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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル53巻1号

2019年01月発行

雑誌目次

特集 高齢者の転倒と予防

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.9 - P.9

 高齢者の「転倒」は,運動機能だけでなく,認知機能や状況判断,外的要因などが絡み合った結果である.その予防には,転倒に至る原因や背景因子の分析と整理が必要だが,高齢者全体に共通する問題の整理と理解や,個々の高齢者の条件に合わせた予防対策の立案など,いずれも容易なことではない.さらに病院・施設・居宅各々の環境条件で留意点も予防策も大きく異なる.

 高齢者の転倒を予防することは難しい.関連する要因や転倒予防活動をまとめ,理学療法士としてどう理解し参画するかを考える.

虚弱・認知症・高次脳機能障害と転倒—高齢者における転倒と運動機能および遂行機能

著者: 熊居慶一 ,   菅原智裕 ,   内柴佑基 ,   黒木悟郎 ,   目黒謙一

ページ範囲:P.11 - P.20

はじめに

 本稿のテーマは,「虚弱・認知症・高次脳機能障害と転倒」である.本稿では,① 認知症を含む高齢者の虚弱(フレイル)と転倒,② 認知症を含む高齢者の高次脳機能障害(遂行機能障害)と転倒について論ずる.前半部では虚弱に類似する用語の整理を行い状態像に分類し,転倒との関連をまとめる.後半部では,高次脳機能障害および類似する用語の整理を行い,転倒と遂行機能障害との関連を明らかにする.転倒は運動機能だけでなく認知機能の低下によっても起こり得る問題である(図1).

転倒と運動機能・受け止めの変化

著者: 井上優

ページ範囲:P.21 - P.28

はじめに

 転倒は要介護状態に至る主要な原因として,これまで私たち理学療法士を含む多くの専門職の間で議論され,その予防に向けた実践的な取り組み,学術的な検証がなされてきた.その転倒が受傷機転の7割を超えるとされる大腿骨近位部骨折1)に目を向けると,日本国内4,000施設以上の医療機関を対象に実施された大規模調査では,過去20年の間で70歳台までの大腿骨近位部骨折発生率は横ばい状態が続いている.その一方で,80歳台以上では年々増加傾向にあることが報告されている1,2)

 さらに全年齢を対象とした5年ごとの推計では,大腿骨近位部骨折の発生件数は約30,000件ずつ増加していることも示されている2).これは年を重ねたことにより生じる運動機能の低下が主な原因と考えてしまいがちであるが,年を重ねることによって生じ得る情緒面の変化,周囲の環境変化にも,運動機能の低下を助長する要因が含まれていることを見逃してはならない.今後さらに高齢化率が上昇することが見込まれているが,このことは大腿骨近位部骨折に代表される転倒に関連した外傷発生件数が増す下地になることに加えて,高齢者にとって転倒がより身近で深刻な話題となること,そのことが情緒面の変化を引き起こしかねないことを忘れてはいけない.

 本稿では転倒の原因同定に関する議論は差し控えるものの,高齢者の転倒事象の理解を深め,予防するうえで知っておくべき情緒面における特徴,心理的な受け止めに関して整理をし,理学療法士としてどのような対応,態度で接していくべきかを考えたい.

感覚・認知機能からみた転倒予防のための生活環境整備

著者: 中條浩樹

ページ範囲:P.29 - P.35

はじめに

 老年人口の増加と医療技術の進歩により入院患者の高齢化が進み,厚生労働省1)の患者調査によれば,全入院患者のうち65歳以上は71.0%,75歳以上は50.7%を占め,実に入院患者の半数が後期高齢者という実態になっている.また退院後の行き先は84.0%が自宅(親族宅等も含む)であり,医療従事者は高い割合で後期高齢者の生活環境整備を経験することになる.

