは,世界的にも認められた神経・筋・骨格系の疾患に対する理学療法のスペシャリストであると言える.なお,現在IFOMPTが正式な会員国(MO)と認めている国は世界でまだ22か国であり,準会員国(RIGs)は15か国である.

 本稿では,現在の日本におけるOMPTの養成課程と,徒手理学療法の今後の課題について考えていく.

2.理学療法のprofession

著者: 岡田亨

ページ範囲:P.721 - P.723

理学療法のprofessionとして

 「理学療法は,外的要因としての社会的ニーズによって生まれ,同時に外的要因によって規制される部分と,それに専従する者の総合的活動水準としての内的要因によって自ら規制した部分により構成されている」.奈良勲1)先生の『理学療法の本質を問う』の一節である.外的要因である社会的ニーズの多角化は,療法士を戸惑わせている.プログラムはより最新のものが好まれ,現場では効率的・効果的・経済的の三つ巴に対峙しなければならない.医療は今,サービスと呼ばれ,患者とのラポール形成より顧客満足が重視されているのではないかと筆者は危惧している.コミットという言葉はすでにお株を奪われてしまった.現場は経営側から担当数,クレーム数で査定され,社会情勢は少子高齢化,技術革新,医療・介護費問題,介護予防などへの参画の要請,加えて個人に対する自己責任,自己実現へのプレッシャーが強調される空気感に包まれている.現場の悩ましさは容易に想像できる.

 今日では,患者に向き合うために「理学療法士だから」という土台は沈下し,付加価値が求められている.われわれが患者に向き合うこととは何か,考える必要が今ある.

3.中枢神経疾患に対する理学療法

著者: 石田利江

ページ範囲:P.725 - P.727

はじめに

 中枢神経疾患患者の治療で必要なことは,損傷によって生じる症候と,そのために起こる運動,行動障害を捉え,できるだけ正常に近い協調された感覚運動の再学習を通して機能獲得を援助することである.

 目標達成のための正確な問題分析と必要なコンポーネントの選定,獲得のための治療計画と適切な治療プランの立案,精密な技術による患者の潜在能力の発見と運動学習の促通を実践する.毎回の治療結果を振り返り,柔軟に治療プランを修正し,毎回の治療で確実に目標に近づく.これらは,治療者側だけでできることではなく,患者の応答とやりとりしながら共同で行う.以下に目標達成のための4回の症例治療を紹介する.

4.呼吸器疾患に対する理学療法

著者: 北川知佳

ページ範囲:P.729 - P.732

はじめに

 「呼吸リハビリテーション料」が2006年度診療報酬に新設され,呼吸器疾患に対するリハビリテーションが急速に求められるようになってきた.また慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)を中心とした慢性呼吸器疾患に対する呼吸リハビリテーションは治療の一環として認められ,高齢社会を迎えた昨今は肺炎や誤嚥性肺炎など理学療法士が呼吸器疾患にかかわる場面も増えてきている.

 筆者は慢性呼吸器疾患の専門施設に勤務し,呼吸器疾患に接する機会が多い立場から理学療法士の呼吸器疾患におけるかかわりについて述べたい.

座談会

理学療法士として「ジェネラリスト」と「スペシャリスト」を考える

著者: 三浦祐司 ,   渡辺敏 ,   井手伸二 ,   永冨史子

ページ範囲:P.733 - P.742

 病態・疾患別に理学療法を提供する急性期,回復期リハビリテーションとして集中的に理学療法を提供する回復期,長い期間の療養や生活,人生の援助として理学療法を提供する生活期.理学療法士は同じ国家資格をもちながら,各病態・病期でスペシャリストとしての役割を担う.一方,多職種チームでは理学療法士は「理学療法」全般の専門家としての意見も求められる.理学療法士はどのようにスペシャリストであり,またどのようにジェネラリストであるのだろうか.各分野でご活躍の先生方にお集まりいただき,語り合っていただいた.(2018年3月14日収録)

とびら

ICFを武器に

著者: 村上忠洋

ページ範囲:P.693 - P.693

 地下鉄の改札を抜け,しばらくうす暗い地下道を進んだところにその店はあります.店の扉を開けると,温かく穏やかな笑顔と優しいコーヒーの香りが,出迎えてくれました.

 この店の店員さんたちは,片手でコーヒー豆を挽き慎重にコーヒーを淹れている方や,片隅のパソコンで指一本とマウスを使って新しいメニューを作っている方など,いずれも片麻痺の障害をおもちでした.また,部屋の奥からは,女性のにぎやかなしゃべり声が聞こえ,そこでは小さなビーズに糸を通して,きれいなアクセサリーを作る教室も開かれていました.その教室の講師や参加者にも,片麻痺や言語障害をもった方がいらっしゃいます.そうです,この店では脳卒中による後遺症を抱えた方々が,それぞれの役割をもって,生き生きと働いておられます.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

床反力と床反力作用点

著者: 福田航

ページ範囲:P.745 - P.745

 身体に加わる外力には重心と床反力が存在する.床反力とは身体(主には足底)と床の接触部分から生じている反力のことであり,上下方向,左右方向,前後方向の成分に区分される.

