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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル53巻3号

2019年03月発行

文献概要

特集 こころの問題と理学療法

発達障害のこころの問題を理解する—理学療法士としての経験から

著者: 多田智美1

所属機関: 1鈴鹿医療科学大学保健衛生学部

ページ範囲:P.243 - P.250

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はじめに

 近年児童発達支援の枠組みが拡大し,放課後等デイサービスや訪問リハビリテーションなどで,発達障害に対して理学療法士による支援に社会的ニーズが高まり,理学療法士の間でも発達障害に関する知識の修得は切望されている.このような背景のもと,発達障害に関する書籍1,2)は数多く出版され各雑誌でも特集を組まれるなど,発達障害の各論や指導・支援法については知識を得ることができるようになっており,筆者の及ぶところではない.

 ただ,理学療法士の興味は協調性運動の支援に関することが圧倒的に多いため,その運動支援をすることで子どもの「こころ」や環境とのかかわり方がどのような変化をもたらすのか,さらに理解を深める必要を筆者は感じている.なぜなら,発達障害の特性によって日常生活の困りごとはライフステージごとで顕在化し(図1),特に思春期以降に気分偏重やうつ,対人関係障害などさまざまな精神症状を呈するからである1)

 発達障害児者では,相手の行動を脳内でなぞり,相手の考えを理解し共感するために不可欠なミラーニューロンという神経細胞群の活性が低いとされ,脳の生来的な脆弱性のためにストレス耐性が低く,ごく些細なストレスや心理的要因でも大きな反応を起こすことがある3)と言われている.これら二次障害の現れ方は,発達の時期によって変化するものであり,乳幼児期では虐待の問題,学童期では学習困難,いじめ,不登校,思春期では引きこもりや触法行為,成人期では転職,抑うつなどが特徴的に示されやすい4).加えて,言語発達の観点から心の成長を読み解くと,知的障害の有無にかかわらず,彼らはそれを言葉で表現することが得意とは言えないため,その状態を把握することは難しい.したがって彼らの行動や発言を見聞きしつつ,不適応な症状が出ていないかをチェックすることが大切である.最近では当事者自身が自己理解を深める当事者研究5,6)が報告され,当事者自身の著書7〜9)も多く出版されており,彼らの内面を理解する手がかりとなっている.また筆者は,特別支援学校に勤務していた関係で,地域校支援や特別支援学校(知的障がい部門)での支援のなかで,多くの発達障害の特性を有している児童・生徒の指導に当たった.その経験から,本稿では,幼少期から青年期への「こころ」の発達と脳機能への理解を深めることで,青年期に出現してくるであろう課題を整理して示したいと考えている.

参考文献

1)宮尾益知,他(編):発達障害のリハビリテーション—多職種アプローチの実際.pp54-67,82-89,医学書院,2017
2)新田 收:発達障害の運動療法—ASD・ADHD・LDの障害構造とアプローチ.三輪書店,2015
3)佐々木淑子:生きづらさを抱える子を理解するために—発達障がい児の心の世界.薬学図書館2014;59:100-103
4)杉山登志郎:ライフサイクルと発達障害.臨心理2007;7:355-360
5)熊谷晋一郎:痛みから始める当事者研究.石原孝二(編):《シリーズケアをひらく》当事者研究の研究.pp217-291,医学書院,2013
6)綾屋紗月:発達障害当事者研究—目的と現実をつなぐ知識を求めて.臨心理2014;14:794-798
7)テンプル・グランディン,他(著),カニングハム久子(訳):我,自閉症に生まれて.学習研究社,1994
8)ニキ・リンコ,他:自閉っ子,こういう風にできてます! 花風社,2004
9)東田直樹:自閉症の僕が跳びはねる理由—会話のできない中学生がつづる内なる心.エスコアール,2007
10)梅田 聡:情動を生み出す「脳・心・身体」のダイナミクス—脳画像研究と神経心理学研究からの統合的理解.高次脳機能研2016;36:265-270
11)相原正男:発達障害を通して心を考える.小児保健研2007;66:255-261
12)森岡 周:発達を学ぶ—人間発達学レクチャー.協同医書出版社,2015
13)滝川一廣:「こころ」の本質とは何か—統合失調症・自閉症・不登校のふしぎ.筑摩書房,2004
14)滝川一廣:子どものための精神医学.医学書院,2017
15)岩壁 茂:ポジティブ感情の調整と感情の障害—感情障害はネガティブ感情の障害か? 臨心理2014;14:894-899
16)太田昌孝:発達障害を知る—発達障害の概論.J Clin Rehabil 2012;21:476-480
17)十一元三:認知神経科学からみた広汎性発達障害の病態.日生物精医会誌2010;21:91-96
18)岡田 俊:神経発達症としての成人期ADHD.現代医2014;62:1-3
19)山下裕史朗:発達障害・心理疾患—注意欠如・多動症.小児内科2016;48:1534-1535
20)岡田 俊:成人期ADHDの薬物療法と生物学的背景.分子精神医2013;13:156-159
21)宮尾益知,他(編):発達障害のリハビリテーション—多職種アプローチの実際.pp197-207,医学書院,2017
22)田中康雄:ぼくらの中の発達障害.こころの健康2015;30:11-15
23)國吉康夫,他:胎児発達の構成論的研究と発達障害理解.人工知能学会誌2012;27:20-27
24)Otera Y, et al:Correlation between regular mouthing movements and heart rate patterns during non-rapid eye movement periods in normal human fetuses between 32 and 40 weeks of gestation. Early Hum Dev 2013;89:381-386
25)小西行郎:赤ちゃん学から見た発達障害児—ヒトの心の起源を探る.環境と健康2015;28:407-414
26)相原正男:認知神経科学よりみた心の発達と前頭葉機能—発達障害を通して心を考える.小児科2006;47:335-345
27)Tsuji H, et al:Relationship of hypersensitivity to anxiety and depression in children with high-functioning pervasive developmental disorders. Psychiatry Clin Neurosci 2009;63:195-201
28)福島宏器:内受容感覚と感情の複雑な関係時澤・梅田論文へのコメント.心理評論2014;57:67-76
29)Green D, et al:Impairment in movement skills of children with autistic spectrum disorders. Dev Med Child Neurol 2009;51:311-316
30)Watemberg N, et al:Developmental coordination disorder in children with attention-deficit-hyperactivity disorder and physical therapy intervention. Dev Med Child Neurol 2007;49:920-925
31)中井昭夫:不器用な子どもたちに関する基本的な理解—発達性協調運動障害.チャイルドヘルス2015;18:406-409
32)Higashionna T, et al:Relationship between motor coordination, cognitive abilities, and academic achievement in Japanese children with neurodevelopmental disorders. Hong Kong J Occup Ther 2017;30:49-55
33)Ben-Sasson A, et al:Sensory clusters of toddlers with autism spectrum disorders:differences in affective symptoms. J Child Psychol Psychiatry 2008;49:817-825

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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