 高齢者は筋力や感覚等の身体機能のほか,注意や判断力等の精神機能も低下することがわかっており,これらは転倒の危険因子になり得る.Rubensteinら2)によれば,転倒の危険因子として高いのは下肢の筋力低下(オッズ比4.4)や歩行障害(オッズ比2.9)といった直接的な運動機能であるが,視覚障害は2.5,認知機能障害は1.8と,感覚・認知機能障害も決して無視できない数字となっている.行った住宅改修や用意した福祉用具が運動機能上は使用条件を満たしていたとしても,感覚機能や認知機能の低下により,想定した使い方ができず転倒リスクにつながる場合もあり得る.私たちは高齢者の生活環境整備を経験する際,運動機能を重視するのと同様に感覚・認知機能にも注意を払う必要がある.

 本稿では,高齢者の感覚・精神機能の特徴と認知機能障害を踏まえたうえで,高齢者が遭遇しやすい家庭内転倒事故を検証し,環境整備における解決策を提案する.

転倒の予防運動プログラムの実践と課題

著者: 山田拓実

ページ範囲:P.37 - P.44

転倒予防のための運動プログラムの現状

 2008年に世界保健機関1)(World Health Organization:WHO)は,グローバルレポート「高齢者の転倒予防」を公表している.転倒の概要のなかで,毎年,65歳では28〜35%の高齢者が転倒し,70歳以上になると32〜42%に増加する.地域在住の高齢者に比べ,介護施設入所の高齢者の転倒率は高く,30〜50%が毎年転倒し,そのうちの40%は複数回の転倒を起こしていると報告されている.

 転倒予防の運動プログラムの効果に関しては,2000年以降,多くのシステマティックレビュー,メタアナリシスが報告されている.運動介入の区分には,運動種類(単一の運動,複合的運動プログラム,ヨガ),実施形態(集団と家庭での個別運動),対象者(地域在住高齢者,医療施設や介護保険施設入所者)がある.単一の運動(要素)にはレジスタンストレーニング,バランストレーニング,エアロビクス,ファンクショナルトレーニング,歩行などがあり,複合的な運動プログラムとは,複数の運動要素を組み合わせた運動プログラムである.

転倒・転落予防対策チームのあり方と理学療法士の役割

著者: 平井覚

ページ範囲:P.45 - P.55

はじめに

 医療機関における転倒・転落はインシデント報告のなかでも頻度が高く,日本医療機能評価機構医療事故防止事業部1)の報告では2015年に発生した医療事故3,654件中,転倒・転落事故は793件(21.7%)である.そのうち影響度分類レベル3b以上となる例は10%(2.1%が死亡,7.9%が障害残存の可能性が高い)を占め,入院期間の延長に加え,入院に至った原因疾患よりもさらに深刻な状況に陥る可能性もある.

 松山市民病院(以下,当院)での転倒予防対策は2004年から「職種横断・多職種で取り組む」ということをテーマに活動を展開してきた.入院から退院まで患者・家族そして病院にも不利益が生じないよう病院全体で取り組むという姿勢が対策の基本理念である.ただし,対策を展開していくのに最も問題になるのが転倒・転落事故に対する職種間の意識の温度差である.

 病院内で起こる転倒・転落事故の約80%は病棟(病室,廊下,トイレ)で発生する.したがって初動対応を行うのはほとんどが看護師であり,それに対する危機意識が高いのも事実である.理学療法士は院内で直接患者の転倒・転落事故に遭遇する機会が少ない.日々の業務で,患者の療養生活における転倒へのリスク回避へ強い危機意識をもって業務にあたる理学療法士がどれほどいるであろうか.理学療法士は,病院組織のなかで動く医療技術スタッフとして,患者の低下した身体運動機能を可能な限り改善することを業としている.患者の入院生活上の移動能力にも視点を置き活動度の判断を病棟スタッフと協議・判断していくこと,またチームとして転倒予防対策に寄与できることが特に望まれていることではないだろうか.

 本稿では患者の安全を各職種の専門性を超えて包括的に考慮し,チームとしての行動に反映できる理学療法士像について筆者自身の経験を通しての知見を述べたい.

とびら

コミュニケーション

著者: 三宅わか子

ページ範囲:P.7 - P.7

 筆者の勤務地は理学療法士養成校である.臨床実習で意思疎通がうまくいかず苦労する学生が少なくない.人間は感情豊かで行動的であり,人との心地よい関係が笑顔と意欲を生み,次の行動へとつながっていく.しかし時として,自分の意に沿わない相手の反応に不満を抱くことがあるが,その原因はコミュニケーションの不足と考えている.コミュニケーションとは社会生活を営む人との間に行われる知覚・感情・思考の伝達であり,相手と良好な関係を築くための双方向の意思疎通のプロセスである.