 床反力の上下方向はアナログ体重計をイメージするとわかりやすい.体重計に乗って静止すると自身の体重が表示される.これは足底が加える下方向の外力であり,床反力は上方向に同じ大きさでつり合っている.一方で,体重計の上でしゃがみ込み動作を行うと動作のはじめは表示される値が体重よりも小さくなり,後半になると体重の値を越えて大きくなり,最終的に静止すると体重の値に戻る.このことは,身体重心の移動が床反力と密接に関連していることを示唆している.

オリパラ関連企画 理学療法士が知っておきたい重要なスポーツ動作・8

体操競技における倒立動作のみかた

著者: 岡田亨

ページ範囲:P.746 - P.747

 近年の日本選手たちの活躍は,体操王国ニッポンを復活させてくれた.体操の醍醐味やその美しさをご紹介したいのだが,誌面の都合上さっそく本題に入らなければならない.

 今回は倒立である.倒立は体操の基本であり,男女ともにすべての種目の局面でその姿勢をみることができる.まずお伝えしたいのは「よい倒立は美しく,美しくない倒立には問題が潜んでいる」と言うことである(図1).倒立の評価ポイントを以下に列挙する(図2).

入門講座 筋力トレーニング・4

筋機能,痛みを考慮した筋力トレーニング

著者: 平川善之

ページ範囲:P.749 - P.755

はじめに

 筋力トレーニングは,われわれ理学療法士が日常臨床で行う治療的介入手段として,最も多いものの1つであろう.代表的な運動器疾患における筋力トレーニングの推奨度を,日本理学療法士協会の定めるガイドラインをもとにみてみると,変形性膝関節症1)では膝関節痛や歩行機能などに対し,推奨グレードAエビデンスレベル1で,同様に人工膝関節置換術においても推奨グレードAエビデンスレベル2とされている.また慢性腰痛2)においては,痛みに対する効果として,推奨グレードBエビデンスレベル3とされている.さらに肩関節周囲炎3)においても,筋力トレーニングを含めた理学療法は,痛みや運動機能に対する効果として推奨グレードBエビデンスレベル2とされている.また変形性股関節症の診療ガイドライン4)をみても,筋力トレーニングを含めた理学療法は,疼痛や機能障害の改善に対し推奨グレードはBとされている.

 こうしたことから,より効果的な筋力トレーニング方法を考慮して実践することは,理学療法士として必須である.そのためには,目的とする筋群の生理・解剖・運動学的特徴を把握し,念頭においたうえでプランニングする必要がある.

 また,効果的な筋力トレーニングを行ううえで支障となるものとして,痛みがある.痛みが筋力トレーニングの実施とその効果に与える影響を考慮したうえで,具体的な方法を決定する必要がある.本稿ではこれらを踏まえ効果的な筋力トレーニングについて概説する.

講座 発達障害・2

発達性協調運動障害と理学療法

著者: 眞鍋克博 ,   長島大介 ,   粕山達也

ページ範囲:P.756 - P.762

はじめに

 一部の子供には日常生活や学校生活において,無器用さやぎこちなさ,あるいは落ち着きがなくじっとしていられないなどが原因となり,さまざまな活動や参加が阻害されていることが散見される.学校教育現場において,そうした子供たちへは主に教育職員が対応しているものの,対応についての知識や経験が十分ではない場合が多く,学校での教育のなかで大きな課題となっている1)

 現在,これらの阻害要因は発達性協調運動障害(developmental coodination disorder:DCD)として1つの概念疾患と捉えられるようになった.DCDでの障害の概念について,岡2)は歴史的に考察し,これをminimal brain dysfunction(MBD)やclumsiness,clumsy child syndrome,disorder of attention and motor perceptuomotor dysfunction,motor learning difficicultyと同様の意義としてこれまで使用されていることを指摘した.DCDはその初期において,療育や教育の分野で注目され,その後,医学からのアプローチとして捉えられるようになった経緯を明らかにしている.さらにDCDの症状は,正常と異常の境界線を引くのが実際上不可能であることから,日常生活上での障害の状態を前提として,それが起因するものとしてDCDがあることを述べている.また,DCDは米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)において,神経発達症群/神経発達障害群のなかの運動症群/運動障害群の基準の1つに位置づけられている3).さらに,疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Classification of Diseases:ICD-10)では,(F80-F89)心理的発達の障害における(F82)運動機能の特異的発達障害・協調運動障害に分類されている4)

 本稿では,まず発達性協調運動障害について,診断基準を通してその特徴について述べ,臨床上の特徴と理学療法との関連について述べる.次にDCDとの合併が多くみられる自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD),学習障害(learning disabilities:LD),注意欠陥多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder:ADHD)の3つの障害の概要と理学療法評価,さらに理学療法の実際について述べることとする.

臨床実習サブノート どうする? 情報収集・評価・プログラム立案—複雑な病態や社会的背景の症例・5

女性の変形性膝関節症患者

著者: 中村睦美

ページ範囲:P.763 - P.769

はじめに

 本邦の40歳以上の中高年者における変形性膝関節症(膝osteoarthritis:膝OA)の有病率は,男性で42.6%,女性で62.4%であると報告されています.また,X線で診断される膝OAの患者数は2530万人(男性860万人,女性1670万人)1)と推定されており,臨床でも理学療法を実施する機会の多い疾患です.また,高齢になるほど膝OAの有病率が高まりますが,中高年者の特徴として,膝関節だけでなく内部障害や他部位の運動器疾患,神経疾患などいくつかの疾患を併存している方が多くみられます.また,関節症は要支援となる原因のなかで最も多く2),社会保障費の増大を抑制する観点からも膝OAの予防,治療は重要です.

 複雑な病態や社会的背景をもった症例には,主疾患である膝関節だけに注目しても,活動や社会参加につながらないことがあります.既往歴や病態,社会的な背景を把握したうえで,その患者に必要な理学療法を行う必要があります.

 理学療法士は,地域において,機能回復練習などの本人へのアプローチだけではなく,生活環境の調整や,地域のなかに生きがい・役割をもって生活できるような居場所と出番づくりなど,本人を取り巻く環境へのアプローチも含めたバランスのとれた支援が求められています.高齢者の自立支援・重度化防止に向けた介護予防推進の取り組みにおいては,機能面だけでなく,患者の活動や参加,さらには社会的な背景や個人因子までまるごと把握し,そのなかで適切なアプローチを行う視点をもつことが必要です.

 本稿では,膝OAを原疾患とした人工膝関節置換術患者の事例を提示し,臨床推論の過程として情報収集から評価,プログラムの立案,理学療法の実施までのポイントを提案します.

甃のうへ・第61回

折り返し地点から眺める

著者: 金岡さち子

ページ範囲:P.744 - P.744

 理学療法士となって何年目となったのか,数えるのに時間がかかるようになってきた.今年23年目とのこと.その間,何を考えここまでやってこられたのかを振り返り,未来につなげる機会としたい.

 私が理学療法士という職業を知ったのは,出生時に低酸素状態となり脳性麻痺を患った弟が幼少期から理学療法を受けていたからだ.中学の頃には自分の将来像と重ねていったのは自然な流れだったように思う.

原著

荷重を許容した不動性骨萎縮の皮質骨微細構造解析

著者: 小関弘展 ,   本田祐一郎 ,   佐々部陵 ,   坂本淳哉 ,   樋口隆志 ,   砂川伸也 ,   尾﨑誠 ,   沖田実

ページ範囲:P.771 - P.775

要旨 【目的】荷重を許容したラット膝関節不動モデルを用いて,固定期間による皮質骨の微細構造変化を評価した.【対象と方法】8週齢のspecific-pathogen-free(SPF)Wistar系ラットの両側後肢を1〜12週間ギプス固定した(Im群).摘出した大腿骨骨幹部における全断面積(total area:Tt.Ar),皮質骨面積(cortical area:Ct.Ar),皮質骨体積比(Ct.Ar/Tt.Ar),皮質骨幅(cortical thickness:Ct.Th),断面二次モーメント(polar moment of inertia:pMOI)をmicro computed tomography(μCT)で計測し,コントロール群と比較,検討した.【結果】Ct.Ar/Tt.Arは両群間とも同程度で推移したが,Im群のTt.Ar,Ct.Ar,Ct.Thは外固定早期(1週後)より有意に低値となり,pMOIは4週以降に減少した.【考察】機械的(力学的)負荷を「運動」と「荷重」に分け,「運動」条件のみを排除した関節不動化により,骨幹部の皮質骨面積と皮質骨幅は低下し,4週後には骨の脆弱化を来すと考えられる.