 私たちは生まれた直後から人との関係性を築きながら日常生活を送っている.乳児期は泣き声,表情,身振り手振り,喃語などの非言語コミュニケーションを使い,自分の意思を相手に伝え欲求を満たしていく.親をはじめ周囲の人たちは,この非言語コミュニケーションから送られるサインを五感を通して感情や意思として受け取り,欲求に合った行動を返している.そして成長とともに言語コミュニケーションを獲得すると,言葉や文字中心のやりとりになるが,言語の果たす役割は10%程度であり,残りは非言語によるものである.つまり,意思疎通には非言語による情報が大きな役割を果たしていると考えられる.とすれば,生活のなかに非言語コミュニケーションを取り入れ,意識して使うことの意義は大きい.「立ち振る舞いは目から入る言葉,目は口ほどに物を言う」.いずれも人の喜怒哀楽の感情がそのままの態度として表れ,相手の意図がわかるということである.

私のターニングポイント・第1回【新連載】

リハビリテーションを「かたち」にする

著者: 張本浩平

ページ範囲:P.60 - P.60

 リハビリテーションを「かたち」にするという理念のもと,名古屋で株式会社geneという会社を経営している.セミナーやら出版やら介護保険事業やらを行っている会社であるが,僕自身のターニングポイントを伝えるのは「なぜ起業したのか」を伝えることと同義となる.うまく伝えられるかどうかわからないけど,自分なりの誠実さで伝えてみる.

 うまく伝えることができたら,嬉しい.

連載 脳画像から読み取る障害像と理学療法・1【新連載】

理学療法士に必要な脳画像の知識

著者: 髙屋成利

ページ範囲:P.1 - P.6

はじめに

 本稿では理学療法士が実臨床をするうえで,もしくは関連した研究を理解するうえで知っておいたほうがよい脳画像の知識について解説する.誌面が限られていることと,わかりやすさに重点を置くために,話題を絞ったうえで解説は単純化している.詳細について学びたい方は,本稿で引用した成書等を参考にしていただきたい.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

慢性疼痛

著者: 松原貴子

ページ範囲:P.61 - P.61

 痛みとは「実質的あるいは潜在的な組織損傷に結びつく,あるいはそのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験」と定義されている(国際疼痛学会).これまで痛みは,“急性・慢性”という表現で時間経過によって分類されてきたが,その解釈は正確でない.「急性痛」とは,外傷や疾病による組織損傷に伴って生じる痛みであり,原因が明確であるため検査で異常所見を得られやすく,患部の治癒とともに改善する.つまり,急性痛は生理的(正常)な情報であり,生体を守るために必須の警告信号としての意義がある.

 「慢性疼痛」とは,組織損傷がない・治癒しているにもかかわらず発生・持続する原因不明の痛みであり,各種検査や画像所見で病的異常を見いだせないことから,正確な診断と適切な治療がなされず難治化しやすい.国際疼痛学会では,慢性疼痛とは「損傷した組織が治癒するのに要する妥当な期間(通常3か月間)を超えて持続または頻発する痛み」と定義づけており,生物学的な意義はないと付言している.持続期間による定義づけは非常に明確かつ実用的であるが,慢性疼痛の病態の本質を知らずして期間だけで判断することは非常に危うい.したがって,定義に基づく分類をするならば,① 各種検査で異常所見が見出せず原因が不明,または推定される原因よりも痛みの訴えがはるかに大きい(原因からでは説明がつかない),ならびに ② 持続期間が通常の組織治癒期間を超える(おおむね3か月以上),両者を満たす場合,慢性疼痛と考えられる.慢性疼痛は,急性痛と異なり病的な痛みで,疾病として扱われ,「国際疾病分類第11版(The 11th Revision of the International Classfication of Diseases:ICD-11)」にも組み込まれ,今後,本邦でも一疾病として扱っていくことになるであろう.

外国人とのコミュニケーション

インドネシア

著者: 一般財団法人日本インドネシア協会

ページ範囲:P.62 - P.62

 日本とインドネシアの国交樹立60周年を記念するこの年に,寄稿の機会をいただきましたことに感謝し,インドネシアについて少し紹介させていただきます.

 インドネシアと聞いて,どのようなイメージをもたれるでしょうか.多くの方がご存じであろうバリ島や世界遺産ボロブドゥール寺院を連想されるのが典型的なインドネシアだと思います.インドネシア共和国は赤道直下に位置し,西から東へ約189万km2(日本の約5倍)の面積に約2億5千万の人(2015年インドネシア政府統計)が暮らす国です.人口の多さでは世界第4位です.日本と同じ島国で,約1万3千の島々にそれぞれの文化・言語をもつ約300の民族がインドネシア語を国語(共通語)として暮らしています.国民は法律で定められた6つの宗教(イスラーム教,プロテスタント,カトリック,ヒンドゥー教,仏教,儒教)のいずれかを信仰し,最も多いのは人口の約9割を占めるイスラーム教です.一国におけるイスラーム教徒数は世界最多ですが,国教ではなく,異なる宗教,言語,民族が共存し暮らしているのがインドネシアの特徴です.

入門講座 身近なツールを治療に活かす・1【新連載】

弾性包帯・セラバンド—理学療法における運動療法の補助的手段としての応用

著者: 森田伸 ,   田仲勝一

ページ範囲:P.63 - P.69

はじめに

 理学療法における運動療法を行うにあたり疾患特有の症状に対し四肢・体幹を圧迫する手段を併用して,その効果を向上させることが可能である.例えば,リンパ浮腫の基本的で効果的な治療である圧迫療法や,運動失調症に対する運動療法で用いる弾性緊縛帯の効果を認めている手段として,弾性包帯(ゴム糸を使用したもの),弾力包帯(綿100%のもの)がある.

 身近にある圧迫する手段は安価であることも重要であり,弾性包帯以外では伸縮性があるセラバンド(THERABAND®),弾性ストッキングや弾性タイツなどが挙げられる.

 しかしながら圧迫する手段を併用する運動療法は,限られた疾患でのみ報告されている.それ以外では従来の理学療法における補助的な手段として,理学療法士が試行錯誤しながら症例に対する効果を検討している段階であり,応用の発展に至っていないのが現状である.

 本稿では,四肢・体幹を圧迫する手段として用いられている弾性包帯またはセラバンドを例に挙げ,運動器疾患と中枢神経系の理学療法における応用について解説する.

講座 理学療法に関するガイドラインupdate 2・1【新連載】

理学療法に関するガイドラインupdate—老年症候群

著者: 牧迫飛雄馬

ページ範囲:P.71 - P.77

老年症候群とは

 老年症候群(geriatric syndrome)とは,加齢に伴うさまざまな要因によって,自覚的あるいは他覚的に高齢者が呈する治療と同時に介護・ケアが重要となる一連の症状・所見を指す.老年症候群は,診断名による病態のみではなく,ADL能力の維持やQOLの向上を目的とする視点から捉えられることが多い.

 老年症候群に共通する特徴として,① 原因が多岐にわたること,② 慢性的な経過をたどること,③ 高齢者の自立を著しく阻害すること,④ 簡単には治療・対処法が見出せないこと,などが挙げられる1).老年症候群は,発生する頻度が高い時期や対処方法によって,大きく3つに分類されることがある(図1)2).3つの分類では,① 主に急性疾患に付随する症候で若い人と同じくらいの頻度で起こるが,対処方法は高齢者では若い人と違って工夫が必要な症候群,② 主に慢性疾患に付随する症候で65歳の前期高齢者から徐々に増加する症候群,③ 75歳以上の後期高齢者に急増する症候でADLの低下と密接な関連をもち,介護が重要な一連の症候群,とされ,高齢者の複合的疾患構造を示しており,医療と介護の両面からの支援が必要であることを意味する.