症例報告

血友病A患者に対しTKA周術期理学療法を行った一例

著者: 髙田ゆみ子 ,   塚本利昭 ,   玉井佳子 ,   津田英一

ページ範囲:P.776 - P.781

要旨 【目的】血友病性膝関節症に対し人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)を施行された症例に対する理学療法について報告する.【症例】66歳,男性,診断名は左血友病性膝関節症,中等症血友病Aである.周術期の止血管理として術前より血液凝固第Ⅷ因子製剤が投与された.術前のrange of motion-test(ROM-T)は,右膝関節伸展−10°,左膝関節伸展−15°・屈曲125°,両股関節伸展−15°と制限を認め,徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT)では下肢筋力は左膝関節屈曲[3],両股関節伸展・外転[2]〜[3]と著明な低下を認めた.歩容は,松葉杖と右下肢に頼る逃避性歩行となっていた.術前,日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準(Japan Orthopaedic Association Score:JOAスコア)は左50点であった.術後理学療法は,術翌日より当院のTKA術後のプロトコールに沿って実施した.術後23日目に片松葉杖歩行にて自宅退院,術後45日目の時点で術前と同程度の膝関節機能となり,主訴である左膝関節痛は消失し,歩行距離の延長とADLの改善が得られた.【考察】周術期の適切な止血管理と術後早期からの多関節運動連鎖を考慮した理学療法により,当院のTKA術後プロトコールに沿って理学療法を実施することが可能であった.さらに,術後の膝関節機能やADLの改善は術前の膝関節機能や隣接関節の影響を受けると考えられた.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.694 - P.694

文献抄録 フリーアクセス

ページ範囲:P.782 - P.783

書評 —工藤慎太郎(編著)—「運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略」 フリーアクセス

著者: 鵜飼建志

ページ範囲:P.748 - P.748

 本書,『運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略』は,工藤慎太郎氏(森ノ宮医療大)が手がける《「なぜ?」がわかる》シリーズの第3弾である.

 運動器疾患における痛みや不調の原因は関節の運動機能障害であることが多く,正しく治療するためには正しい評価による原因の特定が不可欠である.運動器疾患の保存療法においては,早期に発症前のレベルまで改善することが十分期待できる.熟練したセラピストは,無意識に必要な知識・技術を選択し,患者を正しく評価・治療することで,患者を元のレベルやそれ以上に改善できる.しかしながら未熟なセラピストは,検査測定の方法論は知っていても,原因解明に至るまでの思考過程を理解していないため,正しい評価が難しい.これらの臨床的思考能力は,経験を積むなかで自ら会得してもらいたいところであるが,それには多くの時間を要してしまう.本書は,そういった問題の改善が期待できる一冊である.

書評 —前田眞治(執筆)—「《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》脳画像」 フリーアクセス

著者: 網本和

ページ範囲:P.770 - P.770

 日本の理学療法士が担当する症例のうち最も頻度が高いのは脳血管障害の30%であり,2位の骨折19.2%を大きく引き離しています(『理学療法白書2016』より).したがって,多くの理学療法士にとって脳血管障害の評価と治療は日々つきつけられる喫緊の課題です.特にその病態の理解,予後予測,理学療法治療計画のためには「脳画像」の理解が欠くことができないものになっています.

 学生の頃から大変な思いをしてこの「脳画像」を理解しようとして,何度もくじけそうになった経験は誰しもあると思います.何故くじけそうになるのでしょうか? 最初にBrodmannの脳地図から始めてしまうと,脳の解剖図の膨大で複雑な部位,名称に「これを覚えなくてはならないのか?」という思いにかられるのでしょう.そしてこれがとりわけ重要な点ですが,実際の臨床症状との結び付きのイメージがないまま,やみくもに覚えようとしてしまい脳の迷宮をさまようことになるのです.

編集後記 フリーアクセス

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.786 - P.786

 筆者が理学療法士免許を取得して以来,免許は一枚こっきりで変わらないのに,医療から福祉へ理学療法士の活躍の場は広がり,診療報酬の変遷に伴って病院機能が細分化され,新人の頃には出会えていなかった病態や治療法など,環境や働き方の変化を毎年体感しています.本号の特集「ジェネラリストとスペシャリスト」は,学術・技術いずれにもあてはまらない概念的なテーマですが,執筆・発言いただいた内容は,専門職のありようや職場教育の方向性までも考えさせられるものとなりました.

 岩田論文では「ジェネラリスト・スペシャリストどちらでもいい」と結論づけつつ「ジェネシャリスト・フィットした存在」の表現で伝えたい本質を示唆いただきました.佐藤論文は本邦の理学療法の歴史を概観しつつ,理学療法士同士の協業の重要性や教育のもつ課題をご指摘いただきました.鶴見論文は理学療法士マインドと自身の現場を大切にすることで理学療法士はジェネラリスト・スペシャリストいずれの面ももつ,とご自身の経験からメッセージをいただきました.さらに,理学療法の専門分野ごとに4名の方々に執筆いただきましたが,理学療法士の守備範囲の広さや取り組んでいる分野への想いの深さをあらためて再確認できる内容です.座談会は,文章とはまた違う生き生きとした意見をいただくことができました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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