臨床実習サブノート どうする? 情報収集・評価・プログラム立案—複雑な病態や社会的背景の症例・10

慢性閉塞性肺疾患を合併した血栓性脳梗塞回復期患者

著者: 野添匡史

ページ範囲:P.79 - P.86

はじめに

 脳梗塞は脳卒中のなかでも最も頻度が高く1),運動障害や感覚障害を起因とする身体障害・活動制限を招くために回復期リハビリテーション病棟で理学療法を実施する機会は少なくありません.一般的に「脳卒中回復期」という言葉を耳にすれば,身体機能や活動が大きく「回復」する時期を想起すると思います.しかし,最近では高齢でサルコペニア・フレイルの状態を呈した症例が増えているため,一律に「回復」がスムーズに得られる症例ばかりではありません.このような症例は一般的な回復が得られないだけでなく,目標設定や治療方針に難渋することも少なくありません.

 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は末梢気道を中心に生じる炎症性疾患であり,この炎症による気道狭小化や肺胞破壊によって気流制限が生じます.この気流制限によって労作時を中心に息切れが生じ,QOLを低下させます2).COPDの最大の発生要因は喫煙であり,当然この喫煙は脳卒中の発生要因でもあります.そのため,COPDを合併した脳卒中例は多いにもかかわらず3),実際急性期の段階で発見されていない場合も少なくありません.

 COPDはその主症状である労作時の息切れのために,脳卒中後に実施するべき十分な量の運動療法が実施できなくなる場合があります.加えて,その炎症の影響は肺だけにとどまらないため(全身性炎症),二次性サルコペニア(加齢に伴うこと以外の要因で生じるサルコペニア)の進行を助長することで結果的にCOPDを有した脳卒中患者の予後を悪化させる可能性があります2)

 また,脳梗塞は再発が非常に多い特徴がありますが4),COPDでは特に急性増悪期に脳卒中が発症しやすいことが報告されており5),COPDを合併した脳梗塞患者では,いかにしてCOPD急性増悪および脳梗塞の再発を招かないか,ということも重要な目標になります.

 本稿では,COPDを合併した血栓性脳梗塞回復期症例において,上述のような複雑な病態をひもときながら,問題点や目標設定を行う一連の流れについて症例ベースで解説します.

学会印象記

—第7回日本支援工学理学療法学会学術大会—支援工学理学療法の現在と未来

著者: 矢部広樹

ページ範囲:P.58 - P.59

はじめに

 2018年9月29日(土),第7回日本支援工学理学療法学会学術大会が,長倉裕二大会長(大阪人間科学大学)のもと,大阪人間科学大学にて盛大に執り行われました.日本支援工学理学療法学会は,義肢・装具支援はもちろん最先端のロボット工学から福祉機器に至るまでさまざまな分野について検討され,年々参加者が増加している学会です.特に今大会は参加者が300名を超え,過去最大の規模となったそうです.今回は「移動を支える支援工学」という大会テーマのもと,教育講演,シンポジウム,ランチョン報告会,一般演題の発表が行われました(図).

あんてな シリーズ 介護予防への取り組み・1【新シリーズ】

埼玉県における介護予防事業と理学療法士・専門職のかかわり

著者: 岡持利亘 ,   細井俊希 ,   阿久澤直樹 ,   平田樹伸 ,   紀裕 ,   大森智裕

ページ範囲:P.87 - P.102

はじめに

 埼玉県では,① 「近くで」,② 「みんなと」,③ 「効果ある」の,3つのポイントを満たす介護予防の取り組みを,「リハビリテーション専門職の立ち上げ支援を受けながら実施」する介護予防事業について,「ご近所型介護予防(埼玉県版地域づくりによる介護予防)」と銘打ち,多くの市町村で実践できるよう,県をあげて支援している.

 本稿では,介護予防の基本的理解と,埼玉県で事業に取り組む理学療法士や専門職のかかわりを紹介しつつ,それらを円滑に進めるための基盤や応援体制,現状と未来についても考えてみたい.

ひろば

伊藤直榮先生と私

著者: 真寿田三葉

ページ範囲:P.103 - P.104

 日本の理学療法を立ち上げ,肺理学療法のパイオニアとして活躍し,優れた臨床家そして教育者としても知られた伊藤直榮教授が2009年に亡くなられてから今年で10年が経とうとしている.

 伊藤先生は1933年に生まれ,76歳でこの世を去るまで第一線で活躍し続けた1).日本だけでなくカナダの理学療法士のライセンスを取得し,トロントでは5年間研鑽を積んだ.この間,独自に「呼吸介助手技」を開発した.帰国後,信州大学医療技術短期大学部理学療法学科教授,茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科教授と同大学附属病院リハビリテーション部長,日本工学院専門学校医療学部長として,臨床,教育に携わり続けた.臨床家として,術後の肺合併症によって亡くなる患者を救うため,周術期の肺理学療法を始め,同時にこの技術の伝達のため,実習主体の講習会を数多く開催した.伊藤先生は多くを語らない寡黙な方であったが,いつもにこにこと楽しそうに仕事をされていた.

書評

—赤坂清和,竹林庸雄(監)三木貴弘(編)—「—痛みの理学療法シリーズ—非特異的腰痛のリハビリテーション」

著者: 高﨑博司

ページ範囲:P.57 - P.57

 三木氏は日本の養成校で理学療法士の資格を取得した後,特に運動器理学療法分野では世界的に有名なオーストラリアカーティン大学で理学療法学部教育を再度一から受け直した新進気鋭の理学療法士です.日本とオーストラリア両国で学部教育を受けたからこそ,「日本のリハビリテーションレベルの底上げに貢献したい」,「日本人にグローバルスタンダードを紹介しなければ」という想いから本書が生まれたものと考えます.

 本書は,① 腰痛の疫学・バイオメカニクスの概説から始まり,② われわれが治療してよいのか,他職種の協力を仰ぐべきかの最低限の知識,③ 問診から客観的検査を行ううえでの見落としがちな注意点の説明,④ 治療戦略を決定する意思決定アルゴリズムの概説,そして,⑤ 動画を用いながらどのように介入するのかを丁寧に説明しています.

—八幡紕芦史(編著)/竹本文美,田中雅美,福内史子(著)—「脱・しくじりプレゼン—言いたいことを言うと伝わらない!」

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.78 - P.78

 言いたいことを言うと伝わらない,というサブタイトル.衝撃的ですね.故日野原重明先生は,「医師は聞き上手になりなさい,患者は話し上手になりなさい」と講演でよくおっしゃっていました.話し上手な医師が多いように思われていますが,実は言いたいことが伝わっていないケースが多いのも事実です.その原因が,単に言いたいことを言っていたからだ,というのが本書の主張です.

 読者の皆さんも,学会や講演会などで医師のプレゼンテーションを聞く機会があると思います.複雑で大量のスライドを次々とめくりながらものすごい勢いで話す講師,体全体をスクリーンに向けて自分の世界に夢中になっている講師など,さまざまなケースが思い出されます.一方で,世界的なプレゼンテーションをTEDやYouTubeなどでみると,面白くてかつ勉強にもなるので,つい何時間もみてしまうことがあると思います.これは一体,何が違うのでしょうか.

資料

2019年理学療法領域関連学会

ページ範囲:P.106 - P.107

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目次

ページ範囲:P.8 - P.8

文献抄録

ページ範囲:P.108 - P.109

次号予告

ページ範囲:P.6 - P.6

「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.104 - P.104

第30回理学療法ジャーナル賞発表

ページ範囲:P.107 - P.107

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.112 - P.112

 あけましておめでとうございます.夏の暑さをぼやいているうちにいつの間にか秋が過ぎ,年末が駆け抜け気がつけば新しい年です.それでもやっぱり,年が変わるその瞬間には,いつもの夜中とちょっと違う気分で,カウントダウンとともに新年を迎えています.

 さて本号の特集は「高齢者の転倒と予防」です.人間が二足歩行の能力を得て以来,歩行と転倒は切り離せないものです.特に高齢者の転倒は,現代社会の大きな問題として捉え,予防・治療双方から取り組む時代となりました.しかし誰しもコケたくてコケるわけではありません.高齢の方ほど「コケないように気をつけて」います.しかし転倒してしまう.なぜ転倒しやすくなるのか,本号は運動機能低下以外の問題まで理解し考える内容となりました.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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